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天音花香の小説をUPするブログです。個人サイトの小説はこちらに移しました。現在二時創作と短編を中心に書いています。
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プロフィール
HN:
天音花香
HP:
性別:
女性
職業:
主婦
趣味:
いろいろ・・・
自己紹介:
小学生のときに、テレビの影響で、小説を書き始めました。高校の時に文芸部、新聞部で文芸活動をしました(主に、詩ですが)。一応文学部でです。ですが、大学時代、働いていた時期は小説を書く暇がなく、主婦になってから活動を再開。

好きな小説家は、小野 不由美先生、恩田陸先生、加納朋子先生、乙一先生、浅田次郎先生、雪乃 紗衣先生、冴木忍先生、深沢美潮先生、前田珠子先生、市川拓司先生他。
もう一つのブログでは香水についてレビューをしております。
http://yaplog.jp/inka_rose/
こんな私ですが、宜しくお願いします。





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こんにちは、天音です。


アルファポリスさんと小説家になろうさんでも投稿しております。
なかなか主人公が主人公になりませんがよろしくお願いします。

「恋人ごっこ」の方も更新しますのでよろしくお願いします。




コメントいただければ喜びます。
拍手もとても支えになります。その際にはぜひ、一言書いていただければ嬉しいです。
それでは、お楽しみいただければ幸いです。



ココから小説



     読んでいる本の登場人物になっていました





           ルイダーナの章
        

旅立ち


 リドナ神殿は広い。まずは訪れる人の身を清める聖なる泉がある。魔道の水でできた泉だ。その周りには白い大理石のタイルが敷き詰められている。奥へ入ると階段があり、登りきると両端に丸い柱が建っている。門のようなものだ。そこからさらに低い段があり、やっと神殿の中に入れるようになっている。
 神殿に入ってすぐには祈りの間がある。そこで訪れた人々は祈りを捧げるのである。その奥には修行場がある。リドナ神殿でスイレンに魔道を習っているものたちが使用していたが、現在は人々の生活する場となっている。その奥には魔導士の間がある。もとはスイレンの部屋であり、用のないものは立ち入ることを許されなかった場所だ。今は修行場に代わって見習い魔導士たちの修行の場となっている。しかしこのような時代(とき)に修行をしている魔導士は少なく、近寄りがたい雰囲気を漂わせている。さらに奥に入ると玉の間がある。ここはレンダの許しを得た者でなくては入ることを許されない。レンダとスイレン以外未だ誰も入ったことがないという未知の部屋だ。それぞれの部屋、廊下全てに陽の光が入っていた神殿だったが、現在は厚い雲に覆われていて暗いため、魔道の「明かり」によって光を保っている。

 ラモンはたくさんの人々に交じって修行場へと足を運んだ。正確に言えば流れに足を運ばれたのだが。
「ふう」
 修行場に着き、ようやく人の流れが収まりラモンは一息ついた。
「……疲れた……」
 そしてラモンは40になるかならないかぐらいであろう、がっしりとした体つきの女性に声をかける。
「ただいま」
「おう、おかえり!」
 元気な声でそう言うと女は温かく微笑んだ。
「聞いたよ。このルイダーナを救う若者ってやつに選ばれたんだって?」
「ああ」
 ラモンは恥ずかしそうに頷いた。
「お前がねえ……。まあ、分かるような気がするよ。お前は明るいし、素直だし、よく働くいい子だもの。
……亡くなったお前の両親もきっと天で喜んでおられるだろうよ」
「……ああ」
 今度は真剣な目をしてラモンは頷いた。両親という言葉に反応したのだ。
「いつ出るんだい?」
「明日の昼」
「そうかい。
ーーお前がいなくなると寂しくなるねえ」
 死ぬんじゃないよという響きがそれにはあった。
「リナおばさん……」
 ラモンはなんだか急に悲しくなって俯いた。
 リナはラモンが両親を亡くした時から彼を自分の息子のように可愛がってくれたのだ。
(天にいる父さんや母さんはもしかしたら悲しんでいるかもしれない)
 ラモンは思った。
 自分たちが死んだように、お前も魔物に殺されるかもしれない。ルイダーナを救う若者に選ばれたことがどんなに名誉なことでもお前が死んでしまったら意味がないではないか。そう思っていることだろうと。
 でも。
「俺は死なないよ。絶対戻ってくるから」
 ラモンはリナと亡き両親に誓った。そして自分にも。
「当り前じゃないか。お前は戻ってこなきゃいけないんだよ!」
 リナがわざと声を明るくしてそう言った。
「さーて、おしゃべりはここまで。今日の仕事があるだろう? 明日の朝までは働いてもらうからね! そうでもしなきゃ、調子が出ないだろう?」
 リナが豪快に笑って言った。ラモンが顔をしかめたのは言うまでもない……。

「ただいま!」
 ヴィリアはズカズカとテントに入った。そして。
「父さん……?」
 テントの中が真っ暗なのを不審に思い、声をかける。
「なんだ、ヴィリア、帰ったのか」
 声とともに火が灯されたのか、ぽうっと明るくなる。そこに父親がいるのがやっと分かり、ヴィリアは安堵した。
「どうしたの? 明かりもつけないでさぁ」
「いや、別に。考え事をしていたのさ」
 ヴィリアの父、カルスは誤魔化すように笑った。
「……そう……」
 ヴィリアは小さくそう言って、ちらりと敷いてある布団を見る。ヴィリアにはカルスが寝ていたことが分かっていた。カルスは隠しているつもりらしいが、彼が病気なのをヴィリアは知っている。
「父さん」
「ん? なんだ、ヴィリア」
「あたしさ、世界を救う若者ってのに選ばれちゃったんだ」
「へぇ? すごいじゃないか」
「明日。明日の昼ここを出るよ」
「そ、そうか……。
死んだらだめだぞ! 父さんを一人にしないでおくれよ?」
「当り前! 死んでたまるかって! それより、父さん……」
「なんだ?」
(何か言うことない……?)
 ヴィリアは言おうとしてやめた。
「と、父さんこそ大丈夫? 誰かに頼んどこうか?」
「なーに、人のいいおばさんが多いから大丈夫さ」
「そう、ならいいや」
(父さん、あたしが帰ってくる前に死んだりなんかしないで、しないでよ!)
 ヴィリアはカルスに背を向けて旅支度を始めた。彼女が泣いていたことを誰も知らない。

 サーリーンは一人魔導士の間に座っていた。
 彼の耳は何も聞かず、彼の目は何も見ず、彼の口は何も言わない。ただ静かに座っている。
 心の中も無。すべてが無。
 だけど彼は感じる。湧き上がってくる力を。底に秘められていた力を。
 すうっとサーリーンはゆっくり息を吸った。そして目を開ける。
(僕の力はまだあるとはスイレン様に言われていたけれど……。この湧き上がる力がそうなのだろうか? ……使いたい。ルイダーナを救うために)
 魔導士の間をサーリーンの放つ力が満たしていた。見えない力。魔道の力が。
(スイレン様よりかはまだまだ未熟だけれど。僕は僕なりに頑張ればいい)
「! どなたでしょうか?」
 人の気配にサーリーンは声をかける。
「ここにいたのですか、サーリーン。私ですよ」
 その声にサーリーンは安堵して振り返った。
「スイレン様。何か御用でしたか?」
「ええ、貴方に渡したいものがあって探していたのです。ですが、邪魔して悪かったですね」
「そんなこと」
「それにしてもサーリーン、貴方の力がここまで凄いとは思いませんでしたよ?
この部屋を力が満たしているのがわかります。もうすべての呪文を使えるのでしょう?」
「ええ。密かに契約はしていたのです」
 スイレンはにっこりと笑った。
「もう私が教えることはありませんね。貴方は私を超えてしまったかもしれない」
「そんな……?!」
「ただ……。
貴方は今まで力を抑えてきたから、まだ感覚がつかめていないのではないですか?」
「……そうなんです」
 サーリーンは目を伏せた。いくら力があってもそれを使いこなせなければ意味がない。
「呪文を使うときには十分と注意することです。サーリーン、貴方なら大丈夫だと私は信じていますよ?」
 スイレンは優しく笑った。サーリーンの不安は霧散した。
「頑張ります」
 サーリーンの言葉にスイレンは満足そうに微笑んだ。そして、
「そうそう、渡したかったのはこれです」
 思い出したようにスイレンは何かを取り出す。
「?」
 スイレンが取り出したのは小さな水晶のかけら。光を受けて虹色に輝いている。
「これには私の力が込められています。もしあなたの力でも足りなかったときに使いなさい。使い方は簡単です。サーリーンあなたはクロスのペンダントに力を集めて呪文を唱えていましたね?」
「はい」
 頷いてサーリーンはそのクロスをスイレンに見せる。
「やっぱり。真ん中にエメラルドがはめてありますね? これをこうやって……」 
 スイレンは言いながらエメラルドを取り外す。
「そしてこれを入れる」
 今度は水晶のかけらをスイレンははめた。
「そして呪文を唱える。これは一つにつき一度きりです。三つしか作れませんでした。だから考えて使うのですよ?」
「はい」
 サーリーンは水晶をスイレンから受け取った。
「私の用はこれだけです。まだこの部屋にいるつもりですか?」
「いいえ、母のところへ戻ります」
「そうですか。今日はゆっくり休みなさい」
「はい」
 スイレンは部屋の出口へ向かう。が、その足を止めた。
「サーリーン」
「はい?」
「必ず帰ってきなさい」
 一言。ただそれだけだったけれど、サーリーンの心にそれはしみた。スイレンが案じてくれていることが痛いほどわかった。だから。出ていこうとするスイレンにサーリーンは、
「はい、必ず」
 と誓った。彼が嘘をつかないことをスイレンは知っている。スイレンが出て行った後、サーリーンは水晶のかけらを法衣に結びつけてある袋へ入れた。そして自分も部屋を出ようと足を踏み出す。
 雫にはサーリーンの背が見えていた。床、壁も見えている。上の方から見ているように想像の風景が浮かんでいた。雫ビジョンのサーリーンは部屋から消えようとしている。本にはそのまま出て行ったと書いてある。しかし。
 何が起こったのか、サーリーンはぴたりと足を止めた。そして振り返り、何かを探すように視点を動かす。ゆっくり、ゆっくり……。
 そして。
 止まった。
 そこは雫の「目」の位置。雫がそこから見たように想像の映像を作り出しているところ。だから雫のビジョンにはサーリーンの深い翡翠の瞳が映っていた。まるで見つめあっているように。
「誰か、いるのですか……?」
 サーリーンの澄んだ声が部屋に響いた。部屋にはサーリーンしかいないのに。
(サーリーンは、誰を見ているの? 私を見てる……? 私が、見えているの?!)
 雫は何も答えられない。
 サーリーンはしばらく雫の「目」の位置を見つめていたが、やがて歩き出した。

 ヒュン!
 薄い水色の清らかな小さな神殿に一人の少女が突如出現する。そこはリドナ神殿から少し離れたところにあるパトハ神殿といった。
「ただいま、おばさま」
 高く澄んだかわいらしい声である。少女はシルフィーユだ。
「お帰り、シルフィーユ。リドナ神殿には何の用で呼ばれたのかい? 何かあったのかい?」
「おばさま、私、ルイダーナを救う若者の一人なんですって」
「へえ、それは本当かい? すごいじゃないか」
 おばさま、と呼ばれたユリアは瞳に複雑な色を宿して返事をする。
「明日の昼、発ちますわ」
「そうかい……」
「ねえ、おばさま。お父さまやお母さまに会ってもよろしくて?」
 シルフィーユは4歳の時からユリアと一緒に暮らしていた。この小さな神殿で。能力者というだけで親から離され、そのころルイダーナ1の能力者だったユリアのもとに連れてこられたのだ。だからシルフィーユは11歳のとき一度会わせてもらったとき以来、両親に会っていない。魔物が現れるようになり、人々がリドナ神殿に暮らすようになったとき、シルフィーユはそこにいる両親に会いたくて会いたくて仕方なかった。すぐ近くなのに会えないことがどんなにもどかしかったか。
「会うがいい、明日の朝」
「おばさま!」
「さあ、だから今日は早くお眠り」
「はい、おばさま」
 シルフィーユは走り出してふと足を止めた。
「おばさま、私がいない間、この神殿におばさまは一人きりになるのよね。ここには結界がないわ。おばさまもリドナ神殿で暮らしては?」
「私はいいよ、この神殿で。リドナは人が多すぎる」
「そう……。おばさま、くれぐれも気を付けて。元気でいらしてね」
「シルフィーユもね」
 その言葉にシルフィーユはにっこり笑って頷いた。そして奥の部屋へ急いだ。
「ふう」
 布団をかぶってシルフィーユはくすっと笑う。
(明日はお父さま、お母さま、そしてお兄さまに会える! そして……)
 シルフィーユは再度嬉しそうに笑う。
(明日は外へ出られる!)
 シルフィーユはこの神殿で暮らすようになってから、一度も外へ出たことがなかったのである。正確に言えばリドナ神殿には何度か行ったことがあるけれども。
 だからシルフィーユは嬉しくて堪らなかった。魔物と戦うという恐れはあまり感じていないシルフィーユだった。


***

「うーん」
 いつもより早く寝たラモンは朝早くに目が覚めてしまった。隣ではリナと彼女の夫のガイルが眠っている。ラモンは二人を起こさないようにゆっくりと体を起こした。まだはっきりしない目でパチパチと瞬きをして、
「さてと」
 と小さく呟いてラモンは立ち上がった。リナとガイルを踏まないように注意しながらテントを出る。そして木でできた大きなバケツを二つとる。彼はそれを抱えると音が立たないように走った。祈りの間を抜けて、大理石でできた階段を降りる。聖なる泉の前へ着くと、ラモンは大きく伸びをした。
「うーーーん」
 そして体を動かす。
「いっちに、いっちに! よっ!」
 ここで体操をして顔を洗うのが彼の日課だ。顔を洗ってすっきりした彼は二つのバケツいっぱいに水を汲んだ。
「おしっ!」
 まだガイルたちは眠っているだろう。なのでラモンはしばらくここにいることにした。
 ぼーっと空を見る。
 どす黒い雲のかかる暗い空には星を見ることはできない。だが、ところどころ明るい紺色の空が見えるのは朝が近い証拠だ。
「おお!」
 ラモンは思わず声をあげる。空が少しずつだが色を変えていっていた。小さなランプが灯ったように。真っ黒だった雲がほんのり白みを帯びて。それはすりガラスから入る、それも雨の日の光程度だったけれど。闇だけだった夜の世界とは明らかに違っていて。
「朝だっ!」
 綺麗だった空は今は見えないけれど。日の出の「日」は見られないけれど。それでも朝は美しいとラモンは思った。
「父さん、母さん、見ていて!! 俺はきっとルイダーナを救う!!!」
 大きく空に向かって叫んで、ラモンはバケツを手に走り出した。

 バカでかい男の声を聞いてヴィリアは目を覚ました。
(ラモンの声だったような……)
 ヴィリアは苦笑する。
 ふとヴィリアは隣を見る。
(父さん……)
 眠っている時も苦しそうなカルスに、ヴィリアは眉を寄せる。
(あの魔導士にも父さんは救えないだろうな……)
 笑顔の優しい少年を思い出して思う。
(誰か、父さんを助けて……)
 ヴィリアは心配だった。
(父さんがいたから今があるのに。父さんが死んだら、あたしはあたしでいられない!)
 少し強がっていた。それが崩れたらヴィリアは弱くなる。悲しみに縛られる。自由なヴィリアはいなくなる。カルスはヴィリアにとって大切な父。
(やめよう)
 ヴィリアは草色のリュックを手繰り寄せる。
「父さん著の盗賊になるための本。タオル。腕時計。他は現地調達かな。次は……」
 若草色の半ズボンと同じ色の川のベスト。藤色のTシャツ。革のベルト。薄い茶色の軽いブーツ。そして青い宝石がはめ込まれた銀のナイフ。これはカルスからもらったものだ。
「あ、そうそう。これも入れとかなきゃ」
 ヴィリアは着ている服のポケットに手を入れ、小さな鍵とお守りを取り出す。銅でできたその鍵はヴィリアが自分で作ったものだ。それらを用意したベストのポケットに突っ込む。
「よし、終わり」
 そう言ってヴィリアは再び寝床へ戻る。すうすう。ほどなく寝息が聞こえだした。

 シルフィーユは水色のローブに着替えてユリアを待っていた。
「ごめんよ、遅くなって。さあ、行こうかね」
 にっこり笑ってユリアはシルフィーユの肩に手を置いた。
「はい!」
 シュン!
 一瞬のうちに二人の体はリドナ神殿へと移動した。
「お父さま! お母さま!」
 パタパタとシルフィーユは駆け出す。思念で気配を読み取る。
(あそこだわ!)
「お父さま! お母さま!」
 叫んでテントに入る。
「シルフィーユ」
「会いたかったわ!
ああ、どうされたの? お父さまもお母さまもこんなにやつれて……」
 シルフィーユは美しい顔を曇らせる。そこへユリアがやってきた。
「久しぶりだね」
「姉さん……」
「どうしたのだい? 暗い顔をして」
「姉さん、シルフィーユ。話さなくてはならないことが……」
「ねえ、お母さま。話よりも、お兄さまに会いたいわ! お兄さまは?」
 シルフィーユの言葉に二人は答えなかった。
「どうしたの? ねえ、お兄さまは?」
 二人の暗い顔に、シルフィーユは顔色を変える。
「まさか……! お兄さま?!」
「シルフィーユ、よくお聞き。お前の兄さんはね……」
「いや! 聞きたくない!」
「セルテルは魔物に……」
「いやあああああああ!! 嘘よ! うそよっ!! 信じない!!」
(だって、かすかだけれど、お兄さまの気配がしてるんだもの……!! 本当にかすかだけど、きっとどこかで生きてるんだわ! だけど……)
 シルフィーユは溢れる涙をぬぐうと、キッと宙を睨んだ。
(もしお兄さまが本当に殺されていたとしたら。私は魔物を許さない。全部私の力で消してあげるわ!!!)
 シルフィーユの心は悲しみだけに支配されていた。両親に会えたという喜びも今はもうなかった。

 サーリーンは必死だった。早く感覚をつかまなくてはならない。
 すぅ。息を吸う。
「水よ。水よ我が前へ!」
 サーリーンがクロスをかざして高々というと、滝のように水が流れ落ちてきた。
(……!)
「水よ、去れ!」
 瞬間にして水が消える。
「ふう……」
 思わずため息。気を取り直してもう一度。今度は少し加減してやってみる。
「水よ……水よ我が前へ……」
 サラサラと川のように水が現れた。
「去れ」
 消える。
(このくらい抑えなきゃいけないのか)
 自分の力にやや驚いているサーリーンであった。
「サーリーン」
 優しい女性の声がする。
「母上」
「旅の支度は終わったのですか?」
「まだです」
「では支度をなさい。それから……そんなに魔道の力を使ったら体に悪いわ。休みなさい?」
「はい、母上」
 サーリーンはテントへ入り、若草色の法衣を取り出した。スイレンからもらったローブだ。
(勿体なくて使わないできたけれど……)
 サーリーンはその法衣の腰に革袋を括り付け、そこにスイレンからもらった水晶を入れた。サーリーンに必要なものはこれだけである。
「少し眠ります」
「そうするといいわ」
 心地よい睡魔に襲われ、サーリーンは眠りに落ちた。


***


 サーリーンは昼少し前に目を覚ました。
「もう行かなくては」
 サーリーンは急いで用意したローブに着替え、クロスを首から下げた。
「母上、どうか、無事で……。何かあったらスイレン様に」
「ありがとう。サーリーン。お前こそ、必ず帰ってくるんだよ。もう私にはお前しかいないのだから。父さんも天でお前と会うことを願ってはいないでしょう」
「大丈夫です、母上。僕はきっと帰ってきます」
「そうね、サーリーン。お前ならできる」
「では、行きます」
 サーリーンは振り返らなかった。
(母上は強い人だ。涙なんて似合わない)
 そう思うサーリーンも瞳が熱くなっていた。

「行ってくるよ、父さん」
「もういくのか?」
「うん」
 用意した服に着替えたヴィリアはリュックをしょいながら頷いた。
「帰ってきなさい」
「何言ってんのさ! 当たり前でしょ!
父さんこそくたばったりなんかしないでよね」
 ヴィリアのその言葉にカルスは弱弱しく微笑んだ。
「そこまで送ろう」
「サンキュ!」
 前を歩くカルスの背は酷く小さく感じられた。
(小さなときは、大きくて広く感じたのに……)
 ヴィリアの成長とカルスの病。それが小さく見せるのだろう。
(父さん!)
 隣へ走り、ヴィリアはカルスの手を握ってみた。カルスの手は昔より小さく、でも温かかった。
 カルスは前を向いたまま言った。
「強くなれ、ヴィリア。お前は私の自慢の娘だよ。この旅で強さと仲間を手に入れておいで。お前は私の血を引いている。狙った獲物は必ず手に入れられるさ」
「父さん……。父さんもあたしの自慢の父さんだよ。
ーーここまででいいよ。これ以上一緒にいたら、旅に行けなくなっちゃう」
 ヴィリアはカルスの前に立って言った。その目からは涙が溢れていた。そんなヴィリアにカルスは困った笑みを浮かべた。
「やっぱりお前はまだ弱いな……」
 
「気を付けて、シルフィーユ」
「はい、お母さま」
「セステルのようにはならないでおくれよ……」
「お兄さまの敵をとってくるわ、お父さま」
「無茶はするんじゃないよ、シルフィーユ。
これを持ってお行き。力を集中するのに使っておくれ。私が若いときに使っていたんだ」
 ユリアはシルフィーユに薔薇色の石がはめ込まれている銀の指輪を渡した。
「ありがとう、おばさま。
お父さま、お母さま、そしておばさまも元気で」
「こっちのことは心配するな」
「では、いきます」
 シルフィーユの体からはいつもに増してオーラが発せられていた。闘気と呼ばれるものだろう。
「荒れてるねえ……」
 ユリアは難しい顔をして呟いた。

「ラモン、行かなくていいのかい?」
 リナの言葉にラモンは剣を振る手を止めた。
「もうそんな時間か……」
 ラモンは使っていた剣を丁寧に拭いた。父親が使っていた古く大きな剣だ。
「服はこのままでいいや。着慣れているほうがいいだろうし。
さて、おばさん、俺、水汲んでくる。明日の分ね」
「おう、ありがとよ!」
 言うが早いか駆けていく少年にリナは声をかけた。
 あっという間に泉の前に来たラモンは、水を汲んで頭からかぶった。
「ふーっ気持ちいいっ!」
 ぶるぶると頭を振りながら声をあげる。そして顔を洗う。水面に映る自分自身に、
「気合い入れてくぜ!」
 と言う。元気なこの少年は水を汲むと再び走り出す。髪から水滴が飛び散った。
「ここに置いときます」
「ああ、ありがとう」
「んじゃ、行くわ、俺」
「行くか。ちょっと待ちな」
 リナは言ってテントから何かを持ってきた。バンダナだった。
「これつけて行きな。前髪が伸びてる」
「おばさんが作ったの?」
「ああ」
「ありがとう! お守りにするよ! では、おじさんにもよろしく言っといてください。
ーー行ってきます」
「気を付けるんだよ」
 リナの声を後ろで聞きながら少年は駆け出した。走るのが好きな少年である。


***



「遅れて悪りぃ!」
 ラモンが玉の間に入ってきたときには、もうスイレンやレンダも来ていて皆が揃っていた。重苦しかった雰囲気がラモンのあっけらかんとした笑顔によって少し和らいだ。
「皆、揃ったな」
 レンダのしゃがれた声が四人の若者を再び緊張させた。
「ついてきなされ」
 言ってレンダはしっかりとした足取りで歩いていく。
 玉の間は広いようだ。
 レンダが足を止めた。
 見たこともない物がたくさん置いてある。占いの道具だろう。それに混じって一つの箱が置いてあった。レンダがその箱を開けると、たくさんの武器や道具が入っていた。
「要るなら取りなさい」
「あたしは要らないよ」
 ヴィリアが首を横に振った。
「私も必要ありませんわ」
 シルフィーユも頷く。
「俺、鎧をもらおっかなー」
 ラモンは箱の中を覗く。
「魔物ってやっぱ呪文使うのか?」
「もちろんじゃ」
 レンダが肯定する。
「じゃあ、どれがいいのかなあ」
 ラモンが迷っていると、
「これにするがよい。大地の鎧じゃ。すべての生物は大地によって生かされている。魔物以外はな」
(生物の象徴か……)
 サーリーンはレンダの言葉になるほどと思う。
 ラモンはいまいちわからなかったようだが、この鎧の発する気のようなものを感じ取ったのか、
「これにします」
 と頷いた。
「サーリーン、そなたはどうするのじゃ?」
 サーリーンは少し考えて、一本の杖を手に取った。サーリーン目と同じ色の翡翠の石がはめてある。
「これと契約します」
 印を切り、何か呟く。
 そして杖に手をかざすとふっと杖が消えた。
「?!」
 ラモンとヴィリア、シルフィーユが驚く。
 サーリーンがまた何か呟いた。
 フッ!
 今度は杖は手の中に現れた。サーリーンはにっこり微笑む。
「この杖はとても優しいようです」
 そしてまた杖を消す。
「よいか?」
 レンダが問う。
「終わりました」
 とサーリーン。
「では、スイレン、お願いしようかの」
「はい、では……」
 スイレンが前に進み出る。
「どうか、この者たちにご加護を……」
 スイレンのかざす手から光が溢れる。
「大丈夫、きっとうまくいきます。貴方たちの心の光に力を与えました。
無事に帰ってきなさい」
 四人の若者はそれぞれの思いを胸に頷いた。
「さあ、あそこから行くのじゃ」
 いつの間にか玉の間の奥の扉が開かれていた。外へ続いているようだ。
「相手が魔物だということに注意しなされ」
 レンダが言った。
「? はい。では……」
「行ってきます」
 四人の若者は扉へと足を踏み出した。


                                  続く



 ここまで読んでくださりありがとうございました。次はこの続きになるかわかりませんが(短編になるかもです)、この小説はまだまだ続くと思われます。これからもどうぞよろしくお願いします。

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 それではまた!               天音花香

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