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天音花香の小説をUPするブログです。個人サイトの小説はこちらに移しました。現在二時創作と短編を中心に書いています。
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天音花香
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性別:
女性
職業:
主婦
趣味:
いろいろ・・・
自己紹介:
小学生のときに、テレビの影響で、小説を書き始めました。高校の時に文芸部、新聞部で文芸活動をしました(主に、詩ですが)。一応文学部でです。ですが、大学時代、働いていた時期は小説を書く暇がなく、主婦になってから活動を再開。

好きな小説家は、小野 不由美先生、恩田陸先生、加納朋子先生、乙一先生、浅田次郎先生、雪乃 紗衣先生、冴木忍先生、深沢美潮先生、前田珠子先生、市川拓司先生他。
もう一つのブログでは香水についてレビューをしております。
http://yaplog.jp/inka_rose/
こんな私ですが、宜しくお願いします。





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こんばんは、天音です。

この小説ブログ、そしてもうひとつの香水ブログに載せている全ての作品の著作権は天音花香にあり、放棄しておりません。
無断転載、無許可の販売は禁止です。
某サイトにて著作権侵害、違法販売されていた私の作品の販売が停止されました。
FC2さまと応援してくださった皆様方のおかげです。本当にありがとうございました。



お久しぶりの更新で申し訳ございません。
しかも連載中の「白昼夢」ではない小説になり、これも申し訳ございません。
「白昼夢」はラストとその前のいくつかは書けているのですが、前回の続きの部分がまだ書けておりません。
少し苦戦しております。

息抜きに書いた短編をお読みいただければ幸いです。


ココから小説
 
 「ハチマキ」 side G


 「できたっ」
 作った全てのハチマキの端っこに「がんばろう!」と刺繍をして、私は針を机に置いた。
 体育祭のハチマキは男子の分も女子が作る。裁縫の得意な私の担当は10本。
 今年は好きな人と同じブロック。私の作ったハチマキが龍臣君に渡るといいな。

 体育祭当日。
 朝、私は部室で体操着に着替えて、ドアを閉めた。
 龍臣君の姿はすぐに見つけられる。男子の中でもとびぬけて背が高いからだ。その龍臣君が友だちと一緒に歩いてくるのが見えた。すれ違いざまにちらりとハチマキの端を盗み見た。
「あ!」
 がんばろう! の刺繍が見えて、私は思わず声を漏らした。私の縫ったハチマキだ。嬉しくなって口もとが笑むのを隠すために俯く。
「何?」
 上から声が降ってきて、私はびっくりして顔を上げた。
「俺、何かおかしい?」
 龍臣君だった。
「お、おかしくないです」
「笑ってなかった?」
 私はドキリとした。
「え、えっと、……思い出し笑いです!!」
 思いついた嘘を力いっぱい言うと、
「ふ、あはは。変な人」
 と龍臣君が笑った。
「あ」
 龍臣君が何かに気付いたように声をあげた。凝視されて恥ずかしくなって私は俯く。
「刺繍がある」
 と龍臣君は言った。私じゃなくて、ハチマキを見ていたんだ。なんだか自分が恥ずかしくなる。所在なげにハチマキを握って隠そうとすると、
「何で隠すの? 俺のにもあるんだ、その刺繍」
「俺のにはないんだよね」
 龍臣君の隣の男子が言う。
「ハチマキは女子が作ったんだよね? 一緒の刺繍ってことは早坂サンが作ったもの?」
 かあっと自分の顔が熱くなるのを感じた。
「そ、そうです……」
「ふーん」
 龍臣君は一度自分のハチマキに触れて笑った。
「がんばるよ。早坂サンもがんばって」
「う、うん! がんばる!」
 私は反射的に、そう大きく返事をした。心臓が早鐘を打って苦しい。
「じゃあ、またね」
 そう言って二人は去っていった。
(龍臣君とおそろいなんだ)
 私はかわした会話を反芻しながらハチマキに触れて微笑んだ。



   「ハチマキ」 side B


 ――「え、えっと、……思い出し笑いです!!」
 顔を真っ赤にして言った女子を思い出し、俺は思わず笑みをこぼす。
「何笑ってんだよ。気持ち悪ぃな。今日何度目だ?」
「悪ぃ悪ぃ」
 思い出し笑いばっかりしている変な人は俺だな。
「次リレーだろ? 余裕だな、龍臣」
 そうだったと思い出す。他人からは意外だと言われるが、実はあがり症である俺。なのにすっかり忘れていた自分に驚く。このハチマキをしていると何だか調子がいい。
「最後の競技だし、頑張るさ」
 言いながらハチマキをしめなおす。
「そういや、そのハチマキの刺繍の早坂さんって、あの早坂さん?」
「ああ」
 気になっている女子の早坂サン。
 ――「う、うん! がんばる!」
 俺を見上げてそう言った彼女の顔が浮かぶ。いつも一生懸命なところが、なんか可愛いと思う。
「よかったな、ハチマキ」
「ああ」
 俺は満面の笑みを浮かべて返事をした。
 


 今回はココまで。

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 ひさしぶりにほのぼのする短編を書くと楽しいです。
 学生だった日々が昨日の事のように思い出されますが、もうそれから大分経ってしまったことに愕然としますね。高校といえば文化祭と体育祭が凄く印象強いので、ついそのネタになってしまいます。
 この二人の続きは考えていません。皆様の想像にお任せします。


 ここまで読んでくださりありがとうございました。
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 それではまた!               天音花香 



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こんにちは、天音です。

お久しぶりです。今日は短編を一つ。
他にもいろいろ書きたいのはあるのですが、まとまった時間がとれず、また核エネルギーも不足しています。
でも、書きたい……。
のろまの更新になりますが、お付き合い頂ければと思います。



         落恋


ココから小説

 うちの大学の理学部Aに女子生徒は二人。一人は宮城香奈先輩。修士二年だ。もう一人は学部三年の羽鳥蘭先輩。
 香奈先輩は生真面目という他は掴みどころのない大人の女性。眼鏡がよく似合う。下戸だ。蘭先輩は竹を割ったようなさっぱりした性格の先輩。声が大きく、よく笑い、よく飲む。まあ、悪く言えば男のような女性だ。理学部Aにくる女性なのだからそんなものなのかもしれない。もちろんそんな二人を女性として見たことはない。申し訳ないけれど。

 理学部Aの酒好きメンバーといえば決まっていて、修士二年の名岸亘先輩、学部四年の川野浩史先輩。そして、蘭先輩と僕、山口修だ。教授のゼミが終わったり、実験がひと段落するとよくこの四人のメンバーで飲みに行く。いつものことだ。
 


 少しの頭痛を感じて僕は目をうっすらと開けた。カーテンの隙間から差し込んでいる朝日が眩しい。
「んんん……」
 なんだか身体が痛い。
「ん?」
 いつもは布団で寝ているのだが、なぜかこの日はソファーの上で寝ていたようだ。
「ん……」
 固まった身体をほぐしながら目をこすって僕は硬直した。少し離れたところに布団がひいてあって、女性が寝ている。朝日が首元を照らしていて、すけるように白い肌が輝いていた。蘭先輩だった。そうだ。蘭先輩は色が白い女性だった。
 僕は慌てて自分のかけ布団の中を探る。よかった。ちゃんと履いている。
 昨日の晩は……。慌てて記憶を手繰り寄せる。
 金曜の夜で、いつものメンバーで飲んでいた。だが、昨日は珍しく蘭先輩がベロベロに酔っ払ったのだ。
「お前送っていけや。俺たちはまだ飲むから」
 亘先輩に言われて、僕はしぶしぶ蘭先輩を送ることになったのだった。
「蘭先輩、先輩のうち、どこですか? タクシー拾いますから」
「あっち!」
 無邪気な笑顔を満面に浮かべて言われて、僕は戸惑ってしまう。こんな人だっただろうか? 
「あっちじゃ分かりませんよ」
「あっち~!」
 自分でまともに歩けない蘭先輩に肩を貸して僕はため息をつく。
 この時間でこんなに酔っている人は回りには見当たらない。
「しゅう君~。私院に行きたいんだ~」
 唐突に言われて意味がわからなかった。
「いん?」
「うん。大学院」
「ああ、大学院ですか。そうなんですか」
「でもね~、うちの両親は反対なの~」
 何がおかしいのかケラケラ笑いながら蘭先輩は続ける。
「なぜです?」
「うちの実家田舎でさあ~、女は早く結婚しろ、みたいなのがあるのね~」
「え?」
 なんだか驚いた自分に驚いた。女の行き方の一つとして結婚があるのは分っているのに。蘭先輩はまだしないような、そんな勝手な印象を抱いていた。
「あ、相手がいるんですか? 幼馴染とか?」
 僕の言葉に蘭先輩は驚いた顔をして、また笑い出した。
「いるように見える~? あははは! いないいない~! どうせお見合いでもさせられるんだよ~」
 蘭先輩は笑ってはいるけれど少し悲しそうに見えて、なんだか僕は複雑な気分になった。
「しゅう君~、お酒って美味しいよね~! ねえ、私まだ飲み足りない~、あはは~!」
「そんなふらふらな状態で、飲み足りないじゃないです。だめですよ、もう」
「ええ~、しゅう君のいじわる~」
「家に帰りましょう。ほら、住所ぐらい言えるでしょ?」
「うん! ○○県○○市~」
 大学の県ではなかった。きっと実家の住所だろう。
「違いますよ。今住んでいる住所です」
「今? うんとね……。
き、気持ち悪い……」
「えええええ!?」
 お約束のように急に具合の悪くなった蘭先輩に僕はあたふたした。
「は、吐きますか?」
「う、う……」
「ちょ、ちょっと待ってください! トイレ、トイレ……」
 そういえばすぐ近くに公園があったはずだ。
「公園の公衆トイレに行きましょう。待ってくださいよ?」
 僕は蘭先輩を抱えるようにしてトイレに連れて行った。
 トイレで背中をさすり、そして、吐くだけ吐かせて、口をすすがせ……。やっと蘭先輩を公園のベンチに横たわらせて、僕は脱力した。
 はあ……。とんでもない日だ。
「蘭先輩、大丈夫ですか?」
「う……」
 蘭先輩はぐったりとして、そしてなんだか眠そうだった。
「駄目です。ここで寝たら風邪ひいちゃいます」 
 9月も下旬になって、夜は急に冷え込むようになった。僕は蘭先輩の肩を揺さぶりながら声をかける。
 それでも蘭先輩はうとうとして、返事もしなくなった。
 僕は星空を見上げて、大きなため息をついた。



 そうだ。それでうちに連れてきたんだ。
 いつも僕が寝ている布団に蘭先輩を寝かせて、僕はソファーに横たわったところで記憶が曖昧になっている。
 なんだか大変だったけれど、普段のしっかりとした蘭先輩とは違った意外な一面に可愛らしさも覚えたような気も、する……。
 だからだらうか? 蘭先輩の首筋の白さがなんだか艶かしく見えて、落ち着かない。
「……」
 寝ている女性をまじまじと見つめるなんて悪趣味だとは思いつつ、目が離せない。寝汗をかいたのか、前髪が額に張り付いている。なんだか心臓がうるさい。
 えっと、こういうとき、どうしたらいいのだろう。
「んん……」
 蘭先輩が寝返りをうつ。そして目をゆっくりと開けた。まだどこか眠そうだ。その眠そうな目が僕を捕らえる。
「……?」
 ボーっと僕を見る。
「おはようございます」
 僕は声をかけてみた。蘭先輩のうつろな瞳に光がさして……。
「!?」
 蘭先輩の大きな目がさらに大きくなり、うっと呻いて頭を抑えた。きっと二日酔いで頭痛がするのだろう。蘭先輩は昨日のことを覚えていないのか、混乱したような表情で辺りを見回し、そして。
 ……!
 反則だと思った。
 蘭先輩の白い頬が一瞬で桜色に染まった。蘭先輩がこんな顔をするなんて。
「え、えっと……」
 蘭先輩は僕の目を気にしつつ自分の服を確認して、とりあえず、
「あ、あはは」
と笑った。
 僕もつられて笑ってみせる。なんだか気まずい時間が流れた。
「……昨日は……」
 蘭先輩はよほど頭痛が酷いのか、顔をしかめながら考え込んでいる。どうやら思い出せないようだ。
「えっと……。
私、帰るね!」
 そう言って勢いよく立ち上がった蘭先輩は、一歩踏み出して見事に布団を踏みつけ、その場に倒れた。
「きゃ!」
「……」
「……」
「……大丈夫ですか?」
「……い、痛い……。
でも大丈夫!」
 蘭先輩は気丈に言ったが、力が入らないのかなかなか起き上がれないでいる。 
 なんだか可愛いと思った。
 蘭先輩を起こすために僕は近づき、両手を掴んで、とりあえず座らせた。
「あ、ありがと……」
 蘭先輩のいつもつけている香水の香り、そして、ほの甘くて温かい女性の香りが鼻をかすめる。
 女の人ってこんなにいい香りだったんだ。昨日はなんだか大変で気付く間もなかった。
「しゅ、しゅう君?」
 掴んでいる手首の細さが、ひんやりとした体温が、なんだか心地よい。そして、やっぱり白い首筋に目がいってしまう。
 まずいなと思った。触れて見たいと思ってしまった。思ったときには、右手で首筋を撫でていた。温かくて吸い付くような白い肌。
「しゅ、しゅう君?!」
 いい香り……。
「……」
 鼻腔を刺激された僕は誘われるように蘭先輩の首筋を舐めてしまっていた。ほの甘い味がする。
「ひゃっ! ちょ、ちょっと、しゅう君!」
 蘭先輩の自由になった右手が僕の頭をポカリと叩いた。僕はそれで我に返った。
 しまった。これじゃ、単なる変態だ。
「え、えっと ……」
「……」
「す、すみません。まだ酔ってるのかも……」 
「そ、そう……。私もなんだか二日酔いで、頭が痛い。
あの、左手。手首痛いから、放してくれる?」
 耳まで赤くした蘭先輩が遠慮がちにそう言った。口からアルコールの香りがした。
 いわれて、なんだか寂しく感じた。手を放したら蘭先輩は帰ってしまう。
「しゅう君?」
「あ、すみません」 
 左手を放す。
「昨日は、迷惑をかけたみたいで、ごめんなさい。ありがとう」
「いえ……」
 ふらつきながらも蘭先輩は一人で立ち上がった。
「大丈夫ですか? 送っていきましょうか?」
「大丈夫。
といいたいところだけど、ここがどこだかわからない。知っている駅までお願い」
「はい」
 僕たちは朝日の中を無言で近くの駅まで歩いた。すずめの鳴き声が平和な朝を演出している。おぼつかない足取りなのに、手をかりようとしない蘭先輩はいつもの蘭先輩だ。だけど、そんな姿までもが今は可愛いと思えた。
「駅ね。ありがとう」
「いえ……」
「昨日のことは……記憶がないの。しゅう君も忘れてくれるとありがたい」
「……はい」
 今日を含めて忘れることなど出来るわけがない。
「じゃあ、また研究室でね」
「はい」
 地下鉄の駅への階段を降りていく蘭先輩を見送りながら、やっぱり僕は寂しさを感じていた。
 研究室で、か。そう、だよなあ……。
 きっと何もなかったような毎日がまた始まるのだろう。
 でも。


 月曜日。
「送り狼にならなかったか?」
 亘先輩がからかうように耳打ちしてきた。
「え、えっと……。未遂、でしょうか?」
「え!? マジかよ!?」
 あの蘭に!? という顔で亘先輩が返してくる。
「意外に可愛いところもありますよ」
 そう言った僕に、亘先輩は信じられないように笑っている。
「蘭にねえ」
「落としにかかるので、邪魔しないでくださいね」
「しないしない」
 ライバルが増えないうちに彼女にしなければ。それも蘭先輩が結婚させられないうちに。
「おはよう~」
 金曜の夜とは別人の、普段の蘭先輩が研究室に入ってきた。
「おはようございます!」
 僕は満面の笑みで蘭先輩に挨拶をした。

                                    了

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 今日はこのくらいで……。



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                           天音花香

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こんにちは、天音です。

年が明けましたね。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。

今日は雪を題材にした短編を書きます。
         

ココから小説

         雪女




 雪が降った。

 セーラー服の上にウールのガーデ。さらにその上に紺のコート。
 長靴だけが浮いてる。
 雪が綺麗なのは朝だけ。
 車のタイヤや足跡で溶けて黒く変わっていく。
 それにしてもこんなに積もるのは珍しい。
 降っても翌日には溶けてなくなるほどにしか毎年降らないのに。

 ザクザクと音をたてながらバス停へと向かう。足の感覚がなくなっていた。半ばヤケになって足をすすめる。雪が積もっても大変なだけだと私は思った。

 あ。

 バス停には先客がいた。
 羽生君。
 見間違えるはずなんかない。でもどうして?
「あ、永野さんだ。今、帰り?」
 初めて私だけに向けられた笑顔が眩しくて、私は俯く。
「うん。」
 ほんとはずっと見てたいのに。恥ずかしくて顔が上げれない。
 私、変な格好してないかな。
 急に気になって、そわそわと三つ編みを触る。
「俺も今、帰りなんだ。バスって少ないのな。いつも自転車だから知らなかった」
 そうだ。羽生君はいつも自転車で学校に来ている。
「座れば?」
 羽生君が腰掛けていたベンチは小さくて。隣りに座ると肩が触れたままになった。
 神経が全部肩にいくような感覚。酷く熱い。
「よく積もったよなあ。明日、溶けるかな」
「どうだろうね?」
 内心溶けなくていいと思った。
 薄暗くなった辺りに私と羽生君の息が白く残る。火照った頬に冷えた空気が気持ちいい。
「バスあと十分だ」
 永遠にこなければいいのに。
 恥ずかしいような嬉しいような、複雑な気持ちで心臓が痛い。苦しいくらい。でもそれでも一緒にいたい。
「寒くない?」
「うん。たくさん着てるから」
「でも、マフラーないよ?」
「あ、忘れてきちゃった」
「永野さんのバスは何時?」
「後二十分ぐらいでくる」
「じゃ、これ貸すよ」
「で、でも!」
「はい」
 にこっと人懐っこい笑顔を向けられて、私は何も言えなくなってマフラーを受け取った。
 羽生君は誰にでも優しい。だから勘違いしちゃいけない。でも。やっぱり嬉しい。
 羽生君のマフラーを私が巻いてるなんて、嘘みたい。
 なんだか口がほころぶのを必死で抑えた。
「あ、バスが来た。
また明日ね、永野さん」

 バスに羽生君が消えて、私の隣は急に寂しくなった。
 でも今でも触れていた肩は熱を持っている。
 今日、初めて知った。
 羽生君は笑うと右だけに小さなえくぼができるんだ。
 思い出して、私は微笑む。宝物を発見したような気分。
 貸してくれたマフラーに両手で触れる。自分でない匂いをほのかに感じて、トクンと心臓が跳ねた。
 なんて幸せな日だろう。

 雪は好きじゃない。
 でも羽生君を独り占めできるなら、毎日でも降って欲しい。

 ふと思いついた。雪女になら雪を降らせられるかな。そうなら雪女になりたいな。

 明日も雪になあれ。



                         了

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こんにちは、天音です。


自分は一目惚れをしたことはありません。
けれどそういう恋もしてみたかったなとは思ったり(笑

ということで、今回は、一目惚れをお送りいたします。
         

ココから小説


         一目惚れ




 空にはたくさんの白い雲。煩いほどの蝉時雨。夏のこんな暑いときになんで私は自転車をこいでるんだろう。

 私、山崎 鈴歌14歳。今年初めて学習塾の夏期講習に行くことになった。
 私は勉強が好きでなかったし、塾に行きたいなんてちっとも思っていなかったけれど。
 友達の少ない私の唯一の友達の沙織は頭がよくて、進学塾に中一の頃から通っている。私はそんな進学塾には通えないので、とりあえず学習塾の夏期講習になったわけだ。
「行きたくないな……」
 引っ込み思案で自分から話すのが苦手な私。塾に行っても友達もできる気がしなかった。かといってこのままどこかへ行くだけの勇気もない。
 私はため息をひとつついて、自転車をこぐ脚に力を入れた。

 
 塾のクラス案内を見て、二階の教室に向かう。どの教室もざわついていた。
 私は教室の番号を確認して、自分の教室のドアを思い切って開けた。
 生徒が意外にも多くて、ほとんど席が埋まっていた。私は開いている席で一番ドアに近い席についた。
 そのとき。
 カタンと何かが落ちる音がした。私は慌てて振り返る。隣の席の男子の筆箱が落ちていた。
「ご、ごめんなさい」
 私はあわてて筆箱と筆箱から落ちたシャーペンを拾った。
「別に、大丈夫」
 そう言った男子の顔を見て。私は一瞬言葉を失った。
 一目ぼれなんて絶対自分はしないと思っていた。
 私は目がチカチカするような感覚を覚えて何度か瞬きをした。
 どこにでもいそうな男子なのに。なんだかその男子が特別に見えたのだ。
 慌てて目をそらして、もう一度席に座る。かばんから筆記用具と携帯電話を取り出して、意味もないのに携帯電話のメールチェックをしてみたりした。
「携帯」
 隣のその男子が小さく言った。
「俺のと同じだ」
 言われて見ると、確かに同じ機種だった。色も白で同じだ。私はわけもなくどきどきした。
「本当だ」
 声が裏返った。恥ずかしい。
「どこ中?」
「西中」
「ふうん。俺は中央」
「ふうん」
 私は目をうろうろさせながら答えた。まともに彼の顔が見れなかった。そして、気の利いたことの言えない自分にがっかりした。
「俺、秋山 祐樹。あんたは?」
「え!?」
 私はうろたえた。
「名前だよ」
「あ、うん……。山崎 鈴歌」
 名前を訊かれるとは思っていなかった。心臓が煩い。頬が熱くなる。
「山崎さんはこの塾初めて?」
「うん」
「俺も」
 秋山君は初めてちょっと微笑んだ。また目がチカチカした。
「ま、よろしく」
「う、うん」
 身体中が熱い。私はうつむきながら返事をした。
「赤外線でアドレス交換しよ」
「ええ?!」
 私の声が高く響いて、私は慌てて口を手でふさぐ。なんだろう、この人軽い人なんだろうか。
「携帯貸してよ」
「う、うん……」
 私はおずおずと携帯を渡した。
「はい、送ったから」
「えっと、うん。ありがとう……」 
 私の返事と同時に教室のドアがガラリと開いて、先生らしき男性が入ってきた。
「はい、授業始めるぞ~。
その前に。授業中は携帯電話は鞄の中にいれておくようにな~」
 先生の言葉に私は慌てて携帯電話を鞄にしまい、秋山君はゆったりとした態度で携帯を鞄に入れた。



 学校の授業より退屈ではなかった。それが塾初日の感想だが、正直授業はほとんど頭に入っていなかった。隣の秋山君と、秋山君のメルアドの入った携帯電話が気になって。
 その日の授業が終わった後、秋山君は、
「じゃあね、山崎さん」
 と言って、すぐ教室を出て行った。後を追うように教室を出ると、他の教室から出てきた男子と一緒に話しながら秋山君は階段を降りていくところだった。
(なんだ、友達が塾に来てるんだ)
 自分と同じように知人がいなくてひとりぼっちだと思っていた私は、勝手に面白くない気持ちになった。  
 その夜、携帯を片手に私はベッドの上で体育座りをしていた。メールを送っていいのだろうか。送るとしたらなんて? それより、自分から交換してきたんだから、メールぐらいしてくれてもいいのに。
 時計の針が0時を回った。結局秋山君からメールは来なかった。私もメールを送ることはできなかった。なんだか疲れて私はベッドに入った。

 翌日。私はどの席に座ろうか迷ったが、結局昨日座った席に座った。すると、
「暑いな。自転車だと汗だくになる。教室はエアコンが効いてて助かる」
 秋山君の声が降ってきた。とっさに見上げると、秋山君が隣の席をひいて座ろうとしていた。
 えっと、私に言ったのかな……。
「何で来てる?」
 秋山君の目が私を見ていた。私は目をそらそうとしたけれどできなかった。ずっと見ていたいと思った。
「……」
「聞いてる?」
「う、うん。自転車、私も」
「暑いよな。自転車」
「そうだね」
「なんか疲れてる?」
 心臓がはねた。
「う、うううん」
 急いで首を左右に振った。
「そ? なんか目が眠そう」
「え?! そ、そうかな? えっとちょっと夜更かししちゃったかも」
 目をこすった私に秋山君はくすりと笑みをもらした。
「やっぱり? そんな顔だよ。先生に当てられないといいな」
「う、うん……」
 計ったように先生が入ってきて、私は口を閉じた。秋山君も前を向いた。

 夏期講習の間、私も秋山君も同じ席のまま毎日を過ごした。
 秋山君が私には分からなかった。親しげに話しかけてくるのに、帰りはさっさと帰ってしまうし、毎日携帯とにらめっこしていても一向にメールもしてくれない。何のためのアドレス交換だったのだろう。
 そして、夏期講習の終わりの日が来た。
「おはよう」
「おはよう」
 秋山君から声をかけてくるのにもやっと慣れた頃なのに。
「今日で最後だな」
「……そうだね」
「学校はエアコンないから暑いだろうなあ」
「そうだね」
最後の会話になるかもしれないのに、話題はエアコン……。なんだかため息が出た。
「どうかした?」
「う、うううん。別に」
「ふうん。また寝不足か?」
 秋山君は私の目をじっと見つめながら話しかけてくる。誰にでもそうなのだろうか。
「大丈夫」
「そっか」
 その日も何事もなく時間は過ぎていき、塾は終わった。
 夕焼け雲の中を自転車をこぐ。秋山君の顔を思い出してなんだか切なくなった。秋山君は中央中。もう会うこともないなんて。茜色の空が滲んだ。


 その日の夜はなかなか眠れなかった。明日から学校なのに、学校のことは考えられなかった。でも携帯は机に置いたままだ。どうせメールもこないだろうし。メール……。
 ……メール、してみようかな。来ないならしたらいいんだ。どうせ会うこともないんだから、と思うとなんだか勇気もでる。だめもとで……! でもなんて送ろう。
 私は携帯を手にとってメールの画面を出した。
「うーん」
 好きですという言葉が浮かんで、私は一人赤面した。秋山君のこと何も知らないのにどうして好きっていえるんだろう。でも、一目見たときから私は恋に落ちちゃったんだと思う。でもでも、いきなりメールでそんなこと……。
「また会いたいな、ぐらいかな」
 どこで会うつもりなんだ、と思うとこれも違うかと打った文字を消去する。
「塾は終わったけど、また会えるといいね」
 これぐらいならいいかな。無視されてもくじけないようにしないと。と思って送信を押そうとすると、電話が鳴った。
 電話の相手が画面に表示される。その字を見て、私は心臓が止まりそうになった。
「はっ、はい!」
 秋山君だった。
「もしもし。今大丈夫? 寝てなかった?」
「全然大丈夫!」
「そう」
「う、うん」
 電話から秋山君の声がするのは新鮮で、そして照れくさかった。
 不自然な沈黙が流れる。
「……あのさ」
「うん?」
「山崎さんも二学期も塾くれば?」
「え?」
「俺、二学期からもあの塾通おうと思って」
 頭の中に?マークがたくさんになって、私はなんて答えたらいいのか分からなかった。それはつまり……。
「……学校が違っても塾で会えるから」
 不機嫌そうな秋山君の声に、私は何か悪いことをしたのかとおろおろして内容が頭に入ってこなかった。
「聞いてる?」
「えっと、塾の話だよね」
「そうだけど、そこじゃないよ。大切なのは」
「そうなの?」
「だから、塾で会おうなってことだよ」
 秋山君の怒ったような声。ようやく私は何を言われているのか悟った。頬がかっと熱くなった。会えるといいねとメールしようとした私。そんな私に秋山君は会おうと言ってくれたのだ。なんだか夢みたい。
「会えるの? 塾に行ったら秋山君に会えるの?」
「そ、そう。そう言ってる」
「だったら、行く! お母さん説得する! 多分行けって言われる!」
「お、おう」
 また沈黙……。
「べ、別に誰にでも言ってるわけじゃないからな」
「そうなんだ」
 私はなんだか身体が宙に浮いているような心地だった。
「電話、凄く嬉しいよ。
でも、なんでメールとか今までくれなかったの?」
「いや、送ろうとはしたけど……」
 また怒ったような秋山君の声。そうか、この怒ったような声は照れている声なんだ。そう分ったとき、私はなんだか嬉しくて顔がにやけるのを止められなかった。
 メールを打っては消している姿の秋山君を思い描くとますます顔がニマニマした。
「私、さっき送ろうと思ってたんだ。そしたら電話がきたの」
「そうなの? アドレス教えたのにそっちも全然送ってこないから、関心がないのかと思ってた」
「そうなんだ」
 私たちは笑いあった。
 秋山君も私と同じ気持ちなんだろうか。そこまでは分らない。でも、関心がないわけじゃないんだ。会いたいと思える存在なんだ。それだけで今は十分だった。
「それじゃあ、また塾でな」
「うん。えっと、メールもする」
「おう」
 電話を切ってからも耳が熱かった。秋山君にまた会える。それだけでこんなに嬉しい。そうだ、お母さんに早く塾について言わなきゃ!
 私は慌てて二階の自室から階段を降りて台所のお母さんのもとへ向かった。


 
                         了


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                           天音花香

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こんにちは、天音です。

暑いですね。もうなんだか脳みそまで溶けそうな感じです。
皆様、熱中症には気をつけてくださいね。


今回は「失恋」をお送りいたします。
私自身中学生のとき、既婚者の塾の先生が好きだったので年上好みだと思います。主人も二歳年上ですしね。
不倫はしたことないですけれど……。
なんだか私の小説ってちゃんと恋が発展しないなあ。
少し長めのを書いたら違うのかもしれないけれど、今はそんなパワーがなかったりします。



         

ココから小説


         失恋




 今日は久しぶりに残業をしている。仕事が押しているわけではない。家に帰りたくないのだ。
「珍しいですね。五島さんが残業されるなんて」
「そう? 花田君もお疲れさま。仕事終わらないの?」
「……ええ。まあ」
 私は今年三十になった。結婚の予定はないし、今は考えられない。花田は確か二十六歳だったか。まだ仕事に熱意を持っている真面目なタイプの後輩だ。
「課長と何かあったんですか?」
「!」
 花田の突然の言葉に私はドキリとした。


 私が結婚を考えられないのは、好きな人に家族がいるからだ。
 昔から年上の男性に憧れた。そして、いつしか所帯をもつ男性の落ち着いた雰囲気に魅力を感じるようになった。でも一線はこえないできた。
 武田課長は三十九歳。私とは十近くも年が離れている。娘さんが二人いる。
 最初はいいな、と思っただけだった。どちらかというと静かなタイプで、でも笑顔が多い、部下からも優しい上司と慕われる武田課長。
 一度昼食を二人で食べたときがあった。そのときに武田課長は煙草を吸う人なんだと初めて知った。
「ごめんね。吸っていいかな?」 
 食後に困ったような笑顔で言われて、
「どうぞ」
 と答えた。
 少し横を向いて火をつけ、目を細めて煙草を吸う武田課長の、指や吐き出される煙に魅入ってしまった。
「禁煙中なんだけどね」
 自分の前で煙草を吸ったということがなんだか心を許されているような気がして嬉しかった。その日の私はその後とにかく武田課長の 行動を目で追っていた。静かな瞳で見られると、心臓が高鳴った。それでも憧れを超えないだろうと思っていた。
 だが、夜に武田課長の夢を見るようになって、私はすでに武田課長に恋していることに気が付いた。その頃には事務所にいるときは常に武田課長を全身で感じとろうとしていた。そして、よく見つめていたのだろう。武田課長は気付いたようだった。
 二人で昼食をときどき食べるようになった。武田課長は毎回煙草を吸っていた。
「夕食、一緒に食べようか?」
 廊下ですれ違うときに笑顔でさらりと言われ、私はどきどきした。
 それ以来、二人で夕食を食べる日が増えた。夕食だけ。夕食だけと自分に言い聞かせた。それが、夕食後ときどき二人でバーにいくようになった。
 高揚感と罪悪感の狭間でたゆたう。夢を見ているような奇妙な感覚。でもそれが心地よくそして苦しかった。
 課長と私は言葉を多く交わすような仲ではなかった。ただ、一緒にいるだけでしっくりいくような、それでいてドキドキする……。
 この人には家族がいる。そう毎日心に言い聞かせていた。だからお酒を飲むだけ。もう
 これ以上は望んではいけない。



「そんな悲しい顔はしないで」
 ある日武田課長に言われて私は驚いた。
「君は僕といるとき、不意に悲しそうな顔をする」
 それは……。
「君から見たら僕はおじさんじゃないの?」
「違います」
 課長は困った顔で笑った。
「僕は家族を大切に思っている」
「そうだと思います」
「でもね、君のそういう目を 愛おしいと思うときがあるんだ。だから言い出せないでいた」
 不意に抱きしめられて私の心臓は跳ねた。
「いつになったら諦めてくれる? 僕は君に想われるような魅力はない」
 苦しくなった。涙が出た。
「諦めるなんて、できません」
「そう言われると僕も辛い。君には幸せになってほしい。でも僕では幸せにはできない」
 そう言っているのに、課長の腕には力がこもった。
「私は課長が好きなんです。お願いです、想うことだけは許してください」
「それじゃあ、君が哀れだ」
「哀れと思うなら、今晩一緒に居てください!」
 武田課長は私を腕から離して、私の目を見つめた。その目には葛藤があった。
「一度だけでいい。私と一緒にいてください」
 課長が頭を振る。
「それは、できない」
「お願い、お願いします!」
 泣きながら言う自分をみっともないと思った 。でも、それでもこの人が欲しいと思ってしまった。
 課長は天を仰いで目を瞑った。
「この感情をなんというのか。確かに僕は妻を愛しているし、娘を愛しているのに……」
 苦悩に満ちた声だった。
「近づけば離れていくと思った。君の一時の想いだと」
「だから一緒にご飯にいったんですか!? バーに誘ったんですか!? そんなのあんまりです!」
「すまない……。すまない……。君にこんな想いをさせることになるなんて」
 課長の目からも涙が一筋こぼれた。私は課長に抱きついた。
「謝らないで下さい! 私が、悪いんです。課長に家族がいると知っていて好きになってしまったのですから!」
 課長は私を抱きしめ返した。そして私の唇をふさいだ。
 

 カーテンから射す光に目を覚ました。横では課長が眠っている。
 優しい優しい愛撫を全身が覚えている。幸せだった。
 自分から望んだこと。それでも。悲しい。
 課長の寝顔が愛しくて、頬に口づけた。
「ん……。ああ……。おはよう」
「おはようございます」
「……」
 課長はゆっくりと起きた。そして、私をじっと見た。
「これでよかったの?」
「……はい」
「僕は君を哀れんで寝たわけではない」
「……、は、はい」
 課長の顔が滲む。
「この気持ちをどういうかはわからない。でも、愛の一つだと思っているよ」
 課長の指が私の髪を優しく梳いた。
「ありがとうございます」
「でも、これ以上は……」
「わかっています」
「君といると君を好きになっていく。でも、僕は家族に幸せなままでいて欲しい。君への気持ちがあるからこそこれ以上一緒にいられない」
「はい 」
「君も幸せになってほしい。心から思うよ。でも、やっぱり僕とではない。分かるね?」
「……っ」
 言葉がつまった。
「っそれでもっ、それでもしばらくは課長を想っていてもいいですか? もう少しだけ時間を下さい。もう何も望まないから!」
 課長は私を抱きしめた。
「すまない。本当にすまない。でも、もう今後はただの課長と部下だ」
「っ……っ」
 私は嗚咽を堪えきれずに課長の胸で泣いた。



 それが先週のことだ。
 課長はあくまでも優しく私に接してくれている。一部下として。
 夕飯も一度だけ食べた。けれどその後飲みにいくことはなかったし、以前あった空気はもうそこにはなかった。部下を気遣う心しか感じ取れなかった。

 
「なんでそう思うの?」
 突然きいてきた花田に私は動揺を隠しながらそう答えた。
「なんでだと思います?」
「さあ?」
 私はあくまでしらをきり通した。
「ばればれですよ?」
 心臓をぎゅっとつかまれたような気がした。
「は、?」
 花田が席をたった。そして私の席にやってくる。
「……何を知っているの?」
「五島さんと課長のことです」
「課長と? 何を言ってるの?」
 息が苦しい。私と課長の事 は事務所中に知れ渡っていたのだろうか。そんなことになっていたら……!
「五島さん、今週元気ないですよね。今日だって目が腫れてますよ」
「……別に。体調が悪いだけよ」
 花田が私の机を叩いた。
「僕は! 上手く行っているならそれでいいと思っていました。そういう幸せがあるなら、それも一つの道なんだと」
「何言ってるの?」
「五島さんが課長の事を好きだって知ってます!」
「な?! なんで!?」
 思わず声が出てしまった。
「……皆にばれてるの? 私の気持ち……」
 不安になって花田にきいてしまう。
「いや、たぶん皆は気付いてないです」
「そう……。よかった……」
 少し安堵して私は息をついた。そして我に返る。
「じゃあ、なんで花田君 は知ってるわけ!? どこまで知ってるの!?」
 私の言葉に花田は目を吊り上げた。
「なんでわからないんですか!?」
「???」
 花田の言葉は全く理解ができなかった。この状況で何をどう分かれというのだろう。
「僕が五島さんを好きだからです!」
 花田が怒鳴るように言った。その言葉は私の頭をすり抜けるように吹いて行った。
「……」
「意味分かってます?」
「……」
 花田は一度ため息をついた。
「僕は五島さんが好きなんです」
 そしてそう言った。
「花田君が?」
 私は半分理解したようなしないような微妙な感じだった。
「そうです。だから、五島さんが課長を好きなのが分かったんです」
「そうなの……」
 私は他人事のように呟く。
「ああ、もう!」
 花田が強引に私を抱きしめた。若い力には容赦がなく、また微かなタバコの香りもない。課長のような包容力を感じられない。そう一瞬で思って、課長の身体を思い出して、私の目には涙が浮かんだ。
「五島さん?」
花田が抱きしめていた力をといて、私の顔を見た。その花田の顔が歪む。
「どうして課長じゃないとだめなんですか? 年上だからですか?!」
 それもあるだろう。でも、私は課長を好きになったのだ。そよぐ風のようにさりげなく優しい武田課長。
「好きになるのに理由なんてない。だって好きになってから気づいたのだもの」
 私の言葉に花田が一瞬口をつぐむ。
「っ。でも、僕だって五島さんを好きになってしまったんだ!」
「おばさんだよ? 私」
 そう言って、私ははっとした。課長と同じことを私は言っている。でも花田への想いは私には微塵もない。課長は? 課長はどうだったのだろう。愛の一つだと言ってくれたけれど……。
「……さん。聞いてますか?五島さん」
「え?」
 花田は泣きそうな顔をしていた。
「途中でまた課長のことを考えていたんですね。僕の想いなんてこれっぽっちも届いていない」
「ご、ごめん……」
「いいです。そういう残酷なまでにまっすぐなところ、好きなんです。僕には五島さんがおばさんには見えません」
「……ありがとう。ごめんね」
 どうしてこう、うまくいかないんだろう。課長が奥さんに出会うまでに出会えたら、私と課長は結ばれていただろうか。好きになっていただろうか。
 わからない。
 もっと遅く生まれていたら、花田のことを好きになることもあっただろうか。
 わからない。
 年の差じゃないのだ。年上に憧れるのと好きになるのは違う。私は今の課長を好きになったのだ。
「本当にごめん……」
 私は課長のように何もなかったようにはできない。まだまだこの想いを引きずるだろう。 花田の想いに応えることはできない。
「仕方ないことなんですよね。僕も頭ではわかっているんです。
そうだ、五島さん、今日は仕事やめて、飲みましょう!」
「花田君仕事があるんじゃないの?」
「えっと、実は五島さんと二人になれそうだったから残ったんです」
「……そうなの?」
「二人でぱーっと飲んで嫌なことを忘れましょう!」
 私は複雑な気持ちになった。
「それで花田君は気が晴れるの?」
「っ。痛いところ付いてきますね。いいじゃないですか。晴れるかもしれない!」
 飲むのもいいかもしれない。お互い失恋同士。
「一人で飲むよりかはいいかもね。酔いつぶれたら置いて帰るから」
「五島さん冷たいですね」
 私たちは事務所を後にして、近くの焼き鳥屋にいった。
「僕はですね~、五島さんの一番になりたかったんですよ~」
「はいはい」
「でも、しばらくは無理そうなので、一番の友達になります~」
「先輩捕まえて友達ってどうなの?」
「いいじゃないですか~。なんでも相談にのりますよ~」
「こんな調子じゃ相談したくないわね」
「またまた~」
 つぶれるまでは飲んでいないものの、酔っ払った花田をタクシーにのせて、私は近くの地下鉄の駅まで歩いた。
 なるほど。酒を飲むと少し心が軽くなった。
 しばらくはこのままでいいと思えた。私が勝手に課長に横恋慕していてもいいじゃないか。迷惑さえかけなければ。
「でも不倫はもうこりごりね」
 つぶやいく。
「次は生産的な恋をしよう」
 

 花田と私が恋人として付き合い始めるのはこの日から二年も先のことだ。
 




 
                         了


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