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天音花香の小説をUPするブログです。個人サイトの小説はこちらに移しました。現在二時創作と短編を中心に書いています。
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天音花香
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主婦
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いろいろ・・・
自己紹介:
小学生のときに、テレビの影響で、小説を書き始めました。高校の時に文芸部、新聞部で文芸活動をしました(主に、詩ですが)。一応文学部でです。ですが、大学時代、働いていた時期は小説を書く暇がなく、主婦になってから活動を再開。

好きな小説家は、小野 不由美先生、恩田陸先生、加納朋子先生、乙一先生、浅田次郎先生、雪乃 紗衣先生、冴木忍先生、深沢美潮先生、前田珠子先生、市川拓司先生他。
もう一つのブログでは香水についてレビューをしております。
http://yaplog.jp/inka_rose/
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こんばんは、こんな時間に天音です。

えっと、「緋い髪の女戦士」と平行して、今まで書いてきた小説をアップしていこうと思っています。

分りにくいと思いますので、
リンクに、それぞれのタイトルとトップページを載せますので、
そちらから読んでいただけると幸いです。

コメントとか頂けるととても喜びます。



ココから小説

<月に恋した>




空で一番好きなものは月

夜の暗闇の中でその光は優しく道を照らしてくれる

なんて心強いんだろう

強すぎる太陽より月に魅力を感じるのは

私の名前が月子だからだろうか





 その年の桜は遅咲きで、満開を迎えてから数日の雨風のせいですぐに葉桜になった。野乃原月子が初めて受験生となった春。月子はその桜の木をぼんやり見つめていた。残った花びらがはらはらと涙のように流れてくる。
「儚い。だから日本人は桜を愛すのかな。桜には『あはれ』がぴったり、なんてね。急ごうっ」
 月子は中学校へと続く桜並木を歩く足を速めた。


 中学一年生の時からすでに進学塾に通っていた月子は、前々から地区で最難関の高校を目標とさせられ、勉強してきた。今年になって学校の先生も、塾の先生も、口を開けば「受験生、受験生」と言うのにうんざりしていた。多感な時期にその言葉は、月子を「受験」という断崖絶壁に追いつめていくようなものだった。月子の不安な気持ちに呼応するかのように、成績が、絶頂期だった中学二年生のときからじりじりとではあるが下がってきていた。それゆえになおさら耳の痛い言葉なのである。中でも。
(授業の度に言う田村先生!)
 塾の数学の先生だ。今年、塾での月子のクラス担任になった。以前の数学の先生はおじいちゃんのようで親しみが持てただけに、なおさら、田村の、受験を意識させる、身にまとう冷たい雰囲気が嫌いだった。色白で眼鏡のよく似合う、やや細身の男性で、寒色のスーツのときが多い。
(そうそう、こういうストライプのワイシャツを着ているときなどさらに近寄りがたい気がする。私だけかな、こんな風に感じるの)

「野乃原」
(こうやって人のこと無機質に呼ぶのよね)
「野乃原、君のことですよ。呼ばれているのが判っていますか?」
(!)
 月子はぼんやり田村の容姿を観察していたため、ここが塾で、数学の時間であることを完全に忘れていた。
「は、はい」
 罰が悪そうに月子は目をそらして返事をする。
「さっきから、ぼんやりして、君は授業を聞く気があるんかね?」
 この冷たい声が心にぐさぐさくるのだ、と月子はやはり思う。今まで先生たちに苦手意識を持ったことはなかった。しかし。
(やっぱり苦手だ、この人)
「返事をしなさい」
「はいっ。すみませんでした」
 と謝りつつ、目は反抗心満々で月子は田村を見返した。田村はそんな月子にため息をつく。
「こんな反抗的な生徒は初めてですね。君は受験生の自覚があるんか? 受験では」
「一点に何人もが並ぶ、ですね! 授業を中断させてすみませんでした。先をどうぞ!」
 いつも何かしら怒られて、授業を説教で中断させることが多いため、月子はクラスメイトに申し訳なく思っていた。だから田村の言葉を遮ってプリントに目を落とした。
(中三になって何度目だろう。もううんざり!)
 月子をさらに苛立たせるのは、これまで教わってきたどの先生よりも田村は授業が上手いことだ。少し早めのペースだが、要領を得た説明で、解りやすい。田村の手にかかれば、難問もすんなり解けてしまう。
(いつかギャフンと言わせてやるんだから!)
「野乃原!」
「はいっ!」


 田村との出会いは、中学三年生になってからではなかった。中学二年生のとき、他の先生と試験結果が張り出されている壁の前で話しているときだった。いつの間にか知らない先生と話していたのである。それが田村だった。そのときも確か「三年生になったら……」と言う話が出ていて、月子は漠然とこの先生は厳しそうだと言う印象を持ったのだった。ここまでとは思わなかったけれど。
(私はギスギスした雰囲気より、柔らかな雰囲気で受験を迎えたほうが、心理的にいいと思うんだけれどな)
 しかし、実際はそうも言っていられないのかもしれない。

 塾校舎の表で母の迎えの車を待ちながら、前に立つ桜の木を見上げる。完全に葉だけになっていた。青々とした葉は新しいエネルギーを感じさせる。
(桜も動き出したか。私もそろそろ変わらなきゃいけないのかな)
「桜も葉を広げ始めましたね」
 意外な声が隣から聞こえた。見上げると、田村の横顔があった。月子が戸惑っていると、田村は月子に視線を落として、
「意外そうですね。私が桜を語るのは変ですか?」
 と笑った。笑ったのだ。
「あ……。い、いえ」
「君は思ったことがよく顔に出るね」
 月子は黙った。
「時が経つのは早いですよ。特に受験までの一年は。毎年経験していますが、毎年思います」
 月子は穴が開くほどに田村を見た。田村は独り言を言っているかのようだった。とても授業中の田村と同一人物とは思えなかった。
「私の授業はきついですか?」
「数学は苦手なので」
「……そうですか」
 会話が途切れた。田村の頭上に浮かぶのは薄雲に霞む晩春の月。
 騙されるな、と頭で警報が響いた。この人はあの冷たい田村先生だ、と。月子はぷいと顔をそらすと、黙って車が来るほうを見つめ続けた。田村はなかなか去ろうとしない。そこに母の車が来るのが見えた。月子の反応を察したのか、
「来ましたか。さようなら」
 頭上からの声に横を見ると、もう隣に田村の姿はなく、塾に入って行く後姿だけが見えた。


 その夜、月子は夢を見た。大きな朧月が、青々とした葉を茂らす桜の木の上に静かにたたずんでいる。その姿は不思議だった。葉の緑に押されて、控えめな月は、朧ろ気でありながらなぜかいっそう謎めき、印象的に見えた。
(こんなの違う。朧月は夜桜の上でいっそう神秘を増すのだもの)
 夜中、目が覚めても残る強い印象に、月子はその後眠ることができなかった。

 
 それからというもの、月子の岸川だらけだった夢に、無言の月が時折出てくるようになった。月に安心感しか覚えてこなかった月子にとって、月の夢を見ると心がざわつくのは不思議だった。
 岸川は、塾で一緒の男子で、月子の好きな人である。
 四月の席替えでやっと隣の席になった。月子はそれを活かして、会話をしようと奮闘していた。受験生の月子にとって、同じ志望校を目指す岸川の存在だけが救いだったと言っても過言ではない。しかし、それも田村にいつも阻まれていた。
「あのさ、問五なんだけど」
 田村が黒板を向いている時を見計らって、月子は岸川にこそこそと話しかける。しかし。
「野乃原、またか。授業中の私語はやめなさいと言ってるのだが?」
 この会話も日常茶飯事になっていた。その日、月子は悔しくなって反撃をしてみることにした。
「私語ではありません。質問です。質問さえ駄目なんですか?」
 そんな月子の言葉に、田村は少し目を細めて、
「ではなおさらですね。なぜ私にしないんですか?」
 と言って、黒板のほうに向き直った。月子は敗北感に顔が赤くなるのを感じた。岸川が、気遣わしげに目線を送ってくるのに、大丈夫と無言で返したものの、月子は黒板を滑る田村の指を恨めしげに見るしかなかった。
(受験生なのに、何やってるんだろう私……)


「田村先生って怖いよね」
「野乃原いっつも怒られて、可愛そう」
 塾の友達はそう言ってくれるが、田村の態度が変わるわけではない。それに。
「なんだかんだ言って授業中断するのには変わりないのよね。ごめんね、これからは気をつける」
 いいよーと口では言ってくれてるが、受験生となると内心では自分をよく思っていない子もいるかもしれない、と月子は少し不安だ。
「ただ、もう一度だけ試したいのよね。ごめん、ちょっとだけ待って」
 月子はそう言い、早速次の授業で試してみることにしたのだった。
「田村先生、問七解りません」
 これが月子のささやかな挑戦だった。田村は、黒板を向いていたその体をゆっくり月子の方に向けた。
「はい?」
「ですから、問七の解き方が解らなかったので説明してください」
 田村はちょっと目を見開いて、次の瞬間少しだけ笑った。
「他に問七、解らんかった人は?」
 数人が手を挙げた。
「では説明しましょうかね」
 田村は少し嬉しげに黒板に向かうと、説明を加えながら、さらさらと式を書いていった。それは本当に見事な説明で。
「どうですか? 解りましたか?」
「……はい」
(完全敗北だ)
 その後、月子は素直に質問するようになった。そして、その度に田村は丁寧に教えてくれたのであった。





 受験生にゴールデンウィークはない。塾に缶詰である。窓からは五月らしい爽やかな日差しが降り注いでいて、教室で勉強しているのが勿体無いほどだ。
 突然、ぽこんとテキストで月子は頭を叩かれた。ぼんやり見上げると、田村の顔があった。
「気持ちは分かりますが、今はプリントに集中しなさい。休みを返上しているのは私も同じです」
「そっか。確かに」
 思わず月子が声に出すと、田村は苦笑いを浮かべた。
「今のは失言でしたね」
 田村の人間らしい反応に、月子は可笑しくなって笑ってしまった。
「のーのーはーらー」
「すいません」
 一ヶ月もたつと人物というものが解ってくる。
 最初に感じていた、畏怖に近いものは無くなり、ただ、「厳しい」という形容詞が当てはまる先生、というのが月子からの印象である。そして、それに「律儀」「ちょっと無神経」「でも悪い人ではない」が加わった。
(それにしても、数学多いな。仕方ないけど。しかも担任だから田村先生の顔よく見るよなあ)
 これほど眼鏡の似合う人も珍しい、とか、昼間なのに電気をつけてるこの教室はなんなのかとか、気がつくと指が止まっている月子に、今日何度目かの「野乃原」コールが響いた。


 「受験生」という言葉に慣れつつあった中、それを痛感するときが連休明けにやってきた。一度目の志望校面談である。月子は母と隣り合って、田村と向かい合っていた。
「えー、野乃原さんの判定はこちらです」
 田村は模試の結果表を取り出し、判定を指差した。田村の白く長い指が指した判定に、月子の母は、
「まあ、よかった」
 と声を上げた。が、月子はこれほどこのアルファベットに嫌悪感を感じたことはない。「A」それは、なぜか月子を不安に駆り立てた。こんな判定は無意味なように感じた。確かに、合格者は「A」判定の人が多いかもしれない。でも、「A」判定だからと言って、必ず受かるわけではない。現在、月子の成績ベクトルはやや下を向いている。こんなときに限って、先生方の言う「一点に何人もが並ぶ」が頭の中で木魂する。じゃあ、何点下だったら、「B」になるのだろう。一問一点ということはないから、後、何問間違えば「B」になるのだろう。
 机の上で組まれた、月子の拳がカタカタと音をたてて震えていた。その頃には田村の形のよい爪がぼやけて見えていた。
「野乃原?」
 田村が不審そうに尋ねてくる。
「月子?」
 月子の母もなぜ月子が泣いているのか解らない。月子は。
「A判定だからって受かるとは限らないですよね。まだ五月ですよ? それにこんな判定もらってて落ちたら惨めすぎる!」
 月子は搾り出すようにそう言うと、席を立った。そして、教室を逃げるようにして出た。
「月子!」
「お母さんは、ここで待っていてください」
 田村は訳のわからないまま月子の後を追った。
「野乃原! いったいどうしたんだ!」
 正直月子にも解らなかった。「B」だったら安心したのか? 否。もっと不安だ。
「喜んでいい判定だぞ?」
 田村の動揺した声に、月子は涙にぬれた目で田村を睨んだ。
「ええ。そうですね。でも、これは入試ではありません。本番ではありません。「A」をとったからといって何になるの? 次の模試は「B」かもしれないのに、志望校を決めるんですか? 落ちたら誰が責任とってくれるんですか?」
「野乃、原」
 田村は珍しく困惑していた。
「それは最近、君の成績が、下がり気味だからそういうことを言うのか?」
「……それもあります」
 田村が一人ひとりの成績をよく把握していることに少し驚きながら、月子は頷いた。
「野乃原。確かに、誰も責任を取ることはできない。だから、誰も君の志望校を強制はできない。後は君がどこを受けたいかだ。でも言っておく。私は君の成績は心配していないよ。むしろメンタルを心配している。模試の前に君が不安定になるのに最近気付いたから」
「!」
(なぜこの人は時々鋭いのだろう)
「それは当然です。模試の度にクラスが落ちないか、心配しなければいけないんですから!こんなの綱渡りと同じです!」
 その綱渡りは受験当日まで続くのだ。
「不安にならないほうがおかしい!」
 月子の高い声が、塾の玄関前のフロア中に響き渡った。
「そ、それは……」
 田村の顔がこわばった。月子はそんな田村から目をそらす。
「――この塾を選んだのは私ですし、文句は言えませんね。でも受験生はみんな同じ気持ちだと思う。それでも、合格したいので頑張るしかありません。とり乱してすみませんでした。志望校は変えません。帰ります」
 月子は軽く頭を下げると、田村の横を通り過ぎて、母の残る教室へ戻り、母をつれ出した。母が田村に謝っている間、月子はそっぽを向いていた。
「まあ、この子ったら。田村先生、本当にすみません」
 母が月子の頭を無理矢理下げた。月子は無言だった。田村は、
「野乃原。私も努力しよう。学力の面だけでなく、メンタルのサポートもすることを」
 と言ったが、月子は無言で頷くだけだった。田村を傷つけたのが解って、苦い思いが月子の心に広がっていた。帰り、車内で母が、
「月子、A判定なのに、泣くのなんて、あなたぐらいよ。それに、先生にもあんな失礼な態度をとって。いったい何が不満なの?」
 と苛立った声で言ってきたが、月子は何も答えずに、窓にうつる街灯の明かりを見ているだけだった。





 つつじが咲いて、ひなげしが咲いて。この次期は新緑とともに様々な花が色鮮やかに道端を賑わせる。が、月子の心は重い。志望校面談の日を思い出すと、自然とため息が出る。「もうすぐ着くわよ。下りる用意して」
 母の言葉にますます月子の心は沈む。田村にどんな顔をして会えばいいか月子は解らなかった。
(今日は五月十二日。私の誕生日なのに。全然いいこと無い)
「ほら、下りて。次の車来てるから」
「はあい」
 車から下りて、塾の校舎を見上げる。RPGでいうとラスボス戦の前みたい、なんて思いながら、月子はいつもより重く感じられる塾のドアを開けた。
「こんにちはー」
 塾校舎に入ると、先生方がいつも挨拶の声をかけてくる。もちろん月子もそれに儀礼的に答える。
「こんにちはー」
 月子は靴を脱ぎながら、顔を上げずに言って、そのまま教室への階段を上ろうとした。田村がいると気まずいからである。ところが。
「野乃原!」
 田村の声に自然と背筋が伸びる。月子が声のした方を恐る恐る振り返ると、田村と目が合った。
「……」
 月子が声を出せずにいると、
「こんにちは、野乃原」
 と言って田村は笑った。
「あ……」
(先生は大人だ。なんだか心配したのが馬鹿みたい)
 そう思うとなんだか泣きそうになって、月子はそれを誤魔化すように、
「こ、こんにちはっ!」
 と大きな声で返した。田村はそれにまた笑い返しただけだった。そして、その日も普通に授業は行われ、終わった。受験生の一日は学校から始まり、塾で終わる。そんなものである。
 でも。
 月子はベットの上で枕を抱きしめ、一人微笑んだ。授業の合間、塾の友達が「今日、野乃原、誕生日だよね。おめでとー!」と言ってくれたとき、隣で岸川が「そうなん? おめでと」と言ってくれたのだ。
(いいや。今日は大満足。先生も普通に接してくれたし)
 乙女心となんとかとは言ったものである。



 様々な花が咲くこの時期、月子の最も好きな花も咲き誇る。
 薔薇である。中でも七分咲きが美しいと月子は感じている。中央に蕾の形を残し、それをとりまくように花びらが開いている。端の部分は外向きにカールし、それが全体で見たときに角の様になり、花がまるで結晶のように見える。その姿は完璧。放つ気品は月子の憧れそのものである。気取っていると感じる人もいるだろうが、それでも惹きつけられずにはいられない美しさが薔薇にはある。それには香も一役かっているだろう。濃厚で独得の薔薇の香。その香に包まれると、自分が、一瞬どこぞのお姫様になったような幸せな気分になるからたまらない。
(いい香! あっ、あの色いいなあ)
 月子の目にとまった薔薇は、花びら全体が薄いピンク色をしていて内端がほんのり黄色をしていた。綺麗というより可憐という言葉がぴったりな薔薇だった。早速携帯で写真を撮る。
「月子、何、うろちょろしてるの? 早く車に乗りなさい」
「はあい」

「今日、田村先生誕生日らしいよ」
 後ろの席の友人、加治瞳が言ってきた。今日は五月十九日。どこからそんな情報仕入れてくるのだろう、と月子は感心する。他の先生と違って、プライベートについて何も語らない田村は、生徒の興味の対象になっていた。
「ふーん」
 月子は、田村が自分の誕生月と同じだということに、心がなぜか揺れた。
「田村先生、誕生日おめでとうございまーす」
 田村が授業のために教室に入ってきた瞬間、教室から上がった声に、田村は少し驚いたようだった。
「全く、どこから情報はもれるんですかねー」
 と呆れた声で言ったかと思えば、
「ちなみに、血液型はB型です」
 なんて珍しく自分のことを語った田村に、教室がわいた。
「えー、先生B型なのー?」
「A型っぽいー!」
 最近、田村が冷たいだけではないと気付き、女子生徒たちの間で田村は人気が上がっていた。
(……これも私と同じだ)
 そうぼんやり思い、
「なるほど、マイペースだもんなあ」
 と口にしてしまった月子に、田村が月子を見た。
「ほー、マイペース。私はマイペースですかね。誰かさんのほうがよっぽどマイペースだと思いますが。あ、そうか、君こそB型でしょう」
「う」
 図星を指されて何も言えなくなった月子に、田村は勝ち誇ったように笑むと、
「さあて、では、マイペースに授業をしましょうかね」
 と言ったのだった。その日から「五月十九日生まれ、B型」という情報がなぜか月子の脳裏にしっかり刻み込まれてしまった。苦手な先生と同じ星座で同じ血液型というのが嫌だったのだろうか。月子は自分でも解らなかった。
(それに、今は苦手とは思わない)
 それもなぞであった。あんなに苦手だったのに。
(ま、いっか)
 授業後、月子はあまり深くは考えずに、階段への廊下を歩いていた。その日撮った薔薇の写真を見ながら。月子の顔がほころぶ。
「何ですか、嬉しそうですね」
 後ろから田村の声がした。写真もしっかり見えたらしく、
「薔薇ですか。意外ですね、花好きとは」
 と言ってきた田村に、幸せをぶち壊された月子は、むっとして、
「いけませんか? 好きなんです。とくに薔薇が」
「いけないと言ってはいませんよ」
 田村は言って、くすりと笑った。
「君はデイジーとかのイメージですがね。道端の花も捨てたもんじゃないですよ」
 そう言って、月子を追い越し、行ってしまった田村に、月子は複雑な気分になったのだった。

 この頃見る月の夢は、もう朧月ではなく、初夏の月を思わせるものになっていて、それはどこか月子を安心させた。





 雨は嫌いではない。心が疲れているとき、それを優しく流してくれるから。でも梅雨は嫌い、と月子は勝手に雨を評している。
 近頃原因不明のイライラに悩まされている月子は、その原因を無理矢理梅雨のせいにしようとしていた。その梅雨の雫にぬれてしっとり美しく咲く紫陽花を車窓から見つめる。
(紫陽花は土壌がアルカリ性か、酸性かで花の色が変わると聞く。私の数学の土壌はころころ変わってるのかな。それとも、このじめじめした雨のせいで頭までおかしくなってるとか)
 ふう、と月子はため息をついた。そう、最近、月子は成績が安定していない。それも、数学がである。
(もともと苦手教科だししょうがないのよ!)
 それでは受験はすまされない。月子もそれは分かっている。でも、不安定な原因が判らないので、月子はなおさらイライラするのである。
 なんとなく、ぼんやりしながら授業を受けて、月子はそんな自分にも苛つきながら階段を下りる。
 最近よく見かける、フロアで田村を女子生徒が囲んで談笑、という光景を横目に、月子が靴を履いて帰ろうとしていると、
「野乃原」
 聞きたくない声が聞こえてきた。月子は聞こえなかったふりをして、塾を出ると、
「野乃原」
 と再度田村の声がした。談笑してたじゃん、と思いながら、
「はーい」
 と月子がしぶしぶ返事をすると田村が追ってきていた。
「言われることは解っていますね」
「解っています。数学の成績ですね。
きっとこの梅雨のせいですよ。先生知ってます? 梅雨晴れってとっても爽やかで、この次期の稲穂をよりいっそう青々と見せてくれるんですよ。私の数学もそのうち晴れの日がくるんじゃ、なんて……」
 月子は勢いよく言い返し出したものの、最後のほうは、声も小さくなり、探るように田村を見た。田村は、目を見開いて月子を見ていた。
(やばい、かも)
「じゃなくて、私の努力が足りないからですよね。頑張ります。本当にすみませんでした!」
 早口に月子はまくしたてた。
「……君は……。不思議な子だね……」
 田村は何と言っていいか解らない様子だった。
 雨が地面を叩く音だけが響く。
「えー。聞いてみたいんだが、なぜ君は数学が苦手なのかな?」
 今度は月子が意外そうに田村を見る番だった。
「なぜ? そうですね、見えないのに答えは一つに決まるから、ですかね」
「見えない?」
「国語には出典が、社会も歴史、地理、現存してますよね。理科も。私、数学が一番見えません。どこからその数字が来るのか、解らないんです。だからとらえどころが無いし、将来使うとは思えません」
 田村はちょっと考え込んでいるようだった。
「野乃原、もう一度、塾に入りませんか? 雨にぬれてしまいますし。今日なら君の好きなアップルティーをおごりますよ」
「はあ」
 よく解らないまま月子は田村の言葉に従った。

 田村は缶コーヒー、月子はアップルティーを手に長椅子に座る。
「さっきの続きですが。数学は確かに、五教科の中で最も学問らしいものです。学問は机上の論的な部分が多くあります。今習っている式などは今後役に立たない可能性のほうが高いでしょう。ですが、社会にでて、最も使われるのは数学なんですよ。数字が実態を伴うようになりますからね。ただ、君の望む形であるかは分かりませんが……。
高校での勉強は中学より、より学問的になります。大学はもはや社会の役に立つとかいったレベルではなく、自分が価値を見出せることをとことん追求する場所となります。結果的に、それが社会の役に立つことが多々ですが。学問とはそういうものです」
「では何のために今、私たちは我武者羅になって受験のために、勉強しているんですか?もっと社会に役立つことを今、学ぶべきではないんですか?」
 月子は心の底でずっと思っていた疑問を田村にぶつけた。自分たちのやっていることが無駄なんてそんなの悲しすぎる。
 田村は一口コーヒーを飲んだ。そして、独り言のように語りだした。
「そうですね。私は人生とは学ぶことの連続だと思うんですよ。ただ、それを教えてくれる学校はない。それは人間一人ひとりが違うから、テキストを作ることができないからですね、きっと。ただ、学校で、学ぶ姿勢は学ぶことができます。今君たちが学んでるのは、学ぶ姿勢だと思うんですよ。それに、多くを学べばそれだけ選択の余地が広がると言うメリットもあります」
 そこまで言って田村は下を向いてちょっと笑った。
「私はどうも文系に向いていなかったので、理系に進むしかなかった。勉強しておけば、と思うときにはもう手遅れのときが多いんです。だから君たちにはそうなって欲しくない」
 月子は、今まで見たことのないような田村の一面を見てしまった気がして、少し動揺した。
 田村は、心から生徒を心配している先生だ、と月子は思うと同時に、一人の男性なのだと感じた。
(先生……)
 月子は大好きなアップルティーをぐいと飲み干して、立ち、田村を振り返った。
「母が待ってるだろうから、もう行きます。今日の話、悪くなかったです。
今は。勉強を頑張ってみます」
 田村はふっと笑った。
「偉そうな言い方ですね。でも、じゃあ、頼みますよ」
「はーい。ご馳走様でした。この分は成績で」
 この日から数学の成績が上がったというわけではない。だが、月子は苦手意識は持たずに頑張ってみることにした。
 月子は思った。
(教師かあ。素敵な職業。私も、目指してみようかな)


 この時期、厚い雲に覆われて、月は姿を見せない。だから、時折見える月はよりいっそう綺麗に見える。秋の月には劣るけれど、雲間から少しのぞく影はあはれだ。





 時が経つのは早い。
 空にはたくさんの入道雲が浮かび、蝉の声が暑さを倍増させている。塾の夏期講習は午前中から夕方までなので、月子は自転車で塾に通っていた。太陽が背後からじりじりと自己主張してくる。
(分かってますって。夏のあなたは空の支配者ですよ)
 地上には、小さな太陽、向日葵が、けな気に太陽のほうを向いている。紫陽花を濃くしたような色の朝顔も咲くが、月子は向日葵の方が好きだ。真っすぐで潔い。朝顔も午後にはしぼむという面には惹かれる。
(どちらも、小学生のとき、育てた花。夏は、幼いころをなんだか思い出すなあ)
 麦わら帽子をかぶって、虫とり網を手に走り回っていた頃が懐かしい。横を通りすぎる子供たちを少し羨ましく思う月子であった。

「おはようございまーす」
「おはよう」
 階段を上がり、ドアを開けると、教室が冷房で真冬と化していた。温度差に思わず身奮いをする。
「宿題やってきた?」
「一応。これだけ多いとざっとしかやれないよね」
「ほんとほんと」
 時間になると、先生があわただしく階段を駆け上がってくる音が聞こえ、
「はい、授業始めるぞー」
 と言う声と同時に、授業がスタートする。一日の始まりだ。一日にしっかり五教科入っている。それプラス一教科、国、数、英の三教科の中から入っていることが多い。それぞれの教科の先生は、皆独特の雰囲気を持っていて、工夫を凝らした授業がなされる。学校で、缶詰になるよりかは、塾で缶詰のほうがよっぽどましである。クラス分けがされているのも、授業のレベルを詳細に区分できると言う点では悪いやり方ではないのかもしれない、と月子は最近は思うようになった。もちろん、分けられるほうとしては毎回心臓が痛むのだが。
 ポイントが効率よくまとめられたプリント。面白おかしく説明や、解説をする先生方。その中で田村の授業は、ある意味個性が無い授業かもしれない。でも、飽きないのはやはり説明の仕方が上手いからだろう。水のような印象を受ける。さらりとして、のどに浸透する。難問は軟水ではなく硬水で、なかなか体が、というより頭が受け付けてくれないけれど。そんなときは教室がいっそう寒く感じる。
(ん? 寒く?)
 授業後、月子が冷房の温度を確認するとなんと二十度であった。
(寒いはずだよ。エネルギーの無駄な消費。だから地球の温暖化が進むんだ)
 そう思って、月子は勝手に温度を上げた。これで明日からは寒くないはず、と思いながら帰ろうとすると、
「田村先生、かっこええわあ」
「うん、最初怖いと思ってたけどかっこいいよね。何気に優しいしー」
 とクラスの女子が言っているのが聞こえてきた。中でも友達の井上朱梨は完全に田村崇拝者になっている。
 朱梨は可愛い。色白で、長い黒髪に、京都弁がキュートだ。
(クールなのに、優しさを持ち合わせる。ま、確かに条件的にはもてそうな。でも)
「おじん、だよ」
 月子は自分でもなんでそんなことを言ったのか判らないが、気がついたときにはそう口にしていた。話していた女子がいっせいに月子を見た。
「お、大人言うてよ。同い年の男子より数段素敵やわ」
「ふーん。私は若いのがいいな」
 月子の一言にもめげない朱梨を見るとなんだか、いらいらして、月子は不機嫌にそう言った。にしては、最近岸川が夢に出てきていない。
 なんだか、嫌な気分だ。そう思いながら、その場を後にした。月子が階段を下りていると、また田村の周りにまた女子が群がっているのが見えた。最近、毎日の如く目にする。そして、その度に、面白くない気分になる自分が月子は嫌になる。靴を履くときは、そのせいでいつも不機嫌絶頂であった。
「野乃原」
 田村の声が後ろからする。月子は無視して塾を出た。
(たらしのおじんなんて最低!)

 月子はとにかくイライラしていた。


「この教室、暑くないか?」
 田村が授業中、ワイシャツの袖をまくって言った。月子は、
「昨日、あまりにも寒かったんで、設定温度を上げたんです。二十度でしたよ。半袖の温度じゃないです」
 と飄々と答えた。
「みんな、寒かったのか?」
 みんなではなく、半々ぐらいだろう。
 月子は。解説中のプリントに視線を落として、
「先生は説明してますし、暑いですよね。すみません、経費の削減にもなるかと思ったんですが、明日からカーデガンを持ってきます」
 と冷たく言った。田村はそんな月子に、ちょっとうろたえながらも、
「じゃ、授業を再開しようか」
 と、黒板に向きなおった。
 なぜこんな態度をとるんだろう。月子は自分でも解らず、苛立った。

先生を生徒が囲むのなんて、見なれた光景だ。朱梨が、白い頬を桜色に染めて、先生の横で笑っている。羨ましい程可愛らしい。でも、朱梨は、月子の大好きな友達で。
(田村先生が悪いんだ)
 また、月子の思考がぐちゃぐちゃになり出した。岸川というパズルが出来上がっていたのに、最近壊れているのに気づいた。ピースがあちらこちらに散らばり、なかなか形が見えない。黄色ばかりのピースはなにを表しているのだろう。
(早く帰ろう)
 月子が靴を取り出した時だ。
「野乃原」
(いつまでもそこで談笑してればいいものを)
 月子は無視をして、靴を履く。
「野乃原、呼ばれたら返事はするものですよ」
 久しぶりに聞く、怒気を孕んだ田村の声に、月子も、
「はい、伺か?」
 と怒りをこめた声で振り返った。すると、驚いた田村の顔があった。
「い、いや、さようなら、と言おうとしたんだが。
私は何か君にしたのかね? 怒っているようだが……」
 月子の思考が、正常に動き出した。
(確かに、私、何でこんなに怒ってるんだろ)
 我に返って、月子はまじまじと田村を見た。互いに意味を計りかねて見つめ合う。
「まあ、思春期ってやつですかね」
 田村は笑って、その場をまとめた。そして、思い出したように、
「そうそう、一学期末、よく頑張ってましたね。前回の模試もよかったし、君には期待してるんですよ」
 田村は言って、ポンと月子の肩に手を置いた。
「!」
 月子は田村と田村の手を交互に見て、
「先生、熱、あるんじゃないですか?!」
 と叫んだ。田村はいぶかし気に月子を見て、
「はい? 私はありませんよ。君こそあるんじゃないか? 変だぞ?」
 と言うと、月子の額に手を当てようとした。
――瞬間。月子は思いっきり後ろに退がった。
「少し傷つきますよ、その反応は」
 苦笑した田村に、月子は、自分でも訳が解らないまま、謝罪をすると、塾を飛び出した。
(何? 何、今の)
 月子は自転車をこぎながら、田村が肩に手を置いたときのことを思い出していた。肩が熱い。あの時、塾のフロアが、急に広がって、二人だけになった気がした。そして、そのときの田村は、光を放っているように見えたのだ!
(私の頭は狂い出した)
 自分がおかしいのか田村がおかしいのか。間違いなく自分だろうと月子は思い、思ったものの、原因がやはり判らなかった。


 葡萄酒色の空には薄い三日月が浮いている。月は太陽に、太陽は月に、恋をしていると言ったのは誰だったか。永遠に叶わぬ恋。その月を見ていると、そんなことを思い起こさせた。月が泣いてる、と思ったのだ。
 その切なさを知ってる、と月子は思った。岸川の顔がぼやける。なぜ? 月子には判らない。
 相変わらず、数学の成績は安定していない。学校のテストはどの教科もいいのに。
 何かがおかしい。でもピースがまだ足りない。


 勉強は嫌いではない。むしろ新しいことを習うのは、どこかわくわくして好きだ。だが、近頃の月子はそう思えなくなっていた。塾では、中学分の授業がほぼ終了し、受験のための、いわゆるポイントまとめの授業が多くなってきたからかもしれない。面白いと思えなかった。それでも、学校や塾にいて、習っているときはいいほうだ。自宅に帰り、受験勉強をしようとすると、筆が止まる。とたんにやる気は失せて、涙が溢れてくるのだ。
(私、どうしちゃったの? スランプなの?)
 他の受験生は、今頃勉強しているに違いないと思うと、焦りばかりが月子を襲う。しかし、誰も助けてはくれない。自分しか、自分を救えないのである。
 仕方なしに、今日も月子は机へ向かう。やはり、捗らなかった。


 その日は塾のミニテストだった。どのくらい解けたかさえもよくわからないまま、階段を重い足取りで下りていると、またあの光景が目に入った。やはり、田村はどこか光を帯びていた。
(みんなにも光が見えるから、先生に群がるんだろうか? なんだか虫みたいね)
 心で皮肉を言いはするものの、目が田村ばかりを捕らえる。
(私はどうしたいと言うのだろう? まさか、あの中に入りたいの?)
 素直に好意を表している、少女たち。田村ファンクラブなるものか。馬鹿馬鹿しい、とはもう思えなかった。彼女たちは、理由は分からないにしろ、田村に何かを感じ、そばにいたがるのだ。
(でも、私はやっぱり嫌だ。あの中の一人になるのは嫌だ)
 やっと視線をそらすことができ、月子は、受付前の電話の受話器を取った。母に迎えに来てもらうよう、電話をしようと。この日に限って月子は携帯電話を今日は忘れたのだ。が。
(あれ、私の家の電話番号)
 何度か押してみようとするが、途中で分からなくなってしまう。相当重症だ。受験病、恐るべし、と思いながら、受付のお姉さんに番号を聞く。
 すると、突然頬の前に拳が突き出された。驚いて横を向くと、田村が笑っていた。
「自分の家の電話番号を忘れる人がいますかね?」
 月子は顔から火が出るほどに熱くなった。無視して、教えてもらった番号に電話をする。
「一人でうちに帰れますか?」
 子ども扱いの冗談に、月子はむっとして、
「迎えに来てもらうから平気です」
 と答えた。
「そのほうがいいですね。途中で事故にあったりしては大変です」
 まただ。このもやもやとした苛立ちはなんなのだろう。それは。
(先生が心配してるのは、私の脳みそのみだ、きっと!)
 そう、なんとなく分かってきてはいた。田村がやたらと月子にかまうこと。そして、それは月子の成績がいいからなのだ、と。
「脳みそだけは死守しますよ」
 冷ややかに月子は答えると、塾を出て、その表で車を待った。とたんに、蒸すような暑さが、月子を襲う。汗がじんわりと噴き出してきた。塾の涼しいフロアで待つほうが得策であることは判っていた。
(でも、あの光景を見るのはもっと嫌!)
 月子は油蝉の鳴く声が、四方八方から聞こえてくる中、暑さで自分の脳みそも溶けてしまえばいいと思った。


 夏の月は優しく見える。それは月の周りに見事なグラデーションが、できるからだ。黄色、緑、青、群青。月が膨張して見える。でもそれはある意味曖昧な印象も受けた。


 それからも、田村とそのとりまきを見ると、なんだか胸の中がもやもやして、自分がコントロールできなくなることに、月子はさらにイライラしていた。どうでもいいことだ。なのに、なぜこんなに苛つくのだろう。苦しいのだろう。月子は、その光景を見ないようにするがために、夏の間、家で捗らない勉強を、外が暗くなるまで塾でやって帰ることにした。


      2に続く……


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