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天音花香の小説をUPするブログです。個人サイトの小説はこちらに移しました。現在二時創作と短編を中心に書いています。
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天音花香
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主婦
趣味:
いろいろ・・・
自己紹介:
小学生のときに、テレビの影響で、小説を書き始めました。高校の時に文芸部、新聞部で文芸活動をしました(主に、詩ですが)。一応文学部でです。ですが、大学時代、働いていた時期は小説を書く暇がなく、主婦になってから活動を再開。

好きな小説家は、小野 不由美先生、恩田陸先生、加納朋子先生、乙一先生、浅田次郎先生、雪乃 紗衣先生、冴木忍先生、深沢美潮先生、前田珠子先生、市川拓司先生他。
もう一つのブログでは香水についてレビューをしております。
http://yaplog.jp/inka_rose/
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こんにちは、天音です。


今回は高校生の時に書きかけになっていた小説を手直ししてアップしようと思います。
タイトルのようにすぐには主人公は登場人物にならないので、気長に読んでいただけると嬉しいです。

「恋人ごっこ」の方も更新しますのでよろしくお願いします。




コメントいただければ喜びます。
拍手もとても支えになります。その際にはぜひ、一言書いていただければ嬉しいです。
それでは、お楽しみいただければ幸いです。



ココから小説



     読んでいる本の登場人物になっていました


           中田 雫の章

           真夜中



 真っ暗な部屋に小さな電気スタンドの明かりがほんのり灯っている。
 時刻は夜の12時半。少女以外の家族は寝てしまって、当たりは静まり返っていた。静かな静かなこの時間が少女は大好きだった。しかも今日はなんだか特別な日なのだ。
 少女が手にしているのは古本屋の奥で見つけた革の表紙の分厚い本。その本には題名がなかった。少女はその本を見つけた時、なんだかわくわくした。早速少女がレジに持っていくと、笑顔の優しいおばあちゃん店主が横に置いてあった眼鏡をかけてまじまじとその本を見た。
「こんな本、うちにあったかねえ」
 戸惑うように表紙と裏表紙を見る。題だけでなく値段も載っていない。うーんとうなった後、彼女はいつものように優しい笑顔で少女を見た。
「値段のつけようがないねえ。あなた、いつも買ってくれる子だろう?」
 そして、悪戯っ子のように目を細めて笑った。
「これはあなたが見つけた本。持っていきなさい。くれぐれも内緒にね?」
 少女は喜んで家にその本を持って帰ったのだった。


 少女の名は中田 雫(なかた しずく)と言った。どこにでもいる中学二年生の女子だ。人よりちょっぴり正義感が強くて、ちょっぴり成績がよくて、読書が何よりも好き。人と違うところはそのくらい、と言いたいところだが残念ながらそうではなかった。雫は学校でいじめにあっている。きっかけは些細なことだった。
「あの子、汚い」
 そう言われている女子がクラスにいた。机に落書きをされたり、無視をされたり。雫は見ているのが嫌だった。だから放課後、こっそり机の落書きを消すのを手伝ったことがあった。それを誰かに見られていたらしい。翌日いじめの対象は雫に移った。
 雫にとって学校は監獄のようなもの。毎日行って授業を受けて帰ってくる。一日誰とも話さずに。本当はとても寂しい。でも、雫は自分のしたことを後悔はしていない。ただただいじめがなくなればいい、そう思って毎日を過ごしている。そんな雫にとって本は逃げ場のようなものだった。読書をしているときは現実を忘れられる。

 雫は手にした題名のない本に語り掛けた。
「さあ、貴方にはどんな話が書いてあるの? 私を連れて行って!」
 胸を高鳴らせて表紙を開き、ページをめくった。静かな部屋に雫がページをめくる音だけが密やかにこだまする。雫の心はいつの間にか本の中へと飛んでいた。



           ルイダーナの章
        

           若者


 その世界はルイダーナと言った。鮮やかな花が咲き乱れ、淡い紫の空には鳥が舞い、子供たちの笑い声が絶えず響いている楽園と呼ばれた世界。すべての人が幸せそうに笑っていた。雫は思い浮かんだその光景に目を細めた。なんて美しい世界だろう。
 ルイダーナの子供たちは永遠にこの状態が続くのを願った。これ以上の幸せはないだろうということが分かっていたのだ。ところが大人たちはそうは思わなかった。もっと、もっと素晴らしくできるだろう。豊かになるだろう。便利になるだろう。そう考え、そうなることを望んだ。現在の幸せを壊していくのに気づかずに、来るかわからない幸せを追い求めた。いつしか花が咲かなくなっていたのに誰が気付いただろう。子供の笑い声が消えていったのに誰が気付いただろう。大人たちにはそれが見えなかった。おかしい。段々生活が苦しくなっていく。安心して暮らせなくなっている。そう気が付いた時には既に遅かった。
 美しかった空はどす暗い雲に覆われ、大気は汚れ、生物は死に絶え、草木は枯れて、海は黒く濁り。しかし人の欲は尽きることなくルイダーナを覆う。その醜い心は魔物を生んでしまった。
 ルイダーナは楽園とは程遠い世界となっていた。人々は自分たちの呼んだ魔物に怯え、聖地リドナに集まるようになった。そこで人々はびくびくしながら生きていた。しかし、そのリドナにも魔物は現れるようになったのだった。
 雫はその光景に目を見張った。人々の怯えた顔、顔、顔。忌々しい闇色の魔物。雫は心を痛めながらページをめくった。
 ルイダーナの人々はリドナの神殿に立てこもるようになっていた。そこから一歩も出ることは禁じられていた。「出たら命の保証はない」と神官たちに言われていた。しかし神殿にいつまでも立てこもっているだけでは何も変わらない。このままではいけないと誰もが思っていた。だが自分たちに力はない。そう思った人々は、祈りの間に集まり、占い師のレンダに尋ねた。
「いつまでこの暮らしが続くんだい? どうにかできんのか?」
 レンダ。年はおそらく100を超えているだろう。顔には深いしわがたくさん刻まれ、手足は枯れ木のように細く、髪は真っ白だが琥珀色の目の輝きは若者のようだった。彼女は手をゆっくりとあげ、
「誰か水を。美しい澄んだ水を水瓶に入れて持ってきてくれんか」
 としゃがれた声で言った。
「美しい水? そんなもの、ここにはありゃあしない。飲み水だって、魔道によって呼んだ水だ。かめいっぱいに入るものか」
「いいえ、私が入れましょう」
 大魔導士スイレンが進み出てそう言った。年は30代後半。柔らかいブロンドの髪と澄んだ瑠璃色の瞳を持った優しい面持ちの青年。しかし明らかにただの人ではない雰囲気を持つスイレンは、ゆっくりと印を結びよく通る声で言った。
「水よ。清き水よ。我が前へ現れよ」
 それは見事なものだった。空っぽだった水瓶に澄んだ水が湧き出るように溜まったのだ。
「これでいいでしょうか?」
 スイレンの問いにレンダは満足そうに頷いた。
「十分じゃ。
では始めるとしようかの。よおく見ておいで」
 雫は息を飲んでページをめくった。
 レンダは右手で何やら文字を綴り、すいっと天にかざした。するとぽうっと青白い光の玉が現れ、手の上で輝いた。光が現れたのを確認すると、レンダは次に左手で文字を綴った。そして同じように天にかざした。シュウッと奇妙な音をたてて現れたのは深い闇の渦巻く玉。レンダは今度も闇が現れたことを確認すると、二つの玉をゆっくりと胸の前で合わせた。
 パァァッ!
 白銀の光が弾けた。
 レンダの手の中には、色のない小さな玉があった。それは、そこだけ空間を切り取ったような違和感があった。
「レンダ、これは何だい?」
 人々は尋ねた。
「これは無じゃ。まあ、見ておれ」
 レンダは「無」の玉をそうっと水瓶の上に持っていくと、押し込むようにして水の中に入れた。
 キーーーン
 頭に直接響く音。水面が瞬きをするように二、三度虹色の光を発した。そして輪を描くように波打った。
 レンダはその水面に手をかざした。
「まず言っておこう。このようなことになることは、遥か昔この地に降り立った神によって予言されていたのだ。私はそれを伝え聞いていたが、とても私一人の力では止められなかった。運命に逆らうことは出来ぬのじゃ。しかし、神はこうも言ったと言われている。救う者が現れるやもしれぬと。
全てが汚れた世界となるルイダーナに、もし汚れなき清き心を持つ若者がいれば、その者たちが救ってくれるだろうと……。しかし、そのような心を持つ若者がいなければ、この世界、ルイダーナはその時が最後になるとも言うたそうな」
 その言葉に人々は息を飲んだ。雫もベッドの上でピクリと肩を震わせた。
「考えてみなされ。そなたたちの中に汚れなき心を持った者がおるか? いないじゃろうな……。欲深き大人たちにこの世界は救えぬ。若者たちにもいるか分からんのう……」
 その言葉にスイレンの足が震えた。レンダがちらりとスイレンを見る。
「こんな時代に生まれたことを悲しみもせず、精一杯に生きる者。心の清き者じゃ。スイレン、心当たりがあるようじゃのう?」
 スイレンの足はなおも震え続けている。
「いえ……別に……」
 その顔は青かった。

 スイレンの脳裏には一人の若者が浮かんでいた。彼の二番弟子のサーリーンだ。スイレンはこのサーリーンを気に入っていた。おっとりしてやさしい少年のサーリーン。しかし自分には厳しく、しっかりとした面も持ち合わせていた。彼はいつも前向きに生きようとしていた。こんな時代だからこそと懸命に魔導を学んでいた。内に秘めている力は、もしかしたらスイレンをも超えるかもしれない。しかし、彼は謙遜して、そんな自分の力に気がついていないようだった。だから二番弟子、なのだ。そんなサーリーンのことをスイレンは心の内では一番弟子としていた。そんな彼だから。サーリーンはこの世界を救う者に相応しい。しかし酷すぎる。まだサーリーンは16だ。もし世界を救うことに失敗したら、サーリーンは帰らぬ人となる。それは避けたかった。彼には生きて長く自分を支えて欲しいのだ。
「本当に何でもありません。続けて下さい」
「うむ……。
ーー私にはそのような若者たちがいるかどうかも分からぬ」
「え?!」
 人々がレンダに詰め寄る。
「待てい。今は分からぬと言うておるのじゃ。そのために占いをするのじゃ」
 その言葉に人々はホッと安堵する。雫も胸を撫で下ろした。
「ではその者が誰か占ってみようぞ」
 レンダは水面にかざしたままになっていた両手をすっと上げ、印を結ぶ。そして。
「はあっ!」
 気合いのこもった声がレンダの細い身体から発せられた。すると波打っていた水が静まり返り、人影を映し出した。
 人々は水瓶をこぞって覗き込んだ。雫はドキドキしながらページをめくる。
 たくさんの人が見守る中、その人影は10代後半の少年をかたどった。
「ラモン!」
「ラモンだ!」
「おお! ラモンじゃ!」
 ラモン。琥珀色の髪。明るい水色の大きな瞳はまだあどけなさを残しているが、強く激しい光を宿している。筋肉ががっしりとついた長身の彼に剣技で勝る者はいないだろう。8年前に魔物に殺された両親の敵をとろうと剣の腕を磨いてきたのだ。人々は知っている。毎日懸命に剣の稽古をする彼を。よく働き、決して弱音を吐かぬ彼を。そして、普段の気さくで陽気な彼を。
 次に映ったのは10代半ばの少年。
「サーリーンじゃ!」
「スイレン、あんたの弟子のサーリーンじゃろ?!」
 スイレンは暗い面持ちで頷いた。重い息が口から漏れた。
 サーリーン。背まである栗色の柔らかい髪と深い翡翠の瞳を持った少年。細い身体をしているが軟弱なわけではなく、よく鍛えられていて剣術もなかなかの腕と聞く。彼は10歳になる前からリドナ神殿にてスイレンにつき、魔導を学んでいた。6歳の時父親を病気で亡くしてから、ずっと魔導士になろうと思っていたのだ。その頃は魔導士が少なかった。それ故サーリーンの父親は魔導士になかなか診てもらえず命を落とした。ルイダーナに医者はいない。病気を治療出来るのは魔導士しかいない。サーリーンは父親のようにして死んでいく人をなくしたいと思ったのだ。現在、澄んだ心と瞳を持ったこの少年は、病人を救う優しい魔導士として知られている。
 水面には今度は10代半ばの少女が映し出された。
「ヴィリアじゃないか!」
「確かにヴィリアじゃ」
 ヴィリア。白銀の波打つ髪と海のような青い瞳を持った少女。人に指図されるのが何よりも嫌いなこの少女は自由気ままに生きてきた。「生きてるのはあたしだよ。だからあたしはあたしの好きなように生きる。死ぬ前に楽しまなきゃ損だもんね!」それが彼女の口癖だ。意思が強く、正義感ある彼女は人々から可愛がられていた。現在盗賊になるために修業中である。
 最後に映ったのは10代後半の美しい少女。
「シルフィーユ!!」
「シルフィーユもか!」
 シルフィーユ。蜜色の柔らかく長い髪。鮮やかなライトグリーンの瞳。透けるように白い肌。頬と唇は薔薇色。美しい容姿を持ったこの少女は、生まれつきの超能力者。その細い身体からは想像もつかぬような力を放つ。能力はルイダーナ1と言われている。これまでその不思議な力を人々のために使ってきた。おっとりとした雰囲気を持つ彼女だが、芯の強いさっぱりとした性格をしており、気取らないので人々から慕われている。
 シルフィーユが映し出されると、水面は二、三度白い光を放った。人々が何事かと退く。レンダが印を解いた。もう水瓶の水はただの水となっていた。
「ふう」
 レンダは酷く疲れていた。白い前髪が汗でべったりと額に張り付いている。
「さあ、若者たちを連れておいで」
 レンダはゆっくりと人々を見回して言った。その声はかすれていた。

 そこまで読んだころには、時計の針は夜中の1時を回っていた。しかし雫は本を読むのをやめようとしない。それどころかどんどん読むのに集中し、雫の意識は本の中へと入っていた。そして、雫自身も本の世界、ルイダーナへと行きつつあるのに彼女は気づかない。雫は何かに憑かれたかのように本を読み続ける。



 突然の呼び出しに四人の若者は戸惑っていた。大勢の人々に囲まれ、その中にレンダやスイレンがいるとなると、何か重大なことに違いない。しかし呼び出される理由など四人は思い当たらないのだ。
 そして。
「あんた、魔導士のサーリーンでしょ?!」
「君はヴィリアだね?」
「えーっと、貴女はシルフィーユ、だよなあ?」
「貴方はラモンですね?」
 噂をよく聞く有名な若者たちばかりである。なぜそんな中に自分が……? と互いに思っていた。
 そんな彼らの前にレンダが進み出た。
「そなたたちはルイダーナを救う若者たちだと占いにより明らかにされた。神の言葉にピタッリ当てはまるそなたたちじゃ。占いは間違ってはおらぬじゃろう。
……どうかこの世界を救ってくだされ」
「……?!」
 突然呼び出された上にそのようなことを言われた若者たちは。
(自分が救世主?! まさか!)
 信じろという方が間違いである。
「あの……でも、同じ魔導士ならスイレン様の方が……」
「ふむ。スイレンがもう少し若かったら彼だったかもしれぬ。しかし神は若者と言うた。10代の若者とな」
「はあ……でも……」
 困った顔でサーリーンはスイレンを見た。スイレンはすいと視線をそらした。
「信じられぬのは分かる。しかしやってもらわねばならぬ」
「どうやって救うってんだい?!」
 レンダの言葉にヴィリアが怒鳴った。青い瞳には苛立ちの炎が燃えている。
「それは分からぬ」
「ええ?!」
 四人の若者は同時に声を上げる。雫も心で声を上げた。
「神はそこまで言わなかった」
「でもそれじゃあ……?!」
 ラモンの戸惑う声。
「必要なものはこちらでそろえよう。そなたたちは旅支度が整い次第ここを発ちなされ」
 めちゃくちゃである。
「ふん」
 ヴィリアが目を細めた。
「あたしらに死ねといっているようなもんじゃないか。もとはあんたたちが駄目にした世だってーのにねえ。無責任な奴らだよ。もしあたしらがルイダーナを救えず、死んだらどうなるんだい?」
「そのときはルイダーナは終わりじゃ」
「それでは、俺たちが行かないと言ったら……?」
 ラモンが真っすぐにレンダの目を見つめて問う。
「……そのときもルイダーナは終わりじゃ。いずれこの神殿にも魔物が入ってくるであろう」
「ふ、あははははは」
 ヴィリアの場違いな笑い声がこだました。
「なーんだ。みんな道連れなんだ。
どうせ死ぬなら、この神殿で詩を待つよりも、もう一度ルイダーナ全土を見て死ぬ方が面白そうね。いいわ。気が変わった。行ってやるよ。
た・だ・し、これはあんたたちのために行くんじゃない。あたしはあたしのために行くんだ。間違えないでよ?」
「おお、ヴィリア!!」
 人々が目を潤ませて喜ぶ。ヴィリアは鼻をこすってそっぽを向いた。
「あんたたちのためじゃないって言ってんのに」
 そんなヴィリアを見て、サーリーンは笑みを漏らした。そして、
「僕もご一緒させていただけますか?」
 ヴィリアに微笑みかける。優しい無垢な笑顔だ。周りの空気までがすがすがしくなったよう。ヴィリアはしばしサーリーンに見とれてしまった。
「も、もちろん! 仲間は多いほうがいいもんね!」
 慌てて答える。そんなヴィリアにサーリーンはもう一度にっこりと笑った。
「おお! サーリーン!!」
 人々がまた声を上げる。そして今度はラモンとシルフィーユに視線を向ける。その視線と期待に応えるようにラモンは笑った。
「もちろん行くぜ! 父さんと母さんを殺した魔物に会えるかもしれねーもんな」
 シルフィーユも頷く。
「私も行きます」
「おおおおお!!!」
 沸き起こる歓声。レンダはほっと息をついた。スイレンは諦めたように俯いていた。
「ではこの水で清めなされ」
 レンダは占いをした水をガラスのグラスに注がせて四人の若者に渡した。
「さあ」
 四人は言われるままに口へ運ぶ。冷たい水が喉を潤す。
「皆も飲むがよい」
 人々はレンダの言葉にわっと声を上げ、我先にと水を汲んで飲み干した。
「さて、いつここを出るのじゃ?」
 レンダの問いに、
「早いほうがいいですね」
 とサーリーン。
「明日の昼なんてどうだ?」
 とラモン。
「そうしましょう」 
 シルフィーユが穏やかに了承する。
「それまでに別れを済まして……」
 どこに集まろうか、とヴィリアは考える。
「旅に出る前に祈りをささげねばならぬ。神殿の玉の間に来なされ。
今日はゆっくりと休むのじゃぞ」
「はい」
 四人は緊張した面持ちで頷いた。雫も四人と同じように緊張していた。


***


 「ルイダーナはどうなるかのう……。今度ばかりは私の力も役に立たぬ。酷だが彼らには頑張ってもらわねば……。あとは天に任せるしかないわ」
 誰もいなくなった祈りの間でレンダはつぶやいた。その姿はただの老婆に等しかった。


                                  続く



 ここまで読んでくださりありがとうございました。次はこの続きになるかわかりませんが(短編になるかもです)、この小説はまだまだ続くと思われます。これからもどうぞよろしくお願いします。

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 それではまた!               天音花香

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こんにちは、天音です。


アルファポリスさんと小説家になろうさんでも投稿しております。
なかなか主人公が主人公になりませんがよろしくお願いします。

「恋人ごっこ」の方も更新しますのでよろしくお願いします。




コメントいただければ喜びます。
拍手もとても支えになります。その際にはぜひ、一言書いていただければ嬉しいです。
それでは、お楽しみいただければ幸いです。



ココから小説



     読んでいる本の登場人物になっていました





           ルイダーナの章
        

旅立ち


 リドナ神殿は広い。まずは訪れる人の身を清める聖なる泉がある。魔道の水でできた泉だ。その周りには白い大理石のタイルが敷き詰められている。奥へ入ると階段があり、登りきると両端に丸い柱が建っている。門のようなものだ。そこからさらに低い段があり、やっと神殿の中に入れるようになっている。
 神殿に入ってすぐには祈りの間がある。そこで訪れた人々は祈りを捧げるのである。その奥には修行場がある。リドナ神殿でスイレンに魔道を習っているものたちが使用していたが、現在は人々の生活する場となっている。その奥には魔導士の間がある。もとはスイレンの部屋であり、用のないものは立ち入ることを許されなかった場所だ。今は修行場に代わって見習い魔導士たちの修行の場となっている。しかしこのような時代(とき)に修行をしている魔導士は少なく、近寄りがたい雰囲気を漂わせている。さらに奥に入ると玉の間がある。ここはレンダの許しを得た者でなくては入ることを許されない。レンダとスイレン以外未だ誰も入ったことがないという未知の部屋だ。それぞれの部屋、廊下全てに陽の光が入っていた神殿だったが、現在は厚い雲に覆われていて暗いため、魔道の「明かり」によって光を保っている。

 ラモンはたくさんの人々に交じって修行場へと足を運んだ。正確に言えば流れに足を運ばれたのだが。
「ふう」
 修行場に着き、ようやく人の流れが収まりラモンは一息ついた。
「……疲れた……」
 そしてラモンは40になるかならないかぐらいであろう、がっしりとした体つきの女性に声をかける。
「ただいま」
「おう、おかえり!」
 元気な声でそう言うと女は温かく微笑んだ。
「聞いたよ。このルイダーナを救う若者ってやつに選ばれたんだって?」
「ああ」
 ラモンは恥ずかしそうに頷いた。
「お前がねえ……。まあ、分かるような気がするよ。お前は明るいし、素直だし、よく働くいい子だもの。
……亡くなったお前の両親もきっと天で喜んでおられるだろうよ」
「……ああ」
 今度は真剣な目をしてラモンは頷いた。両親という言葉に反応したのだ。
「いつ出るんだい?」
「明日の昼」
「そうかい。
ーーお前がいなくなると寂しくなるねえ」
 死ぬんじゃないよという響きがそれにはあった。
「リナおばさん……」
 ラモンはなんだか急に悲しくなって俯いた。
 リナはラモンが両親を亡くした時から彼を自分の息子のように可愛がってくれたのだ。
(天にいる父さんや母さんはもしかしたら悲しんでいるかもしれない)
 ラモンは思った。
 自分たちが死んだように、お前も魔物に殺されるかもしれない。ルイダーナを救う若者に選ばれたことがどんなに名誉なことでもお前が死んでしまったら意味がないではないか。そう思っていることだろうと。
 でも。
「俺は死なないよ。絶対戻ってくるから」
 ラモンはリナと亡き両親に誓った。そして自分にも。
「当り前じゃないか。お前は戻ってこなきゃいけないんだよ!」
 リナがわざと声を明るくしてそう言った。
「さーて、おしゃべりはここまで。今日の仕事があるだろう? 明日の朝までは働いてもらうからね! そうでもしなきゃ、調子が出ないだろう?」
 リナが豪快に笑って言った。ラモンが顔をしかめたのは言うまでもない……。

「ただいま!」
 ヴィリアはズカズカとテントに入った。そして。
「父さん……?」
 テントの中が真っ暗なのを不審に思い、声をかける。
「なんだ、ヴィリア、帰ったのか」
 声とともに火が灯されたのか、ぽうっと明るくなる。そこに父親がいるのがやっと分かり、ヴィリアは安堵した。
「どうしたの? 明かりもつけないでさぁ」
「いや、別に。考え事をしていたのさ」
 ヴィリアの父、カルスは誤魔化すように笑った。
「……そう……」
 ヴィリアは小さくそう言って、ちらりと敷いてある布団を見る。ヴィリアにはカルスが寝ていたことが分かっていた。カルスは隠しているつもりらしいが、彼が病気なのをヴィリアは知っている。
「父さん」
「ん? なんだ、ヴィリア」
「あたしさ、世界を救う若者ってのに選ばれちゃったんだ」
「へぇ? すごいじゃないか」
「明日。明日の昼ここを出るよ」
「そ、そうか……。
死んだらだめだぞ! 父さんを一人にしないでおくれよ?」
「当り前! 死んでたまるかって! それより、父さん……」
「なんだ?」
(何か言うことない……?)
 ヴィリアは言おうとしてやめた。
「と、父さんこそ大丈夫? 誰かに頼んどこうか?」
「なーに、人のいいおばさんが多いから大丈夫さ」
「そう、ならいいや」
(父さん、あたしが帰ってくる前に死んだりなんかしないで、しないでよ!)
 ヴィリアはカルスに背を向けて旅支度を始めた。彼女が泣いていたことを誰も知らない。

 サーリーンは一人魔導士の間に座っていた。
 彼の耳は何も聞かず、彼の目は何も見ず、彼の口は何も言わない。ただ静かに座っている。
 心の中も無。すべてが無。
 だけど彼は感じる。湧き上がってくる力を。底に秘められていた力を。
 すうっとサーリーンはゆっくり息を吸った。そして目を開ける。
(僕の力はまだあるとはスイレン様に言われていたけれど……。この湧き上がる力がそうなのだろうか? ……使いたい。ルイダーナを救うために)
 魔導士の間をサーリーンの放つ力が満たしていた。見えない力。魔道の力が。
(スイレン様よりかはまだまだ未熟だけれど。僕は僕なりに頑張ればいい)
「! どなたでしょうか?」
 人の気配にサーリーンは声をかける。
「ここにいたのですか、サーリーン。私ですよ」
 その声にサーリーンは安堵して振り返った。
「スイレン様。何か御用でしたか?」
「ええ、貴方に渡したいものがあって探していたのです。ですが、邪魔して悪かったですね」
「そんなこと」
「それにしてもサーリーン、貴方の力がここまで凄いとは思いませんでしたよ?
この部屋を力が満たしているのがわかります。もうすべての呪文を使えるのでしょう?」
「ええ。密かに契約はしていたのです」
 スイレンはにっこりと笑った。
「もう私が教えることはありませんね。貴方は私を超えてしまったかもしれない」
「そんな……?!」
「ただ……。
貴方は今まで力を抑えてきたから、まだ感覚がつかめていないのではないですか?」
「……そうなんです」
 サーリーンは目を伏せた。いくら力があってもそれを使いこなせなければ意味がない。
「呪文を使うときには十分と注意することです。サーリーン、貴方なら大丈夫だと私は信じていますよ?」
 スイレンは優しく笑った。サーリーンの不安は霧散した。
「頑張ります」
 サーリーンの言葉にスイレンは満足そうに微笑んだ。そして、
「そうそう、渡したかったのはこれです」
 思い出したようにスイレンは何かを取り出す。
「?」
 スイレンが取り出したのは小さな水晶のかけら。光を受けて虹色に輝いている。
「これには私の力が込められています。もしあなたの力でも足りなかったときに使いなさい。使い方は簡単です。サーリーンあなたはクロスのペンダントに力を集めて呪文を唱えていましたね?」
「はい」
 頷いてサーリーンはそのクロスをスイレンに見せる。
「やっぱり。真ん中にエメラルドがはめてありますね? これをこうやって……」 
 スイレンは言いながらエメラルドを取り外す。
「そしてこれを入れる」
 今度は水晶のかけらをスイレンははめた。
「そして呪文を唱える。これは一つにつき一度きりです。三つしか作れませんでした。だから考えて使うのですよ?」
「はい」
 サーリーンは水晶をスイレンから受け取った。
「私の用はこれだけです。まだこの部屋にいるつもりですか?」
「いいえ、母のところへ戻ります」
「そうですか。今日はゆっくり休みなさい」
「はい」
 スイレンは部屋の出口へ向かう。が、その足を止めた。
「サーリーン」
「はい?」
「必ず帰ってきなさい」
 一言。ただそれだけだったけれど、サーリーンの心にそれはしみた。スイレンが案じてくれていることが痛いほどわかった。だから。出ていこうとするスイレンにサーリーンは、
「はい、必ず」
 と誓った。彼が嘘をつかないことをスイレンは知っている。スイレンが出て行った後、サーリーンは水晶のかけらを法衣に結びつけてある袋へ入れた。そして自分も部屋を出ようと足を踏み出す。
 雫にはサーリーンの背が見えていた。床、壁も見えている。上の方から見ているように想像の風景が浮かんでいた。雫ビジョンのサーリーンは部屋から消えようとしている。本にはそのまま出て行ったと書いてある。しかし。
 何が起こったのか、サーリーンはぴたりと足を止めた。そして振り返り、何かを探すように視点を動かす。ゆっくり、ゆっくり……。
 そして。
 止まった。
 そこは雫の「目」の位置。雫がそこから見たように想像の映像を作り出しているところ。だから雫のビジョンにはサーリーンの深い翡翠の瞳が映っていた。まるで見つめあっているように。
「誰か、いるのですか……?」
 サーリーンの澄んだ声が部屋に響いた。部屋にはサーリーンしかいないのに。
(サーリーンは、誰を見ているの? 私を見てる……? 私が、見えているの?!)
 雫は何も答えられない。
 サーリーンはしばらく雫の「目」の位置を見つめていたが、やがて歩き出した。

 ヒュン!
 薄い水色の清らかな小さな神殿に一人の少女が突如出現する。そこはリドナ神殿から少し離れたところにあるパトハ神殿といった。
「ただいま、おばさま」
 高く澄んだかわいらしい声である。少女はシルフィーユだ。
「お帰り、シルフィーユ。リドナ神殿には何の用で呼ばれたのかい? 何かあったのかい?」
「おばさま、私、ルイダーナを救う若者の一人なんですって」
「へえ、それは本当かい? すごいじゃないか」
 おばさま、と呼ばれたユリアは瞳に複雑な色を宿して返事をする。
「明日の昼、発ちますわ」
「そうかい……」
「ねえ、おばさま。お父さまやお母さまに会ってもよろしくて?」
 シルフィーユは4歳の時からユリアと一緒に暮らしていた。この小さな神殿で。能力者というだけで親から離され、そのころルイダーナ1の能力者だったユリアのもとに連れてこられたのだ。だからシルフィーユは11歳のとき一度会わせてもらったとき以来、両親に会っていない。魔物が現れるようになり、人々がリドナ神殿に暮らすようになったとき、シルフィーユはそこにいる両親に会いたくて会いたくて仕方なかった。すぐ近くなのに会えないことがどんなにもどかしかったか。
「会うがいい、明日の朝」
「おばさま!」
「さあ、だから今日は早くお眠り」
「はい、おばさま」
 シルフィーユは走り出してふと足を止めた。
「おばさま、私がいない間、この神殿におばさまは一人きりになるのよね。ここには結界がないわ。おばさまもリドナ神殿で暮らしては?」
「私はいいよ、この神殿で。リドナは人が多すぎる」
「そう……。おばさま、くれぐれも気を付けて。元気でいらしてね」
「シルフィーユもね」
 その言葉にシルフィーユはにっこり笑って頷いた。そして奥の部屋へ急いだ。
「ふう」
 布団をかぶってシルフィーユはくすっと笑う。
(明日はお父さま、お母さま、そしてお兄さまに会える! そして……)
 シルフィーユは再度嬉しそうに笑う。
(明日は外へ出られる!)
 シルフィーユはこの神殿で暮らすようになってから、一度も外へ出たことがなかったのである。正確に言えばリドナ神殿には何度か行ったことがあるけれども。
 だからシルフィーユは嬉しくて堪らなかった。魔物と戦うという恐れはあまり感じていないシルフィーユだった。


***

「うーん」
 いつもより早く寝たラモンは朝早くに目が覚めてしまった。隣ではリナと彼女の夫のガイルが眠っている。ラモンは二人を起こさないようにゆっくりと体を起こした。まだはっきりしない目でパチパチと瞬きをして、
「さてと」
 と小さく呟いてラモンは立ち上がった。リナとガイルを踏まないように注意しながらテントを出る。そして木でできた大きなバケツを二つとる。彼はそれを抱えると音が立たないように走った。祈りの間を抜けて、大理石でできた階段を降りる。聖なる泉の前へ着くと、ラモンは大きく伸びをした。
「うーーーん」
 そして体を動かす。
「いっちに、いっちに! よっ!」
 ここで体操をして顔を洗うのが彼の日課だ。顔を洗ってすっきりした彼は二つのバケツいっぱいに水を汲んだ。
「おしっ!」
 まだガイルたちは眠っているだろう。なのでラモンはしばらくここにいることにした。
 ぼーっと空を見る。
 どす黒い雲のかかる暗い空には星を見ることはできない。だが、ところどころ明るい紺色の空が見えるのは朝が近い証拠だ。
「おお!」
 ラモンは思わず声をあげる。空が少しずつだが色を変えていっていた。小さなランプが灯ったように。真っ黒だった雲がほんのり白みを帯びて。それはすりガラスから入る、それも雨の日の光程度だったけれど。闇だけだった夜の世界とは明らかに違っていて。
「朝だっ!」
 綺麗だった空は今は見えないけれど。日の出の「日」は見られないけれど。それでも朝は美しいとラモンは思った。
「父さん、母さん、見ていて!! 俺はきっとルイダーナを救う!!!」
 大きく空に向かって叫んで、ラモンはバケツを手に走り出した。

 バカでかい男の声を聞いてヴィリアは目を覚ました。
(ラモンの声だったような……)
 ヴィリアは苦笑する。
 ふとヴィリアは隣を見る。
(父さん……)
 眠っている時も苦しそうなカルスに、ヴィリアは眉を寄せる。
(あの魔導士にも父さんは救えないだろうな……)
 笑顔の優しい少年を思い出して思う。
(誰か、父さんを助けて……)
 ヴィリアは心配だった。
(父さんがいたから今があるのに。父さんが死んだら、あたしはあたしでいられない!)
 少し強がっていた。それが崩れたらヴィリアは弱くなる。悲しみに縛られる。自由なヴィリアはいなくなる。カルスはヴィリアにとって大切な父。
(やめよう)
 ヴィリアは草色のリュックを手繰り寄せる。
「父さん著の盗賊になるための本。タオル。腕時計。他は現地調達かな。次は……」
 若草色の半ズボンと同じ色の川のベスト。藤色のTシャツ。革のベルト。薄い茶色の軽いブーツ。そして青い宝石がはめ込まれた銀のナイフ。これはカルスからもらったものだ。
「あ、そうそう。これも入れとかなきゃ」
 ヴィリアは着ている服のポケットに手を入れ、小さな鍵とお守りを取り出す。銅でできたその鍵はヴィリアが自分で作ったものだ。それらを用意したベストのポケットに突っ込む。
「よし、終わり」
 そう言ってヴィリアは再び寝床へ戻る。すうすう。ほどなく寝息が聞こえだした。

 シルフィーユは水色のローブに着替えてユリアを待っていた。
「ごめんよ、遅くなって。さあ、行こうかね」
 にっこり笑ってユリアはシルフィーユの肩に手を置いた。
「はい!」
 シュン!
 一瞬のうちに二人の体はリドナ神殿へと移動した。
「お父さま! お母さま!」
 パタパタとシルフィーユは駆け出す。思念で気配を読み取る。
(あそこだわ!)
「お父さま! お母さま!」
 叫んでテントに入る。
「シルフィーユ」
「会いたかったわ!
ああ、どうされたの? お父さまもお母さまもこんなにやつれて……」
 シルフィーユは美しい顔を曇らせる。そこへユリアがやってきた。
「久しぶりだね」
「姉さん……」
「どうしたのだい? 暗い顔をして」
「姉さん、シルフィーユ。話さなくてはならないことが……」
「ねえ、お母さま。話よりも、お兄さまに会いたいわ! お兄さまは?」
 シルフィーユの言葉に二人は答えなかった。
「どうしたの? ねえ、お兄さまは?」
 二人の暗い顔に、シルフィーユは顔色を変える。
「まさか……! お兄さま?!」
「シルフィーユ、よくお聞き。お前の兄さんはね……」
「いや! 聞きたくない!」
「セルテルは魔物に……」
「いやあああああああ!! 嘘よ! うそよっ!! 信じない!!」
(だって、かすかだけれど、お兄さまの気配がしてるんだもの……!! 本当にかすかだけど、きっとどこかで生きてるんだわ! だけど……)
 シルフィーユは溢れる涙をぬぐうと、キッと宙を睨んだ。
(もしお兄さまが本当に殺されていたとしたら。私は魔物を許さない。全部私の力で消してあげるわ!!!)
 シルフィーユの心は悲しみだけに支配されていた。両親に会えたという喜びも今はもうなかった。

 サーリーンは必死だった。早く感覚をつかまなくてはならない。
 すぅ。息を吸う。
「水よ。水よ我が前へ!」
 サーリーンがクロスをかざして高々というと、滝のように水が流れ落ちてきた。
(……!)
「水よ、去れ!」
 瞬間にして水が消える。
「ふう……」
 思わずため息。気を取り直してもう一度。今度は少し加減してやってみる。
「水よ……水よ我が前へ……」
 サラサラと川のように水が現れた。
「去れ」
 消える。
(このくらい抑えなきゃいけないのか)
 自分の力にやや驚いているサーリーンであった。
「サーリーン」
 優しい女性の声がする。
「母上」
「旅の支度は終わったのですか?」
「まだです」
「では支度をなさい。それから……そんなに魔道の力を使ったら体に悪いわ。休みなさい?」
「はい、母上」
 サーリーンはテントへ入り、若草色の法衣を取り出した。スイレンからもらったローブだ。
(勿体なくて使わないできたけれど……)
 サーリーンはその法衣の腰に革袋を括り付け、そこにスイレンからもらった水晶を入れた。サーリーンに必要なものはこれだけである。
「少し眠ります」
「そうするといいわ」
 心地よい睡魔に襲われ、サーリーンは眠りに落ちた。


***


 サーリーンは昼少し前に目を覚ました。
「もう行かなくては」
 サーリーンは急いで用意したローブに着替え、クロスを首から下げた。
「母上、どうか、無事で……。何かあったらスイレン様に」
「ありがとう。サーリーン。お前こそ、必ず帰ってくるんだよ。もう私にはお前しかいないのだから。父さんも天でお前と会うことを願ってはいないでしょう」
「大丈夫です、母上。僕はきっと帰ってきます」
「そうね、サーリーン。お前ならできる」
「では、行きます」
 サーリーンは振り返らなかった。
(母上は強い人だ。涙なんて似合わない)
 そう思うサーリーンも瞳が熱くなっていた。

「行ってくるよ、父さん」
「もういくのか?」
「うん」
 用意した服に着替えたヴィリアはリュックをしょいながら頷いた。
「帰ってきなさい」
「何言ってんのさ! 当たり前でしょ!
父さんこそくたばったりなんかしないでよね」
 ヴィリアのその言葉にカルスは弱弱しく微笑んだ。
「そこまで送ろう」
「サンキュ!」
 前を歩くカルスの背は酷く小さく感じられた。
(小さなときは、大きくて広く感じたのに……)
 ヴィリアの成長とカルスの病。それが小さく見せるのだろう。
(父さん!)
 隣へ走り、ヴィリアはカルスの手を握ってみた。カルスの手は昔より小さく、でも温かかった。
 カルスは前を向いたまま言った。
「強くなれ、ヴィリア。お前は私の自慢の娘だよ。この旅で強さと仲間を手に入れておいで。お前は私の血を引いている。狙った獲物は必ず手に入れられるさ」
「父さん……。父さんもあたしの自慢の父さんだよ。
ーーここまででいいよ。これ以上一緒にいたら、旅に行けなくなっちゃう」
 ヴィリアはカルスの前に立って言った。その目からは涙が溢れていた。そんなヴィリアにカルスは困った笑みを浮かべた。
「やっぱりお前はまだ弱いな……」
 
「気を付けて、シルフィーユ」
「はい、お母さま」
「セステルのようにはならないでおくれよ……」
「お兄さまの敵をとってくるわ、お父さま」
「無茶はするんじゃないよ、シルフィーユ。
これを持ってお行き。力を集中するのに使っておくれ。私が若いときに使っていたんだ」
 ユリアはシルフィーユに薔薇色の石がはめ込まれている銀の指輪を渡した。
「ありがとう、おばさま。
お父さま、お母さま、そしておばさまも元気で」
「こっちのことは心配するな」
「では、いきます」
 シルフィーユの体からはいつもに増してオーラが発せられていた。闘気と呼ばれるものだろう。
「荒れてるねえ……」
 ユリアは難しい顔をして呟いた。

「ラモン、行かなくていいのかい?」
 リナの言葉にラモンは剣を振る手を止めた。
「もうそんな時間か……」
 ラモンは使っていた剣を丁寧に拭いた。父親が使っていた古く大きな剣だ。
「服はこのままでいいや。着慣れているほうがいいだろうし。
さて、おばさん、俺、水汲んでくる。明日の分ね」
「おう、ありがとよ!」
 言うが早いか駆けていく少年にリナは声をかけた。
 あっという間に泉の前に来たラモンは、水を汲んで頭からかぶった。
「ふーっ気持ちいいっ!」
 ぶるぶると頭を振りながら声をあげる。そして顔を洗う。水面に映る自分自身に、
「気合い入れてくぜ!」
 と言う。元気なこの少年は水を汲むと再び走り出す。髪から水滴が飛び散った。
「ここに置いときます」
「ああ、ありがとう」
「んじゃ、行くわ、俺」
「行くか。ちょっと待ちな」
 リナは言ってテントから何かを持ってきた。バンダナだった。
「これつけて行きな。前髪が伸びてる」
「おばさんが作ったの?」
「ああ」
「ありがとう! お守りにするよ! では、おじさんにもよろしく言っといてください。
ーー行ってきます」
「気を付けるんだよ」
 リナの声を後ろで聞きながら少年は駆け出した。走るのが好きな少年である。


***



「遅れて悪りぃ!」
 ラモンが玉の間に入ってきたときには、もうスイレンやレンダも来ていて皆が揃っていた。重苦しかった雰囲気がラモンのあっけらかんとした笑顔によって少し和らいだ。
「皆、揃ったな」
 レンダのしゃがれた声が四人の若者を再び緊張させた。
「ついてきなされ」
 言ってレンダはしっかりとした足取りで歩いていく。
 玉の間は広いようだ。
 レンダが足を止めた。
 見たこともない物がたくさん置いてある。占いの道具だろう。それに混じって一つの箱が置いてあった。レンダがその箱を開けると、たくさんの武器や道具が入っていた。
「要るなら取りなさい」
「あたしは要らないよ」
 ヴィリアが首を横に振った。
「私も必要ありませんわ」
 シルフィーユも頷く。
「俺、鎧をもらおっかなー」
 ラモンは箱の中を覗く。
「魔物ってやっぱ呪文使うのか?」
「もちろんじゃ」
 レンダが肯定する。
「じゃあ、どれがいいのかなあ」
 ラモンが迷っていると、
「これにするがよい。大地の鎧じゃ。すべての生物は大地によって生かされている。魔物以外はな」
(生物の象徴か……)
 サーリーンはレンダの言葉になるほどと思う。
 ラモンはいまいちわからなかったようだが、この鎧の発する気のようなものを感じ取ったのか、
「これにします」
 と頷いた。
「サーリーン、そなたはどうするのじゃ?」
 サーリーンは少し考えて、一本の杖を手に取った。サーリーン目と同じ色の翡翠の石がはめてある。
「これと契約します」
 印を切り、何か呟く。
 そして杖に手をかざすとふっと杖が消えた。
「?!」
 ラモンとヴィリア、シルフィーユが驚く。
 サーリーンがまた何か呟いた。
 フッ!
 今度は杖は手の中に現れた。サーリーンはにっこり微笑む。
「この杖はとても優しいようです」
 そしてまた杖を消す。
「よいか?」
 レンダが問う。
「終わりました」
 とサーリーン。
「では、スイレン、お願いしようかの」
「はい、では……」
 スイレンが前に進み出る。
「どうか、この者たちにご加護を……」
 スイレンのかざす手から光が溢れる。
「大丈夫、きっとうまくいきます。貴方たちの心の光に力を与えました。
無事に帰ってきなさい」
 四人の若者はそれぞれの思いを胸に頷いた。
「さあ、あそこから行くのじゃ」
 いつの間にか玉の間の奥の扉が開かれていた。外へ続いているようだ。
「相手が魔物だということに注意しなされ」
 レンダが言った。
「? はい。では……」
「行ってきます」
 四人の若者は扉へと足を踏み出した。


                                  続く



 ここまで読んでくださりありがとうございました。次はこの続きになるかわかりませんが(短編になるかもです)、この小説はまだまだ続くと思われます。これからもどうぞよろしくお願いします。

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 それではまた!               天音花香

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