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天音花香の小説をUPするブログです。個人サイトの小説はこちらに移しました。現在二時創作と短編を中心に書いています。
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HN:
天音花香
HP:
性別:
女性
職業:
主婦
趣味:
いろいろ・・・
自己紹介:
小学生のときに、テレビの影響で、小説を書き始めました。高校の時に文芸部、新聞部で文芸活動をしました(主に、詩ですが)。一応文学部でです。ですが、大学時代、働いていた時期は小説を書く暇がなく、主婦になってから活動を再開。

好きな小説家は、小野 不由美先生、恩田陸先生、加納朋子先生、乙一先生、浅田次郎先生、雪乃 紗衣先生、冴木忍先生、深沢美潮先生、前田珠子先生、市川拓司先生他。
もう一つのブログでは香水についてレビューをしております。
http://yaplog.jp/inka_rose/
こんな私ですが、宜しくお願いします。





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 こんにちは。天音です。

 今日は雨が降っていますね。少し涼しいのでありがたいです。


 さて、今日の小説は、私自身の幼いときをもとに作った(自虐ネタ?)小説です。こういうのが多いな……とは思いつつ……。読んでいただければ嬉しいです。

 それから、夏といえば甲子園なので、甲子園の詩を今度は載せたいですね。
 二次創作の方も進めたいと思っています。
 生暖かい目で見守ってくださいませ。

 小説の順番なのですが、リンクで各小説にとんだ後、1ページ目は順番どおりになっているようですが、その続きは << Back をクリックしたら見れるようになっています。なんだか、次に行くのに Back というのも変ですが、そうなっています。よろしくお願いします。


 ココから小説


      
       あそびの時間
    

 私、田中恵子は、思えば変わった子供だった。
 私は性別的には女だったが、どうも女子の集団が居心地悪くて仕方なかった。私には二つ年下の弟がいて、弟と私の容姿は双子のように似ていた。弟は女顔。私は男顔だった。
 私が毎日足しげく通っていたのは、「大戸君」という男子の家だった。
彼の家に行くには、途中ブルドッグのいる家の前を通らなければならず、私は、そのブルドッグが気付いて吠えないように、そろりそろりとその家の前を通るのだ。そして、大きな大戸君の家の下にたどり着く。しかし、まだ試練が残っている。大戸君の家は、今思えばなぞではあるのだが、道路より、かなり高いところに建ててあった。だから、家までに階段を上らなければならなかった。その階段は、横幅が狭く、一段が高くて、上りにくかった。そして、何より私が嫌いだったのは、上るたびに「クァンクァン」となる音だった。階段の横は壁になっていたので、足音が反響していたのだ。その音は、私の背をぞくりとさせ、誰かに追われているような不安な気持ちにさせるのだった。だから、私は毎回、全速力で階段を上って大戸君の家のチャイムを鳴らしていた。いつもいつも走ってくる、しかも、女の子に大戸君の母親が何を思っていたかは解らないが、とにかくそうして私は大戸君の家に行っていたのだった。なぜそこまで恐い思いをしてまで、大戸君の家に遊びに行っていたのかは不明であるが、明らかに言えるのは、私は彼が好きというような感情は持ち合わせていなかった。ただ、大事な、一番の友達だったのである。大戸君にとってどうだったかは解らないが。
遊びはいたってシンプルだった。当時はきんけし(筋肉マンの消しゴム)が流行っていて、それらで、なんだか必殺技を言い合いながら遊ぶのだ。近くの川にザリガニを釣りに行くこともあった。
それでも、飽きたときは、その頃ほとんどの人が持っていなかったファミコンを持った子の家に押しかけた。一台を囲んでみんなで順番待ちをする。できるときはラッキーだ。大概は回ってこないうちにお開きになる。
大戸君と遊ばないときは、弟とローラースケートで遊んだり、砂場でお城を使ったり、トランプで「銀行」という名のゲームをしたりして遊んでいた。だから、女子が混じって遊ぶのは、幼稚園内がほとんどで、女子たちがどんな遊びをしているのか私は判っていなかった。
だから、指で数えられるだけの、女子と遊んだ日々は、強く印象に残っている。
    
    あそび一

私は父親の仕事の関係で、社宅に住んでいた。社宅での大人同士の付き合いが大変なように、子供の付き合いも大変だった。それでも、先に述べたように、私は男子と遊ぶことが多かった。ロボットのコレクションを見せてもらったり、他、珍しいものを見せてもらったり、とにかく、男子は何かをコレクションするのが好きらしく、私は受身の遊び方が身に染み付いてしまったようだ。
女子と遊ぶときもそれが抜けることはなかった。
その日、私は社宅で一緒の一つ年上のお姉さん、水野さんと遊ぶことになった。誘われたのだ。私は、滅多にないことにドキドキしていた。
彼女は自分の家に私を招待した。そのとき、私は飲んだことのない飲み物を出された。
「ココア」である。私のうちは厳しくて、甘いもの、それから「コーヒー」なども飲ませてもらったことがなかったのだ。
 私は困ってしまった。これはどんな味がするんだろう。
「どうしたの? 飲めば? みかんもあるよ」
 私はとにかくココアが恐かった。
 私はとりあず、食べなれたみかんを先に食べることにした。そして、何も考えずに手の中にあるみかんの皮をむいたのである。そのときだった。
「恵子ちゃん、なにそのみかんのむき方」
 水野さんの声に、私はぽかんと口をあけていたと思う。
「みかんのむき方も習っていないの?
 みかんはこうやってお花の形になるようにむくのが上品なむきかたなのよ」
 当時幼稚園年少組みの私は、とても動揺した。みかんにむき方があるなんて、知るはずもなかった。それは私が常識がなかったのか、水野さんが大人だったのか、未だに理解できないでいる。
 みかんでそれだったのだ。いよいよ私はココアが飲めなくなった。
「どうしたの?何で飲まないの?」
 私はどうにかして飲まないですむ言い訳を考えた。そして、考えた末の言葉は、
「私この飲み物嫌いで、飲めないんだ」
 水野さんの表情はまた冷たくなった。
「家に招かれたようなときは、出されたものは飲む、食べるのが常識なんだよ」
 私は、自分が水野さんの家にいるのがとても恥ずかしくなった。早くこの時間が終わってくれることを心の中で望んだ。
 針の筵にされているような時間は過ぎ、ようやく私は解放された。
「またね」
 という言葉をもらって。
 私は正直、もう誘われたくないなと思った。

 ところが、それは偶然に起こった。私が社宅の庭を通りかかったときに、水野さんが、気づいたのだ。水野さんは、一人で花のそばで遊んでいた。
「恵子ちゃん」
 私はすぐさま声をかけられ、逃げれなくなった。仕方なしに、水野さんの近くに寄った。
「なあに?」
「ねえ、ちょっと見てよ」
 水野さんはそばの、赤や黄色をした花を指差した。見たことがある花ではあるが、名前は知らなかった。
 水野さんは言った。
「この花の名前はね、おしろいばなって言うの。何でだと思う?」
 オシロイバナ。また知らない名前だった。私は、どう反応したらいいかと戸惑った。水野さんの目を見て、おそるおそる、
「……わかんない」
 と答えた。
 すると水野さんは満足そうに微笑んだ。そして、オシロイバナの種らしき、黒いものを摘み取った。
「これはおしろいばなの種。黒いでしょ?」
「うん」
 私はこれから何が起こるか予測できずに、ただ、その種を見つめていた。
「でもね、見てて」
 水野さんはその種をつぶした。その瞬間。
「え?」
 私は声を出していた。私の予想外だったからだ。
 中からは湿った真っ白な粉が出てきたのだ。
「白いでしょ?だからおしろいばな」
 私は当時、もちろん「おしろい」の意味がわかっていなかった。しかし、その予想外の中身に驚いたのはよく覚えている。そして、水野さんがやったように、種をつぶしてみる自分がいた。
 黒が一瞬で白に。
 私は隣で笑ってる水野さんを見た。そして、オシロイバナと似ているなと思った。「よく解らない」ところが。
 母親から、水野さんは一人っ子だけれど、母親があまり相手をしないから、寂しいのよ、と聞いたとき、ちょっと不審に思った。だが、確かに水野さんはよく一人で遊んでいた。
 水野さん自身がオシロイバナだった? 外は黒いのに中は白い。硬く気丈に装っているだけなのかもしれない。
 年をとった今でも思い出す。オシロイバナを見ると、水野さんを。今も黒く装っているのだろうか。


     あそび二


 同じ赤組の高田すずちゃんは、私の女子の中での一番のお友達だったといってもいい。  彼女とは誕生日が近く、そして家も近かった。隣の一軒家の大きな家が彼女の家だった。だから、ときどき遊んだのだ。
 しかし、彼女とはライバルでもあった。好きな人が一緒だったのだ。(この辺は変にませていたと思う)
 すずちゃんは色白で、目が大きく、黒い髪はさらさらで美人だった。そして、社宅とはかけ離れた、大きくて綺麗な家に住んでいた。 私はすずちゃんにコンプレックスを抱えていたのも事実である。
 私の望むものは必ず持っていたすずちゃん。
 ひなまつりのとき、すずちゃんの家に招待されて、私は驚いた。
「おひなさまは三段じゃないの?」
 部屋中に広がる赤い階段と、そこに置かれた人形たちに、私は素っ頓狂な声をあげた。
「え? 三段なの?」
 逆に聞き返され、私は、
「私のうちはそうだよ」
 と答えた。
 その日、家に帰って、母親にそのことを話すと、母親は恥ずかしそうにして、
「そう、本当は何段もあるのよ」
 と言った。そのとき、私は、敗北感でいっぱいになった。なぜか悔しいと感じた。
 だから今でもお雛様が嫌いだ。

 しかし、すずちゃんとの最も深い思い出は、「ピアノ」である。
 私は当時、ヤマハで音楽を習っていた。家には古い型のエレクトーンがあるだけだったので、音楽教室の日に、新しいエレクトーンやピアノを触れるのは本当に嬉しかった。
 すずちゃんの家は、母親がピアノの先生だった。だから、グランドピアノがすずちゃんの家にはあった。
 すずちゃんの家に行くたびに、私はそのグランドピアノを見ずにはいられなかった。
(大きいピアノ。黒く光ってる。どんな音がするのかな)
 ある日、すずちゃんは、
「ピアノ弾きたい?」
 と聞いてきた。私は迷わず頷いた。
「はい、いいよ」
 ふたが開けられ、白と黒の鍵盤が顔を出す。私は胸が震えるのを感じた。どんな音が出るの?さあ、聞かせて。
 私は、ドの音を手始めに鳴らしてみた。ポーンと高くてよく響く音が鳴った。なんて綺麗な音なんだろう。このピアノなら、私が弾いても少しは上手に聞こえるかもしれない。見栄っ張りな私は、最近習ったばかりの曲を得意げに弾いてみせた。エレクトーンで練習しているときより、その音はどこまでも澄んでいて、美しく聞こえた。自分でも、いいできばえだと思った。
 すずちゃんはしばらく私にピアノを弾かせてくれた。
「このあと四時からお母さんのレッスンがあるんだ。練習してもいい?」
 すずちゃんが言った。私はもう少し弾きたかったのだが、すずちゃんのピアノが聴けるのも嬉しくて、
「もちろん!」
 と椅子をおりた。正直、私とどっこいぐらいの腕だろうと思っていた。ところが。
 すずちゃんのピアノの音色は、私の音色より、高く聞こえた。そして、私がまだ習っていないような難しい曲をすらすらと弾いたのだった。
「す、すずちゃんって、すごい上手なんだね」
 私は、社宅まで泣きながら帰った。ピアノは自信があったのに。私は結局何一つすずちゃんに及ばないということを痛感したのだ。だから。
 すずちゃんは私の自慢のお友達。でも、一緒にいるとどこかつらい。そう思う自分が嫌だった。友達ってナンダロウ。答えは……。


     あそび三


 またまた同じ赤組に、とてもお金持ちの家の子がいた。谷川弘子ちゃん。いつも、フリルのついた、可愛い服を着ていた。ピンクが好きだったようで、よくピンク色の服を着ていた。だから私の中で彼女のイメージはピンクだった。
 ピンクちゃんはよく、同じ組の女の子を家に招待していた。私はそれを少し遠くから、うらやましく思って見ていた。
 そんなある日、私にもピンクちゃんから声がかかった。
 私は、母親にそれを話し、ちゃんとした服を着せてもらい、そして、特別なときにはこうと思っていた、ワインレッドの色の先の丸いスエードの靴をはいて行くことなった。
 私は、その靴を履けたことが嬉しくて嬉しくて、ピンクちゃんの家に行く間、ずっとその靴を見つめていた。まるで、バレエ靴のようで、リボンまでついてる、本当に可愛い靴だった。
 ピンクちゃんの家は予想以上にすごかった。すずちゃんの家もすごいと思っていたが、それ以上だった。いろんな部屋に連れて行かれて、私はピンクちゃんの後をついていかないと迷子になりそうだった。
 私が何よりうらやましかったのは、ピンクちゃんは自分の部屋を持っていることだった。ピンクちゃんには、一人お姉さんがいたのだが、別々の部屋を持っていたのだ。私は弟と同じ部屋だったので、一人ひとりの部屋があることがすばらしく素敵に思えたのだ。
 ピンクちゃんはいろいろなものを見せてくれた。りかちゃん人形や、バービー人形のレアなものや、シルバニアファミリーの大きなおうちのセットなど。私にははじめてみるものばかりだった。
 当時の私の生活は平均的で、何一つ不自由なことはなかったが、やはり、ここまですごいものを見せ付けられると、世界の違いさを感じ、うらやましく思った。
 ピンクちゃんの家で、一通り遊んだときだ。ピンクちゃんは外へ遊びに行こうと言い出した。私は頷いて、お気に入りの靴に足を突っ込んだ。ピンクちゃんはずんずんと坂道を上がっていく。その道はピンクちゃんの散歩コースのようであった。
天気は晴れ。気持ちいい風が吹いている散歩に適した秋の日だった。
ところが。
私は自分の身にいったい何が起こったのか一瞬解らなかった。足を踏み出そうとしたとき、痛みが走った。あわてて足元を見ると。
溝に敷きつめられたタイルの、継ぎ目の真ん中の穴に、自分の足が挟まっていたのである。私は、とにかく足をとろうと引っ張った。しかし、いくらやっても、足は抜けなかった。 私はピンクちゃんの名を必死で呼んだが、ピンクちゃんはしばらくすると家に帰ってしまった。
 私のその時の恐怖といったら、どう言ったらいいか解らない。
「ひとさらいにつれていかれるよ」
母親がよく冗談で言っていたことが現実になってもおかしくない状況。しかし、私の頭には、そのとき「ひとさらい」は出てこなかった。それより、段々と暗く、寒くなっていくのを全身で感じ、私はこのまま死ぬのだろうかと、まじめに考えた。
(お願い。暗くならないで。私の姿が見えなくなっちゃうよ)
 もちろん、その間にも私は足を何度も引っ張った。しかし、痛みが増すだけだった。
 私は絶望感でいっぱいになり、泣き出した。最初は小さく。そのうち、本当に私は死ぬかもしれないと思い、そんなの嫌だとでも言うように、大きな声で泣いた。そして、泣き疲れた頃、その人は現れた。
 郵便配達のお兄さんだった。
「どうしたの?」
 私は天にもすがる思いで、お兄さんに助けを求めた。
「足が抜けなくなっちゃったの。お願い、助けてください」
 お兄さんは、時間はかかったものの、私の足を引き抜いてくれた。しかし、私のお気に入りの靴は助からなかった。
 私はその靴が溝に落ち、ぱしゃりと音を立てるのを聞いた。
「ありがとうございました」
 私はそう言ったものの、悲しみでいっぱいだった。
(私の靴……。落ちちゃったよう)
 お人よしだった私はとりあえず、ピンクちゃんの家に戻った。
「足抜けたんだ。よかったね。もう帰っていいよ」
 私は、その言葉にますます悲しくなり、片足だけ靴下という、無様な格好で、自分の家に帰ったのだった。
 結局その日の収穫は、「大事なものを失くす痛み」だった。
 それ以来ピンクちゃんの家には行っていない。そして、女子ともほとんど遊ばずに、幼稚園生活を終えた。



 そんな私だから、結局、小学生になっても、初めにできた友達は男子で、一人親友の聡ちゃんを除いては、友達はみんな男子だった。だから、その頃の女子の遊びも、一輪車意外は知らない。(一輪車は聡ちゃんとよく練習したのだ)
 私はもっぱら男子と、キックベースやドッヂボール、警泥に缶蹴り、エアガン、ファミコンなどで遊ぶ毎日が続いた。

 中学生になり、スカートという目印をつけられても、私は男子とつるんでいるほうが楽だった。よく、腕相撲などをした記憶がある。
「お前、男なんじゃねーか?」
 よく男子に言われても、不快に思わず、私は時々思っていた。本当に性別を間違って生まれてしまったのかも、と。

 しかし、そうじゃないことは高校で発覚した。
 今まで、身近で、居心地のよかった男子のそばによるのが、とても恐ろしくなってしまったのである。それは、男子が急に男らしくなったせいで、自分と男子の違いを見せつけられたからかもしれない。当時好きになったのは、男っぽさを感じない、透明さを持つ人だった。しかし、高校までのように気軽に話しかけるなんてことはできず、見ようのよってはストーカーのような行為を繰り返していた。(犯罪になるようなことは決してしていない)
 結局まともにしゃべることもできずに、高校を卒業した。高校になって急に増えた、女子の友人は、私のことを「見かけは男子のようなのに、中身は少女漫画」と称していた。確かに、私は、自分の心が女子であることを否定するように、髪をどんどん短くしていき、好きな色は青で、男子のような格好ばかりしていたのは事実だ。
 大学に入り、男子にもようやく慣れると、やはり男子の中のほうが居心地がよく、大学でできた友人は男子のほうが多かった。
外見も男子のようで、肩まで髪を伸ばしても、Tシャツにカーゴパンツ姿の私は、通りすがりの人に、よく、
「あの人、男? 女?」
 と言われるのが聞こえてきた。高校のときからの女子の友人のバイト先に行ったときなど、彼氏と間違えられたぐらいだ。
 そんな私だから、彼氏なんて一生できないだろうと思っていた。それは私の友人も思っていたと思う。
ところが、予想に反して大学で初めて彼氏と言うものができた。
そして、その人と結婚することになるのである。
結婚式のとき、のカクテルドレス姿の私を見て、友人たちはみな驚いていた。
「田中はブルーのドレスを選ぶと思っていた」
 私のドレスは深いピンク色をしていた。
 私は内心ピンクちゃんのことを思い出して、笑ってしまった。そう、私が青を好きになったのは、空の色だからと言う理由だけでなく、ピンクちゃんとの出来事があったからだったのだ。

 結婚した今でも、私は時々幼稚園児だった私を思い出す。私はあの頃、男子たちと遊ぶことで、女として、何か大切なものを学ばずに成長してしまったのではないかと。
 でも、その度に、隣にいる旦那を見て、ま、結果よければ全てよしかな、なんて思うのだ。多分、ね。
                 了


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 それではまた近いうちに!               天音花香

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こんばんは、天音です。

今日は短編小説を一つ。
だいぶん前に書いたものですが……。

某ゲームとは関係ありません。
大好きなゲームでありますがw


ココから小説


       Fate



女の子なら、うううん、男の子だって運命を感じる恋愛をしてみたいと思うよね。
 私もそう。
でも私はもう無理なのかもしれない。
 高校一年生のときだけ一緒のクラスだった草部凪君。二年生になってからは生物の時間くらいしか会えなかった。草部君の後頭部をそっと見つめるのが好きだった。部室が隣りなのは嬉しかった。時々聞こえる、草部君の低い声。話の内容までは分からなかったけれど、声がきけるのが嬉しかった。
 でも。
 卒業して、草部君は大学に。私は浪人することになった。
 大好きになれた生物も今はどうでもいい。草部君に会えない日は退屈で、死んでいる。私の知らない草部君が増えるのは悲しくて、もし彼が死んでもそれすら分からないかもしれないと思うと怖くなる。


 草部君に会いたいな。会いたい。


 あれ? あの後頭部は……。
 ある日の予備校の帰り、見慣れた、でも最近見ることのなかった後ろ姿を見つけた。草部君?! 高校生のときの面影のある姿に、私の心臓は高鳴った。 そういえば、家が近くなんだったっけ。同じバスに乗っているなんて、すごい偶然! 話しかけたいな。でも向こうは覚えてないかもしれないよね。
 どうしよう。もうすぐ降りなきゃいけない。
 ダメもとで、行っちゃえ!
「あのっ、草部君! 覚えてるかな? 高校一年のとき一緒のクラスだった宮本です。
えっと、今、大学の帰りなの?」
 草部君は目を見開いた。、
「あ……! 
うん。覚えてるよ。……みやもとさん……も大学の帰りなの?」
 と返事をしてくれた! しかも、覚えてくれていたっぽい! 嬉しい!
「うううん。私、浪人してるから、予備校の帰りなの」
「そうなんだ…。どこを狙ってるの?」
「S大。仏文やりたいんだ」
「S大? 俺、通ってるとこだ」
「え?!  草部君S大に行ってるの?!  うわあ、すごい偶然!」
これって奇跡みたい! 頑張って受からなきゃ! 私のテンションは一気に浮上した。
「大学って楽しい?」
「楽しいよ。すごい自由。サークルとかバイトとかもできるし」
「何かしてるの?」
「うん。テニス。部活より厳しくないし、他校の人とも交流できて楽しい」
「ふーん。サークルかあ。楽しそう。わたしも頑張って大学入ろう」
「うん。頑張りなよ」
「じゃあ、私、降りなきゃいけないから。えっと……またね」
 私の言葉に草部君は手を振って応えた。あ、バイト先、聞けなかったなあ。また会えるといいんだけど……。うーん……。
そうだ、朋に聞いてみようかな。S大だし、理系だから何か分かるかも!


 予備校はちっとも楽しくない。私は予備校で友達を作れずにいた。通っている人は、大体カリカリ勉強しているタイプか、遊んでるタイプに分かれている。私はどちらかというとカリカリ勉強している方に当てはまるのかな。今は草部君と同じS大に入るためだと思って勉強をするしかない。私は今日も一人でご飯を食べ、退屈な授業を眠気と戦いながら受けた。
 今日も遅くなったなあ。
 空を見上げると、星が輝いている。自転車とは言え、暗いのはやだな。それに、お腹もすいたな。マックにでもよろうかな。私は帰りに通る道沿いにあるマックによることにした。
 ため息をつきながら、マックのドアを押し開け、ふと目線を上げて、私は驚いた。
 草部君がいる。嘘みたい。注文聞いて、笑っている。
 そういえば、朋が草部君は、マックでバイトしてるみたいって言ってたっけ。
 私もお客だから、笑いかけてくれるのかな? 思うだけでどきどきした。
 あ、目が合った。
 ! 笑った! さっきの笑顔とはちょっと違う。
「偶然だね。こんな時間まで勉強してたの?」
「うん。がんばって大学受かりたいし……」
「家、近いの?」
「すごく近いって訳じゃないけど……。○○町、×丁目」
「そうなんだ? 俺と近いんだね、家」
「……」
「そうそう、何食べますか?」
「ハンバーガーとストロベリーシェイクをお願いします」
「了解」
 にっこり草部君は微笑んだ。私はその笑顔を直視できず、俯いた。
「?」
 私は差し出されたトレーを受け取ると、空いている席を探して座り、黙々とハンバーガーを食べた。ときどきちらりと草部君を盗み見ながら。
 あんまり遅くなると母が心配するだろう。私は早々に食べ終わり、一度草部君に頭を下げて、マックを出た。草部君は笑顔を返してくれた。
 私はときどき予備校の帰りにマックに寄るようになった。


「いつもので」
 私はまたハンバーガーとストロベリーシェイクを頼んで、トレーをもらって、席に行こうとした。すると、
「もう少しでバイト終わるんだけど、途中まで一緒に帰らない?」
「え?」
 驚いた。夢みたいだ。ほんとにいいのだろうか。
「う、うん! 待ってる!」
 私と草部君は暗い夜道を、私は自転車をひいて、草部君はバイクをひいて一緒に帰った。
「バイク乗るんだね」
「うん。すぐ免許取った。車もいいけど、バイクの運転しているときの一体感が気に入ってるんだ」
「そうなんだ。サークルにバイトに、バイク。なんだか草部君の毎日は楽しそうだね」
「うん。楽しいよ。宮本さんは楽しくないの?」
 私はその問いに、悲しく笑った。
「うーん。そうだね。予備校は楽しいとはいえないね。仲のよかった友達は、みんな大学通っちゃったから、私だけ置いてけぼりみたいなの」
「そっか。でも、妥協をしないってすごいことだと思うけどな」
「そうかな。そう言ってもらえると嬉しいな。ありがとう」
 私は草部君の一言で一気に嬉しくなって微笑んだ。
「家、近いみたいだから、送っていこうか?」
「うううん。いいよ、大丈夫。自転車だし。心遣いありがとう。じゅあ、またね」
「うん、またね」


 傘に雫が当たる音をぼんやりと聞きながら、私はバスを待っていた。雨の日はすべてが灰色に見える。自転車なら、マックによれるのに、残念。でも、初めて会ったときもバスだったし、もしかしたら……と思っていると、本当に草部君がバスに乗ってきた。今日はバイトじゃないんだっけ? それにしてもすごい偶然じゃない? 私は草部君から気づいてくれるのを待ってみた。草部君は私にすぐ気づいたようだった。
「あれ、宮本さん。今日、雨だからバスなの?」
「うん。草部君は?」
「サークルの帰り」
「雨なのに?」
「室内のテニスコートもあるんだよ」
「そうなんだー。知らなかった!」
「もうすぐ受験だね」
 そうなのだ。受験が近い。勉強、一生懸命がんばっているけれど、不安は付きまとう。でも。
「うん。がんばってS大入る」
「うん。応援してるから、がんばって」
 草部君からの応援の言葉は千人の声に等しいほど力強かった。がんばろう、私。そして、草部君と同じ大学に行くの。


 私は草部君効果があってか、みごとS大に合格した。
 草部君はお祝いと称してバリューセットを奢ってくれた。
「ごめんね、たいしたお祝いじゃなくて」
「うううん。とても嬉しい。草部君の心が嬉しいよ」
「そう、ならよかった」
 草部君はちょっと照れたように笑った。
「そうだ! 近くにおいしいケーキ屋さんがあるんだ。今日は早めにバイト切り上げるから、一緒に行かない? それともハンバーガーでお腹いっぱいかな?」
 驚いた。草部君とケーキ?!
「女の子は甘いものは別腹っていうの知ってる?」
「そう、じゃ、よかった。もう少しだけ待っていて」
 私はせっかく奢ってくれたハンバーガーもしっかり食べて、草部君のバイトが終わるのを待った。
 その日食べた大好きなモンブランの味は実は覚えていない。草部君とケーキを食べるなんて。なんだか現実感がなくて、ふわふわした足取りで家路についた。それにしても、ケーキ屋さんかあ。草部君、甘いもの好きなのかなあ。
 それとも……。誰か、そう女の子と来たりしてたのかな。嬉しさ半分と不安半分でその日はベッドにもぐりこんだ。


 入学式も終わり、段々S大の生活にも慣れてきたときだった。私は朋の研究室を訪れた。理系は道路を挟んで向かい側に校舎がある。私は迷いそうになりながらも、なんとかたどり着いて、そこで見知った顔に出会い、驚いた。
「あれ? 草部君? 理学部だったの?」
「宮本さん? どうしたの、こんなところに。文系だったよね」
「うん。高校のときからの友達がこの研究室にいるんだ。あ、朋!」
「あ、宮本!」
 応えた朋の瞳が一瞬揺れた。
「今日は授業が早く終わったから、迎えに来たの。邪魔だった?」
「そんなことないよ。もうちょっと待ってて」
 朋の言葉に、私は、研究室の椅子に座らせてもらい、待つことにした。
 すると草部君が声をかけてきた。
「なんだか、よく遭うよね? 面白いほど」
「そうだね。偶然」 
 私はジンクスを信じてる。偶然も五回起これば運命になる! って。もうすぐ五回じゃない? 運命の恋! なのかもっ。
「宮本、終わったから行こうか」
「うん。ごめんね、せかしたようで。じゃ、行こう、朋」
 私は研究室を出るときに、振り返って草部君を見た。
「また時々くるかも。じゃあね、草部君」
「仏文って楽なの?」
 草部君の言葉に、私は頭をふった。
「そんなことないよ。大変だよ。ゼミも多いし、用意大変なんだから」
「そっか。どこも大変だよね。ごめんごめん」
 草部君の笑顔は私を幸せにする。もっと、もっと一緒の時間をすごせるようになればいいのに。段々心の距離が縮んでいるような気がして、私はわがままになっていってるようだ。でも、好きな人と一緒にいたいと思うのは自然なことだよね。



「こんにちは」
 図書館で勉強しているときに、頭から振ってきた、小さな草部君の声に、私は驚いて顔を上げた。図書館は理系キャンパスに一つしかなく、文系も理系も利用しているのだ。
「調べもの?」
「うん。ゼミの担当が近いの」
「そうなんだ。俺も調べ物」
 草部君は私の向かい側に座って、持ってきた数冊の本を広げ、何か書き出した。私も勉強しに来てるんだから、勉強しなきゃ。そう思って、草部君が来るまでにしていたことの続きに取り掛かった。最初は草部君が気になって仕方なかったが、担当の日まで数日しかない。次第に気にならなくなり、作業に没頭していた。自分のシャーペンが立てる音だけが聞こえていた。
 すると。笑いを押し殺したような声が聞こえてきた。
「?」
 草部君だった。
「な、何? どうかしたの?」
「いや。ははっ。
考え事しているときに、シャーペンをあごに当てるのって、宮本さんの癖なの?」
 私は自覚していない、自分の癖を指摘され、顔が熱くなるのを感じた。
「気づかなかった……。もう! 人の癖を笑うなんて、悪趣味だよ~」
「いや、可愛いな、と思って」
 と言って、しまった、とでも言うように今度は草部君が顔を赤くした。もちろん私も真っ赤になっていることだろう。
 結局一緒に図書室を出た。
 気がついた。今日で五回目の偶然だ! これは……! 
 図書室からお互いの研究室に戻るため、別れようとしていたときだった。
「あの」
「えっとさ」
 私と草部君の声が重なった。
「さ、先にどうぞ」
 私は遠慮がちにそう言った。
「うん……。じゃあ……」
 草部君はそういったものの、しばらく黙ってしまった。
 そして、覚悟したように私の目を見た。
「俺たち、なんか本当によく遭うよね」
「うん。偶然が多いよね」
 私は笑って応える。偶然にしては多すぎるほどだ。
「あの、さ……。
……。
……これって運命なんじゃないかなって最近思うんだ。だからという理由では納得できないかもしれないけれど……。付き合わない? 俺たち」
 草部君の言葉。なんだかとんでもないことを言ったような……。
 ぼんやりとしていると、
「聞いてた?」
 と草部君。私は手をパタパタと振って、
「う、うん。聞いていた。
あの、私も同じことを言おうと思っていたから、ちょっとびっくりして……」
 と応えた。顔が熱い。
「え?! そうなの? 嬉しい奇遇だなあ。ほんと嬉しい。
じゃあ、これからよろしく、宮本さん」
「うん。よろしく、草部君」
 その日から私たちは付き合うようになった。



「月曜は家庭教師。火曜日と木曜日はマックのバイト。水曜日はテニスサークル。金曜日はよく飲み会をしてる……っと。授業は……」
 草部君を待っている間、口から自然に言葉があふれ、私はふふっと笑った。
 朋に聞いて集めた情報、自分で調べた情報、しっかり暗記している。そして、そのスケジュール通りにほとんど私は行動した。よりよく会えるように。偶然ではなく、必然。それでもいいじゃないか。相手にとって偶然であるのなら。
「運は掴み取るものだもんね」


「凪ー? 何やってるんだ? 飯食いにいかね? っておい、それ、スケジュール帳じゃないの? いいのか? 燃やして」
 食堂に行く途中、立ち止まって、凪はライターで手帳を燃やしていた。炎でゆっくりと燃えていくそれを見ながら、凪は、声をかけてきた男子に、
「うん。俺のスケジュール帳じゃないから」
 と応えた。
「変なやつだな」
 彼の言葉が聞こえないのか、
「女の子は運命とか好きだよな。朋にはほんと感謝だな。
ま、でも、これから、だよな」
 と言う、凪の口元が自然と緩んだ。
「そうそう、ご飯は宮本さんと食べるから悪いけど、お前とは一緒に食べられないよ。待たせてるんだ。じゃあな」

 

                                         了

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こんばんは、天音です。


 今日は高校生のときに書いた短編を載せます。
 
 
 ココから小説


    城
  

 冬の寒い日だった。
 部活を終えた私はいつものように電車に乗り、いつものように駅で降りて、バス停へと歩いていた。会社帰りのサラリーマン。スーツ姿の女性。そして様々な制服の学生。多くの見知らぬ人が私の横を通り過ぎていく。こんなに人がいるのに何の会話もなく、ただ自分のためだけに動いているのが少し不思議であり、また悲しくもあった。
 ああ、バスが来た。
 私は駆け出して、でもすぐにその足を止めた。
 なんと言ったらいいのだろう。それは不思議な光景だった。急ぎ足で過ぎていく時間の中で、その少年の時間だけが止まっているようだった。淡い金髪と深い緑の目という外見の性だろうか? とりまく空気までもが澄んだもののように見える。
 私は切符の販売機のそばの丸い柱にもたれかかるようにして座っている彼に近づいた。彼は曇り空を見ていた。
 しかしそれは間違いであることに私は気付いた。彼の澄んだ目は現実のものを映してはいない。彼は曇った空の奥に青い空を見ているのではないだろうか。そんな気がした。
「空が好きなんですか?」
 私は静かに声をかけてみた。
「……」
 彼はゆっくりと私のほうを向いた。綺麗過ぎる瞳が私を捕らえる。緑の空があるとしたら、きっとこんな色をしていたことだろう。
「うん、好き……」
 独り言を言うように答えて、そのままボーっと私を見る。実際には見ているのではなくて、目を向けただけのようだった。
 そう。その目は何にも興味を抱かない目。無気力な目。決して濁っているわけではないのに。それがよけいに悲しかった。
「私も好きよ。――青い空が」
 私の言葉に彼は目を大きく見開いた。初めて私の存在を認めたようだ。
「君は……誰……?」
 抑揚のない声で彼は私に問うた。日本語だった。
「早瀬萌璃。よろしく。あなたは?」
「リトリアス・ホルト。リットでいいよ」
「リット。ここで何をしているの?」
「バイトが終わったからいるだけ」
 私より年上なのだろうか? 澄んだテナーの声と外見からはそうは見えなかったのだけれど。
「帰らないの?」
「うん。僕はここで一晩過ごすんだ」
 その言葉に驚く私を気に留める様子もなく、リットは続ける。
「家はなくても生きていける」
 ますます彼への興味がわいた。
「日本には何をしに?」
「自由を手に入れに」
 リットはただそう答えた。
「自由……? 手に入った?」
「……分からない。自由がどんなものかさえまだ分からないんだ」
 リットは私からふと視線をずらしてそう答えた。私は小さくため息をついた。
「……自由って、人によって違うよね。その人自身が自由だと思うなら、その人は自由であることになる。でもね、日本じゃなくても手に入るものだと思うし、もしかしたら日本では手に入らないものかもしれない。心の問題だから」
「……」
 リットの眉間に小さくしわがよるのを見た。でも私は続けた。
「自分で見つけていけばいいよ。そう簡単に手に入るものではないと思うし、現に私だって自由だとは限らない。不自由はしていないけれど、それが自由だとはいえないものね」
「自由……。不自由……」
 リットはもう一度私を見た。それ以上口を開こうとはしなかった。しばらくの間、私を見つめ続け、その後また空のほうに視線を移した。そして、私のほうを向くことはなかった。
 彼がどうして自由を手に入れたいのかは分からない。もしかしたら、私は見当違いなことを彼に言ってしまったのかもしれない。祖国を捨ててまでして日本に来た彼。そこにどんな理由があったのか分からない。しかし、これだけは分かる。彼がまず手に入れるべきものは自由ではない。彼に足りないものは――。
 彼の周りの空気はやはり澄んでいるように見えた。
 人々は彼に気付かずに、足早に彼の前を通り過ぎていく。あるいは気付かぬふりをしているだけかもしれない。彼は一人、美しい城の中にいるようだった。しかしそこには言いようのない孤独があった。私は明日も彼の城を訪ねることにした。
 彼は空を見ていた。

                      おしまい

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 この小説は本当は長編の予定でした。
 主人公の少女はこの後、何度もリットのもとに通い、彼に足りないものを埋めようと思うようになる。まあ、それは「愛」なんですけれど……。少女は家族に反対されながらも、リットと交流を深め、リットの心の中に入ろうとし、リットも彼女の存在を受け入れていく。それで結局駆け落ち同然のことをすることになるという設定でした。
 短編でよかったのか、長編にしたほうがよかったのか悩みますが、今からこの続きを書こうという気にはなれない私でありました。



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こんにちは、天音です。

今年は雪がよく降りますね。
こちらは大丈夫なのですが、
ニュースで見ていて、大変だなあと思っています。


昨日アップしたかったのですが、PCを開けなかったので、
今日アップです。
一日遅れのバレンタイン小説。
よろしければお読み下さい。


ココから小説


「バレンタイン」




(あ……)
 前髪をかきあげる如月先輩の癖。これは変わっていないのに。
 男性にしては綺麗な前髪が、さらさらと落ちる。
 その後に見えるのは、少しむっとしたような端正な横顔。
(口角が上がっているか、下がっているかでこんなに印象が違うなんて)
 私、前田恭子は小さくため息をついて、地面を凝視した。なんとなく歩調が遅くなる。すると、今まで横にいた如月先輩の、後姿しか見えなくなった。
(私、何かしちゃったのかな……)
 思わず涙が浮かんだ目をぐいとこすり、小走りで如月先輩の横に並ぶ。そして、ちらりと、その横顔を盗み見た。
 ちっとも私を見てくれない横顔。長い睫に縁取られた目が凛と前を向いている。
(どうしてだろう)
 数日前は歩調も合わせてくれたし、よく、私を見て微笑んでくれた。
 先輩の横顔が好きで、ついつい見ちゃう私に。
「何?」
 と。
 同じ言葉。同じ声。
 なのに、私の方を向いた如月先輩は、今は怪訝そうな顔をしている。
「何でも、ないです……」
 私はうつむいてしまった。
(私、やっぱりつりあわないのかな。先輩、私に飽きちゃったんじゃ)
「……。どうしたんだ? 言いたいことがあるなら、言えばいいじゃん」
 如月先輩は、少しいらだったような口調で私に言った。
(駄目だ)
「ほら。せめて、顔ぐらいあげろよ?」
 言われるままに顔を上げると、一筋の涙が頬をつたった。
「……」
 困ったように、袖で額の汗をぬぐう如月先輩。
「す、すみません! なんでもないんです! ごめんなさい」
 慌てて謝る。
 如月先輩が小さくため息をついたのを聞いた。
「えっと。恭子は謝らなきゃいけないようなことをしたのか?
俺がわりぃんだろ、きっと」
 どうしていいかわからない、と言うような口調の如月先輩。
(怒っているわけじゃない?)
 私はちょっと驚いた顔で如月先輩を見た。ばつが悪そうに、視線を泳がせる先輩がいた。
「いえ、なんでもないんです。ただ……」
「なんだよ? 言わなきゃ、俺、わかんねーよ、悪いが」
「私、何か怒らせることしたかな、と思いまして……」
 言ってから、ますますうざいと思われたらどうしようと気づく。
 だが、如月先輩は気にしていないようだった。
「あ、俺の顔、もしかして怖かったのか? べ、別に怒っているわけじゃないから。
 あんまり気にすんなよ。わ、わりぃ」
 如月先輩が嘘を言っているようには見えなかった。
 でも、どうして、こんなに変わっちゃったんだろう。





 私が高校に入学したとき、如月先輩は高校二年。接点はほとんどあるはずなく、ただ職員室に向かう廊下で、如月先輩とすれ違うことが何度かあった。
 私の先輩に対する第一印象は、「クールな先輩」、だった。さらさらとしたまっすぐな髪、涼やかな切れ長の目、高い背。あまり群れることはなく、一人で颯爽と歩く姿。文武両道の先輩と言うことで、女子の人気も高かった。だが、先輩が女子生徒と歩いている姿を見た生徒がいないということから、フリーなんだろうという噂が立っていた。
(日本刀が似合いそうな先輩だよなあ)
 私は勝手にそう思っていた。
 だが、ある日、私は見てしまった。男子生徒と無邪気に笑う如月先輩を……。
 その笑顔はとても綺麗だった。優しかった。
 私は先輩だけが誰よりも綺麗に見えるようになった。
 でも、自分なんかがつりあわないことがわかっていたので、見つめることしかできなかった。
(どんな声をしているのだろう。どんなことが好きなんだろう)
 私の先輩に対する好奇心は尽きることなく、毎日先輩のことを思うようになった。
 
 そんなある日。
(この後は英語かあ)
 部室で昼ごはんを食べた後、教科書を手に部室を出たときだった。
 隣の部室のドアが開き、二人の男子生徒が出てきた。
 その片方は間違いなく如月先輩その人だった。
 笑いながらしゃべっている先輩の声を私は初めて聞いた。
「どうした、前田?」
 友人の聡子の言葉も耳に入らないほど、私は先輩の声にうっとりしていた。
 落ち着いた優しいテナーの声。聞く者を安心させるような、想像通り綺麗な声だった。
 それからは、部室にいる時間が増えた。隣の部屋から聞こえてくる如月先輩の声を聞くだけで、その一日が素敵になった。だが、声が聞けるようになると、それ以上を望むようになった。もっと見たい。お話したい。
 私は授業後、同じ部活の友人を待つのを口実に、部室の戸の前で、座り込むことが多くなった。
 如月先輩は帰る前に部室によるようだった。それは多分、部室の前に自転車を止めているからだろう。それは私にとっては運がよかったといえる。ほぼ毎日先輩を見ることができたのだから。校舎のほうを見ながら、先輩がやってくるのを待つ。先輩が見えると、嬉しくなって口元がほころぶ。それを隠すように下を向いた。
 たまに目が合うことが増えた。だが、私は恥ずかしくて目をそらしてしまうのだった。





「いつも座っているね。誰かを待っているの?」
 先輩がやってくるのが見えて、いつものように、下を向いて笑みを殺していたときだった。
 突然先輩の声がふってきた。
(嘘?!)
「あれ、無視されちゃった?」
 私は慌てて頭を横に振り、声のしたほうに顔を上げた。先輩の綺麗な目が見え、どきどきした。
「ち、違います。無視してない、です」
「そ? よかった」
「友達を、待っているんです」
(本当は先輩を……とは言えない)
「そうなんだ。いつも見かけるからさ。
でも暑くない?」
「えっと、太陽が好きなので」
 確かに8月、蒸すような暑さにくらくらすることはある。でも、先輩を見られるならそれも我慢できるのが、乙女心というものだ。
 如月先輩はくすりと笑った。
「お友達、早く来るといいね」
「はいっ!」

 それからは、部室にやってくる先輩と時々話すことができるようになった。
 だが、それだけで十分のはずなのに、欲は尽きることなく、話すだけでは満足できなくなっていった。
 もっと話して、先輩自身のことを知りたい。どうやったらもっと親密になれるのだろう。
「告っちゃいなよ」
 聡子からはそういわれるが、それは勇気がなくてできなかった。そのまま秋が来て、冬になった。相変わらず、私と先輩は、後輩と先輩だ。


 そんなある日。
「いつも人待ちお疲れ様。最近は寒くなったけど、大丈夫?」
「え、えっと……。この冷たい澄んだ空気が好きなんです」
 いつも変なことしか言えない自分に私は情けなくなる。
 そんな私に先輩はまた綺麗に笑った。   
「風邪ひかないようにね。これ、あったかいよ? あげる」
 如月先輩はそういって、缶コーヒーとココアを出した。
「どっちがいい?」
「あ、私、コーヒー苦手で……」
「じゃあ、ココアのほうね。はい」
「ありがとうございますっ!」
 先輩がくれたココア。勿体ない、と思ったが、せっかく温かいものを持ってきてくれたのだ。
「いただきます」
 そういって私はココアを一口飲んだ。隣で先輩も缶のふたをあけた。
「温かい……。美味しいです。本当にありがとうございます」
「それはよかった。
それにしてもこんな寒空の下、毎日待ってもらえる友達は幸せだね」
「あ」
 私はちょっと困ってしまった。もちろん、聡子とは一緒に帰っているのだが、何も外で待つ必要はない。
「ん?」
「あの……!
私、私、先輩に会いたいから……。だから外で待っているんです!」
 勝手に零れた言葉に自分でもはっとして、口元を押さえた。
「え? えっと、俺を待っていたの?」
(ああ、もう仕方ない!)
「はい。先輩が部室に寄るのを知っているから……。私、純粋じゃないんです!」
「……」
 如月先輩は驚いた顔で私を見ていた。
「夏ぐらいからだっけ? もっと前からだったかな? それも俺を待って?」
 私は顔が熱くなるのを感じて、逃げ出したくなったが、
「はい」
 と頷いた。
「そっか……」
手にしている、ココアの缶が冷めていくのが分かった。
「あのっ! 私の片思いなので、気にされないでください!
 気まずくなるのはいやなので、今まで通りに接してください! では!」
 沈黙に耐え切れずになって、私はそう言うと、部室の中へ入ろうとした。そのときだった。
「あ、待った!」
 先輩の声が響いた。
「えーっと……」
 如月先輩は少し言いよどんだ。
「じゃあ、さ。時々隣の部室から聞こえてきた『先輩』というのも、俺、なのかな?」
 私は勢いよく顔を上げた。そして、またそろそろと視線を下げる。
(そうだよね。先輩の声が聞こえるってことは、こっちの声も聞こえていたってことだよね。
私、なんて恥ずかしいことをしてたんだろう……!)
 耳が熱い。泣きそうになる。
「あの……。すみません!!
こちらの声が聞こえているなんて思わなくて……!」
 とにかく、逃げたい。私は、
「すみませんでした!!」
 とお辞儀をすると、今度こそ部室のドアに手をかけた。
「謝ることじゃないと思う。それだけ俺のことを気にかけてくれてた証拠だよね?
む、むしろ嬉しいよ」
 聞こえてきた先輩の声に、私は振り返った。
 少し顔を赤くした先輩がそこにいた。
「えっと、こういうとき、どうすればいいか俺、解らなくてごめんね」
 私は自然と笑顔になった。これで十分な気がした。
「いえ、そう言って頂けるだけで私は幸せです。やっぱり、先輩は思ったとおり優しい方です。それじゃ」
「や、まだ話は終わっていないんだ」
 私は首をかしげた。
「俺、付き合ったこと、実は一度もなくて、よくわからないんだけど、君のことはもっと知りたいと思うんだ。俺も、毎日君がいるか確認していたんだよ。友人を待っていると聞いて安心した自分がいたんだ。
ーーだから、よければ付き合わない?」
 私はしばらく放心していた。そして、
「あの、先輩が付き合ったことないなんて、信じられないです」
 と、見当違いな言葉を発して、また自分の口元に手を当てた。
「え? ふ、あはははははは」
 先輩はいつもの綺麗な顔で爆笑していた。
「そうかな? 俺、もてないよ。好きな人にも勇気がなくて告げれずに終わるし。君は勇気があるな、と思うよ」
「それは、先輩があまりにも素敵だから、告白できないだけで、もてないとは違うと思います」
 なんだか、妙な会話になっているとは思っても、現実感のない私は、夢だからよくわからないことになっているんだろうと思っていた。
「なんだか照れるね。
それで、俺は付き合ってもらえるのかな」
 私は自分の体が浮いているのではないかという錯覚さえした。もちろん答えは決まっている。
「私でいいのでしょうか? もしいいのでしたら、よろしくお願いします。如月先輩」
 深々と頭を下げた。片手で、ほほをつねりながら。痛いか痛くないかもよくわからなかった。
 こんな夢のようなことがあっていいのだろうか?
「よかった。
じゃあ、君って言うのもなんだから、名前教えてくれるかな?」
「前田恭子です。よろしくおねがいします」
「俺は如月裕也。よろしくね」


 私は、いつまでたっても現実感のない日々を送っていた。
「寒いから、部室の中で待ってていいよ?」
 という先輩の言葉はありがたかったけれど、待つのが日課になっていたので、私はそれまでどおり先輩を待った。
 如月先輩が、私の顔をみつけて、笑顔になり、手を振ってくれるのがとても嬉しい。
 私と先輩は下校を一緒にするようになった。先輩は毎日私の電車の駅まで送ってくれた。
 何を話したらいいかわからず困ってしまうときが多い私に、先輩はさりげなく話を振ってくれる。私がしどろもどろ話すのを、優しい笑顔で相槌をうってきいてくれる。
歩幅を私の歩幅に合わせてくれる。車や歩行者からかばうように歩いてくれる。

そんな先輩の優しさがとても嬉しかった。
 でも。
(なんだろう。こんなに一緒にいる時間が増えたのに、先輩のことがまだ良くわからないでいる)
 私にとって先輩は美術館の絵のように思えた。表の綺麗な絵は見える。でも裏側が見えない。そして。描いた過程が見えない。
 先輩は私の話はよく聞いても、自分についてはよく語らなかった。それはわざとなのか、そうでないのか私には解らなかった。
 私は知りたい、と思うのだが、自分からなかなか訊き出せない日々が続くだけだった。
(もう一月も下旬。もう少しで先輩と付き合いだして三週間かあ。
二月はバレンタインがあるけど、先輩は何かほしいものはないのかな?)
 如月先輩は書道部だ。これだけは知っている。
(筆とか硯とかがいいのかな……。手編みのマフラーとかだったら、重いと思われるかもしれないし)
 なんとなく味気ない気もするが、書道がすきな先輩は喜んでくれるかもしれない。
(他に何かあるかな)
「どうかした?」
 知らず知らず先輩の顔を見つめていたようだ。如月先輩が笑顔で私を見た。
「えっと、先輩は今何かほしいものとかあるんですか?」
 直球になってしまった、私の言葉に、如月先輩は少し首をかしげた。
「ほしいもの?」
 そして、
「自分で言うのもなんだけど、俺って物欲少ないんだよね。
それに今はもう手に入ったからいいんだ」
 と言った。今度は私が首をかしげた。
「手に入った?」
 すると先輩は、形の良い鼻をかいた。
「うん、まあ」
「そうですか……」
 私は困ってしまった。まあ、まだ先のことだ。もう少し先輩を知ったら、何がほしいか見えてくるかもしれない。そう勝手に自分を納得させた。


 下校の他に如月先輩とは土日に会っていた。
「どこに行きたい?」
 会うと必ず先輩は私に聞いてくる。私はというと、先輩といられるだけで十分幸せなので、返答に困ってしまう。
 だから最終的には先輩が提案したものになる。よく行くのは映画だが、先輩は何のジャンルも楽しげに見る。動物園、遊園地、先輩は楽しみ上手なのだろう。優しい笑顔を浮かべて、隣にいてくれる。
 それから文武両道という噂は本当で、スポーツもできることがわかった。ボーリング、テニス、卓球、なんでも、涼しい顔でこなしてしまう。武術も剣道、空手ができるそうだ。
(先輩って欠点はないのかな)
 私は段々自分では不釣合いな気がして怖くなっていった。
 ある日、私は思いつきで質問をしてみた。
「先輩は、なんの動物が好きですか?」
「動物? みんなそれぞれ可愛くて好きだよ」
 いつもの綺麗な笑顔で答えた先輩。私は、不安にかられた。私もその一つなんじゃ……。
 それに、私、先輩の笑顔しか見たことない気がする。怒ったり、悲しんだりしている顔を見たことがあるだろうか?
 先輩は綺麗過ぎる。
(先輩は私が好きでつきあってるのかな?)
 付き合う前より少しだけ情報が増えて、そして、少しだけ寂しくなったのはなぜだろう。
「恭子? どうかした?」
「いえ、大丈夫です」
 私も不安を隠してる。隠し事ばかりの付き合い?
(初めて名前で呼び捨てしてくれたとき、本当に嬉しかったのに)
 私は、自分の名前が嫌いだった。でも、好きな人には名前を呼び捨てしてほしい。そう思っていて、付き合いだして最初にそれを告げた。すると思ったとおり、先輩は快諾をしてくれた。
(もっと先輩の本当の姿が見たい)
「くすくす」
 隣から笑い声が降ってきた。先輩だった。
「さっきから百面相をしているよ? 大丈夫?」
「あ……、すみません」
「悩み事? 聞くよ?」
「えっと」
 まさか先輩のことで悩んでいるなんて言えない。
「あ、あの、先輩。私、一度先輩が書道やっているところ見てみたいです」
「? いいけど、そんなに面白いものではないよ?」
「いえ、先輩が好きなことですもの。見てみたいんです」
「わかった。じゃ、明日は俺の部室の方に見学に来て」
「はい、ありがとうございます」
 
 先輩は思ったとおり、美しく優しい字を書いた。書くときのその姿も凛としていてとても美しい。
 先輩の顔は真剣そのもので、今までで最も綺麗だった。周りの空気まで澄んだような気さえした。
(本当に書道が好きなんだな……。やっぱり筆をプレゼントしよう)
 私はやっと少しだけ先輩の素顔を見た気がした。だが、それは、今までの柔らな雰囲気の先輩ではなく、やや近寄りがたさを覚えるようなものだった。
(先輩の本当の顔……)




  
 「きゃ!」
 いきなり手をひかれて、私は悲鳴を上げた。
「ぼーっとしてると危ないだろ?」
 如月先輩が私の手をひいていた。
「はぐれでもしたら困るしな」
 先輩は歩調を緩めることなく、私を引っ張っていく。
「映画、見たいんだろ? 急ぐぞ」
 先輩から手をつながれたのは初めてだった。
 いつもは私がもの言いたげに先輩を見つめていると、先輩が「どうしたの?」と聞いてくれて、「手をつないでもいいですか?」と私からお願いをして、つないでもらったのだ。
 やっぱり変だ。一昨日ぐらいからだと思う。乱暴になったというか、いつも笑顔だけの先輩ではなくなっている気がする。
「どうした? また俺怖い顔してるか?」
「い、いえ、あの……。なんとなく先輩、態度が変わったような気がして……」
 先輩は歩みを止めた。
「そう、かな? そんなことないよ? 何。心配してるのか?」
「は、はい……」
「べ、別に心配することなんかないから。
ま、例えば俺がどんな顔をしていようが、恭子を好きなのは変わらないから、心配しなくていい。な?」
「は、はい!!」
 なんだか凄いことをさらりと言われて、私は逆にどきどきしてしまった。
 いつもの先輩だったら言うだろうか?
(なんか、先輩、どうしちゃったんだろう)
 映画館でますます私は困惑した。
 先輩は無防備に寝ていたのだ。どうやらラブストーリーは退屈だったようだ。
(でも、寝るなんてこと今までなかった。疲れてるのかな、先輩)
「先輩、疲れてますか?」
 映画館を出るときに声をかけると、先輩は豪快なあくびをしながら答えた。
「え? んん、まあ、疲れているかな」
「映画、退屈でした?」
「い、いや、そんなことはないぞ。疲れていただけだ」
「そうですか」
 私は思わず笑ってしまった。
「何?」
「いえ、先輩って欠点がないような方だと思っていたので、映画館で寝ている先輩を見て、えっと、なんだか可愛いな、と思って……」
 如月先輩には、可愛いという形容詞は似合わない表現だと私は思っていた。今日までは。
「か、可愛い?! そんなこと言われて喜ぶ男はいないぞ?」
 先輩は困惑気味にそう言った。それがますます可愛らしいと思った。
(あ、まただ)
 それに、この数日で気づいた先輩の癖。額の汗を袖で拭う癖。
(どうしてこんなに数日で変わったのかな? 今まで緊張されてたのかな。それで疲れちゃったとか)
 それはまさに自分のことだが、そんな風に考えてみる。
(解らない)


 それからも、先輩の様子は以前と違う、と感じる数日が過ぎた。
 ボーリングで以前はストライクをとっても涼しげな笑顔を見せていた先輩が、今は子供のような笑顔になって喜んでいる。
 そう、何が一番変わったかというと笑顔だ。
 綺麗、という形容詞が最も似合う笑顔だった先輩。今は本当に楽しそうに笑っている。
 不機嫌な日は表情にそれが出ているし、なんだか以前よりも、身近に感じられるようになった。そして、態度はそっけないけれど、優しいことには変わりなかった。
 ある日、私は聞いてみた。
「先輩。どうして先輩は書道が好きなんですか? スポーツもできるのに、書道部にどうして所属しているのかなと思って」
「書道? あ、ああ、精神統一ができるからかな。落ち着くというか……」
 先輩は、ちょっと困ったように答えた。
「そう、ですか」
(何だろう。違和感……)
「それより、恭子、行きたいところないのか?」
 いつも先輩ばかりに任せていた私。
 私はそのとき思い出した。
 もし、男性と付き合うようになったら、水族館に行きたいと思っていたことを。
「水族館に行きたいです」
「よし。じゃあ、水族館に行こう」
 閉館ぎりぎりの水族館。先輩は魚に意外と詳しいようで、説明をしてくれた。それに、どの魚を見るときも楽しそうだった。私はある衝動にかられた。
「先輩。先輩の一番好きな魚は何ですか?」
「そうだな……。サメかな。綺麗な形しているよな。恭子は?」
 筒状の水槽で悠々と泳ぐサメを見つめながら先輩は言った。
「私は……イルカ」
「イルカは哺乳類だぞ?」
「し、知ってます!」
 指摘をされ、私は顔を赤らめて、言い返してしまった。そんな私に先輩は楽しそうに笑っている。
「もう! 本当に知っているのに」
 ふてくされる私の頭を先輩はぽんぽんと叩いた。
「はいはい」
(う、嬉しいかも……)
 私はされるがままになっていた。
 だが。
 ふと思いついて、私は先輩に聞いた。
「じゃあ、動物はどうですか?」
「動物? チーターかな。足が速いし、あの引き締まった体つき、模様、獲物を狩るときの姿、どれもが美しいと思うね」
 先輩は迷わず答えた。
「……。そうですか……」


 いつも駅前で先輩と私は分かれる。私は、遠ざかる先輩の背中を見る。毎日のこと。先輩は振り返ることはない。でも見てしまう。
 その日もそうだった。
 だが。
 ふと先輩が振り返った。
 そして、私の方に戻ってくる。
「何してるんだよ? もしかして、いつもこうやって見ていたのか? 寒いだろ、早く行けよ」
「でも、電車の時間まだですから」
「それを早く言えよ。お、ちょうど自動販売機がある。恭子は何飲む?」
 私は少し傷ついた。初めて先輩におごってもらったココア。先輩は覚えていなかったのだ。
「えっと、ココアで」
「ん、待ってて」
 先輩は自分の分の紅茶と私のココアを買って持ってきた。
「……先輩、紅茶好きなんですか?」
「ああ、ストレートのね。ただ、売ってるのは甘いから、本当は家で飲みたいけどな」
「あの、コーヒーは?」
「まあ、飲めるけど。紅茶のほうが好きかな」
 先輩は、その日以来、ずっとそうして、駅前で電車がくるまでいてくれるようになった。 
 バレンタインは明後日だ。
 私は迷い始めていた。筆を買うか、リストバンドを買うか。





 バレンタインの日。
 「恭子お待たせ」
 部室の前で待っていると如月先輩が駆け寄ってきた。「綺麗な」笑顔で。
「あのさ、今日、夕食食べる所予約してるんだ。行こう」
「あ、じゃあ母に電話します」
 私は母の承諾をとって先輩の横に並んだ。先輩は私の歩幅に合わせるようにゆっくり隣を歩いた。
 先輩が予約していた店は、夜景が綺麗に見えるビルの18階に入っている、フランス料理屋さんだった。
「今日はバレンタインだからね。
 でも、俺は思うんだ。女の子からプレゼントするだけじゃなくて、男からでも愛を告白する日でもいいんじゃないかと思って」
 そうして先輩は私にネックレスを差し出した。
 私は。
 私は、判ってしまっていた。
 好きだと思ったのは、如月先輩。でも、今好きなのは。
「せ、先輩、私、ごめんなさい! 受け取れません」
 俯いてそう言った。
「え? そんなに高価なものじゃないよ? 心配しないで?」
 先輩は笑顔のままそう言った。優しい先輩。優しいのに。
「違うんです」
「じゃあ、どうして?」
「私、先輩に憧れてました。
……憧れだったんです。先輩は凄く優しくて、綺麗で……。
でも私に本当の自分を見せてくれましたか? 私は先輩のことが良くわからなかった」
 私は作ったチョコレートと、もう一つ、プレゼントをカバンから取り出した。
「先輩。先輩はもしかして、違う高校に双子の兄弟がいませんか?
私がこの数日で、解った先輩は先輩じゃないのではないですか?」
 如月先輩から笑顔が消えた。
「そ、それは……」
「優しい先輩ですもの、きっとこの日のために、バイトか何かをされて、その間変わっていたのではないですか?」
「……」
「先輩、私は、豪華な食事も、アクセサリーもいらないです。ただ、一緒にいて、素の先輩をたくさんみせてもらいたかった」
「素?」
「ええ。私の前で、先輩は笑顔しか見せなかった。でも先輩も感情があるでしょう?
私には心を開いてくださらなかったのですね」
 私の声は涙声になっていた。こういうときに泣くのはずるい。そう解っていても、どうしようもなかった。
 先輩を責める資格なんてないのに。
「それは……」
「私はもっと本当の先輩を知りたかった。でも、知ったのは、先輩ではない、先輩の方でした。
……すみません……。私も先輩と同じでした。嫌われたくないから、なかなか自分を見せられなかった」
「……」
 私はもう自分を騙すことができなくなっていた。
「どう思われていてもいい。私は、もう一人の先輩のことを好きになってしまいました。
本当に、本当に如月先輩には悪いと思っています。ごめんなさい!! でも、もう嘘はつけません」
 私は深々と頭を下げた。
「そうか……。理由はなんにせよ、兄弟入れ替わって君を騙していた罰だね。
俺は大事なことがわかっていなかったんだ」
 先輩は肩を落とし、寂しく笑った。それは先輩の素の顔だろう。笑顔以外の先輩の顔。私は心が痛んだ。でも。
「ごめんなさい。
これ、すみませんが、もう一人の先輩に渡してください」
 私は先ほど取り出したプレゼント、リストバンドを先輩に渡した。
「ふられてもいいんです。ただ、私が好きになってしまっただけなのだから」
 私の言葉に、如月先輩は首を横に振った。
「竜也も多分、恭子が好きだと思う。最初はしぶしぶ引き受けていたけど、最後のほうは楽しそうだったから。俺らが今会っているから、多分、今頃落ち込んでると思う。直接渡しなよ。携帯番号教えるから」
「先輩、本当にごめんなさい!!」
 私はプレゼントを手に先輩に背を向けた。
(本当にごめんなさい!)


「あの、もしもし、恭子です」
「は? なんで俺の携帯……。って兄貴と会ってるんじゃないのかよ? っとやばい」
「私、私! 先輩じゃなくて、貴方を好きになってしまったんです。お願いです。会ってください!」
 少しの沈黙。
「今どこにいるんだよ?」
 複雑そうな竜也先輩の声が返ってきた。
「いつもの駅前です!」
「わかった。今からすぐ行く!」
 15分ほどして、竜也先輩は駅にやってきた。息をきらして。
「わかっちゃったか」
「はい。だって、竜也先輩のほうが態度がそっけなかったから」
 笑って私は言った。
「なんで、そっけないほうを好きになるんだよ? 兄貴のほうが数倍いい男だぜ?」
「それは解っています」
「ならなんで?」
「解りません。一緒にいて、楽しかったんです。竜也先輩は感情がわかり易くて」
「馬鹿だな、お前」
「自分でもそう思います」
 竜也先輩は額の汗を拭った。
「あ~あ、兄貴に恨まれるだろうなあ。
でも、俺もお前のこと好きになってたんだな、これが。ほっとけないっていうか」
 私は目を丸くした。
「なんだか、本当に付き合っているような気がして、楽しかった。
だから今日は凄く悲しかった。恭子は兄貴の彼女で、俺はその代役でしかなかったと思うと」
「じゃあ、今は悲しくないですよね?
楽しかった、じゃなくて、これからも楽しい時間になりますよね?」
 私の言葉に、竜也先輩は私を抱きしめた。
「きゃあ!」
「すげー俺、嬉しい! これからもよろしく!」
 

 如月先輩は相変わらず優しくて、竜也先輩とのことの相談にまでのってくれる。
 凄く申し訳ないことをしてしまったのに。やっぱり優しい先輩だ。
 いつか先輩にも本当の先輩を見せられる彼女ができればいいな、と思う。
 竜也先輩はというと、私があげた、白のリストバンドをして、私の隣にいる。
 竜也先輩は相変わらず喜怒哀楽がはっきりしていて、一緒にいてとても楽しい。
 乱暴な言葉遣いも、なれればそれだけ気をつかっていない証拠のような気がしてくるから不思議だ。
「おい、恭子。ほしいものとかあるのか?」
 もうすぐホワイトデーだからだろう。ストレートに竜也先輩が聞いてくる。
 私の答えは決まっている。
「竜也先輩との時間! それだけで十分です」

                     了



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ありがちな小説(汗
もっと個性的なものが書けるようになりたいです。


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彼女

Fate

初恋日和

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 それではまた!               天音花香

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こんにちは、天音です。


大分日が長くなってきましたね。
でも昨日は東京で雪。
こちらも明日は寒い様子。
温かくなっていたから急に冷えるとこたえます。
皆様お身体ご自愛ください。


さて、面白みのないショートショートになりますが、二編どうぞ。
なんというか、私の小説ってちゃんと起承転結がないし、タイトルの説明みたいな感じで、
読んでも、ふーんで終わりそうな感じだなあとちょっとへこみますが、
でも、書きたいんですよね。
とにかく書きたい。そして結局自己満足小説を書き続けるわけですけれど。
でも、書くと自分がすっきりする気がするので、申し訳ないのですが、
お付き合いくださいね。


「淡い夢」

 懐かしい、愛しいあの人が追ってくる。見たこともないような必死な表情を浮かべて。恋という熱を瞳に宿して。
 だけど私は逃げている。追うばかりの恋だったから戸惑っているのだろうか。それともあの人を困らせたいからなのだろうか。
 気になっている。神経の全てがあの人を捕らえて、こんなにも嬉しくて、胸が痛むのに、でも、逃げている。
 追われたいのだろうか。現実ではありえなかった、あの人のこんなにも取り乱した姿を惜しんでいるのだろうか。
 逃げている。
 来ないで。来て。
 捕まったりなんかしない。でも捕まりたい。
 夢中で逃げている。
 腕を捕まれた。
 目が合った。
 全身に走る電撃のような衝撃。
 求めても決して得られなかった永遠のような一瞬。
「……」
 目が覚めても頭の芯がくらくらする感覚が淡く残る。あの人のあの瞳が私を見つめている。ああ、心臓が煩い。なんて幸福感。
 私はその感覚に浸りながらまた目を閉じる。
 まどろみの中で見る夢はときに優しい。叶わなかった夢を紡いでくれる。

 
                      了


「嫉妬」

 自分の恋人じゃないのに。彼が他の人と話していると、ついつい視線がそちらの方に行ってしまう。何を話しているんだろう。関係ないのに。視線が……。
 嫉妬なのだろうか。なんだか面白くない。

 彼女が他の女性と話している。あれ? どうしてだろう。この感覚。やっぱり気になる。女同士なのに。やっぱり面白くない。

 彼が。彼女が悪いんだ。他の人と楽しそうにしているから。
 私は? 私より楽しい? 
 自分が一人でいることが気になる。

 私の恋人が他の女性と話している。嫌な気分だ。否、嫌だ。
 その女性を彼から突き放して、彼の手をとってその場から立ち去りたい。
 彼を独り占めしたい。彼の名前さえも呼ばれたくない。

 あ、そうか。これが嫉妬だ。
 恋人じゃなかったら、面白くはないけれど、我慢できる。なぜなら、私が一人なのが悲しかっただけだから。でも、彼氏のときは我慢できない。
 彼じゃないと駄目だから。
 彼には私とだけいて欲しいから。
 なんて身勝手な思い。
 でも、愛しているから生じる醜い感情。
 私は神さまじゃないから、完全ではいられない。心がどうしても動いてしまう。どうにもとめられない感情の渦。嫉妬。感じたくないのに。やっぱり今日も私の中に暗い炎が宿る。

                            了

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