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天音花香の小説をUPするブログです。個人サイトの小説はこちらに移しました。現在二時創作と短編を中心に書いています。
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天音花香
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女性
職業:
主婦
趣味:
いろいろ・・・
自己紹介:
小学生のときに、テレビの影響で、小説を書き始めました。高校の時に文芸部、新聞部で文芸活動をしました(主に、詩ですが)。一応文学部でです。ですが、大学時代、働いていた時期は小説を書く暇がなく、主婦になってから活動を再開。

好きな小説家は、小野 不由美先生、恩田陸先生、加納朋子先生、乙一先生、浅田次郎先生、雪乃 紗衣先生、冴木忍先生、深沢美潮先生、前田珠子先生、市川拓司先生他。
もう一つのブログでは香水についてレビューをしております。
http://yaplog.jp/inka_rose/
こんな私ですが、宜しくお願いします。





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こんにちは、天音です。

 お久しぶりの更新です。小説を連載しようかと思います。まだ連載途中のものもありますが、それも含めて少しずつ進めていければと思っています。よろしくお願いします。アルファポリスさんと小説家になろうさんにもアップする予定です。どこかで読んでいただければ幸いです。ちょっとタイトルがいいのが思いつかなかったので、仮のタイトルになります。「恋人ごっこ」です。楽しんでいただければ幸いです。




       恋人ごっこ


ココから小説





 優しくて、誠実でいい人。でも意志の強い人。笑顔が多くて、眼鏡がよく似合い、目がとても綺麗な人。柔らかそうな髪は透けると綺麗で、細くて長い指をしていて、背が高い人。
「先輩!」
 って呼べば、ふわりと微笑んで振り返ってくれる人だった。
 書道部の部長だった樋口焔(ひぐちほむら)先輩。私の理想そのもの。
 初めて恋をして、勇気を出して告白した。
「ありがとう。高城さんの気持ちはとても嬉しいよ。でも僕には好きな人がいるんだ。本当にごめんね」
 すまなそうに言った樋口先輩。
「想いが通じるといいですね」
 そう言わずにはいられなかった。

                 
                  
                   ★
               


「あーあ。振られちゃった」
 不覚にも涙がこぼれそうになって、高城亜貴(たかじょうあき)は空を仰いだ。小春日和の青い空。
「いい天気」
 涙が眼尻から耳の方に伝うのがわかった。
(あっけなかったなあ)
 樋口先輩を好きになったのは一年生の三学期頃だったと思う。一年間の想い。長いようで短かった。でも、その間にたくさんの樋口先輩の姿を目に焼き付けてきた。後一か月で樋口先輩は卒業だ。
(後悔はしない。先輩を好きになってよかったし、告白もちゃんとしてよかった。……先輩の好きな人って誰かなあ)
 思い当たる人がいないわけではない。同じ書道部の円上さゆり先輩。穏やかで優しくて控えめなのに、どこか芯の強さを感じる女性だ。
(どうだろう。お似合いの二人だけど)
 ただ、樋口先輩が「好きな人」という表現をしたのが気になった。
(両想いではないのかな……)
 複雑な思いで、教室に鞄をとりに戻っているときだった。
「好きなんです」
(!)
 聞こえてきた女子の言葉にどきりとした。自分が告白したばかりのときに、人の告白に出くわすなんて、なんて日だろう。垣根を挟んで向こう側にどうやら女子とその意中の男子はいるようだ。
 邪魔しちゃいけないとそーっと通り過ぎようとする。
「あー、わりぃけど、今、女にきょーみねーんだわ。付き合うとかってよくわからないし。めんどくさそーだし。わりーな」
 聞こえてきた男子の言葉に、亜貴の足は止まってしまった。
(なにそれ!)
 無性に腹が立っている自分がいた。
(女に興味ない?)
「じゃあ、そういうことだから」
 素っ気なく言う声が聞こえたそのとき。亜貴は垣根の向こう側に飛び出していた。
「ちょっと、あなた」
 その場にいた女子と男子が驚いたように亜貴を見た。
「なっ、なんだ、お前」
「……!」
「偶然通りかかった者よ。それより、あなたのその態度なんなの?」
「はあ?」
「はあ? じゃないわよ。告白されたのに、その態度は何? って言ってるの」
「……おたくこそ立ち聞きとはずいぶんじゃねーか」
 告白した女子はおろおろと亜貴と男子を見る。
「聞いてしまったのは悪かったと思っているわよ。でも黙っていられない!
「女」でひとくくりにされるこの子の気持ちを考えなさいよ! この子は「男」じゃなくて、あなたに興味があるのよ! そんな答えで気持ちを昇華できると思ってんの? 好きな人がいるとか、タイプが違うとかならわかるよ? でも、何? きょーみない? 付き合うことがわからない? だったら付き合ってみればいいでしょ?! この子のこと、知ってみればいいでしょ? 付き合ってもいないのに、最初からそんな断り方ないんじゃない?!」
 言ってて自分でもどうしてこんなに腹が立つのか亜貴はわからなかった。もしかして、振られてすぐだから、感情が高ぶっているのかもしれない。
 言われた男子は明らかにむっとしていた。
「てめーに言われる筋合いはねーんだよ! 俺がどう振ろうが勝手だろ!!」
(どう振ろうが勝手……。そうかもしれない。でも、告白したほうの気持ちはどうなるの!!)
 悲しいやら悔しいやら。なんだか気持ちが抑えられずに、亜貴は告白した女子の方を向いた。
「こんな態度の男子のどこがいいわけ? 付き合わなくて正解よ。あなたかわいいんだから、もっと自信を持って。こんな男子より数倍いい男を探せばいいわ!」
「は、はあ……」
 自分の言葉が矛盾しているのはわかっていた。この女子はこの男子が好きなのだ。
(だけど、こんな振り方……! やっぱり悔しい!)
「なんだと? 俺のこと知りもしねーのによく言えたもんだな!」
「だから、それは彼女の台詞よ?!」
「うるせー! 
ああ、わかった! そんなに言うんだったらな、てめー、俺と付き合え! 付き合うってのがどんなのか知ればいーんだろ?」
 男子の無責任な言葉に亜貴のこめかみがひきつった。
「はあ? なーんで私があんたなんかと付き合わなきゃいけないのよ?! この女子はどうなるよ!!」
「いえ、私はもういいですから……」
「私がよかないのよ! なんでこんな、全く好みと正反対のタイプと付き合わなきゃいけないわけ?! それでなくとも、さっき失恋したばかりなのに!」
 言ってから、しまったと亜貴は自分の口を押える。
「ほー、やっぱり失恋か。そーだろうな。てめーみたいな奴と付き合う奴なんかいるもんか。俺が試してやるって言ってんだ。ありがたく思えよ」
 嘲るような笑みを浮かべて男子は言った。
「だーかーらー! いやだって言ってんでしょ!」
「ふん、俺に惚れるのが怖いんだろ?」
 亜貴の中で何かが切れる音がした。
「……いーわ。勝負しましょう。一か月。惚れたほうが負けね。思いっきり振ってやるわ!!」
 売り言葉に買い言葉。叩きつけるように言って、言った直後に後悔する言葉なんてあるんだと亜貴はこの瞬間思った。
(ああ、しまった……!)
「へー、面白そうじゃんよ。受けて立ってやるぜ。覚悟するんだな!」
 なんでこんなことになってしまったのか。亜貴は自分の言動に内心泣きたい気分だった。でも、もっと泣きたいのは告白した女子だろう。泣き笑いを浮かべながら、
「頑張ってください」
とその女子は言ったのだった。



                                  続く


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                           天音花香

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こんにちは、天音です。

前回の「恋人ごっこ」の続きになります。
まだまだ続きますので温かい目で見守ってやってください。よろしくお願いします。




       恋人ごっこ2




ココから小説





「おい、お前」
 再び鞄をとりに教室へ戻る亜貴の後ろを男子がついてくる。亜貴は歩みをとめて男子の方を向いた。
「お前っていうのやめてくれない? あんたなんかにお前なんて言われたくない」
「お前も俺のことあんたって呼んでんじゃねーか」
 視線が交差する。百六十九センチの亜貴が若干見上げるような感じだ。樋口先輩はそれよりももう少しだけ高かったな、と思って亜貴はちょっとうるっとしそうになった。
「な、お前泣いてんのか?!」
 亜貴は慌ててふいと視線をそらした。再び歩き出す。
「別に! 泣いてなんかいないわよ」
「そんなにお前って言われるの嫌だったのか?」
「っ!」
 甚だしい勘違いに、思わずふいた。
「?? お前忙しい奴だな」
 なんだか急に馬鹿らしくなってきて、亜貴はもう一度男子の方を振り返った。
「お前じゃなくて、高城亜貴よ。あなたは?」
「樋口刻ひぐちこく。刻でいい」
「そう。え? 樋口?」
「ああ。樋口だけど、なんだよ?」
 つくづくいやな日だなと亜貴は思った。振られた日に偶然樋口先輩と同じ苗字の男子と付き合うことになるなんて。
「別になんでもない。私のことも亜貴でいい」
「おう。じゃあ、亜貴」
「何よ?」
「何年生だ?」
「二年。二年一組」
「ふーん、俺と同じ二年か。俺は二年四組」
「そう。じゃあ一応よろしく」
「ああ。それで?」
 刻の問いを測り兼ねて、亜貴は首をかしげる。
「何? それでって」
「だから、そのー」
「何よ?」
「付き合うって何するんだ?」
「……」
 言われて亜貴は絶句した。高校二年の男子とは思えない質問だ。だが、今まで付き合ったことのない亜貴もそう問われるとうまく答えられなかった。
「……」
「なんだよ?」
「そ、そうね。一緒に帰ったり、お弁当食べたり、勉強したりするんじゃない?」
「そ、そんな恥ずかしいことすんのか?」
なんだか言葉にすると恥ずかしくなってお互いうつむく。
「……」
「……」
 気まずい空気が流れた。
「嫌なら……」
「男に二言はない。勝負もあるしな」
「そう……」
「で、亜貴は今日これからどうするんだ?」
「私は今日はもう帰る」
 部室に行けば樋口先輩と顔を合わせるかもしれない。今日はとてもそんな気分にはなれなかった。
「ふーん」
「刻は部活か何か入ってるの?」
「俺? いちおー弓道部に入ってる」
「え? 刻が?」
「亜貴ってほんと失礼なやつだな」
「まあ、確かに姿勢はいいわね。
じゃあ、部活に行くんでしょ?」
「ああ」
「じゃあ、今日はこれでさよならね」
ちょっとほっとして亜貴は言った。
「見て行っても構わねーけど?」
「そうね、またの機会にそうさせてもらうわ」
「ふーん」
「じゃあ、弓道頑張って」
「お、おう。じゃーな」
 亜貴はひらひらと手を振ると教室に戻り鞄をとって、再び教室を出た。なんだか疲れていた。早く家に帰って一人になりたい。
 亜貴は家路を急いだ。





    知りたくなかった彼の情報





 樋口先輩の夢を見ていた。どんな夢だったのかは覚えていない。でも、目が覚めると泣いていた。意識がしっかりしてくると、昨日のことを思い出した。
(そうだった。私、昨日告白して振られたんだった。何か他にあったような気がするけど……。
 頭がぼんやりして思い出せない。まあ、大したことじゃないのだろう)
 亜貴は母の出してくれた朝ご飯を食べると、高校へ向かった。
 普段通り授業を受ける。
(振られたら世界が変わると思ってたけど、そうでもないんだなあ。私、とても悲しいのに、ちゃんと過ごせてる)
 午前中の授業が終わり、お弁当を手に、廊下に出た。いつもは部室で食べてるけど、今日はどうしよう。そうちょっと考え込んでいると、
「亜貴」
と背後から声をかけられた。男子の声だ。誰?
 振り返って、
「あ~!!」
と思わず声をあげてしまった。
(そうだった、私、この男と付き合うことになってしまったんだっけ!)
「うるせーやつだな」
「すっかり、刻のこと忘れてたわ」
「喧嘩売ってんのか?」
 刻は座った目で亜貴を見た。
「このぐらいで怒るなんて、ちっぽけな男ね」
「いちいち気に障る女だな」
「ところで、わざわざ喧嘩するために私を呼んだわけ?」
「そんなんじゃねーよ」
「じゃあ何?」
「め、飯」
「は?」
「飯、一緒に食わねーのかよ」
 目をそらし、バツの悪そうに刻は言った。
「ああ」
 そういうことか。早速「付き合う」というものを実行しようとしてるわけね。廊下にいる生徒の何人かが好奇の目でちらちらとこちらを見ている。
「別にいいけど。外かどこかにしない? 人が多いの苦手で」
「おう、俺もそっちの方がいい」
 二人は校舎をでて、校庭のわきにひっそりたたずむベンチに腰を下ろした。
「意外にまめなのね、刻って」
「まあ、勝負には勝たないといけないからな」
と言って、しまったという顔になった刻を見て、亜貴は苦笑した。案外悪い奴ではないのかもしれない。
「しっかし、一緒に飯食って、一緒に帰って? 何が楽しいんだ?」
「まあ、そうね。でも、好きな人となら楽しいんじゃない?」
「好きな人、ね。
そういや、亜貴は振られたんだったよな」
 触れられたくないことにいきなり触れられ、亜貴は一瞬言葉を失った。そんな亜貴を見て刻はまたしまったという顔をした。
「わ、悪ぃ。えっと……」
「別に、いいわよ。事実だし」
「やっぱり悲しいか?」
「……」
 刻の言葉に亜貴は半眼になった。
「あんた、人を馬鹿にしてるの? 悲しいに決まってるでしょ!?」
「そうか、そうだよな」
 刻はそう言って目を泳がせた。
「俺は、そういう気持ちわかんねーからよ」
「ふん、まだお子様なのね」
「はあ? お子様言うな!」
「お子様よ。刻が振ったあの女子も、今頃きっと悲しんでるでしょうね。そういうのがわからないんだから、お子様って言われても仕方ないじゃない?」
 まっすぐな目で亜貴に言われ、刻は何も返せなかった。
「……」
 黙り込んだ刻を横目で見て、亜貴は既視感に襲われ、首を傾げた。
「な、なんだよ?」
「何かな? 何か思い出しそうな気がしたんだけれど、気のせいかな」
「ふーん?」
 しばらく二人は黙って弁当を食べていた。お互い異性とお昼を食べるのなんて初めてだ。なんだか気まずかった。
 残ったおにぎりを食べようとして、亜貴は刻の弁当箱が空なのに気づいた。
「食べるの早いわね」
「おう。腹減るからな。朝練もあるし」
「えっと、ならこのおにぎりいる?」
 ちょっと考え、亜貴は遠慮がちにそう口にした。
「え? いいのか?」
 犬だったらピンと耳が立って、しっぽを振っているような刻に、亜貴は思わず噴き出す。
「な、なんだよ?」
「うううん、いいのいいの。じゃあ、あげる。このおにぎり」
 笑っている亜貴に刻は怪訝そうな顔をした。
「もしや、食い物で釣ろうとか思ってないだろうな?」
「思ってない思ってない」
「ふん、まあそれぐらいじゃ釣られねーけどな。もらえるならもらっとく」
 刻は亜貴の弁当箱からひょいとおにぎりをとって口に運んだ。その長い指に亜貴は樋口先輩を思い出した。
(先輩は綺麗な長い指をしていたな)
「な、なんだよ?」
「え? ああ、なんでもない」
「変な奴だな。やっぱりおにぎり食べたかったのか?」
「は? ああ、そんなんじゃないから大丈夫」
 意外と早くに食べ終わってしまい、二人はまた気まずい空気に包まれる。
「よくわかんねーな。一緒に飯食ったけど、亜貴はどうなんだよ?」
「どうって言われると困るけど。そうね、まあ、新鮮ではあるかもね」
 いつもは部室でその場にいる部員と食べながらおしゃべりをしていたが、亜貴が部室へ行く目的はおしゃべりではなかった。もともと口数の多いほうではないし、相槌を打ちながらちらちらと樋口先輩が来ないかどうかを見ていた。たまにだが、同級生と樋口先輩が来る時があり、それが目的だった。
「新鮮、か。まあ、そういわれるとそうだな」
「刻はいつもはどうしてるの?」
「そうだな、俺はつるむのが好きじゃねーからそれこそここらで一人で食べてる時もあるし、学食に行くときもあるし。まあ、部室に行ったら誰かがいるからそいつらと食べる時もあるかな。亜貴はどうなんだ?」
「私はほとんど部室で食べてるわね。今日は行かなかったからなんでかなって思われてるかもね」
「似たり寄ったりだな」
「そうね」
 また沈黙。仕方なしにお互い弁当箱を片付ける。
 髪を鬱陶しそうに耳にかけた亜貴を刻はちらりと見た。昨日はまじまじとは見なかったが、亜貴の性格を表すようなまっすぐな黒髪、そして意志の強そうな眉に目が行った。
「何?」
「いや、女子でもそんな黒い髪は珍しいよなと思って」
「髪?」
 髪と同じ黒い瞳がきょとんと開かれる。前髪がピンでとめてあるせいもあり、表情がよくわかる。
 刻はちょっと気まずそうに視線をずらした。
「生まれつきかな。真っ黒すぎて嫌なんだけどね」
 そう答えて、亜貴は円上さゆりを思い出した。さゆり先輩も比較的黒い長髪だ。ただ、自分と違っておしとやかなので印象が違うけれど。
「あんたには合ってるんじゃない?」
「それは、まあ、どうも」
 さらに気まずくなって二人は目をそらした。
 刻の髪は薄めの色だった。日に透けると茶色っぽくなる。
(……あれ?)
「そういえば、亜貴の部活は何なんだ? 聞いてなかったよな」
 また既視感に襲われていた亜貴を刻の低い声が現実に戻した。
「そうね、言ってなかったわね。書道部よ」
「ふーん。まあ、確かにイメージ通りかも。
ん? 書道部っていえば、俺、兄貴がいるけど?」
「え?」
 亜貴の心が一気にざわつき始める。嫌な予感がする。刻の苗字は。確か。
「樋口焔って知らねー? 俺の兄貴だけど」
「……」
 亜貴の表情は固まった。
「おい? 亜貴? なんだ、部長らしいのに、認知度低いのか」
 亜貴の気も知らずに刻は笑う。
 既視感、そうか。なんでいちいち思い出したのか。それは。似ても似つかない性格なのに、面影が少しあるからだ。
「おーい? なんか顔色悪いけど大丈夫か? あんた。気分でも悪いのか?」
「……大丈夫」
「? ならいいけど。
書道部か~。世間は狭いな。兄貴に聞いてみよ、亜貴のこと」
「や、やめて!!!」
 予鈴の音と亜貴の悲鳴が重なった。亜貴の膝の上にあった弁当箱が落ちて音を立てる。
「な?! なんだよ、どうしたんだよ?」
 悲鳴に驚いて、刻は立ち上がった亜貴を見た。
「!?」
 そして刻は理解した。
「あ~。そういうこと?」
「……予鈴なったから、行かない?」
「あ、ああ。えっと」
「何も聞かないで。そして、樋口先輩にも何も言わないで」
「あ~、うん」
 二人は黙って速足でそれぞれの教室に戻った。
「今日も、一人で帰らせて」
「あ、ああうん」
 教室に入っていった亜貴を見送り、刻は頭をかいた。





                                  続く


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       恋人ごっこ3




ココから小説



          そこが好きなんじゃない



 翌日。
 昨夜も寝付けなかった亜貴は、気だるげに落ちてくる髪を耳にかけ、鞄を持ち直す。歩き慣れた廊下が長く感じられた。目の下にクマができていた。三年生とは階が違うのでこんな顔を樋口先輩に見られなくてよかったと思っていたその時。
「!?」
 似ている。確かに似ているのだが、放つ雰囲気があまりに違いすぎて、違和感しか感じない。
「はあ……」
 亜貴は疲れて深く息を吐いた。眼鏡をかけた刻が視線の先には立っていた。
「……よお」
「……」
「無視!? 待てよ」
 耳障りな大きな声に、顔をしかめて、亜貴は振り返る。座った目が刻を睨んでいた。
「あら~、ご機嫌斜め?」
「……デリカシーって言葉、知ってる? あんた。昨日の今日でよくそんな真似できたわね。馬鹿じゃないの!?」
 吐き捨てるようにそういうと亜貴は自分の教室へ入った。
「……ちっ」
 残された刻は下がってきた眼鏡をぐいと上げた。

 その日、亜貴は目の前をうろちょろする刻を見ないふりして、口ももちろん利かずに部室へ行った。
「亜貴。何そのクマ? 体調悪いの?」
「ちょっとね」
 ちらちらと部室内を盗み見ると樋口先輩の姿はなかった。
「どうかした?」
「うううん、何でもない」
「そういえば、亜貴が昨日、男子といたって真奈美が言ってたけど?」
 その言葉に亜貴は顔をしかめた。
「ちょっとね。いろいろあって」
「何、いろいろって?」
 その場にいる亜貴の友人たちは興味津々な顔で亜貴を見た。亜貴は面倒なことになったとますます顔を曇らせる。
「あー、まあ、付き合うことになったの。たぶんすぐ別れるけど」
「え?! 何それ!」
「誰と?」
「えっと、ちょっと用事があったの思い出した! ごめん、またね!」
 亜貴は逃げる様に部室を飛び出した。
(女子はこういう話ほんと好きよね。しばらく部室に行くのもやめよう)
 自業自得とはいえ、なんでこんなに面倒なことになってしまったのかと気が滅入る。地面だけを見て速足で校門を出ると人とぶつかった。
「すみません!」
 慌ててとっさに謝ると、会いたくて会いたくない樋口先輩の心配そうな顔があった。
「大丈夫? 高城さん」
「だ、大丈夫です!」
 告白した日から二日目。しかもこんなに近い距離で樋口先輩の顔を見ることはなかなかない。どんな態度をとっていいかわからず、亜貴はうつむいた。早くこの場を立ち去りたい。
「体調悪そうだけど……?」
 優しい声音で言われて、亜貴は泣きそうになる。やっぱり樋口先輩は優しい。でも私は樋口先輩の特別ではない。
「ちょっと寝不足なだけです」
「そう? 今日は眠れるといいね。帰り気を付けて」
「はい」
 亜貴は無理やり笑顔を作り、樋口先輩に頭を下げると駆け出した。頬を冷たい風がかすめる。
(だめだな、私。まだこんなにも好きだ。なのに私、何やってるんだろう)
 自分が情けなかった。
(刻には明日、断ろう)


 
 
「おっす」
 刻はこの日も眼鏡をかけたままの姿で亜貴の教室の前の壁に寄り掛かり、亜貴を待っていた。 
「……おはよう」
 憮然としながらも返した亜貴に、刻の表情が少し和らいだ。
「おう」
「刻、今日、お昼話すことがあるから」
「? なんだよ、改まって」
「とにかくこないだお弁当食べた場所にいて」
「? わかった」
「じゃあ」
 午前中の授業の間、亜貴は刻になんて言おうかを考えていた。だが結局うまくまとまらないまま昼休みを迎えた。
「それで?なんだよ、話って」
 亜貴は少し躊躇って、そして、腹をくくったように刻を見た。直球で行くしかない。
「な、なんだよ?」
「うん。やっぱりこの勝負やめない?」
「は?」 
「だから」
 もう一度言おうとした亜貴を刻は制した。
「内容は理解できてるって! そうじゃなくて、何今更言ってんだってことだよ」
「そうね。私が言い出したことだからね。勝手なこと言っているのはわかってる。でも、一か月で人の心が変わるなんて思えない。私は樋口先輩が好きなの。こんなことしても無駄だと思う」
 亜貴の言葉に刻は黙った。
「そういうことだから」
「……じゃあ、負けを認めるんだな?」
「は?」
「途中でやめるってことは負けだ」
「負けじゃないわよ!」
「じゃあなんだよ」
 亜貴は苛立たし気に息をついた。
「……だから、勝ち負けの問題じゃないのよ」
「お前、ほんと勝手だな。勝手に人の告白に首突っ込んで、勝手に勝負をたたきつけて、そして、勝手にやめる」
 今度は亜貴が黙る番だった。
「あの日、亜貴は兄貴に振られた。単なる腹いせだったのか?」
「……」
「なんだ、結局あの女子のためなんかじゃなかったんだな。お前は自分のために割って入ってきただけだったんだ」
「……」
「何も言えねーのか」
「っ! それだけじゃない! 本当にあんな理由で振ろうとしたあんたが許せなかったのよ!」
(そう。自分があんなこと言われたら許せないから!)
不覚にも涙が浮かびそうになって、亜貴はぐいと目をこすった。
「だったらやめるんじゃねーよ! 自分の信念貫けよ。俺をこっぴどく振ってやるんだろ?
俺は人を特別に好きになったことはない。だからわかんねーけど、人間は一生一人しか好きにならねーのか? 違うだろう? まだ3日。俺の何がわかった? まだ27日もあるんだ。俺は負けるなんて思ってないね。だからやめてやんねーよ」
「……っ」
 悔しいと思った。不敵に笑う刻が少しだけかっこよく見えたのが余計に悔しかった。
「飯食おうぜ。時間がない」
 亜貴の返事を待たずに刻は弁当箱を開けて食べだす。
「……。後悔するわよ。私は心変わりなんてしない。だから刻は私に勝てないんだから!」
「はいはい、それはどーだろーな。まあ、お前も食えよ」
「……」
 悔しくて仕方がない。納得がいかないまま亜貴は弁当箱を開けた。
「おにぎり一個くれんだろ? もらうぜ」
 すかさず亜貴の弁当箱に刻が手を伸ばした。あっけにとられている亜貴の前で刻は満足そうに亜貴のおにぎりをほおばっている。そんな刻の顔を見ているとなんだかすべてが馬鹿馬鹿しくなった。
「……眼鏡」
「ん?」
「眼鏡、やめなさいよ」
「なんで? 兄貴に似てるだろ? こうやって眼鏡かけてると」
 はあ、と亜貴はため息をついた。
「あんたって本当に人を好きになったことないのね」
「なんだよ、今更。言ってるだろ?」
「そこ、胸を張るところじゃないわよ」
 亜貴はもう一度深く息を吐いて、刻の眼鏡に手をかけた。
「何すんだよ?! 眼鏡が好きなんだろ?」
「馬鹿ね、ほんと、あんた。
好きになるとね、好きになった人が一番かっこよく見えるものなの。眼鏡が似合っていれば、眼鏡も素敵だと思える。でも、眼鏡をかけていなくてもその人であればいいの。逆に、別の人が眼鏡が似合っていても、好きでなければなんとも思わない」
 どこか遠くを見るようにして言った亜貴の横顔に、刻は自分がいつの間にか魅入っているのに気づいて咳ばらいをした。きっと兄を思い出して言っているに違いない。なんだかおもしろくなかった。
「何よ?」
「べーつに」
 眼鏡を買った自分が馬鹿みたいに思えた。
「刻は目は悪くないの?」
「右が0.8で左が0.7。なくても見える」
「そう」
 亜貴は手にした刻の眼鏡を見た。樋口先輩のと似ていた。
「本当に馬鹿ね」
 そう言った亜貴の声はどこか優しくなっていた。
「はいはい。馬鹿ですよ。わざわざ買っちまって損した」
 刻は眼鏡を取り返すと鞄に乱暴にしまった。
「買ったの?」
 亜貴はちょっと罪悪感を覚える。自分が悪いわけではないのだけれど。
「……勿体ないから家で勉強するときにでも使ったら?」
「だったらほとんど出番はないな」
「ふふっ」
 亜貴はなんだかおかしくなって笑ってしまった。
「なんだよ?」
「うううん。ほんと、あんたはそんな感じだから」
「ふん。変な奴。泣いたり笑ったり」
「な、泣いてなんかいないわよ!?」
 真っ赤になって言い返す亜貴。
「そうそう、亜貴は怒っているのが亜貴らしいんじゃねえ?」
 にかっと笑って言った刻に亜貴は余計にむっとした。
「それは刻の前だからじゃない?!」
「へえ、兄貴の前の亜貴を見たいものだ」
「あんた、ほんっとにむかつくわね!」
 亜貴は思わず刻の肩を叩いた。
「叩いてる暇があるなら飯食えよ。もう昼休み終わるぜ?」
「っ」
 すっかり刻のペースだ。
(あ~、むかつく! やっぱりこっぴどく振ってやろう)
 もぐもぐと口を動かしながら、亜貴は一時間前とは別の考えに落ち着いたのだった。だが、不思議と心は軽かった。





            やっぱり似てる? 似てない?



 終業を告げるチャイムの音を聞いたのだが、亜貴はしばし席にとどまっていた。今日はどうしようか迷っていた。樋口先輩に告白してから放課後は部活に行っていなかった。特に差し迫った提出などはない。行ってもただ黙々と字の練習をするだけだ。ただ、その無になれる時間が亜貴は好きで書道部に属していた。だが、今は到底心を無にできそうにないため、亜貴は書道教室に行く気になれないのだ。
 のろのろと教科書類を鞄に詰め込んでいると、亜貴の教室を刻が覗いているのが目に入った。眼鏡は結局やめたようだ。
(ふん。やっぱり刻には眼鏡は似合わない)
 目が合った。鋭い目つきがやや変わる。そのまま教室に入ってくると刻は亜貴の前に立った。
「おい、お前、じゃなかった、亜貴、今日はどうすんだ?」
「そうね、それを考えていたところ」
 数人残っていた女子がこちらを見た。
「とりあえず教室でましょうか」
「あ、ああ」
 女子の視線に気づいた刻もちょっと気まずそうに返事をすると亜貴に続いて教室を出た。
「わりぃ、考えなしだった」
「まあ、いいけど、今更」
 素っ気なく言った亜貴に刻はにやっと笑った。
「亜貴ってさ、友達いねーだろう?」
「は? どうして?」
「いっつもつんけんしてるから」
(こいつはなんでこんなに私をイラつかせるのがうまいんだろう)
「……少ないけど、いなくはないわよ」
 部活の友人はいるが、教室では他の女子のように一緒に行動はしていなかった。
「刻こそ……」
 亜貴が言おうとしたとき、廊下ですれ違った二人の男子がこっちを見た。
「刻、それ彼女~?」
「え~いつの間に?」
「うるせーな。期間限定の、だよ」
「ははっ、何それ」
「かっこつけんなよー」
「うるせっ! 早く部活行けよ」
 亜貴は言いかけた言葉をのんだ。そして言わなくて正解だったと思わずにはいられなかった。階段を一階まで下りるまでに、刻は数人から声をかけられていた。
(なんだ、友達多いんじゃない)
「今日も帰るのか?」
 亜貴はちょっと考えて、
「……今日は刻の部活見ていこうかな」
と答えた。刻は意外そうに目を開いて、そして笑った。
「いいぜ、来いよ。静かにしとけよ?」
「……なんであんたはそんなに偉そうなのよ?」
「別に?」
 亜貴の言葉を気にすることなく、刻は上機嫌で弓道場まで歩いたのだった。





 弓道衣を身にまとい、ゆがけをはめて弓を引く。矢が切り裂く空気までが伝わってくるよう。亜貴はじっと魅入ってしまっていた。
 亜貴が入ってきたとき、弓道場は少しざわついた。男子部員たちは興味津々といった風に亜貴を近くまで見にきたし、女子部員は遠巻きになんとも言えない目で亜貴を見ていた。そんな様子を気にも留めずに刻は、
「あ、こいつ、見に来ただけだから」
と言って着替えに行ってしまい、その場に残された亜貴は、
「見学させていただきます。よろしくお願いします」
と一言言って後ろの方の床に正座すると黙って目を伏せ、視線に気付かないふりをするしかなかった。そこへ着替えて出てきた刻は、そんな亜貴に一瞥をくれただけで、あとは黙々と作業をしだした。他の部員たちもそんな刻の様子に興をそがれたのか、部活を再開した。

 的を見る横顔に亜貴の心はざわつく。似ているなんて思いたくない。なのに、その張りつめたような表情は、樋口先輩が見せる真剣な表情に似ていた。
 普段醸し出す雰囲気はあんなにも違うのに。
(やっぱり兄弟なんだ)
 思い出してはいけない。思い出したくない。でも、思い出さずにはいられない。じんわりと涙が滲む。
 弓道の所作はなんて美しいのだろう。刻が的を射るたびに、亜貴は本当にそう思った。たぶん刻は腕がいいほうなのだろう。その姿は本当に美しい。なのに刻を透かして樋口先輩が見えてしまう。なんて失礼なんだろう。見に来なければよかったのだろうか。
(違う。ちゃんと見なきゃ)
 優しかった樋口先輩。もうすぐ卒業してしまう樋口先輩。
(私はどうしたらいいのかな)
 自分の恋はもう叶わない。
(樋口先輩……)
「おい」
 頭上から降ってきた声に亜貴ははっと我に返った。見上げると刻が亜貴を見下ろしていた。
「何ぼうっとしてるんだよ? ちゃんと見てたのか?」
 ちょっと不機嫌そうな声で刻が言った。
「……。うん、見てたよ」
「ふーん?」
 怪しむように亜貴を見る刻。その刻の顔を見て、亜貴はふっと笑った。
「? なんだよ」
(似てると思ったのに。でも樋口先輩のこんな表情は見たことない。こいつは刻だ)
「意外に様になってたわよ」
「意外には余計だ」
 刻は鼻の頭をぐいとこすってふんと鼻を鳴らした。
「まあいいや。退屈じゃなかったか?」
「……全然」
「ならいいけど。もう少ししたら帰る」
 素っ気なく言って戻っていく刻。そのすっと伸びた背筋がまぶしく感じられた。亜貴は一つのことを思いついた。
(私の恋はかなわない。でも、樋口先輩の恋は? 私にできることは何だろうか)





                                  続く


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 今日はこのくらいで……。



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                           天音花香

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こんにちは、天音です。

前回の「恋人ごっこ」の続きになります。
まだまだ続きますので温かい目で見守ってやってください。よろしくお願いします。




       恋人ごっこ 4




ココから小説



        叶わぬ恋なら



「亜貴はチャリ通?」
「うううん。私は電車」
 校門前で聞いてきた刻に亜貴は答える。
「じゃあ、ちょうどいいな。俺も電車だから」
 そういうと刻は歩き出す。校内を歩いていた時はあまりわからなかったが、刻の一歩は亜貴の一歩より大きいため、亜貴が早足でついていかないと遅れてしまう。
「?」
やや息が上がってきた亜貴を振り返り、刻は不思議そうに見た。
「なんだ、体調でも悪いのか?」
「……っ。わかんないだろうけど、足の長さが違うからこっちは早足でついて行ってるのよ」
 刻は言われて初めて気付いたように足を止めた。
「なんだ、言えばいいのに」
「……っ」
 亜貴はしばし息を整えながら刻を睨んだ。
「悪い悪い。あんた背はどのくらいあんの?」
 身長を聞かれるのはあまり好きではなかった。女子にしては高いのが悩みだった。
「……169センチよ」
「ふーん。態度がでかいからもう少しあるのかと思った」
 悪びれもなく言う刻に、
「あんた、ほんっとにむかつくわね」
 と言い返して亜貴は刻の隣に並ぶ。なんだかんだ言いながらも刻は歩く速度を亜貴に合わせたようだ。差がつかなくなった。
「刻は何センチあるの?」
「あ、俺? 180」
 歩幅に差がつくわけだ、と亜貴は納得した。
「そうだ!」
 突然亜貴が発した言葉に刻がまた足を止める。
「なんだよ?」
「追いつくのに必死で大事なことを忘れてた」
「大事なこと?」
「うん」
 亜貴は刻を追い越して振り返り、刻の目をまっすぐ見た。
「ねえ、刻。あんた、樋口先輩の好きな人わからない?」
 刻の目つきが変わる。
「なんで?」
「心当たり、あるんだ?」
「だから、なんで?」
 刻の目に凄味が加わる。
「私の想いは叶わない」
「だから何だよ。ぶち壊すのか?」
 刻の言葉に亜貴は反射的に持っていた鞄で刻を思いっきり殴った。
「!? っい、痛ってえ!! 何しやがる!?」
「あんた、ほんっとむかつく!!! そんなことするわけないでしょ!」
 怒りで亜貴の目には涙が浮かんでいた。その亜貴を見て、刻はたじろぐ。
「なんで泣くんだよ」
「刻があまりに酷いこと言うからよ!」
「だって、じゃあ、兄貴の好きな人知ってどうすんだよ、お前」
「くっつけるのよ!!」
 右の拳を握って言い切った亜貴に、
「はあ~?」
 刻は素っ頓狂な声を上げた。
「本気で言ってんの?」
「うん。今日、刻を見てて決めた」
 刻の足をしたたかに打って落ちた鞄を拾いながら亜貴は答える。
「ちゃんとこっち向いて言えよ」
 刻の言葉に、亜貴は鞄をポンポンと払いながら刻を見た。その瞳からすうっと涙が落ちる。
「……」
 刻は言葉を失った。
「……樋口先輩、もうすぐ卒業でしょう? 私の恋は叶わなかったけど、先輩の恋は叶うかもしれない。それなら私は先輩の恋を応援したい」
「そしたらお前の気持ちはどうなるんだよ?!」
「もう私は振られたんだからどうしようもないじゃない」
「そ、それはそう、だけど、よ」
 刻は亜貴から目をそらしてそう言うと黙ってしまった。亜貴はそんな刻を置いていくように足を踏み出す。
「刻は協力してくれないの?」
「え? 俺?」
 亜貴の隣に来た刻は心底意外そうにつぶやいた。
「うん。
駅に着いたね。考えておいてくれない?」
「……ああ」
 駅は人が疎らだったが、車内は仕事帰りのサラリーマンや部活を終えた学生でごった返していた。二人は席に座れず、吊革につかまって立つことになった。窓には決意を秘めた目をした亜貴と物憂げな刻の姿が映っていた。三駅目で亜貴は、
「じゃあ、明日ね、刻」
 とだけ言うと電車を降りた。刻は亜貴に視線を送って黙って頷いた。そして心ここにあらずといった感じでぼんやり窓を見ていた。



          たぶん先輩の好きな人



「おはよう、刻」
 どこかぼんやりとして駅から学校への道を歩いている刻を見つけ、亜貴はポンと肩を叩いた。
「亜貴」
 声に覇気がない。
「どうしたの? 具合でも悪い?」
「いや……」
「昨日言ったことだけど」
 亜貴の言葉に、
「あのさ」
 と刻が口をはさんだ。
「何?」
「お前、本当にそれでいいのか? 兄貴のこと好きなんだろ?」
「意外にしつこいわね? 好きだから、よ」
 亜貴の両目に射抜かれて、刻はふいと目をそらした。
「……わかんねえ」
「そうね、刻にはわからないかも」
「……」
 憮然として刻は黙る。そんな刻に亜貴は何もなかったように、
「お昼、作戦会議ね」
 と言って刻を置いて歩いて行った。
「やっぱり、わかんねえ」
 刻は一人つ呟いた。


***



 刻が校庭脇のいつもの場所に行くと既に亜貴がベンチに一人腰かけていた。亜貴は刻に気づいて軽く手をあげる。
「おう」
 刻もそれに答えた。亜貴の隣に刻も腰かけた。桜は固い蕾をつけて春を待っているようだった。グラウンドの方では男子がサッカーをしていた。いつも通りの昼休み。
 とりあえず二人は弁当箱を開けた。
「それで、刻は樋口先輩の好きな人、知ってるの?」
 卵焼きを口にしてから箸をとめて亜貴は刻の方を見た。
「ああ。たぶん兄貴の好きな人だと思う人がいる」
「それってさ、円上先輩じゃない?」
 刻がちょっとだけ目を見張った。
「……たぶん。
ってなんで?」
「そっかあ……。なんとなく、ね。書道部でも二人はとても親しそうだったし」
 亜貴は淡く微笑んだ。どこかで分かっていたことだった。だけどやっぱり胸がずきんと痛んだ。
(やっぱりそうかあ……。お似合いよね)
「そっかあ……」
 亜貴の口からもう一度同じ言葉が出た。刻はちらちらと亜貴を見て、なんと反応していいかわからない様子だった。亜貴は今度はほうれん草のおひたしを箸でとって口に含んだ。咀嚼する。無言の時間が流れた。
「……まあ、それなら、樋口先輩が告白したら上手くいきそうよね」
 おひたしを飲み込んで、わざと明るめの声で亜貴は言った。そんな亜貴を見て、刻は複雑な顔をした。
「何? なんか問題があるの?」
「いや……。それが、そう簡単じゃねー気がするんだ」
「?」
 刻は今日はなんだか歯切れが悪い。食も進んでいなかった。
「兄貴とさゆり姉は幼馴染で、確かに仲はいい」
「さゆり姉? あ、円上先輩のことね? そっか、幼馴染だったんだ、あの二人。刻も親しくしてるのね」
 なるほど、と思いながら刻の続きを待つ。
「ああ、俺も可愛がってもらってる。ただ、幼馴染なのは兄貴とさゆり姉だけじゃないんだ。もう一人、渓ちゃんがいる」
「渓ちゃん?」
 知らない名前に亜貴は首をかしげる。
「亜貴は知らねえ? 尾崎 渓ってサッカー部にいた先輩なんだけど」
「わからない。顔を見ればもしかしたらわかるかもしれないけど。
それで、幼馴染は二人じゃなくてその三人なのね。それで、もしかして、樋口先輩と尾崎先輩は円上先輩を好きなの?」
「いや、そこまではよくわかんね。ただ、三人ほんとに仲良いいんだけど、恋愛感情? とかはあるのかないのかわからない感じなんだ。まあ、兄貴はたぶんさゆり姉が好きだろうなあと俺は思ってるんだけど」
「そう……」
 亜貴はため息をついて、黙った。
(二人だけを見てるといい感じに見えるのにな)
 刻はようやく箸を動かしだした。また無言の時間が流れる。
「亜貴、さあ」
「うん?」
「簡単にくっつける!とか言ったけど、具体的に何するんだよ?」
「確かに、そう、なのよね。何をしたらいいか考えてるところ」
「おい、お前、また人の恋愛に首突っ込むだけじゃないだろうな?」
 それを言われると何も言えなくなってしまう亜貴だったが、でも、やっぱり樋口先輩のために何かしたいという思いは消えなかった。
「……わりぃ、言い過ぎたか?」
 黙った亜貴に刻が気まずそうに言った。
「うううん、確かにほんと、私、人の恋路に乱入してるのかも。でも、でもね、樋口先輩の力になりたいんだ。それは心から思うの」
「なんでそこまで兄貴のこと思えるんだよ?
って、そうか。また『好きだから』って言うんだろ?」
 理解できないっといった風に頭を振って刻は言った。
「なんだ、わかってるじゃない」
 と亜貴は笑う。刻は複雑そうな顔になった。
「ねえ、明日土曜日よね? 樋口先輩は何か用事あるの?」
「? たぶん、兄貴は予備校じゅあねぇかな。さゆり姉も渓ちゃんも一緒のとこ行ってると思うけど……」
「そう。ねえ、三人でいるところ、見てみたい」
 思いついたように言った亜貴に刻は嫌な顔をする。
「はあ? 見てどうするんだよ?」
「それは見て考える!」
「ほんと変な奴だな、お前。
土曜は予備校終わるの夕方だな。18時ごろだと思う」
 刻は諦めたように息をついてそう言った。
「刻はその日は何か予定ある?」
「俺は午前中は部活に行く」
「なら、刻が部活が終わるころに私も学校に来るわ」
「来てどうするんだよ? 予備校が終わるまで時間が余るぜ?」
 そうねえ、と亜貴はしばし考え、
「じゃあ、デートとやらをしてみればいいじゃない」
「は、はあ?!」
「だって私たち付き合ってるんでしょ?」
「……し、仕方ねえな、してやるよ」
 刻はそう言って弁当の残りを口にかきこんだ。その頬が少し赤かった。そんな刻を見るとなんだか亜貴も恥ずかしくなって、それを誤魔化すように最後の一個のサツマイモのてんぷらを口に押し込んだ。




デートってこんなんでしたか? 1



「学校行ってきます。昼は食べてくる。ちょっと遅くなるけど夕飯は食べるから」
 亜貴は母親にそう言うと家を出た。デートと言っても学校に行くのでいつもの制服姿だ。亜貴の心はどちらかというと樋口先輩の方に向いていた。樋口先輩が本当に円上先輩が好きなのか、見て確かめてから行動を起こしたい。そう思っていた。
 電車に揺られている間、亜貴はぼんやりと考える。もし本当に樋口先輩が円上先輩を好きなようだとわかったらどうしようかと。二人きりで会わせたら、樋口先輩は告白するだろうか。
(今まで二人になる時間はいくらでもあったはずよね。でも告白しなかった。二人にしただけじゃダメなのかな。何かきっかけがあればいいのかもしれない)
 気が付いたら校門の前だった。刻はまだ来ていないようだ。亜貴は弓道場の方に行こうか迷ったが、行き違いになってもいけないので待つことにした。弓道場の方を向いて待っていると、部活を終えた部員が出てきた。刻はすぐに見つかった。男子部員の中でずば抜けて背が高いせいもある。
(それだけじゃないかもね。光ってるってこういうことを言うのかしら)
 刻は明らかに目立っていた。一人の男子部員に向かって軽口を叩き、やんちゃな笑顔を見せる刻に亜貴の目は自然と惹きつけられた。樋口先輩に似た端整な顔が笑うと急に幼くなる。
(樋口先輩の笑顔は逆だったな。大人っぽい、微笑むって感じだった)
 でも刻の笑顔は笑顔で悪くない。ふとこちらを向いた刻と目が合った。その瞬間、刻はなんだか気まずそうに目をそらした。
(何よ、そんな露骨に嫌な顔しなくてもいいじゃない)
 亜貴はそう思いながらも刻を観察する。つるんでいた友達に何か言うと、刻は軽く走って亜貴に向かってきた。その一つ一つの動作がなんだか様になっていて、亜貴はちょっと憎らしく思った。亜貴が刻に向かって手を上げようとすると、刻はその腕を掴んで、亜貴を校門の外に連れだした。
「お前っ、そんなことするとまた冷やかされるだろ?!」
 ちょっと怒ったように刻は言ってずんずんと亜貴をひっぱる。その力の強さに、亜貴は引きずられる形になって、
「ちょ、ちょっと! 痛い!」
 と悲鳴に近い声を上げた。
「!」
 刻は初めて気づいたように亜貴から手を放した。
「わ、わりぃ」
 困ったように言って、心配そうに亜貴を見る。
「ほんと、乱暴!」
 亜貴は掴まれたところをさすりながら、歩く。それに合わせて刻も歩き出す。
「い、痛い、か?」
 先程怒っていた顔が嘘のように、しょげた顔で刻が聞いてくる。
「痛かったわよ」
 ちょっと怒った風に亜貴が言うと、
「ほんと、ごめんな……」
 神妙な顔で謝ってくる。なんだか可哀想になって、亜貴はふうと息を吐いた。
「もう、いいわよ。
……あんた、恥ずかしかったんでしょ?」
 亜貴の言葉に、
「ま、まあな」
 と刻は頷く。
「でも亜貴の腕がこんなに細いとは思わなくて……」
 刻は歩きながら鞄を手にしていない方の手を握ったり開いたりを繰り返した。
「ちょ、や、やめてよ、その手!」
 言われて気づいたのか、刻は慌てて手を動かすのをやめた。
「……」
 気まずい空気が流れる。無言で二人で歩いていると駅が見えてきた。
「……それ、で。どこ向かってるんだ?」
 言いにくそうに刻が聞いてくる。
「そうね、どこというわけではないのよね。とりあえず、刻の反応から学校は離れた方がいいかなと思っただけで」
「なんだ、それ」
「うーん、まずはご飯、だったわよね。どこで食べようか」
「亜貴は何が食べたいんだよ?」
(何が食べたい、というよりは)
「ねえ、樋口先輩と円上先輩、それとまあ、尾崎先輩、だっけ? 三人がよく利用する喫茶店とかファミレスとかないの?」
「あるにはあるけど」
「じゃあ。そこに行ってみたい」

***

 二人は駅の裏の方にある、ブルームーンという喫茶店に入った。おしゃれなテーブルセットの並ぶ、やや暗めの照明の雰囲気のいい店だった。
「兄貴はここのアールグレイが好きなんだ。ケーキもうまいみたいだぜ?」
「食事は?」
「ホットサンドとか美味しいと思うけど? 普通にカレーやハンバーグとかも食べれるよ」
「そう」
 刻が近くの席に座ろうとすると、亜貴は、
「ちょっと待って!」
 と制した。
「な、なんだよ?」
 亜貴は店の中を見渡して、こっち、と刻の手を引っ張った。
「な!」
 手を繋がれて、刻は動揺した。が、亜貴はお構いなしに刻を連れて行く。観葉植物が隣との席を仕切っている一番奥の席だった。
「うん、ここなら入口から見えないわね」
「誰か会いたくない奴でもいるのか?」
 刻が訝しげに亜貴を見る。
「いないわよ? でも、二人の先輩連れてくるなら、気付かれない所がいいかなと思って」
 刻は一瞬理解ができなかった。
「亜貴、それって、兄貴とさゆり姉を呼び出すつもりなのか?」
「うん」
 当然とでもいうように亜貴は頷く。
「え?いつ?」
「いつがいいかな。受験もあるし、そこが難しいところよね」
「いや、その前に、そのとき俺らここで隠れてみてるってことだよな?」
「え、だめかな?」
「っお前、相当性格悪いな。ま、まさか、俺の時も偶然じゃないとか?!」
 かなり引いた顔で言った刻に、
「あれは偶然だってば!」
 と亜貴は言い返して、ちょっと考え込む。
「やっぱり良くない、か」
「せめて外で見守ろうぜ? 馬に蹴られて死んじまう」
「そ、そうね。私、何様なの?って感じよね」
 刻に指摘され、亜貴は自分を恥じた。しょげる亜貴に刻は、
「ま、とりあえず腹減ったから何か食おうぜ!」
 と言ってメニューを手に取った。

 刻はカレーライス、亜貴はホットサンドをそして食後にアールグレイを頼んだ。店員が去り、亜貴がふと視線をあげると刻の視線とぶつかった。学校のベンチでは隣に座っていたので、真向かいに座るとなんだか気恥ずかしい。お互い気まずそうに視線を逸らす。
 改めて店内を見渡して、亜貴はこの店で紅茶を飲む樋口先輩の姿を想像した。小さくジャズが流れている。オレンジ色に灯る照明が柔らかく店内を照らしている。樋口先輩には似合う喫茶店だが、自分一人では入れなかっただろうなと思って刻を見ると、刻とまた目が合った。
「……私がしようとしてること、無謀だと思ってるんでしょ?」
「まあな。俺一人ならしねぇな」
 バッサリ切られた。
「でも、まあ、いいんじゃねぇ? 亜貴は兄貴のために何かしたいと思ったんだろ? ただ、なんだっけ、ほら今流行りの。アドラーかなんかの心理学? 水を飲ませようとしても本人が飲もうとしなけりゃ飲ますことは無理。俺らに出来るのは限られてるってやつだな」
「……。案外大人なのね、刻」
 亜貴が心から感心して言うと、刻は「案外は余計!」と言って、店員が持って来たカレーライスに視線を落とした。
「うまそ」
 表情が一瞬で変化した刻を見て、亜貴はくすりと笑ってしまった。
「こっちも美味しそう」
「亜貴、それだけで足りんのか? ホットサンドは俺はおやつ感覚で食っちまうけど」
「十分よ」
「頂きます」
 ホットサンドは外はサクッとして、中はチーズがとろりとして美味しかった。サラダが付いてくるのも学生にはありがたい。刻のカレーもいい香りがしていた。きっと美味しいのだろう。食後に店員がアールグレイを運んでくるとふわりといい香りが漂った。なんだかほっとする。樋口先輩もきっとこんな時間をここで過ごしていたんだろうな。
「そんな顔もできるんじゃねーか」
 刻の声に顔を上げると、刻がニヤリと笑っていた。
「失礼ね。誰かさんが軽口を叩かなければ、普段は穏やかなの」
「穏やかなの、って、亜貴が? ふは!」
「……その口どうにかならないの? 」
 雰囲気をぶち壊されて怒気を含んだ声で亜貴が言うと、さらに楽しげに刻は笑った。





                                  続く


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                           天音花香

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こんにちは、天音です。

今日二回目の更新は恋人ごっこです。
なかなか進みませんが少しずつ書いていきますので、よろしくお願いします。


コメントいただければ喜びます。
拍手もとても支えになります。その際にはぜひ、一言書いていただければ嬉しいです。
それでは、お楽しみいただければ幸いです。


ココから小説



 デートってこんなんでしたか? 2



 カランと音をたてて喫茶店のドアが閉まった。
「で、時間まだあるけど、どーすんだ?」
「そうね、先輩たちの予備校の駅ってどこだっけ?」
「でかい本屋があるとこ」
「あ、私、本屋行きたかったんだ」
「じゃ、行くか」


 土曜の昼の電車は通勤時間程ではないが混んでいた。二人は扉の近くに立った。背の高い刻は片手でやや高い手すりを掴んでいた。亜貴は扉の横の手すりを掴もうとしたが、人がいて届かなかった。仕方ないので両手で鞄を持って刻と向き合う。電車の微妙な揺れに合わせて揺れていた亜貴に、
「掴まれば?」
 と刻は鞄を持っている方の手を不器用にさし出した。
「大丈夫」
 亜貴は強がってそう返事をしたが、電車が駅で止まる時にややバランスを崩して刻の鎖骨辺りに頭をぶつけた。
「ごめんっ」
亜貴は慌てて顔を上げる。
「……っ!」
 互いの顔の近さに刻は上を亜貴は下を向いた。
「……悪りぃ、俺汗臭いかも」
 気まずそうに刻が言った。その言葉に亜貴の耳が赤く染まる。
「ぶ、部活してたんだから、当たり前じゃない。わ、私こそなんか変な臭いしてないよね?」
 急に気になり亜貴はそわそわと視線を彷徨わせた。
「……嫌な臭いじゃない」
 刻の言葉に亜貴の頬はさらに熱を持った。二人は視線を合わせることができなくなって、降りるまで無言でそれぞれ上と下を向いていたのだった。


目的の駅に着くと、二人はほっとして電車を降りた。時間は15時を回ろうとしていた。
 今日はなんだかやたらと視線を感じると亜貴は思ってそちらを見てみると、他校の女子生徒たちだった。
(あ、そっか。私じゃなくて)
 ちらりと亜貴は隣を見る。当の本人である刻は気付いていないのか気にしていないのか頓着していないようだった。
(まあ、樋口先輩に似てるんだもの。顔は悪くないわよね)
 どちらかと言うと整っている。弓道場から出て来た時に感じた様に、人の多い街中でも刻は目立っていた。
「? 何だよ?」
「別に」
 隣を歩くのが気が引けて亜貴が歩調を落とすと、刻もそれに合わせてきた。
「腹でも痛いのか?」
「痛くないわよ」
 要らぬ心配をさせてしまったらしい。
「……ちょっと人に酔っただけ」
「大丈夫かよ?」
「大丈夫」
 悪い奴でもない。刻がモテる理由が何となくだが分かってきた亜貴だった。
 本屋に着くと亜貴は、
「刻も好きな本見たら? 私も色々見たいし」
 と言い、刻のそばを離れた。



   デートってこんなんでしたか? 3



 足早に二階に上がって行った亜貴を見送って、刻は店内を一人散策し始めた。二階は確かコミックコーナーだったはずだ。
(あいつどんな漫画読むんだ?)
 大いに気になったが。刻の足は心理系の書籍のコーナーの方に向かっていた。女心何ちゃらかんちゃらというような本が何冊も並んでいた。足が止まる。何冊かの背表紙を視線が行ったり来たりした。一冊の本に手を伸ばす。その長い指が背表紙に触れるか触れないかでその手は止まり、忌々しげな舌打ちと共に引っ込められた。くるりと向きを変え、趣味のコーナーに向かって歩き出す。バイクの本を手にとり開く。いずれ大型二輪免許をとって一人で日本を回ってみたいと思っている刻は時間を忘れて熱心に何冊かを読み漁った。次に弓道の本を手に取った。一字一字食い入るように読みふける。ふと我に返って携帯を開くと40分以上経っていた。しまったと思って辺りを見回す。目当ての女子を見つけて刻は少しホッとしてそちらに向かう。亜貴は鞄を足元に置いて脇に何冊かの本を抱えて一冊の雑誌を読んでいた。その亜貴の背後にそろりと近づいて上から覗き込むと猫の写真がたくさん載っていた。思わずくすりと笑うと、
「ひゃっ」
と亜貴が声をあげ、背後を振り返った。


「!」


 唇に何かが触れたと思ったら、刻の顔のドアップが視界に飛び込んできて、亜貴は持っていた本を落とした。慌てて後ろに一歩下がると、刻が驚いたように自分の唇の横辺りに手をやるのが見えた。亜貴は何が起こったか理解した。自分の顔がみるみる熱を帯びるのを感じた。そんな亜貴の反応にやや遅れて、刻の顔が赤く染まった。
「わ、私、トイレに行ってくる」
 置いていた鞄も落ちた本もそのままに亜貴は早足でその場から離れた。残された刻は頭を抱えてしゃがみこんだ。
「あ~~~」
 亜貴か落としてそのままになった猫の雑誌と少女漫画、そしてダイエットの本が刻の視界に入った。考えていた以上に女の子らしいその本の趣味に刻は罪悪感でいっぱいになった。


 鏡に真っ赤になった自分の顔が映っている。これは事故だと鏡に映る自分の目を見て心で言い聞かせた。それでもなんだか大切な物を失った気がして、唇に手で触れた。キュッと指で唇を拭き取る。それでも感触が消えない。唇に当たらなかったのだからいいじゃない。そう思っても目から涙が一筋零れた。刻だから嫌だった訳じゃない。樋口先輩じゃなかったから嫌なのだ。ハンカチで目を拭うと、両頬をパンっと叩いた。
(刻も戸惑ってるはずだ。戻らないと)
 トイレから亜貴が出てくると、刻が近くの壁に寄りかかってぼんやりしてるのが見えた。そして、亜貴に気付くと、
「ごめん! 俺が悪かった!
まさかあんなことになるとは思わなくて! 何読んでんのか気になっただけなんだ。……ほんとにごめん!」
 と顔を真っ赤にして謝り、深々と頭を下げた。その刻の手には自分の鞄と亜貴の鞄、そして亜貴が落とした本があった。亜貴はそれらを受け取る。
「見た?」
「えっと、本のタイトルは見えた」
 また、ごめんと小さくなる刻。
「そう」
 ますます恥ずかしくなった亜貴はなかなか刻と目が合わせられなかった。
「刻こそ好きでもない女子から、頬にキス? されても迷惑よね。こっちも悪かったわ」
 キスという単語を言いにくそうに亜貴は言って、明後日の方向を向いた。
「そ、それでこの後なんだけど」
「お、おう」
「私、今日は帰るわ」
 こんなぐちゃぐちゃな気持ちで、樋口先輩が円上先輩を好きかどうかを自分の目で判断できるとは思えなかった。
「なら駅まで一緒に」
 と言った刻に。
「今日は一人で帰るわ。
じゃあ、またね」
「お、おう」
 刻の目を一度も見ずに足早に行ってしまった亜貴を見送り、刻は大きくため息をついた。

                                  続く



 ここまで読んでくださりありがとうございました。次はこの続きになるかわかりませんが(短編になるかもです)、この小説はまだまだ続くと思われます。これからもどうぞよろしくお願いします。

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 それではまた!               天音花香

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