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天音花香の小説をUPするブログです。個人サイトの小説はこちらに移しました。現在二時創作と短編を中心に書いています。
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プロフィール
HN:
天音花香
HP:
性別:
女性
職業:
主婦
趣味:
いろいろ・・・
自己紹介:
小学生のときに、テレビの影響で、小説を書き始めました。高校の時に文芸部、新聞部で文芸活動をしました(主に、詩ですが)。一応文学部でです。ですが、大学時代、働いていた時期は小説を書く暇がなく、主婦になってから活動を再開。

好きな小説家は、小野 不由美先生、恩田陸先生、加納朋子先生、乙一先生、浅田次郎先生、雪乃 紗衣先生、冴木忍先生、深沢美潮先生、前田珠子先生、市川拓司先生他。
もう一つのブログでは香水についてレビューをしております。
http://yaplog.jp/inka_rose/
こんな私ですが、宜しくお願いします。





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                <人待ち> 


「寒い、なあ……」
 私は手に息をふきかけて小さく呟いた。冷たいベンチに座っていると、そこから体温が下がっていく気がする。
 私は足首をのばしたり、縮めたりして、少しでも寒さを凌ごうとしていた。
 空は冬の曇天である。足元で、落ち葉が乾いた寂しい音をたてて舞っている。色をなくした冬の公園にひと気はない。それがいっそう寒く感じさせる。
 私はスカートの裾を無理矢理下げ、コートの前を寄せて、バックを抱きしめた。
 公園に着いてもうすでに二十分が経とうとしているのだが、一向に友人が来る気配はない。私が早く来すぎたせいもあるのだけれど……。
「さむ……」
 私は寂しさもあって、また呟いた。呟くごとに寒くしかならないのに、寂しさのほうが勝っていたようだ。

 人を待つのは嫌いだ。自分ひとりが世界から取り残された気がするのだ。時は進み、人々は自分の前を通り過ぎはするけれど、自分ひとりは、待ち人が来るまでその世界に入れないような……。
 暗い思考を振り払うようにぶんぶんとかぶりを振ったときである。
「!」
 突然、温かいものが頬に触れた。
「おっそーい!」
 言って振り向いた私の視界に入ったのは、見知らぬ人だった。しかも男性である。
 頬に当てられているのはミルクティー。
「あのう?」
私がおずおずと言うと、その人はにっこり微笑んだ。縁なしの眼鏡の下には優しい目。
私は。その笑顔につられるように、
「いただきます」
 とミルクティーの缶を手に取った。その缶は私の手をじんわりと暖め、一口飲むと、温かいミルクティーが喉を通って胃を温めてくれるのが分かった。私はなぜだかほっとした。
「人待ちですか?」
 彼は耳に心地よいテナーの声をしていた。
「はい」
「僕もなんです。隣に座ってもかまわないかな?」
 彼は言ってまたにっこり笑んだ。寒さが和らいでいく。きっとミルクティーだけのせいではないだろう。彼は春の空気をまとっているかのようだった。
 私は知らず知らずに頷いていた。
「ありがとう。じゃあ、座らせてもらうね。僕はよくこの公園に来るんだけれど、冬のここが一番好きだな。静かで、なんだか落ち着く。寒いけどね」
 私は少し驚いて彼を見た。何もない冬の公園。寂しいだけの公園。この人はそれが好きだと言うのか。
 彼は、そんな私の顔を見て楽しげに笑った。
そして、指を指す。
「ほら、木がたくさんあるよね。よく見て。葉はないけれど、枝は細いけれど、真っ直ぐと風に耐えていて、強さを感じない?
冬は何もないからこそ、逆に見えてくるものがあると僕は思うんだ。近くに人がいるときは、人の温かさが分からないのと同じように、普段は見過ごしてしまうことって多いと思うんだよ」
 彼は綺麗な目をして静かに語った。
「ここへはよく来るんですか?」
 また私のほうを向いて言った彼に、私は、「は、はい」
 と頷いた。友人とのよく待ち合わせする場所なのだ。
「好き?」
「そうですね、なんとなく」
 私の返答に彼は嬉しそうに笑った。それがなんだか眩しくて、私は恥ずかしくなって俯いた。
「そのまま、目をつむって、耳をすまして。
風の音、車の音、鳥の声、羽ばたく音……」
 彼がゆっくりと言葉を紡ぐ度に、私の世界は広がっていった。まるで知らない空間にいるみたいだ。
 ゆっくり目を開けると、見慣れた景色が新しく見えた。彼は相変わらずにこにこ笑っている。
「今日は曇りだけど、空もまだ綺麗なんだよね。世界も捨てたもんじゃないと思うよ」
 私は素直に頷いた。
 彼の目にはとても多くのことが映っているのだろう。私にとって些細なことが、彼の目を通すと素晴らしいものに見えているに違いない。私は大切なことを見落としているのかもしれない、と思った。忙しいからなんていい訳だ。時間に支配されて息を切らしているのは事実だけれど、時間があると逆にそれを持て余しているのも事実だ。何でもそうかもしれない。「しよう」と思えばできることばかり。「できない」のではなくて「しようとしない」だけ。
 耳元で風の鳴る音がして、私は我に返った。
「風が強くなってきましたね」
 彼はそう言って、空気を嗅ぐような仕草をした。そして、
「ちょっと待っていて下さい」
 そう早口に言うと、走って公園を出て、すぐ前の横断歩道を渡って、どこかへ行ってしまった。
 私はまた一人になった。風はますます強くなるばかりだ。冷えた髪が頬を叩いて痛い。落ちている空き缶が耳障りな音をたてて転がっていく。落ち葉にいたっては、空へ吹き上げられるほどだ。
 こんな日に待ち合わせするんじゃなかったなあと、少し後悔する。でも。
 眼鏡をかけたあの人の笑顔が浮かんだ。
(まあ、いっか)
 私はそう思って、彼がしたように、空気の匂いを嗅いでみた。
(あれ?)
 知っている匂いだと思った。なんの匂いだろう。
 目を閉じてもう一度嗅ごうとした、私の鼻の頭に何か冷たいものが落ちてきた。
(そうか!雨の匂いだったんだ!)
 かなり雨粒が大きい。どこか雨宿りをするところ……と辺りを見回していると、あの人が帰ってきた。
「やっぱり降ってきちゃいましたね」
 と、彼は手にした傘を開いて私に差し出した。そして、少し恥ずかしそうに笑って言った。
「手持ちのお金が少なくて、一本しか買えなかったんです。……入れてもらえると有り難いんですが……」
「そんなこと! あなたの傘なんですから、当然じゃないですか。私こそすみません。見ず知らずの私に……。本当になんてお礼を言ったらいいのか」
 慌てて答えると、
「いえいえ」
 と、彼は笑い、
「僕が寂しかっただけなんですから」
 と言った。
 かくして、私は雨の中の公園で、初対面の人と相合傘なるものをするという奇妙な体験をすることとなった。雨が本降りになると、風は幾分か治まった。静かな青い時間が私たちを包んでいた。雨音までもが優しく聞こえる。
「お友達、雨にぬれてなければいいですね」
 友人の家からこの公園までは、距離があるが、途中に何件もの店があるので大丈夫だろう。
「どこに行く予定なんですか?」
「新しい本屋ができたと聞いたので……」
「ああ、あの大きな。
きっと通り雨です。止みますよ」
 彼の言葉通り、雨は小降りになり、やがてあがった。
 公園にできたたくさんの水溜りには、雲の隙間から見え始めた青空が映って、きらきらと光っていた。
「雨の後は、いつもより太陽が愛しくなっちゃうなあ」
 彼は目を細めて空を見上げると言った。先刻の寒さが嘘のようだ。陽の光がゆっくりと染みとおって体を温めていく。冬の太陽がこんなに愛しいなんて、知らなかった。私は、無防備に伸びをしている、年上の彼を見た。新鮮だった。
「あ、お友達みたいですよ」
 彼の声に、少しびっくりして、彼の視線をたどると、私の待ち人が駆けてくるところだった。
「ごっめーん」
 息を切らしてやってきた友人に、私は、
「おっそーい」
 と返事をした。だが、この時間が終わることをちょっぴり残念に思った。私は彼に向き直って、
「ありがとうございました」
 と深々とお辞儀をし、傘を返そうとした。
「それ、あげます」
「え、そんな」
 慌てる私に、彼はまたにっこりと微笑んだ。その笑顔を見ると私は何も言えなくなってしまった。
「……いただきます」
 私は始めのミルクティーよろしく、傘を受け取った。そして、彼にもう一度お辞儀をして、友人のほうへ駆け寄った。彼は笑いながら手を振っていた。
「誰?」
「うん? えーっと……」
 友人が不思議そうに聞いてくるが、私は返答に詰まってしまった。彼のことは全く知らないままだ。名前さえも。
 私が彼のほうを振り返ると、彼は私たちとは反対の方向に歩いて、公園を出て行くところだった。
(あれ? 彼はもしかしたら……)

 私は相変わらず、人を待つ役回りが多い。しかし、その時間が私は嫌いではなくなった。読書にふけったり、季節の風景を楽しんだり。たまにはそんな時間があってもいい、と今では思うのだ。
 そして今日、私は約束もしていない人をあの公園で待っている。
 天気は晴れ。でも手にはあの傘。私に多くのことをくれたあの人。今度は自己紹介から始めよう。


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 それではまた次の小説で!               天音花香

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こんばんは、天音です。


「緋い髪の女戦士」ですが、今日はお休み。
 次に書くシーンは決まっているのですが、ストーリー半ばを先に書いていた部分をなぜか消してしまっていたことが発覚し、落ち込んでしまいまして……。

 ということで、短編をおおくりいたします。
 ちょっと今までとは雰囲気が違うし、自分でもこれを書くことによって何を言いたいのか分らない話なんですが、あえて言うなら、
「揺れ」
かな。人間の不安定な部分を書きたかったのかもしれない。
 
 タイトル「秘密」

 短いので、さくっと読んでくださると嬉しいです。
 コメントとか頂けると嬉しいです。


 ココから小説
 
 
 その日、私、水瀬さなは少し酔っていたと思う。

 前日、研究室でのゼミの担当で、ほとんど寝ていなかったのにも関わらず、飲み会に出たのは、担当が終わった開放感からと、メンバーが親友たちとその恋人たちだったからだ。
 高校からの女友達、輝夏、百合、日向、と男友達、大樹、京平、そして、百合の彼の稲葉さんと、日向の彼の高橋さん、大樹の彼女の川崎さん。
 輝夏、日向、京平、高橋さんは同じ大学だったが、それぞれ違う専攻だったため、こうしてみんなで集まって遅くまで話すのは久しぶりだった。
 18時から集まって、飲み始めたのだが、最初は少し、ブランクのようなものがあって、話がぽつぽつとしか出なかった。だが、1時間もすれば打ち解け、すっかり昔のように話が弾んだ。
 高橋さんは何度も会ったことが会ったし、稲葉さんと川崎さんも初めて会ったような気がしなかった。まあ、最近の電話の内容といったら、ほとんど恋人の話か進路の話なので、話にきいていたからというのもあるだろう。

 それにしても。
 大学3年ともなれば、高校のときとは大分変わったな、と私は少し寂しく思っていた。大学1、2年で、ある程度遊んで、そして、今は就職活動に忙しい。よく言えば、みんな大人になった。
 高校のとき、いったいどれほどの人間が自分が将来何の仕事に就くかあなんて考えていただろう。純粋に毎日が楽しく、きらきらしていた日々が少し懐かしい。
「さな? どうしたの? 黙っちゃって」
「え? あ、うううん。えっと、みんな大人になったよなと思って」
 輝夏の言葉に、思ったままを口にして、ちょっとしまったかな、と思った。
「あはは。何、急に。
でも、そうだねー、さなはあんまり変わらないよね」
 そう言った百合に私は咄嗟に言葉を返すことができなかった。それは、自分で感じていたことでもあったから。
「もう、百合! 
違うんだよ、さなは、すれてないままだって言ってるんだよ? いい意味でだよ?」
 日向が優しく言った。日向はおっとりしていて、誰に対しても優しくて、そして、容姿も可憐で、私の憧れだった。自分が男性だったら、きっと彼女に恋をしていただろう。
 そう、私にとって日向は、みんなの中でも特別だった。
「ごめんごめん、さな。うん。日向の言うとおりだよ。
でもそんなこといったら、日向も変わんないよね」
「というか、私は自分が変わったとか思わないけど?」
「そうか? 俺から見たら、みんな変わったと思うよ。女らしくなったっていうか。以前じゃ考えられなかったよな、化粧とか」
 京平が意見を漏らす。
 そんなものなのかな、と私は思った。みんな自覚はないんだ。
 なんだ、一緒だ。ちょっと安堵している自分がいた。
「まあ、そうね。高校のときは日焼け止めも塗らずに、夏なんか真っ黒になってたからね~」
 輝夏が笑った。
「今も焼けてるって!」
 大樹がつっこむと、
「何よ、テニスしてると焼けるのよ」
 と輝夏が返した。
 化粧、か……。私は三人と比べるとほんのりとしか化粧はしていない。
 単にゼミが忙しくて、それどころではない、というのが理由だ。お化粧の仕方を研究するより、学科の研究が優先だからだ。
 そう、ゼミが忙しくて、就職活動もみんなより進んでなかった。
 私が劣等感を覚えるのはそういうところもあるのかもしれなかった。
 いや、そうじゃないか。
 劣等感。
 昔から私から消えないもの。
 私は自分に自信がなかった。
 だから惹かれたんだ……。
 大学生になっても忘れられない彼の顔がまた脳裏にちらつく。
「……」
 日向が心配そうに私を見ていた。
 大丈夫、と目で返す。
 日向の目がふっと笑む。優しさに満ちた瞳。
 大好きな日向の瞳。
 昔から変わらない。そう思うとなんだか心が温かくなった。
 ありがとう。
 日向のおかげで、私はそのあと、普通に会話に戻ることができた。

 高校生のときとは違う私たちだけれど、でも、こうやって集まって話が出来ることを大切にしよう。今日感じたような「違い」はこれから大きくなっていくのかもしれない。それでも、これからもこうやって集まって、話をしよう。
 

「じゃあ、今日はこれでおひらきってことで」
 大樹がお店の前でいい、それぞれ帰路につくことになった。
「私たちこっちだから……。京平、さなを駅まで送ってあげてよ。
心配だから、さな。尚樹もそうしてあげて」
「え!? 高橋さんは日向を送ってください!」
 日向の言葉に私は驚き、言った。
「いいの、私たちこっちだし…尚樹、頼んだよ」
「わかった。じゃあ行こうか」
 高橋さんがそう言って、私たち三人は歩き出した。
「さなはぼんやりしてて、キャッチセールスとかに捕まってるからな。道もよく尋ねられるけど、少しは警戒心をもたなきゃ危ない目に合うよ?」
 京平の言葉に高橋さんがそうなんだ、と笑う。
「そうそう。ふらふらしてるからいつも誰かが面倒見てたよな」
 京平が笑う。私はちょっとむくれて、
「大学に入ってからは少しは一人でもなんとかやってるもの」
と言った。
「ほんとか~?」
 京平が茶化す。
「ふふ、君達は本当に仲がいいんだね」
 高橋さんの言葉に私と京平は顔を見合わせた。
「あ、いや、君達二人じゃなくて、みんな」
 高橋さんの言葉に、京平は少し複雑そうな顔をして、
「まあね」
と答えた。
「俺とさなは中学からのつきあい。塾が一緒で」
「へえ、長い付き合いなんだね」
「輝夏と三人。今は恋人いないトリオだけど高校のときは逆だった。俺達とあ、日向にも彼がいたな」
「そうなんだ。さなさんはちょっと以外、かな」
 高橋さんが私を見て言った。
「まあ、そうだな。正直付き合いだしたときは俺達も少し驚いた」
 私は無言だった。触れられて嬉しくはない話題だったから。
 先ほど脳裏にちらついた顔がまたちらつく。 
 私の片想いだった。一年思い続けて告白した。彼はそれを受け入れた。でも、彼が私を好きだったからかというと……。
「さな? 酔ったのか?」
「うーん、そうだね、少し酔ってるのかもしれない」
「大丈夫か? 危ないなあ。俺、こっちだけど、駅まで送ろうか?」
 京平が心配そうに私を見ていた。
「いいよ。もう子供じゃないんだから。高橋さんもいるし……」
「そうか?じゃあくれぐれも、高橋さん、さなを頼むな」
「了解」
 京平がいなくなり、私と高橋さんは二人でしばらく無言で歩いていた。
 沈黙は嫌いだ。嫌でも思い出す。
「高橋さんはお酒は強いほうなんですか?」
 耐えられずに私は口を開いた。
「いや、そんなには」
「じゃあ私と同じですね。好きは好きなんですけど」
「僕もだよ。日向は見かけと違って強いから、いつも酔うのは僕のほう」
 高橋さんは日向の名を口にして微笑んだ。
 日向は愛されている。
 何度か二人でいるところを見たことがあるが、お互いを見つめる目はどこまでも優しく、そして甘い熱を帯びているのを知っている。
 私は彼にあんな目を向けられたことがあっただろうか。
「さなさん? あ、雨かな」
 高橋さんの言葉に私は我に帰り空を見上げた。確かに雨粒が落ちて来ていた。
「もうすぐ家だから傘を貸すよ。駅からもまだあるんでしょ?」
 私は迷ったが、
「じゃあお借りします」
と返事をした。
 
 高橋さんが鍵をあけ、どうぞと中に促した。私は躊躇った。
 日向が高橋さんと過ごす家。
 高橋さんは首をかしげた。
「お茶ぐらいいれるけど?」
と扉を中から開き、私を見た。
 断るのも変に意識をしすぎかもしれない。
 私は玄関までは入ってそこで、ワンルームの高橋さんの家を見た。大好きな日向がたくさんの時間を過ごしている部屋。日向の趣味であろうぬいぐるみ等が見えた。
 二人の領域。二人が愛を語らい、そして……。
 とにかく、ここは私が入っていい場所じゃない。
「さなさん?」
 不思議そうに高橋さんがこちらを見た。
「お茶は結構です。傘だけかしていだだけますか?」
「もちろん構わないよ」
 傘を手渡してくれる高橋さん。身長が彼と同じくらいなのに気づいた。
 目が合う。優しい眼差し。
 この目を日向は見ているのだ。そして、高橋さんは日向を。
 胸がきゅうっと痛んだ。
 羨ましいと思った。それ以上に悲しさを覚えた。


 彼は。
 私と目を合わすことが少なかった。
 彼の自信に満ちた目がすきだったのに。
 澄んだ眼差しが私に向けられればどんなに幸せだろうと思った。
 でも彼はいつも前ばかり見ていた。それだけじゃない。歩調も変わることなく。私はいつも速足で彼について行くのに必死だった。セックスをするときさえ、彼は私を気遣うことは無かった。
 なぜ付き合ってくれたんだろう? いつも胸を占めていた疑問。結局わからないまま……。
「君を好きにまでなれなかった」
 たった一言の真実は別れの言葉だけで。

 高橋さんが驚く気配が伝わってきた。
 私が高橋さんを見上げるとすうっと幾筋もの涙が頬を伝っていった。
 駄目だ。私は酔っているのだろうか。
 私が高橋さんを見る目にはきっとやりきれない思いが宿っていたと思う。

 そのときだ。
 私の涙を高橋さんが優しく掬った。
 長い指だった。
 私は困惑気味に高橋さんを見た。
 視線が絡む。
 そのなかに日向を見つけて、私は、咄嗟に逸らそうとした。
 私、帰らなきゃ。
 ドアノブに手をかけたとき、カタンと音をたてて傘が落ちた。
 拾わなきゃ。
 でも、視線を高橋さんから逸らせない。
 高橋さんの手がドアノブを握る私の手に触れ……。
 アルコールの香りが鼻をかすめた。
 それがどちらのものかわからないままに、私の唇は塞がれていた。
 私は混乱し、眩暈を覚えた。でも抗えなかった。それは私が知っているキスとは違う、優しく甘いものだったから。

 日向!

 親友を思い出そうとした。
 のに。
 かくんと膝が折れた。ずるずるとドアにもたれながら、私は座り込み、その間も高梁さんの唇が離れることはなかった。
 戸惑いはあった。
 でも。
 身体が熱い。
 ぼんやりと高梁さんを見つめる。
 私は狡いかもしれない。
 高橋さんが私から離れる。
 手はまだ重なったままだ。
 高橋さんの瞳が一瞬躊躇うように揺れ、そして。
 次の瞬間その瞳に熱が灯るのを見た。
 高橋さんは私を抱き起こし、再びキスをした。そして、さらに私を引き寄せた。
 引きずられるままに玄関から部屋へ一歩入るとき、私は僅かな抵抗をした。だがそんなことは無意味だった。
 罪悪感と高揚感。
 それは苦く甘い毒となって全身を駆け巡る。
 日向の場所のはずのベッド。
 私は促されるがままに彼に身を委ねた。
 私の体を這う指は優しい。
 私は初めて女である幸福を覚えた。

 高橋さんは優しかった。
 日向にもするのだろう。高橋さんはセックスの後、腕枕をしてくれた。
 でもそのときの高橋さんの眼差しには戸惑いがあった。
 そして私の中でも、高揚感は消え、罪悪感だけが大きく膨らんでいた。
「電車がなくなるので……」
 私の言葉に、高橋さんはぼんやりとしながら、
「そうだね」
と言った。
「駅まで送るよ」
 私たちは無言で歩いた。
 日向の顔がちらつく。きっと高橋さんも同じだろう。
 駅の前まできたとき、高橋さんは私を見つめて、ごめんといった。
「僕は日向を愛してる。だから、君を選ばない」
 そんなことは解っていることだし、安心さえ逆に覚えた。
 でも切なかった。高橋さんは優しかったから。勘違いをしそうになるほど。
「……。言い訳にしかならないのは分かってる。でも……」
 高橋さんの指が私の左頬に触れた。
「そんな目で男を見ちゃだめだ」
 私はどんな目をしていたのだろう。誘うような目をしていたのだろうか。
「無防備で、置いていかれた子供のようで……ほうっとけなくなる……。ごめん、やっぱり言い訳にしかならないね。
でも気をつけたほうがいいと思う。例え相手が知人だったとしても。ごめん、偉そうだよね。自分は君を傷つけたのに」
「いえ……」
「……」
「日向には言いませんから安心してください。私も大事な親友を無くしたくない。
でも、約束してください。私が言うのもなんですが、もう浮気はしないと。
それとも他にもあるんですか?」
「ないよ。君が初めてだ。もうしない。誓うよ。日向を大事にする」
 彼はもう浮気はしないだろう。後悔の滲む高橋さんの目を見つめて私は確信した。
「よかった。それじゃおやすみなさい」
「……気をつけて」

 電車から夜の街を見て、しばらく私はぼんやりとしていた。
 自分がよくわからなかった。
 大好きな日向の彼なのに。
 うううん、日向の彼だから?
 日向が好きな彼が羨ましかった。
 日向を好きな彼が羨ましかった。
 試したのだろうか? 日向への気持ちを。
 それは口実。
 私はあの一瞬、高橋さんを求めたのだから。いや、たぶん「彼」を高橋さんに求めてしまったのだろう。
 でも、違った。
 私は目を閉じる。
 高橋さんは優しかった。そして、日向を愛している。
 不毛な一夜。
 でも幸福な夜だった。


 以後も高橋さんとは何度も会う機会があった。高橋さんは相変わらず、日向だけを優しい目で見つめている。その姿に私は安堵する。
 でも偶然私と目があうと、その瞳には複雑な光が宿る。
 私たちだけの秘密。
 罪悪感。それだけではない。思い出す幸福感。
 でも。
 日向が一番大切。
 この気持ちも私と高橋さんの揺ぎ無い気持ちだ。
 だから、秘密は秘密のままに、私たちは時を重ねるだろう。
 そしてまたみんなで会う……。



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 それではまた!               天音花香

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お久しぶりです。天音です。
ちょっと忙しい日々が続いておりまして、
なかなか更新できていません。
すみません。

今日は短編を一つだけ……。

2月半ばまで、短編か、本家サイトのを移すくらいしか書けそうにないですが、
他にアップしている小説をその間に読んでいただけたら嬉しいです。

それから、拍手、ときどきですが、頂いております。
ありがとうございます! とても嬉しいです。
一言あったら、もっと喜びます。

では小説いきます。


ココから小説。




 なわとび


 ゆらゆら。なわとびが揺れている。
「げーつか、すいもーく、きーんど、にちようようび」
 小学校の休み時間。大きな縄で女の子たちは遊ぶ。
「あまでらの、おしょさんが、おきょうをよんでいらっしゃる」
 自分の番のときはちゃんと跳ばないといけない。
 途中でとぎらせたときの、あーあ、という視線を私は知っている。
 あの視線が嫌だった。
「ちゃかぽこちゃかぽこなんまいだ」
 つくづくよくわからない歌だと思いながらも、跳ぶ準備をする。
「いちーはっしゃ、にーはっしゃ、それ」
 ゆらりゆらりとゆれていた縄が、ぶんぶんと回りだした。
 回りだしたら、入るのがゆれているときより、難しくなる。私の緊張が高まる。
 ぐるぐる。
 まわるまわる。
 私の頭の中で、ぐるぐるとまわる言葉が・・・。
 ――○○ちゃんって、私、嫌い。
 ――私も~。
 どうして、女の子は本人が居ないところで悪口を言うのかな。
 私も、居ないとき、言われているんじゃないかな。
 ……いけない、いけない。集中きゃ、上手く跳べない。
「さーんはっしゃ、よんはっしゃ」
 なんとか無事に入れた。でも、油断をしてはならない。
「そーれ、いちぬけた。そーれ、にーぬけた。そーれさんぬけた」
 一人ひとり抜けていく。私は最後。
 あ。
 嫌だな、と思った。
 一人ひとりぬけて、私は一人ぼっちになる。
 いつも、女子のグループに属していて思うこと。
 私、今、一人じゃないよね? ちゃんとみんなの中にいるよね?
 居心地がいい訳ではない。ただ、一人になるのが嫌なのだ。
「そーれよんぬけた」
 上手くぬけられた。
「げーつか、すいもーく」
 そして、回っていた縄がまたゆらゆらと揺れ始める。
 それの繰り返し……。
 なんでなわとびをするのか分らない。
 でも。
 私は思う。
 なわとびは女の子の友達関係に似ていると。
ゆらゆら。
 今日もなわとびは揺れている。


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ここまで読んでくださりありがとうございました。
 暗くてすみませんです。

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 それではまた必ず!               天音花香

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お久しぶりです。天音です。

相変わらず更新できてなくてすみません。
体調も思わしくなくのろのろ作業を続けています。

今日は、夕飯の支度をしているときに白菜に青虫がついているというちょっとした事件がありまして、
瞬時に小説が浮かびましたので、
書いてみることにしました。
息抜きです。

ですが、相変わらず暗いです。
すみません。
それから暗いのは性格もありますが(苦笑
小説はフィクションですので!
最近まともな恋愛小説を書いてないなあと自分で思うのですが、
私と主人の暮らしはいたって順調です(笑


持っている作業が終わったらレギオンの二次創作書きたいです。
やっぱりあの二人は書いていて楽しいので。
それで申し訳ないのですが、こののろのろ更新、
3月まで続くかもしれないです。すみません。

たまに短編を書いているかもなので、覗いてやってください。


それから、拍手、ときどきですが、頂いております。
ありがとうございます! とても嬉しいです。
一言あったら、もっと喜びます。

では小説いきます。
(タイトル、いつも決めるの苦戦します。センスなくてすみません)


ココから小説。



 
 虫(オンナ)


「きゃっ!」
 私の悲鳴に、ベットから彼がのそりと顔を出した。
「どうした?」
「……白菜に、青虫が……」
 私の言葉に、ふああ、と彼があくびをした。
「なんだそれくらい……」
 それくらい……。確かにそのとおりなのだが……。
「ごめんなさい」
「いーさ別に……。ご飯まで寝てるからな」
「うん……」
 再びベッドの中にもぐりこんだ彼をちらりとだけ見て、私は青虫に視線を移した。なんともグロテスクなその形。でも、小学生のときぐらいまでは、飼っていた事さえあったのに、いつから苦手になったのだろう。
 蝶になる青虫。カブトムシになる芋虫。思えばグロテスクなものばかりだ。でも、それが成虫になるのを見たくて、一生懸命世話したっけ……。
 でも。やっとさなぎになった蝶の幼虫。どきどきしながら蝶になるのを待った。でも、蝶になったのを見たことがあっただろうか……。蝶になったら飛んでいってしまうので、忘れてしまっているのだろう。私の記憶に鮮やかに残っているのは、さなぎのままの幼虫。いつまでたっても、ずっとさなぎのまま。ずっと、ずっと待った。でも、それは結局干からびて……。子供のときは、残念としか思わなかった。でも今は……。
 下がってきた眼鏡をずいと上に上げて、白菜を洗い出す。
「……ねえ、奥さんはまだ本当に気づいてないの?」
「んんん? なんだよ、突然……。大丈夫さ、あいつは美人だし、自分の夫が不倫をしているなんて、考えもしないだろうよ。それもお前のような地味な女と」
「……そうね」
 トントントントン。規則的に野菜を刻む手とは反対に、頭がめまぐるしく回転する。
 地味な女。
 まったくそのとおりだと思う。無造作に肩までのばしただけの真っ黒な髪。小さい目には眼鏡。低い鼻と小さな口。
 彼の奥さんは間違いなく蝶になった女性だ。華やかで、綺麗な人。
 私はさなぎにもなれなかった青虫。
 蝶やカブトムシになれるのが限られているように、人間だって、容姿端麗な方が限られる。それは分っていても、やっぱり彼の奥さんが妬ましいし、そして、いつまでも不倫を続ける彼に苛立ちも覚える。それでも捨てられるのは嫌だ。一人は嫌だと思ってその関係を続けている自分はもっと嫌いだ。
 だから、彼と過ごすこんな時間には、なんとも形容しがたい気持ちが渦巻く。
「おおい、ご飯まだか~?」
 何もわかっていない彼が不満そうに声をかけてきた。
 不意に、ある虫を思い出した。
 カマキリ。
 自分より弱いものは餌とみなしてしまうカマキリの雌は、交尾中に弱った雄を食べてしまうという……。
 カマキリは雄か雌かとても分りやすい虫だった。雌の方が大きくて、そして、お腹が膨らんでいる。あの中身は、卵だったのか、それとも雄の残骸だったのか……。
「……ふふっ」
 笑った私に、
「なんだあ?」
 と怪訝そうに声をかけてくる彼。
「うううん、女は怖いなと思って……」
「はあ~? お前も女だろ?」
 ますます不思議そうに返してきた彼。私の口に笑みが浮かんだ。
「……そうね。
ご飯、もう少しよ。待ってて……」

                            了



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 ここまで読んでくださりありがとうございました。
 暗くてすみませんです。主人公はこの後どうするのかはご想像にお任せいたします。

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こんばんは。天音です。

ちょっと良くないことがありましたので、
昨日、夕方髪を切りました。
ということで、今回の小説テーマは「髪」です。
体調がよくないと暗い短編小説ばかりが浮かぶという……。
なんともなんともですみません。


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よろしくお願いいたします。


では小説いきます。


ココから小説


 「髪」


 さらさらと漆黒の髪が頬に落ちてくる。
 潤いに満ちた、艶やかな髪は、意外に重量があるものだと思う。
 男の自分は髪を伸ばしたことなどないので、わからなかったが……。
 さらさら。
 「彼女」の使うシャンプーの香りが鼻をかすめ、髪がまるで生き物ののように……。

 く、苦しい……。

「どうしたの?」
「……え?」
「うなされてたよ?」
「俺?」
「うん」
「そっか……」
 俺の腕に頭をちょこんと乗せている彼女の髪をなでる。
 パーマをゆるくかけた髪は、ミディアムぐらいで長くはない。
「……」
「何?」
「いや……」
「変なの」
 くすりと笑う彼女を愛しいと思った。
 彼女とは二ヵ月後に結婚する予定だ。なのに、なぜ思い出すのか……。

 髪が長い女性と付き合ったのは、一度だけ。
 初めての恋に浮かれていた自分。彼女の美しい髪が眩しかった。
 別れてしまった原因は……。
 男は初恋の相手を女性より忘れられないという。そのとおりなのかもしれない。その後、何人かと付き合ったが、いまだに思い出すのは「彼女」だけだ。未練があるわけではないし、もう愛してもいない。ただ「彼女」の髪が俺を責める。
「何? 私の顔になにかついてる?」
「いや」

 俺は腕の中の彼女を強く抱きしめた。絶対浮気はしない、と心で誓いながら。




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 ここまで読んでくださりありがとうございました。
 毎回暗くてすみませんです。(レギオンの二次創作とのギャップが凄いです……)

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