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天音花香の小説をUPするブログです。個人サイトの小説はこちらに移しました。現在二時創作と短編を中心に書いています。
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天音花香
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女性
職業:
主婦
趣味:
いろいろ・・・
自己紹介:
小学生のときに、テレビの影響で、小説を書き始めました。高校の時に文芸部、新聞部で文芸活動をしました(主に、詩ですが)。一応文学部でです。ですが、大学時代、働いていた時期は小説を書く暇がなく、主婦になってから活動を再開。

好きな小説家は、小野 不由美先生、恩田陸先生、加納朋子先生、乙一先生、浅田次郎先生、雪乃 紗衣先生、冴木忍先生、深沢美潮先生、前田珠子先生、市川拓司先生他。
もう一つのブログでは香水についてレビューをしております。
http://yaplog.jp/inka_rose/
こんな私ですが、宜しくお願いします。





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こんばんは、天音花香です。

「高校生日記」は楽しんでいただけましたでしょうか?
こちらは、「空(そら)の時間」というまったく別の小説になります。
蒼は感情移入しにくいキャラクターかもしれませんが、
この子も温かい目で見守ってくださればと思います。


    「空(そら)の時間」
 

登場人物


立野 蒼(たての あおい)
・・・短い髪、小麦色の肌をした、一見男子のような中学一年生の女子。陸上部でハイジャンをしている。空が好き。中学生になり、複雑な思いを抱えている。


青木 澄広(あおき すみひろ)
・・・一見平凡な男子だが、笑顔がとても素敵。彼の周りにはよく人が集まる。ハンドボール部に所属している。


       一


「ねえねえ、浅野君見た?」
「見た見た。髪切ってかっこよくなったよねー?」
「やっぱり? 私も思った!」
廊下で女子とすれ違う度に聞こえてくる、高く、華やいだ声。
自然と目に入ってくる濡れたように艶のある唇。自前だとは思えない、長くカールした睫と、綺麗に形の整えられた眉。そして彼女たちが去った後に残るのは甘いシャンプーだか香水だかの香。
(女臭い……)
「……」
あたし、立野 蒼(たての あおい)は、女子とすれ違うとき、自然と眉間にしわが寄り、急ぎ足になる。息さえ止めているときもある。
そんなときに感じる、同学年の女子が得体の知れないものに変わっていくような、妙な感覚があたしは嫌いだ。
思わずくんくんと自分の臭いをかいで、安堵のため息をつく。
自分は違うと思いたかったし、実際違うと思う。

あたしは陸上部に所属し、ハイジャンを種目としている、中学一年生。七月は中体連がある。ハイジャン選手がうちの学校は少ないので、あたしが出られる可能性も十分あるのだ。
毎日夕日が沈むまでグラウンドを走り、自分の背丈に近いバーを跳ぶのに精一杯。部活がきついので、授業はうとうとしながら受けているが、決してやる気がないのではない。多分。
すべきことはたくさんあって、そのどれもが待ってくれない。だから、くだらないことに時間を割いてなんかいられない。
そう思っていた。
同い年の女子たちのように、自分の容姿に気を配ったり、色恋に現をぬかすなど、無駄なことだと。
それなのに。
青い空を見ると、思い出してしまうのは何故なのだろう。
(ああ、眩しいからか)
「青木、元気でやってるのかな……」
自然と呟いて、ちょっと寂しくなって、それを振り払うかのように頭を振った。
自分に特別な男子ができるなんて、想像もしていなかったことだ。特別ではあるけれど、恋とかそういうものではない、はずだ。
(判らない……)
この気持ちを何と呼ぶのか。
でも、青木は、青木 澄広(あおき すみひろ)はあたしの中で、どこか他の男子とは違っていた。


 青木は特に目立つような男子ではなかった。よく話すわけでもなく、容姿もすこぶるよいわけでもない。
ただ、青木の周りにはよく人が集まった。休み時間ごとに、多くの男子たちに囲まれて談笑する青木の姿がよく見られた。青木が話の中心にいるかと思えば、そういうわけではなく、青木は笑いながら相槌を打っているほうが多かったのではないか。
そう。青木はよく笑っていた。青木の楽しそうな明るい笑顔は、見ているこちらまで嬉しくさせるような、快晴の空を思わせるような、眩しさがあった。
 その笑顔に惹かれてか、いつのまにか、あたしの視界に青木の姿が入ることが多くなっていった。自分も青木のいる男子たちの輪の中に入れたら、と思った。
小学生のときのあたしだったら、間違いなく、あの輪の中に仲間として入っていたはずだ。
数ヶ月前までは、実際そうだった。小学生のとき、あたしは男子の集団に属していて、様々な球技や、エアガン、テレビゲームなどを一緒に楽しんできた。あたし自身、男子の中にいる方が気が休まったし、男子も、あたしを女子とは見ていなかったようで、男子と同じ扱いをされていた。いつも家に連れてくる友人が男子だったため、母は心配していたようだが、そんなことはどうでもよかった。女子がグループを作り、どのグループに属すかで小競り合いをしているのを見て、うんざりし、くだらないと思った。どこに行くにも一緒、なのに、数日後には違うグループに変わっている、そんなものが友情だとは思えなかった。その点、男子は気が楽だった。何も考えず、日が暮れるまで遊ぶ。純粋に楽しかった。
 だが。
(この、忌々しいセーラー服! これが悪いんだ)
 中学校に入り、それまでほとんどスカートをはいたことのなかったあたしは、スカートであるセーラー服を着る羽目になった。

 それは女子である目印であった。

 それからだ。男子の態度が変わりだしたのは。
 もう彼らは仲間としてあたしを見てくれていないのが解った。何かが違うのだ。もう、球技にも誘われない。輪の中にも入れてもらえない。
 あたしは悔しくてたまらなかった。
(何が違うの? お前たちとどこが違うって言うの? あたしは変わってないのに……!)
 だから、青木のいるあの輪の中にも入れてもらえないのは解っていた。もっと青木を知ってみたい、友人になってみたいと思うあたしにとって、それはやはり悔しいことだった。


 青木の笑顔に惹かれたのはあたしだけではなかったようで、同学年の女子の口から、青木の名前を聞く機会が増えていった。その度にあたしは心がざわめくのを感じた。経験のない感覚だった。
 少し高めの媚びるような声で、青木の名前が囁かれるのは我慢がならなく、自分の想いは、彼女たちとは違うと思おうとした。だが、いつしか、あの笑顔を独り占めしたいと思った自分に愕然とした。
(この想いは何? 解らない。私もあの女子たちと同じなの? 
 いいや、違う。だって、私にとって男子は『仲間』だもの)


 あたしは自分の気持ちを量りかね、青木を見るのをやめた。そうしたらきっとまた以前と同じように戻れると思った。だが、見なければ見ないほど、青木のあの笑顔に対する執着は強くなる一方で、目を瞑ってもなかなか消えない青木の笑顔に焦がれる日々が続いた。
(なぜ、こんなに青木の笑顔が気になるの? 私にとって青木はどんな存在だというのだろう)
 初めての気持ちに、心は揺れるばかりだった。だが、実際、青木と付き合いたいという欲求はなく、やはりあたしの想いはどこか変わっていたのかもしれない。


 そんなときだ。青木は、突然、父親の仕事の関係で、転校することになったのだ。
 クラスにとってももちろん衝撃的だったが、あたしにとってはそれ以上だった。「見ない」のと「見られない」のは全く違う。見なくてもいつのまにか感じとれるようになっていた青木の気配。笑い声。それらが全く感じられなくなるのだ。
 青木と会えなくなる。
 世界が変わる……?


 分かっていても、何ができるでもなく時間は過ぎ、青木は転校した。あの笑顔だけを残して。
 あたしの初恋とも呼べないような淡い想いは昇華されることなく、胸の奥隅に抜けない棘のように残った。


 休み時間の度に、青木の周りに集まっていた男子たちは、青木が転校してからしばらく居場所を失ったかのような奇妙な感じでいたが、時というのは不思議なもので、そのような彼らの姿ももう見られなくなった。
 青木がいない時間は当たり前のように過ぎていき、違和感は日常の中に溶けて消えた。そんなものだろう。
 時間というものは全てを流し去ってしまう。留めておこうという意思がなければ、人の脳は段々過去の記憶を手放し、その分を新しい情報が埋めていく。あたしはそれが嫌だった。これからも青木のことを覚えていたい。そう思った。でも、あたしが覚えている青木はもう、過去の青木で……自分の知らない青木が毎日増えているのかと思うと、怖かった。
 唯一の救いは、青木と連絡をとっている男子から、青木の話題がたまにあがることだ。転校先でも、青木は変わらないようで、そんな青木の姿を想像するとき、教室にはちょっと幸せな明るい空気が漂う。そんな瞬間があたしにはたまらなく愛しく、そして切ないのだった。
(青木、今日も笑ってるのかな……)
 青い空は、あたしの中で、青木を思い出す鍵になっているようで、空を見上げると、あの眩しい笑顔を思い出す。
 やはり、ちょっと幸せな、それでいて切ない気持ちになり、でも、頑張る元気をもらって、あたしは今日も部室への足を速めた。



 中体連のバーは百二十五センチから。あたしの最高記録は百三十六センチ。あたしの身長は百五十八センチ。もう少し跳べるはずだ。
 練習はきついけれど、自分のペースで、自分の限界に挑むのは悪くない。何より、バーを越えるときの、一瞬が気に入っていた。浮遊感とともに視界が空に支配される瞬間。そしてマットの衝撃。世界が一瞬どこかへ飛んでいってしまうような感覚。
 その感覚に酔ったように跳び続ける。この部活時のバーを飛ぶ瞬間だけ、あたしは青木のことを忘れるのだった。


 授業、部活、睡眠の繰り返しで毎日が忙しく過ぎていくと、あたしの心の中で、青木の存在は段々と隅のほうに居場所を変えていった。もちろん失くなることは決してなかったけれど。
 そうしている間に七月を迎え、中体連も去っていった。
 あたしは一年生ながら、中体連に出ることができた。一日中肌を太陽が焦がす下で、バーを睨み、足を踏み出したその日の記録は百三十九センチ。
それまでの練習の成果は、たった二度の跳躍で判定された。もう少し跳べたのではと思うような中途半端な気持ちが残ったが、自分の種目が終わってからは、仲間の応援に徹した。
 中体連が終わると一気に力が抜けたような、焦燥感に襲われ、それは再び青木を思い出すきっかけともなり、ちりちりと心が痛む日々が戻ってきた。
(青木、元気でいるだろうか……)


 そんなときだった。



     二



 青木と親しくしていた都築という男子が、目を腫らして教室に入ってきた。
 空は快晴。あたしは自然と青木を思い出した。だが、その日は嫌な予感がした。
「みんな、聞いてくれ」
 都築の悲痛な声に教室中が都築に注目した。
「あ……青木が……」
 都築はそこまで言うと顔を歪めた。次の言葉がなかなか出せないようだった。
「青木がっ、死んだんだっ!」
 最後は搾り出すように叫ぶと、都築は大粒の涙を拭おうともせずに零した。教室は静まり返った。
 久しぶりに聞く青木の知らせが、こんな訃報だとは誰も予測していなかった
だろう。
「っ、飛び出した犬をかばってらしいっ!」
 あたしは。
 笑いが出そうになった。
 犬をかばって? 今どきそんな死に方する奴がいるわけないじゃないか。
 青木ならやりかねないという思いを無理やり隅に押しやりながら、あたしはかぶりを振った。馬鹿馬鹿しい。
 離れていても、眩しい青木の笑顔はこんなに鮮やかに思い出せるし、実際そうに決まっているのだから。
(死んだ? 死んだってなんだよ?)
 あたしはもちろんそんな事実を受け入れることはできなかった。教室から、すすり泣く声がどこからともなく聞こえてきても、腹が立つだけだった。
 なんでみんなそんな簡単に受け入れられるんだ? 青木は死んでなんかいない。ここにはいないけど、名前も知らない土地でちゃんと暮らしているんだ! すすり泣きは、やがて嗚咽となった。そんな中あたしは無表情に空を見つめるだけだった。

 認めるなんてできなかった。
 
 葬儀には、前学校元クラス代表として、都築が参列した。予想通り、全開の笑顔の遺影だったらしい。あたしはそれを他人事のように聞いていた。誰の葬儀だというのだ。
(信じられない。信じたくない)


 数年前、祖母の死を看取ったときもそうだった。死んだという事実を受け入れることができなかった。目前にある祖母の身体に魂が宿っていないという事実。この世に祖母がもう存在しないという事実。
 それはとても不可解に思えた。
 ここに寝ているのに?
 祖母の身体には温もりがなく、冷たかった。ただ、それだけだ。
 他人事のように進んでいった祖母の葬式。涙は出なかった。
 あたしが、祖母の死を受け入れられたのはそれから数週間たってからだった。お棺を閉めるとき、そっと触れた、冷たい祖母の頬の感触。思い出して、涙があふれた。
 人は死ぬ。
 ではなぜ生まれて来るのだろう。何のために生きるというのだろう。
(解らないよ)
 悲しさもあった。それより悔しさが勝った。神様はいない。そう思ったのを覚えている。



(青木。生きているよね? 灰になんかなってないよね?)
 現実じゃなくて嫌な夢を見ているとしか思えなかった。
 だから毎日に実感がなく、自分だけどこか違う世界で暮らしていて、周りが勝手に進んで行くような感覚だった。
 虚しい毎日が過ぎていく。ここ数日は部活にも身が入らない。すべてが色あせて見えた。こんなに世界はつまらないものだっただろうか。
 現実の中で居場所を失ったあたしの心は、空っぽのままだ。
 青木のいない世界なんてありえない。あってはならない。
 しかし。
 数日後、ふと空を見上げると、秋の目の覚めるような快晴が広がっていた。開けられた教室の窓からは気持ちいい秋風が入ってきて、あたしの頬を優しくなでた。
 何の変哲もない日常。ただ青木がいないだけで。
「……」
 あたしは呆けたように空を見た。そして、青木の笑顔は、秋の快晴の空というよりかは、春の晴れた空だよな、なんてふと思った。暖かい柔らかな春の快晴。
その瞬間、不意に視界がぼやけてきた。
(嫌だ。認めちゃ駄目だ。違う!)
 しかし一度溢れ出した涙は、ノートに大きな染みを作り、それがきっかけとなっていく筋もの涙がノートをめちゃくちゃにした。
(青木、いないの? 本当に死んでしまったの?)
 青木が死んだというのなら、青木の一生はいったいなんだったんだろう。あまりにも短いその一生に青木は何を見い出せたというのか。
(嫌だよ。青木。死んだなんて嘘だよ! なんであんなに良い奴がこんなに早く死ぬんだよ! おかしいよ!)
 あたしの涙は止まらなかった。


 
      三



 青木の夢を見ることはよくあることだ。この日も夢の中で青木は明るい笑顔
を見せていた。
(……青木……)
 夢で見る青木はいつも笑っている。見ている者も嬉しくさせるような、眩しい輝き。青木のいない日常より、青木のいる夢の世界の方があたしにとっては幸せだった。
(ほら、青木は生きている。笑っているんだ)
「――」
 (? 何だろう)
「――」
 幻聴だろうか? 何か聞こえる。
「た・て……の」
 あたしを呼んでる? 
 それに、この声……。
「立野? あのー、立野蒼さん?」
 ぼんやりと聞こえてきたそれは間違いなく青木の声だった!
「はあ……。立野ぉ。そっちが呼んでて……」
 あたしは喜びに胸が震えた。青木、やっぱり生きてたんだ。
(よかった……!)
 きっとすべて夢だったのだ。
「青木……よかったよ……。生きてて……」
 夢現で瞼が重くて開けられなかったけれど、あたしは声だけを出していた。これでまた青木の存在する日常生活が戻ってくる。目を覚ませば悪い夢はどこかへいくのだ。開かない目から、熱いものがあふれてくる。だが。
「いや、俺は死んだ。死んだんだ」
 今度はしっかりと青木の声が聞こえてきた。まるですぐそばにいるように。認めたくない言葉を青木自身の、どこか冷めたような声で聞いた。
 聞いた? 
 これは現実? それともまだ夢なのだろうか?
 夢だとすれば嫌な夢だ。本人に断言される夢なんて。目を覚まさないと。夢でくらい幸せでいたいから。ベッドの上で目をこすり、うっすら目を開けるとぼんやりと人影が見えた。
 人影……?
 一気に目が覚めて、弾けるようにベッドから身を起こした。
「!?」
「しー。大声を出すのはなしな」
 唇に人差し指を当てた、人影は、間違いなく青木だった。
「……」
 状況が把握できない。思考が停止する。
(青木がいる。しかも。あたしの部屋に?)
 ……とりあえず。
「本物? 青木?」
「ああ。正真正銘青木だ。でも、残念ながら生きてない」
(……。ここにいるのに? 生きてなくてここにいる……?)
 あたしは混乱しながらも、無理矢理青木の足元に視線を移動させた。幽霊であれば足がないというじゃないか。
 だが、足はあった。ただそれは地面についてはいなかった。
(う、浮いてる!!)
 あたしは気を失いそうになるのをなんとか堪えた。
「……」
 青木本人はというとあたしの視線に気づいて頭をかきながら、困った笑みを浮かべた。
「うーん。まあ、予想通り、幽霊って奴みたいなんだよね、俺」
 幽霊を見るなど、初めての体験だった。その割にあたしはかなり落ち着いていた。別の意味では落ち着いていなかったが。
 幽霊でもなんでもいい。青木がいる。それはあたしを嬉しくさせた。しかし。
(待って。ここはあたしの部屋。しかも寝起き。え? え? えー?)
 思考が再び動き出し、またもや混乱した。
「……青木。あたし、一応、パジャマなんだけど」
「ああ、それパジャマなの? Tシャツに短パン。立野らしいよな。
毎日ハイジャンの練習してたよなー、確か」
 自分を思ったより知っている青木に驚いた。でもその反応は何か違うような……。
「ち、違うよ。そういうことじゃなくてさ。青木。今は夜で、ここは一応、女子の部屋なんだけど」
 言って自分でも驚いた。私にとって男子は仲間なはずなのに。なのに、なんだかくすぐったいような、変な感じがした。青木にこんな姿を見られるなんて。
 青木はというと、小さく「あっ」と言い、少し顔を赤らめた。
「わ、悪い。
でも、でもだな、その、他意は全くなくて、気が付いたらここにいたというだけで……」
 青木にもその理由は解らないらしく、ただただうろたえていた。
「……ま、仕方なかったみたいね。いいや、ちょっと顔を洗ってくる」
 幽霊になってしまった青木。それはなぜなのだろう……?
 顔を洗って、開き直ったあたしは、再び部屋で青木と対峙した。幽霊になるからには、何か現世に強い想いを残しているのかもしれない。そうだ、あれだけ短い人生だったのだから当然だ。
 あたしは自分にできることなら役に立ちたいと思った。青木の笑顔には何度も助けられてきたから。
 それに、それが果たされるまで青木のことを見ていられるのだ。一緒に入れるのだ。不謹慎だがそれはあたしにとって嬉しいことだった。
「青木、今まではどこにいたの? 青木が死んでから、数日経ってるんだけど」
 死んでから、という言葉を口にしないといけないことに、胸に痛みを覚えながらも、あたしは青木に訊いた。
「そうなのか? 記憶はないな。気が付いたときはここに……」
 ここに青木の何かがあるというのだろうか。
 あるとしたら。
(……。あたしに少しでも特別な感情を抱いていた、とか?)
 ふと思い立ったことに自分で馬鹿馬鹿しくなって、小さくため息をついた。 
(馬鹿だな、あたし。偶然に決まってる。
でも、まあ、でも好きな人とやらがいてもおかしくはないよな)
 心の奥でそうあって欲しくないと思いながらも、あたしは訊いてみることにした。
「青木にも好きな人とかっていたの? 多いじゃん。中学になってからその手の話。それで、幽霊になってまで、現世に残っちゃった、とか? でも恋愛相談するんだったら、あたしはむかないよ。だってあたしには理解できない感情だから」
「えーっと……。俺異性に対して特別な感情抱いたことないんだ。みんなそれぞれいいとこも悪いとこもあるし、よく解らないんだよね」
 じゃあ、好きな人に対する未練ってのは没ってことか。
(なんだ、青木も好きな人いなかったんだ。あたしと同じじゃん)
 なぜか嬉しくなっている自分がいた。
「家族は? 兄弟はいるの?」
「二つ下の弟が一人」
「かなり心配な子?」
「いや、俺よりしっかりしているような」
 ――青木には未練なんかなさそうな気がするのは気のせいだろうか。
「部活はハンドボールだったよね? レギュラーだったっけ? 試合はどうだったの? 悔いないところまで頑張れた?」
「よく知ってんな。悔いはないよ。予想してたより随分勝ち進んだし、勝つよりも仲間とハンドをしてんのが楽しかったんだよね」
 ふう。
 あたしはなんだか疲れてため息をついた。
 そうだ。あたしの知っている青木はこういうやつだったじゃないか。そう、一日一日を楽しんでいるようなやつだった。
「うーん、でも、死んだショックで未練自体を忘れているのかもしれない。あ
たし、明日も学校あるし、寝るから。気長に理由を探そう」
「いや、でもさ、俺、未練なんてないと思うんだけど。俺は俺なりに精一杯生きたから」
 青木はしっかりと自分の死を受け止めていた。短くても、未練はなかったと……。
 あたしは複雑だった。本当に青木はそう思えているのだろうか。あたしだったらどうだろう。毎日やるだけのことはやっているつもりだけれど、明日死んだら、未練なしでいられるだろうか? 
(あたしじゃ、無理だな。
それに、青木だって未練がないなら、なんでここにいるのさ)
 あたしの疑うような目線に気づいてか、青木は苦笑いをした。
「まあ、でも立野がそういうなら、原因探しとやらをやってみようかな……」
 なんとなく無理矢理言わせたようで、罰が悪いと思っていると、青木は今度は全開の笑顔を見せた。
「立野っていい奴なんだな。俺のためにこんなに遅くまで、ありがとな」
 ああ、この笑顔、やっぱり青木だ。でも、今いる青木は、幽霊なのだ。本当に信じられない。こんなことってあるのだろうか。
 あたしは一つ嘆息すると、無理矢理に笑顔を作って青木を見上げた。
「別にいいよ。これもなんかの縁。力になれるなら、なるよ。
そうそう。明日学校に着いて来るのもいいけど、実家とかにも行ってみたら? 何か思い出すかもよ。
それから、一応、あたしも女だから、寝てるとき、トイレのとき、お風呂のときは近くにいないでね」
「それぐらいは心得てるよ。今日は仕方なかっただけで……。それじゃおやすみ。俺どっかいっとくわ」
「……おやすみ」
 青木と寝る前の挨拶を交わすというのがなんだか不思議で、くすぐったかった。あんなに遠かった人なのに。人生は不思議だ。
 自然と微笑んでる顔を隠すように布団をかぶると、たちまち睡魔に襲われた。

 ――でも勘違いしちゃいけない。青木はもう死んだ人なんだから――
 



 あたしは朝に弱い。毎日起きているのか寝ているのかわからない状態でトーストを黙々と食べ、サラダを口に押し込む。そして部活の朝練に出るのだ。
 起きてみると、昨夜のことは夢のようで実感が湧かなかった。だから、焦げ気味のトーストをガジガジと食べているときに、頭上から、
「おはよう。目、ちゃんと覚めてるのか?」
という青木の声がしたときは一瞬、頭が真っ白になった。
 そうだった。昨夜からあたしには、そう、あの青木の幽霊がついてる(憑いてる?)のだ。
「……おはよう。朝は弱いの」
 とにかく、朝錬に遅刻すると部長から地獄の課題を出されるので急がなければ。
「いってきまーす」
 教科書は部室に置き勉しているので、ほとんど空のスクールバックを手に、あたしは学校まで軽くジョギングをする。朝錬の前錬みたいなものだ。そうしているうちに目が覚めてきて、朝日を見る余裕などがでてくる。日課のようなもの。でもやはり、毎日朝日は美しいし、その光をいっぱいに浴びると、身体中にエネルギーが満たされる気分になるのはなぜだろう。
「立野はこうやって毎日学校へ行くんだな。なんだか自分以外の人の生活を見るのって楽しいな」
 青木は心から楽しそうに笑ってる。
 青木がいつも笑っていたのって、人より楽しみを多く見つけられるからなのだろう、とあたしは思った。
 ただ、こんなに近くでそんな顔をされるのは反則だ。でもその反則は、嬉しいもので、青木の笑顔が自分だけに向けられていると勘違いしてしまう。
「ハンドボール部も朝錬あったでしょ?」
「あったよ。でも陸上部ほどきつくはないんじゃないかな」
 その通り。あたしの学校の陸上部の朝錬はとにかく四十分間延々とジョグとダッシュを繰り返す、横っ腹の痛くなるものである。他の運動部は、十五分後から各部特有の練習に入るのだが、陸上部は走る部である。だから、ひたすら走るのが朝錬である。あたしは走ること自体はそんなに好きではないので、朝からどうして跳ばせてもらえないのかなと思っていた。朝の空に支配されるのは、夕方とはまた違った感覚だろうに、と。
 そんな考えに浸る暇もなくジョグとダッシュ地獄を今日もこなし、あたしは着替えて教室に入った。と、そのとき青木の声がした。
「俺、ちょっといろいろ見てくる」
 願ったり叶ったりだ。授業中の自分を見られたくはなかった。問題を解けずに悶々とする姿や、時折居眠りをする姿などを青木に見られていいはずがない。ところが、青木は予想より早く戻ってきて、親切にも数学の解き方の間違いを指摘したり、英語の和訳を訂正してくれたりしたのだった。
(青木って頭よかったんだ……)
 そんなかなり不本意な授業を終えたため、部活にいくときは自然と足取りが軽くなった。
 今日も雲ひとつない快晴だ。秋の空は遠く見えるのに、ほかの時期よりも一段と青色が濃く、光って見える。涼しい風も気持ちいい。こんなときに小さな幸せを感じるあたしだった。
 そのときだった。
「空見上げるのって、立野の癖なの?」
 青木の声が降ってきた。
「そんなに見上げてた?」
 さすがに空を眺めながら、青木の笑顔を思い出していたとは言えない。
「ああ。授業中も。眩しそうに」
「昔から空って好きなんだよね。毎日姿を変えるし、そのどれもが綺麗じゃない? 
 ……幼いころ、空は、地上に存在るみんなの想いを吸い込んでいるから毎日変わるんだろうなと思ってた。だって人の想いも毎日変わるでしょ?」
 空は想いの結晶のようなものだと。だからあんなに美しいのだと、小さなあたしは思っていた。チリが青く光るという夢のない現実を知ってからも空好きは変わらない。
 でも、最近は思う。人の想いは美しいものだけではない。人の心にはもっと汚い想いや、複雑な想いがあるのだ。綺麗なだけの空とは違うのだ。それは悲しいことだが、人の汚い面から目をそらすほど、あたしはもう幼くはない。
 あたしが複雑な顔をしていると、青木はちょっと驚いたようにあたしを見つめていた。
「立野って、変わってるって言ったら失礼かな? 空見てそんなこと考えてたんだ。なんか新鮮だな。
あ、でも俺の親父もそんな感じだったのかもしれない。俺の苗字って青木だろ? 澄広って名前。青くて澄んでて広い。空の好きな親父がつけた名前なんだ」
 あたしは微笑んだ。
 そうかー、名前の通り育って、青木は快晴の笑顔なんだ、と勝手に納得した。
「? 何で笑うんだ、そこで」
「うーん、言っても解んないだろうけど、青木は名前の通りに育ったんだなと思って」
「俺が空? やっぱり立野って変わってるかも」
 あたしはその言葉に目を細めて頷いた。どこか自嘲的な目になっていたと思う。
「そう。変わってるんだ。
あたし、人と違うの。特に同い年の女子とかと。だから、あの娘たちの思考回路とか行動とか解んないの。男子のほうが解っていたかも。……でも今は男子の心ももう解らない。あたしはどこにも属してなくて、それは属してたくないからかもしれないし、属せないからかもしれない。
でもいい。あたしは跳べるから。大好きな空でいっぱいになれる。他はいいや」
 本当は逃げているだけかもしれない、という思いはかき消して、あたしは空を仰いだ。
 青木はちょっと戸惑った顔をした。でもすぐに、
「それか。少し解った。
 俺、立野を覚えてたのってたぶんそのせいだ。持ってる空気が他の女子と違うなと思って。部活ばっかりやってたし」
「ふーん」
 やっぱり自分は浮いてたのか、ということを他でもない青木の口から再認識させられて、あたしは複雑な気持ちになった。でも、仕方ないことだ。事実なのだから。
「これから、三時間ぐらい部活ばっかだよ? どっか行ってたら?」
「いや、面白そうだから見とくよ」
「そ? じゃ、行こうか」
 だが、ずっと青木がそばで見ているというのは、思った以上に気が散るものだった。
「立野! 集中してる? フォームが乱れてるからバーを越える前にバーに肩があたるんだよ?」
 同じ種目の西月に怒られた。西月は女性から見ても格好いいと思えるような先輩で、あたしにしては珍しく心を許している人だ。
「すみません」
 いつもはしないようなミスで、バーを落としてしまっている。青木がそばにいると思うと、緊張してしまって、普段のように跳べないからだ。でも今はバーに集中しないと。大好きなハイジャンなのに。あたしは、一度頭を軽く振って、バーをにらんだ。
 半円を描くように助走し、なるべくバーと平行になるように跳ぶ。
 きた! 
 浮遊感。全視界が淡い桃色になったのは一瞬。トスッとマットに体が落ちた。
「その感じだよ。助走しても、その場跳びの時のバーとの平行の感覚を忘れちゃだめだよ!」
「はい!」
 やっぱり気持ちいい。
 バーを落とし、その上に背中から落ちたときの痛みは尋常でない。一度経験すると、跳ぶのが怖くなるという部員は多い。あたしも初めてバーの上に落ちたときはそうだった。
 でも。跳べた時の快感はそれ以上にあたしを跳ぶことに駆り立てる。
 桃色から橙に、そして緑、紺と色を変えていく空に支配されるがままに、あたしは跳んだ。いつのまにか、青木の視線が気にならなくなっていた。



「退屈じゃなかった? 」
「いや、全然。
気持ちよさそうでいいなと思った。もう俺にはボール、掴めないからなー」
 秋の夜風が心地よい。どこか懐かしさを感じさせる虫の声。どこからともなく漂ってきた夕飯の匂いが鼻をくすぐる。空には満月からは少し欠けた月が煌々と全天を照らしている。こんな夜は……。
「跳んでるときに見る月も綺麗だろうね」
 ふと青木が呟いた。あたしも同じことを考えていたから驚いた。
「ハイジャンって、身近で初めて見たけど、とても綺麗だね。背中の反りがしなやかで。バーを越える瞬間、立野にはどんなものが見えているのかな」
「空だよ。空に支配されて、その中で浮いてる感じ。そのときは時間が止まってるみたいなんだ」
「本当に飛んでる感じなんだね。気持ちよさそうだ」
青木はまた眩しい笑顔になった。でもそれは、いつもとどこか違っていた。
「青木?」
「ん?」
「どうしたの? 何か、あった?
……そうだ、実家はどうだったの?」
「母さんがいつもと同じように掃除してたよ。でも、仏壇に手を合わせるときは、泣いてた、かな」
 遠くを見つめながら、青木は言った。
「……」
 残された者はつらい。そして、幽霊になった青木はそれを見てきてしまった。それはどんなに苦しいことだろう。
「立野」
 青木はじっとあたしを見つめて、急に真剣な声を出した。あたしも構えるように青木を見た。
「今日、いろいろ回って判ったことがあるんだ」
「うん」
「俺には五感がなくなっている。幽霊だから当たり前かもしれないけれど。いや、視覚は少しあるかな。でも遠くから見ているように、ぼやっとしか見えないんだ。現実感がない」
「でも唯一例外があるんだ。立野のそばにいるとき。そのときは視界もはっきりするし、風の感触や、夕飯の匂いもわかるんだ。教室のざわめきも、空の色も……」
「?!」
「なぜかは判らない。でも俺は幽霊だから、五感がないほうが正しいあり方なのかもしれない」
「じゃあ……」
 青木はあたしのもとを去ろうとしているのだろうか?
「……」
 青木は言うのをためらうような、そして苦しさと哀しさが混じったような顔をした。青木のこんな表情を見るなんて。
「青木! 先を続けて。青木はどう思ったの? これからどうしたいの?」 
「立野。五感がないのはとても苦痛なんだ。そのまま溶けてしまうような気分になる。でも昇天できない。それが苦しいんだ。
 なんで俺は幽霊になんてなっちゃったんだと思う。こんな、中途半端な残り方は嫌だ。耐えられない」
 苦しげな言葉が放たれた。
 こんな青木、見たくない。青木は笑顔が似合うのに。
 ――と、青木はあたしにすがるような目を向けてきた。そして深く頭を下げた。
「な、何? どうしたの?」
「立野。迷惑なのは解っている。一日中観察されてるようなものだもんな。でも、もし立野が許してくれるなら、立野のそばにいさせてほしい。
いつまでも幽霊のままなんてありえないと思う。だから、昇天するまでの間、感覚だけは保っていたい。生きているときは当たり前すぎて解らなかったけれど、五感のない無の世界に、自分の意思だけが存在する状態は、きつすぎるんだ。頼む! それに……。
もう実家には帰れないよ……」
 あたしと共にあるということは、あたしの全てを見られるということで……。
確かに、青木から見られるのは死ぬほど恥ずかしい。今日だけでそれはよく判った。でも。あたしは青木にこんな顔をさせるのは嫌だった。青木には笑っていてほしかった。もともと青木を見られることがあたしの楽しみだったのだ。今度はいわば逆の立場になるだけだ。昨夜青木を助けたいと思ったことは嘘じゃない。
「そんな顔、青木には似合わないよ。ほら、顔上げて。もともとそのつもりだったから、気にしなくていいよ。あたしのところに現れちゃったのも何かの縁。青木を天国に行かせてあげれるよう頑張るだけだよ」
 青木は安心したような笑顔をやっと見せた。
「すまん。恩に着る。本当にありがとう、立野」
「ま、よろしく、青木」
 笑顔を正面から向けられて、思わず赤面したあたしは、ちょっと下をむいて誤魔化すようにそう言った。


       四


 立野の生活は、半眠りの朝食から始まって、朝錬、授業、部活、睡眠のほぼ繰り返しだといってもいい。
 でもなぜか見ていて飽きない、と俺、青木澄広は思う。
 朝錬はそんなに好きではないようだが、なのに一生懸命走ってしまっている立野は微笑ましい。授業中の立野はさらに面白い。睡魔と闘いながらも、解らないところを理解できるまで考え、理解できないときは必ず授業後質問に行く。
 そして、何度も窓から空を見上げては、嬉しそうに目を細めている。
 そんなときは、次の瞬間はっと我に返って、気まずそうに俺の方を見るのだ。そんな立野に思わず笑顔を返すと、ますます立野は気まずそうに教科書に視線を戻す。なんだかその様子は可笑しくて吹き出しそうになってしまう。
 給食時間は、黙々と食べる。一応班の人の話に頷いているのだが、多分あれは耳に入って抜けていってるだけだろう。無愛想そのものだ。
 そして午後の授業を終えると、一日でもっとも楽しげに部室に駆けていく。そのときも必ず空を仰ぐ。そして大きく伸び。
 最近は俺も真似をしている。
 そして感じる。空は本当に綺麗だと。毎日毎日微妙に色や形を変えるから見飽きない。本当に綺麗だ。
 立野といっしょに行動するようになってから、俺も空を見上げるのが楽しみになっていた。
 部活時の立野は、もっとも見飽きない。バーを跳ぶ前に片足で跳躍の練習をまず行い、それからバーのすぐ前に立って、その場でバーを飛ぶ。
 なぜそのようなことをするのかと聞くと、その場で跳ぶときがもっとも美しいフォームなんだそうで、バーと平行に跳ぶ感覚や、背中の反らし具合などを確かめるためとのことだ。
 確かに弓のように反って飛んでいるのがよく見える。助走がつくと、どうしても斜めから跳躍をするためにバーと平行に跳ぶのは難しいそうだ。だから跳ぶときに体を反らせてなるべく平行に近い形で跳ぶらしい。
 まあ、あんなに高いバーを飛ぶのだ。高い技術がいるに決まっている。
 だから、百発百中というわけには決していかない。バーを落としたとき、立野はしばらく立てないでいる。なんでも背骨にバーが当たるので相当痛いそうだ。
それでも最近はバーを落とすのは減ったほうらしい。部活を始めたばかりのときは、バーの上に落ちてばかりで、蚯蚓腫れが何本もでき、風呂に入るのも辛かったと立野は言っていた。何せ自分の体重にさらに重力がかかってバーに落ちるのだから、痛いのは当たり前だろう。想像したくない。
 バーを落としたときの立野の悔しげな顔は、ハンドボールの試合で負けたときの感覚を思い出させる。でも、バーを越えたときの気分は共感できない。俺も自分でシュートを決めたときが何度かあるが、それとは違う思いを立野は味わっている気がする。
 陸上選手はよく自分との戦いと言われるが、立野はそうでないように見える。バーを越えたときの立野の表情は、表現するなら恍惚とでもいうか。自分で跳んでいるのを忘れて、何かに支配されるがまま、それを至福として受け入れているような感じなのだ。
(そういえば、空に支配されるという言葉を立野はよく使っていた。多分そうなんだろうな)
 そして、マットに落ちたとき、達成感に満たされた爽やかな笑顔になる。
 一度跳ぶのなんて本当に短い時間だ。
 だけど、その一瞬に様々な表情を見せる立野を見ているとなんだか自分も、一瞬をとても長く感じる。

「ほんと、毎日よく見飽きないよね。青木は」
 部活からの帰り道。呆れるように立野が話しかけてきた。
「うーん。ハイジャンって深い気がするよ。立野を見ていると。それでかな」
「なっ、なんでよ」
「それは、立野が一番解ってるんじゃない?」
「……」
「なあ、一度立野と一緒に跳んでみたいな。どんな感覚なのか。霊体だからできそうじゃないか?」
 俺は、立野が跳ぶのを見るたびに思ってきたことを口に出してみた。
 立野は一瞬困惑していたが。
「そんなに面白いもんじゃないかもよ?」
「それは俺が感じること。
だって、一日の中で立野がもっとも表情を出す瞬間だもんな。どんな感じだろうと思わずにはいられないよ」
 俺がそういうと、立野は頬を朱に染めた。
「そ、そんなにあたし、無表情じゃな、ないはず、よ」
「いつもが無表情って言ってるわけじゃないんだって。
とにかく、いいだろ?一度くらい」
「……構わないけど……」
「さんきゅ」
 俺が嬉しくなって笑うと、立野はますます顔を赤くしてこほんと咳き込んだ。


 立野が眉間にしわを寄せるときは、女子の横を通り過ぎるときが多いことが判ってきた。
(何の匂いだ? これ)
 甘ったるかったり、花のようだったり、人間からは匂ってきそうもない匂いが、すれ違った後も続くとき。
 さらに高い声で男子の話をしているのを聞いたとき。
 そして。
(唇光ってるぞ? それに女子の眉って綺麗なもんだな。ん? あの娘は頬がほんのり赤いや。こういうのが化粧ってやつか?)
 そのおかげで、どうやら、女子は男子とかなり異なることが判ってきた。まあ、確かに、よく手入れされた長い髪が風に揺れるなんて、男子にはないよな、と俺は一人納得する。
 立野は女子が嫌いなのだろうか?
 立野は自分はどこにも属していないといっていた。
 でも立野は性別上女だ。
 確かに立野からは不思議な匂いはしないし、化粧もしていないし、日に焼け放題だし、髪もベリーショートで、どちらかというと、見かけは男子に近い。(ごめん、立野)かといって、男子とつるむわけでもないようだ。
(やっぱり、普通の男子は化粧をしているような女子が好きなのか? あんまり考えたことなかったな)
 でも、と俺は思い出す。そういえば、自分の周りに集まってくる男子からも、よく「誰々が可愛い」とか「最近誰々が色っぽくなった」だのの話が出ていたのは事実だ。
 俺は「誰々」が誰かわからないときが多く、ただ、そういう話をするときの幸せそうな友人の顔を見るのが好きだった。そして、人を好きになるとはどんなことなんだろうと思ってみたりもした。
 自分は幼かったのだろうか。ただ毎日そういう話や、趣味の話を聞くのが好きだった。
 休み時間にサッカーをしたり、自転車で遠くまででかけたり。
 毎日いろんなことがあって、ただただ楽しかった気がする。部活できついときや、試験前の徹夜、進路についての悩み、大変なこともきりなくあったが、それさえも今しか経験できないと思うとやってこれた。実際、やり終えた後はつらかったこともいい思い出になったりするのだ。
 立野はどうなんだろう。部活のときの生き生きした立野と、そのほかの時間の時の、無愛想な立野。前者は解ってきた。でも後者は? 何が立野は気に入らないのだろうか?
 考えるたびに、立野への興味は増していく。
 きっと他の誰もが一人ひとり、いろんな悩みを抱えているのだろうけど。
(こんな風に一日中一緒にいることは普通ないもんな)
 興味が湧くことは当然のように思えた。
(だけど俺はなんで立野のところに現れたのだろう……)
 幽霊になって常に頭を占める疑問。まだ俺には判らない。



「青木、青木? 青木!」
 あれ、前にも確かこんな風に強く呼ばれたような……。
「青木が一緒に跳んでみたいっていったんでしょ? 跳ぶの? 跳ばないの?」
 は、と我に返ると立野の怒った顔があった。そうだった。今は部活の真っ最中。
「悪い悪い。ちょっと考え事。うん。跳ぶ。
どうやったらいいかな。立野についてけばいいのかな」
「毎日毎日跳んでるところは見てたでしょ? それっぽく跳んでみなよ」
「そうしてみる」
「じゃ、行くよ?」
「ああ、ついてく」
 助走をするときに一度リズムをつけるように、地面を蹴る立野の癖。そして、半円を描くように助走をして。
(うわっ。バーってこんなに高いのか?)
 バーを前に少したじろぐ、が、立野はこれを跳ぶんだ。一緒に跳べ!
 一瞬の浮遊感。

 空、空、空!
 
 眩しい。と感じた次の瞬間にはマットの上だった。隣に立野の笑顔。
「どうだった?」
「空」
 即答。
 他に答えようがなかった。
 視界が全て空になる。これを空に支配されると立野は言っていたのか。
「気持ち少しは解った?」
「ああ。なんか、全てが飛んでってしまって空だけになった」
「そう。いつもあたしが感じてるのってそんな感じ」
 立野が満足げに頷いた。
 なんだろう、この感じは。想像をしていた以上に気分のいいものだった。
「な、もう一回。駄目?」
「気の済むまでどうぞ」
 にっこり、という表現が最もあうように笑って、立野はもう一度助走の位置まで戻っていった。
(あれ? そういえば部活意外で立野が本気で笑うのって少ない?)
 立野に対して、俺はいろんな疑問でいっぱいになった。
 でも、まあ少しずつ聞いていければいいかと思い直して、俺も助走の位置まで駆け出した。



      五



(青木はなんであたしのもとに現れたのだろう……)
 青木が青木らしくない苦痛な表情で訴えてきてから数週間。青木との毎日は意外と普通に進んでいった。
 まあ、いつもそばに青木がいるというのが恥ずかしくないわけがない。いつも遠くから眺めていた青木が、今度は逆にあたしの毎日を見ているわけで。
 最初は気が抜けないままに一日を過ごしていたのだが、そんなことをしていたら身がもたないと悟ったのでやめた。青木があたしの生活に対してどう感じているかなんて一生解らないだろう。
 ただ、いつも青木は楽しげで、それがあたしを嬉しくさせた。
 青木には笑っていてほしい。
 笑っていてほしいのだが。
 なんとなく複雑な気分なあたしなのであった。
 いつも遠くから眺めていた青木の眩しい笑顔。それが今は自分に向けられることが自然と多くなる。仕方ない、青木は他の人には見えないのだから。さらに、笑顔だけでなく青木の様々な素の表情も見る機会が増えた。
 遠い遠い空のような存在だった青木。でも今はなんだか近すぎて戸惑ってしまう。
 自分が青木に抱いていた感情が、少しずつ形を変えていっている気がして、あたしは不安にかられる。そんなとき、あたしは自分の日に焼けた肌を確認するように見て、まだ大丈夫、と勝手に納得するのであった。


 そんなある日。
「なあ、一度立野と一緒に跳んでみたいな。どんな感覚なのか。霊体だからできそうじゃないか? 」
 毎日食い入るように部活の様子を見ていた青木が言ってきた言葉だった。
 驚いた。青木は部活を熱心にする姿のあたしや、ハイジャンのフォームを見ていたのではなかったのか。
 ――どんな感覚なのか?
 それはあたしが憑かれたように跳ぶ理由。それを青木は共有してみたいと言っているのだ。
 不思議だった。青木にはどうでもいいことのはず。
 だいたいハンドボールとはいたって違う陸上競技を見ているだけでも、飽きないのか不思議なのに。
 でも、正直嬉しかった。自分が味わってる、あの、感覚を青木にも味わってみてほしいと思っていたからだ。
 そして。その感想を青木は一言で述べた。
「空」
と。
 嬉しかった。あたしの最も好きな瞬間を、青木と共有できた気がしたのだ。
 その後も青木はあたしと一緒に跳ぶことが多くなった。マットに落ちたときの、惚けたような青木の表情がとても可愛いと思った。
 青木と一緒に過ごす時間があたしは嬉しかった。つい、青木が死んでいることを忘れてしまう。

――勘違いしちゃいけない。青木はもう死んだ人なんだから――



                       後編に続く




アルファポリス「第2回青春小説大賞」(期間は2009年11月1日~2009年11月末日に)エントリーしています。
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*こんばんは、天音です。
こちらのサイトは小説を扱っております。
こちらは「空(そら)の時間」の後編となっております。
できれば、前編からご覧ください。




     六


 (空! 今日はうろこ雲が見えるな)
 トスッ。
 隣を見ると、気持ちよさそうに口元をほころばせる立野の顔。その額には球のような汗。前髪も、短い襟足も汗でぬれている。
 こうしている間にも、思っていたよりも随分細い立野の首筋を汗がつたっていく。
 細い首。小さな肩。しなやかな肢体。
 はっとして、俺は視線をそらした。
(何を見ているんだ、自分は?)
 近くにいると立野の汗の匂いや、熱い呼吸を感じる。
 でも、男同士でいるときに感じたような、暑苦しいような、不快な匂いではなくて。ほんのり甘いような感じの匂いなのだ。
(なんか、俺おかしいぞ)
 ぶんぶんと頭を振っていると、不思議そうな立野の顔。
「空に酔った?」
 爽やかに笑うと、すくっと立って助走の位置に戻っていく。その姿は颯爽としていて、格好いいという表現が相応しい。
 そう、まるで男子のようなのに。
「疲れたなら、見学してなよ」
 霊体に疲れるも何もないのだが、もう一度一緒に跳ぶのは躊躇われた。何だか変な感じに俺は戸惑っていた。


 十一月になった。
 相変わらず俺は成仏できないでいた。何が問題なのだろう。
 黒板を見つめる立野の横顔を見つめる。どうして自分は立野の家に現れたのか。未だに判らない。
 ふと立野の眉間にしわがよった。
「ここ、ちょっとおかしくないか?」
 指摘をしてみる。
 ふむふむという目で、指された個所を見つめ、考え直している立野。
 一方、授業中に手紙などを回している女子が多いことに最近は気がついた。わけのわからない記号などが使われている。それはそれで楽しそうだが、授業中にこんなことが行われてたんだな、と不思議な気がする。
 そう、自分が前、属していたクラスだからこそ不思議なのだ。
 俺は思う。場にいても、場にいるから見えないことが多いのだと。
 ――しかし。
(もう、ここには俺の居場所はないんだな)
 改めて俺は感じた。
 休み時間に集まってきていた連中も、今ではそれぞれ違う人とつるんでいる。俺がいなくても、教室は何も変わらず、そして完全な状態なのだ。俺が死んだ今、転校先のクラスもこのような感じなのだろう。自分はすでに居場所を失っている。自分の意思はここに存在るのに、それとは関係なく時は流れていく。
 ふと窓に目をやると、木々がもう紅葉していた。空も晩秋へと移り変わっていっている。
 居場所のない自分はなぜここに存在なければならないのだろう。
 以前より冷たくなった風を感じながら、感じるからこそ俺は余計に思う。
 ふう。思わずため息がもれた。
「……?」
 立野が俺を見上げている。
 そう、この少女だけが俺の存在する事実を証明しているのだ。
「秋も終わるなと思って」
 そう答えると、立野も窓のほうへ視線をやって、少し寂しげな顔をした。
「冬は曇りが多くなるよね。曇りも好きだけど、跳ぶ時は晴れがいいな」
とノートに書いてくる。
「同感」
 俺は頷いた。立野はまた、視線を黒板に戻した。
 立野のショートの髪は見た目よりさらさらなようで、風が吹く度にふわふわと揺れる。姿勢も視線も凛としていて、漂わせる空気は柔らかさとはほど遠いのに、時折見せる憂いに満ちた表情などが妙に女っぽかったりする。

 立野は不思議だ。

(花のような香りより、俺は立野の汗の臭いのほうが好ましいな)
 最近、立野と一緒にハイジャンをしていると、俺は気が散ってしょうがない。自分はこんなにいやらしい男だったかと嫌になるのだが、立野の日に焼けた細くしなやかな四肢や、小さな双丘や、くびれた腰などに目がどうしてもいってしまうのだ。
 以前見かけは男子に近いなんて思ってしまったが、とんでもない。やっぱり自分とは完全に違う。
 立野は女だ。当たり前のことなはずなのに、今さら気付くなんて。今まで、女子を女だ、と感じたことは正直なかった。俺は幼かったのかもしれない。こんなに近くにてやっと気付いた。女は男とは違うということに。
(とにかく心頭滅却)
 そう思いはするものの、一緒に跳ぶ度にますます立野を女として意識してしまう、いやらしい自分がいるのだった。


 今日は曇りだ。なんとなく一雨降りそうな空。
 その空の下でも、立野は必死で跳んでいる。
 バーを見つめる立野の眼はどこまでも澄んでいて、ときどき目が合うと、吸い込まれそうになる。何で気づかなかったのだろう。立野は中性的な顔をしているが、綺麗だ。
 駄目だ、今はないはずの心臓が早鐘を打っているのを感じた。
 そんな俺の熱を冷ますかのように、雨が降ってきた。大粒の雫があっという間に全てを濡らしていく。
 立野は先輩に言われ、マットやバーを片付けている。
 そんな立野を見て、俺は自分の頬が熱くなるのを感じた。
 あわてて目をそらす。
 何も解っていない立野は、俺を見つめて、
「どうしたの?」
と訊いてきた。
「……風邪、ひくよっ。
それにっ」
 俺の口から出た言葉はこんな言葉で……。
 でも、違う、本当に言いたいのは。
 俺以外に、こんな立野を見られたくない。俺だけが立野のよさを解っていたい。
 自分の中の感情に少し驚いた。独占欲の塊ではないか。もしこれが立野じゃなかったらどう思っただろう。
 とにかく、その姿は目のやり場に困る。
 俺は、立野のほうに向き直って、
「あ、雨でぬれて、下着が透けて見えてる! ジャージかなんか、着ろよっ」
と、不機嫌に言ってしまった。
 立野は俺の声に従って、ジャージを羽織った。
 それでも、なんだか形容しがたい空気が流れた気がした。


 立野は愛しむような目で空を見上げる。空を見上げていると思えば、ふと気づくと眩しいかのように、目を細めて俺を見上げているときもある。そんなとき、俺はくすぐったいような、嬉しいような変な気持ちになる。でも、悪い気はしない。むしろ、最近思う。

 もっと俺を見て欲しい。
 俺だけを見て欲しい。
 空よりも、俺を見ろ!

 そう思っている自分に気づき、戸惑う。俺はいつからこんなにわがままになったのだろう。
 でも、仕方ないといえばそうなのかもしれない。今の俺の世界は立野が中心で、立野の周りしか物理的にもよく見えないのだ。だから、立野が自分と違う世界にいる、と感じるとき、耐え難い寂しさに襲われる。
 だから、立野にもそれを願う……?
 それは間違っている。解ってはいるのだが、どうにもならないこの気持ちはなんだろう。他の人間のところに幽霊として現れていたとしても、このような気持ちになったのだろうか……?
 立野はすれ違う女子達に目を向け何かを思っているようだが、立野は立野だ。立野の中性的なところでさえ、彼女の魅力としか思えなくなっている俺がいる。
なんでこんなに立野が気になるのか。一緒に過ごしているからなのか。それとも他に何か理由があるのだろうか? 少なくとも、他の女子にこんな気持ちをもったことはなかった。
 でも、俺は最近思う。
 ――立野を独り占めしたい。
 この感情をなんと呼ぶのだろうか。
 初めてのことばかりの俺は戸惑っていた。


 トスッ。
 マットに背を預けて立野は笑顔になっている。昨日のことがなかったかのようないつもと変わらない部活の時間。
 ――ああ、こんなにも立野の笑顔が眩しい――
「なんか、安心する。空に支配されているときは、時間に支配されてない気がするから」
 ふと出された立野の言葉に、俺は違和感を覚えた。
「時の流れは速すぎて私にはついていけない。変わらなくていいものまで変わっていくのだもの。あたしはどうすればいいか解らなくなる」
「……」
 俺が跳ぶときに感じていることと、立野が感じていることには微妙な差があることを俺はこのとき感じた。
 それは何か重要なことのような気がした。
 立野は時間を留めるために跳んでいる?
 それはあってはならないあり方だと俺は感じた。時間を止める。それは生きていることを否定することではないのだろうか。
 生きている立野と死んでいる俺。時間が進んでいる立野と止まっている俺。
 もう少し。もう少しで何かが解りそうだ。


    七


 空に――
「――堕ちる」
 ふと隣からこぼれた言葉にあたしは青木のほうを向いた。あたしの頭にも浮かんだ言葉だ。
 空に堕ちる。それは不思議な感覚だ。でも、マットに落ちた衝撃を感じながら、でも視界には空だけが映っているこの感覚は、まさに、空に堕ちるという表現がぴったりだと思った。
 青木の笑顔が眩しい。先程みた空より勝るかもしれない。つられるようにあたしも笑顔になってしまう。
 ――ああ、やっぱり青木の笑顔は綺麗だ――


 空と書いて、「から」なんて読み仮名をふったやつは誰だろう。
 空は空っぽなんかじゃない。こんなにもいろんな表情をみせるのに。
 あたしの一番好きな空は、快晴の空で、それは青木の笑顔を思い起こさせるからでもあり、そして、跳んでいて、一番気持ちいい空だからだ。一日の変化が一番わかる空だからでもある。
 だが、あたしは雨や曇りが嫌いというわけではない。垂れてきそうな曇り空の雲、雨が降る前の独特の匂いや、音もなく降る小雨、ざあざあ振りの雨。他にも挙げると限のない表情をもつ空。そんな空に地球の営みを感じる。
(営み……)
 ふと思考が止まった。
 何だか心がちくんと痛んだ。
 それを振り払うように空を見上げる。今日のような曇りなのにどこか明るい空のときは、空が鳴くのを知っている。
 予想通り、ほどなく神鳴りとともに、スコールのような雨が降り出した。竜神が空を這っている。ああ、綺麗だ。
 あたしは、一瞬、全てを忘れたように空を見上げて、その大粒の雫を体いっぱいに浴びた。気持ちよかった。
「ほら、立野! 早く片付けないと!」
 先輩の声に我に返って、バーやらマットの片づけを手伝う。そのとき気づいた。
(あれ?)
 青木がさっきから黙ってる。そっとその表情を伺うと、青木はあたしから目をそらすようにしていた。
「どうしたの?」
 小声で話しかける。
「……風邪、ひくよ。
それにっ」
 顔を赤くした青木があたしの方を向いた。
「あ、雨でぬれて、下着が透けて見えてる! ジャージかなんか、着ろよっ」
 青木に言われて、自分の体操服を見ると、確かにブラの線がかすかだが見えた。 いつもは目立たない双丘が、ちょっぴり高く感じられた。
 ジャージの上を羽織って、青木を見る。青木はやっぱりそっぽを向いたままだった。
 あたしは、そんな青木を見て、なんだか急に恥ずかしくなった。
 どうしてだろう。
 あたしは女子で、青木は男子だから?
 思いついた理由を頭から払う。でもやっぱり恥ずかしさは消えなかった。
 他の男子に見られても平気な自信がある。でも、こんなに恥ずかしいのは、青木に見られたからなのだろうか。
 解らない。

 この感情をなんというのだろう。

 あたしはこの感情を本当に知らないのだろうか? 知らないふりをしているだけなのではないか?
 眩しい笑顔を見せる青木。
 一人ひとりを意外によく見ている青木。
 何事も楽しみに変える青木。
 近くにいると青木のいろいろな面が見えてくる。
 でもなぜだろう。今までは純粋に、青木と一緒にいれることが嬉しかった。
 でも今は。
 自分の知らなかった青木を見つけると辛いと思うときがある。これまでに他人とこんなに深く関わったことがなかったからだろうか。
 ――違う。
 青木に対する感情が変化するから? どのように?
 もし、青木があたしでない女子と、一日中一緒にいるとしたら? あたしは平然としていられるだろうか? あたしは……。
 あたしは大きく頭を振った。
(別に、なんともっ!)
 否、そんなはずはない。この感情は。好……。
 ――思考停止。そんな感情、知らないし、恥ずかしくなんかない。別に青木に見られても、他の男子に見られても平気だ。

 ――駄目だ、思考が停止できない。何もかも、どうして進んでいくのだろう。あたしだけ、あたしだけ取り残されている。
 そう感じるのは気のせいでは、ない。
(跳んでいるとき……そのときだけは、時間に支配されない。あたしは取り残されたのではなく、自由だ。跳んでいるときだけは!)
 あたしががむしゃらに跳ぶ理由は、そこにあるのかもしれない、とふと思った。


「立野!」 
 その日も部活を終え、あたしが先輩とバーやマットを片付けているときだった。同じように、部活が終わったのだろう。野球ボールの入った箱を抱えながら、後ろから声をかけてきた人物にあたしは足を止めた。
「?」
 誰だっただろうか。なんとなく見覚えがあるような。
「おい、つめてーな。高倉だよ。高倉 久(たかくら ひさし)。小学校のときよく一緒に遊んだじゃねーか。ドッジや、キックベースで」
「!」
 高倉の背が以前より伸びていたので、あたしは彼が高倉だと気づかなかったのだ。
「久しぶり。随分背が伸びたな、久。あたしなんか中学に入ってからめっきりだよ」
「はは。小学生のときは、立野に負けてたからな。
……中学生になってからはしゃべる機会もほんと減ったよな」
「……」 
(それは違うだろう?)
 あたしは眉間にしわを寄せ、黙った。
 中学生になってから「俺」と言わせなくしたのは、男子だったのに。集団に入れてくれなくなったのは男子だったのに。
 溝ができたように感じた。その溝は埋まるどころか深くなるばかりだ。
 高倉もその一人だったじゃないか。
「久しぶりに一緒帰らねえ? 家、近かったよな?」
 意外な展開にあたしは驚いた。そんなあたしを青木はじっと見ている。
「……いいけど……。なんか変な感じだな。制服着て一緒に帰るのって」
「はは。確かに。じゃ、着替えたら校門な!」
 高倉は爽やかに言って、走っていった。


 最近は日が短くなってきていて、帰るころにはもう、日が沈んでいた。風も冷たい。秋が終わろうとしている。
「……」
 日が沈んだ直後の空は、南国の海を思わせるような、碧色をしている。もう一番星が輝いていた。次に空を見上げる頃にはきっと、群青の空に、金星は今以上に光を増しているに違いない。夜が足早に辺りを包んでいく。
「まーた空見てんのか?」
 声に振り返ると高倉がいた。
「わりい、遅くなって」
「いや、そんなに待ってない」
「そっか、じゃ、よかった。最近寒くなってきたからな」
 言いながら歩き出す。
 しばらく無言が続いた。
 小学生のころはこんなに息苦しくなかったのに。今では、何を話せばいいのかさえわからない。
「……最近どうよ?」
 高倉が不器用に声をかけてきた。
「変わんないよ。朝錬、授業、部活の毎日」
「ははっ、そうみたいだな。いつも遅くまで跳んでるの見えてるよ」
「野球部も厳しそうだな」
「ま、好きで入ったからな。立野もそうだろ?」
「うん」
 そしてまた沈黙。
 破ったのはまた高倉だった。
「今は空に何見てんだ?」
 高倉はあたしを見ずにそう言った。真剣な声だった。
 どういう意味だろう。
「小学生のころから、立野は空が好きだったよな。
でも、中学生になって少し経ってから、空を見る立野はどこか変わった」
「え?」
 ますます意味が解らなかった。
「野球部の部室、陸上部の隣って知ってた? 空を見る立野、よく見えてたよ」
「……」
「ついでに、ハンドボール部の練習をよく見てる立野も」
「?!」
 あたしはかなり動揺した。
 ハンドボール部のコートは、ハイジャンをするスペースのすぐ隣だった。青木のことを見たいとは思っていた。でも、なるべく見ないようにしていたはずだ。
 これ以上高倉と会話をしてはいけない。
 あたしの頭で警告が響いた。
 逃げないと。逃げないと。
 一方、青木はというと、あたしたちの会話に一心に耳を傾けているようだった。
「色真っ黒けで、ショートカットで。ちっとも、ガキのころと変わんねえなあと、思ってたんだけどな。やっぱり立野も女だったんだなと思ったよ。好きな人ができるなんて……」
(……女? 好きな人? 久までそんなことを! 人の心を自分のものさしで勝手に解釈するな。あたしは、違う!)
 あたしは全身が熱くなるのを感じた。
 青木は複雑な顔をしてあたしを見ていた。
 あたしは無言だ。
「立野?」
 悪びれもなく、高倉があたしに声をかける。
「……それ以上言うな」
 低い低いあたしの声。青木が驚いたようにあたしを見た。
「? どうしたんだよ。別に、冷やかしてるわけじゃないぜ? 好きな人ができるって、ガキのころより大人になったんだなと思っ」
「好きな人とかじゃない!」
 あたしは高倉の言葉を遮るように叫んでいた。
「違う。あたしの想いはそんなんじゃない! そんなちゃらちゃらしたものなんかじゃない!!
 女? あんな女子たちと一緒にするな! あたしはあのころと変わってなんかいない! 変わったのはお前たちじゃないか!」
 怒りに足を踏ん張り、あたしは叫んだ。
 あたしがここまで怒る理由は、青木にはもちろん解らない。
 でも、青木はじっと考えているように黙っていた。
 高倉はあたしを静かに見ていた。そして続けた。
「つらいんだろ? 空、まさにあいつの名前だよな。重ねて見てたんだろ? でも、もう奴は……」
「やめて!!」
 悲鳴に近いあたしの声。
 判ってしまう。
(青木はすぐ隣にいるのに! 違うのに。そういう感情じゃないのに!) 
 高倉がなぜそこまで解っているのか判らなかった。でも、とにかく止めさせなければ。
「二度と言うな! あたしに好きな人などいない。なぜ、昔のように扱ってくれない? 久。昔は一緒に遊んだのに。昔は女扱いしなかったのに。急にやめろよ。気持ち悪い。
不愉快だ。あたしは帰る。じゃあな」
「立野!」
 高倉の声を背に、あたしは駆け出した。
(違う、違う、違う! 好き? そんな軽い感情じゃない! 自分は男子の目を気にして、態度を変えるような女子と一緒じゃない! 
嫌だ! どうして、みんな変わっていくの? 昔のままでいられないの?)
 あたしは泣いていた。泣きながら走っていた。



      八


「立野!」
 部活も終わり、立野が片づけをしているときに、その男子は声をかけてきた。立野は誰か判らないようだった。
 そんな彼女に彼は、「高倉 久」だと名乗った。次の瞬間、立野の口調が変わった。まるで、男言葉のようだ。
 俺はそんな二人のやり取りをただ黙って見ていたのだが、立野の表情が変わっていくのに気付いた。
「空に何をみているのか?」という、高倉の言葉あたりからだ。
 それが何を意味するのか、俺にはさっぱり分からない。だが。
(立野の好きな人?)
 どきりとした。知りたいような、知りたくないような……。
 とにかく、気になり、動揺した。が。
 立野を見ると、俺以上に動揺しているようだった。何だろう。殺気のようなものが立野からゆらめいているのが感じられた。

「……それ以上言うな」

 立野が発したその言葉は、今まで聞いたことのないような低い声だった。
 どうしたというのだろう。何が立野を怒らせたのだろう。
 俺には解らない。
「好きな人じゃない!!
違う。あたしの想いはそんなんじゃない! そんなちゃらちゃらしたものなんかじゃない!!
女? あんな女子たちと一緒にするな! あたしはあのころと変わってなんかいない! 変わったのはお前たちじゃないか!」
(え……?
 ――あたしの想い――とはナンダロウ? 
どうして、立野はこんなにも怒っているのだろう?)
 そんな立野を無視して、高倉は言葉を紡ぐ。そのとき。
「やめて!!」
 今度はヒステリックな立野の高い声。
 そして見ている俺までもがつらくなるような立野の表情。
 俺が幽霊じゃなかったら、高倉を制していたところだ。
 立野は言った。
「二度と言うな! あたしに好きな人などいない。なぜ、昔のように扱ってくれない? 久。昔は一緒に遊んだのに。昔は女扱いしなかったのに。急にやめろよ。気持ち悪い。
不愉快だ。あたしは帰る。じゃあな」
 そして、立野を呼ぶ高倉の声を無視して、立野は走り出した。
(いや、あれは女の顔だ)
 瞳に怒りを孕ませてさせて叫んでいた立野を見て、俺はそう感じていた。
「……」
 ふと、横で走っている立野を見て、俺ははっとした。
 立野は泣いていた。そんな立野に声をかけられるはずもなかった。
 自分は無力だと俺はこのとき思った。
 そして、立野の力になりたい、立野を助けるのは俺でありたい、と心底思った。


    九


 高倉との件以来、立野は普段どおりを装っている。しかし、あの夜から部活時、バーを落とすことが多くなった。
 立野はあのとき、確かに怒っていた。でもなぜあんなに怒る必要があったのだろう。
 ――あたしはあのころと変わってなんかいない! 変わったのはお前たちじゃないか!
 立野の言葉が甦る。
(変化……)
 そう、立野は変化を恐れているように思える。時間を留めようとするのも、女性扱いをされるのを嫌がるのも、全てはそこから来ている様に思えてならなかった。
 立野は不安定だ。
(不安定……)
 どこにも属していない。今の立野は見ていて危なっかしい。立野を助けたい。
 自分に何ができるかは判らなかったけれど、それが自分にとっても大きな意味を持つように思えた。
 そう、俺は自分が立野の前に現れた意味がそこにあるような気がするのだ。


「っ痛っ! 」
 今日も立野はバーを落としている。
「大丈夫か?」
「……平気よ。こんなことでめげていたらハイジャンなんかやってられない」
 苛立たしげに顔を上げると、また助走の場所へ駆けていく。見ていて痛々しかった。
「立野、今の立野は、ハイジャンを楽しんでないよ。何かを振り払おうとしているみたいだ」
 俺の言葉に、立野は唇を噛んだ。
「そうかもしれない。
でも、あたしは違う! 違うんだ!」
 立野が助走に入る。
 跳ぶ。
 そして、またバーが落ちた。
「っ」
 立野は両腕で顔を隠すようにして、落としたバーの上で泣いていた。
「立野!」
「見ないで! こんなあたし、見ないで!」
 空が紅く滲んでいた。立野の目のよう。もう耐えられなかった。
「立野、今日はもうやめたら? 跳ぶのは気持ちいいものでないと」
 立野はうつむき、頷いた。
「そうだね。空にまで見放されたら、あたしはどこへ行けばいいのか」
 立野は途方にくれたように大きな空の下で泣いていた。
「大丈夫。見放したりなんかしないよ」
 「俺は」、とつけたかったが、それはやめた。
 立野は自分の小麦色の腕を一度見て、ふうとため息をついた。そんな立野はいくら小麦色の肌をしていても、いくら髪が短くても、頼りない、一人のか弱い少女でしかなかった。
 俺は立野の後ろからそっと抱きしめるように手を伸ばした。もちろんその手は立野を抱くことは出来なかった。すり抜けてしまうだけだ。立野はそんな俺に気付いていないようで、泣き続けている。
 立野はこんなにも不安定で……。
 ――どこにも属していない。
 立野の言葉がよみがえる。俺が自分のいない教室を見たときに感じた、悲しさや、居心地の悪さ、そして疎外感に似たものを立野も感じているのではないか。居場所がないとはなんと寂しいことだろう。

 でも。
 俺たちはとても似ていて、でも決定的な違いがある。

 立野は男女どちらにも属していないと思っているが、俺の目から見ればちゃんと女に属しているし、俺の時間は止まらなくてはならないが、立野の時間はこれから進ませないといけないということだ。
 生きている人間と死んでいる人間のどちらにも属さない、幽霊の俺だからこそ、きっと立野を理解できる。
 だが……。
(立野……。泣かないで……)
 自分が幽霊であることをこんなにも切なく思ったことは初めてだ。
 立野を抱きしめて安心させたい。 
 ――いや、思いっきり抱き締めて、抱き締めることで思いを伝えたい。
 今まで女子に特別な感情を持ったことなどなかったが、今のこの少女に対する想いは特別なものであると俺は確信した。

 俺は立野が好きだ。

(泣かないで……)
 泣いている人の体温はこんなに熱いと初めて気付かされた。
 立野の吐息が熱い。
 こんなにも近くにいて、立野を感じることができるのに、触ることが出来ないなんて……!
 神様は残酷で、優しい。
 恋を知らずに死んだ俺と、恋を拒む立野に、神様は切ないプレゼントをくれた。
 絶対に結ばれぬ恋。
 それでも、それでも恋することが出来てよかったと思えた。
 俺はこの感情を知らずに死ななくてよかった。立野と過ごせたひと時は、本当にかけがえのない時間だ。

 ――それは眩しい空のような時間――。

(今夜、立野を救いに行こう)



   十



「立野、部屋、入っていい?」
 俺は立野の部屋の外から声をかけてみた。
 夜に部屋に入るのは、幽霊になった日以来だ。
「……いいよ」
 風呂上りなのか、立野の上気した顔と、濡れっぱなしの髪から漂うシャンプーの香りは、俺を動揺させた。  
 しかし、今日は。
 立野を救うんだ。
 気を取り直して言葉をかける。
「あのさ、最近、調子悪いよな。高倉って奴と話してから。
高倉とはどんな関係なわけ?」
「……。
小学生のとき、あたし、女子のグループ戦争とかが嫌で、男子の仲間に入ってたんだ。男子もあたしのことを女と思ってなかったし、あたしは男子の考えや、遊びのほうが理解できたから。
久もそのとき遊んでた男子の一人」
「ふーん。男子の仲間か。
じゃあ、女子のことを立野が嫌ってるのは、小学生のときからってことか?」
 立野は、は? という顔をした。
「……別に、嫌ってるわけじゃない。ただ、理解ができない。
 グループを作ることもその一つだけど、同じ女子なのにあたしは彼女たちの気持ちが解らない。
 あたしは香水や、口紅や、短いスカート、華やぐような声、そういうのが、男子に媚びているような、そんな気がして、自分は絶対にしない、と思っているだけ。だから同じと思われたくないの。
 中学生になって、男子も女子もお互いを意識しすぎているっていうか。なんかそういうの気持ち悪い。
 あたしはセーラー服を着せられてから、男子は仲間に入れてくれなくなって、でも女子の仲間にも入れないあたしははみだしちゃった。
 どっちにも属せず本当は戸惑っているのかもしれない。自分だけ取り残されたような。
どうしてみんな変わっていくんだろう」
 途方にくれたような立野の声。
「そっか……。
媚びてる、か……。それはどうなんだろうな」
 居場所がない辛さは分かる。でも。
「立野の偏見もあるんじゃないか? 好きな人に好きになってもらいたい。きっとそういう気持ちが行動にでているのかもしれないよ?」
「その、好きっていうのも理解できない。
男子も女子も、簡単に誰々が好きだのなんだのって言ってるけど、好きって何? その人のどこが好きなの? 全部を知り得るわけないのに好きなんてどうして簡単に言えるの?」
 確かに立野の理論は正しい。
 でも、好き、というのは感情であって、理論で説明できるものじゃないのではないか。
 俺も異性を好きになるという感情は、よくわからなかったのは事実だ。でも、好きな人の話をする友人の顔を思い出すと、あれが嘘の感情だとは思えない。

 それに。今は判る。

 自然と視線が行ってしまうこと。その人を知りたくて、理解したくて、その人で頭がいっぱいになること。独り占めしたいとまで思うこと。
「……じゃあ、立野は好きな人がいないんだな? 高倉にもそう言ってたもんな」
「いない。あたしの想いをその一言で片付けるなんて、嫌だ」
 なぜか、立野は泣きそうな顔で言った。
 俺はどきりとした。
「『あたしの想い』? それは……」
 高倉が言ってたハンドボール部の奴なのか。
 俺は胸にちりちりと焦げるような痛みを感じた。
 立野の想う人。いるのは事実なのではないか。それだけでこんなにも胸が苦しい。
「……もう、判ってるんじゃない?」
 そんな俺に、立野はいつもとは違う、か細い声でそう言ってきた。
「全然判らないよ」
 俺が、訳がわからずにそう言うと、立野はぬれた瞳で俺を見た。
「――嘘!
とにかく、あたしは笑顔が眩しいと思ったのよ。快晴の空みたいって。その笑顔を見れば幸せになれた。
好き? わからないよ!
異性だからとかを超えた、眩しい光のような存在だった。だから、「好き」という簡単な言葉で片付けたくなかった。
届かないからこそ神々しく、綺麗な……。そんな想いなんだから。他の女子とは違うの。違う想い。そう思いたい。
――だから青木、あたしを気持ち悪いと思わないで!」
「……え?」
 最後の一言はいったいどういう意味なのか。
 聞いていて、恥ずかしくなるような、純粋な賛美。それは誰に向けられたものなのか……。
 高倉の言葉が蘇る。
 ――「空、まさにあいつの名前だよな」――。
 空の好きな親父がつけた空を表す名前。ハンドボール部。
 もしかして。それは……。
 それは?
「俺、だったのか?」
 呆然と呟く。立野は耳まで真っ赤にして、俯いている。それは肯定。
 こんなときなのに、そんな立野が可愛いくて、抱きしめたくなりそうだ。
 だが。同時に覚えた違和感を、俺は放って置くわけにはいかない気がした。
「立野。立野は空を見るとき、俺を想ってくれていたんだな?」
「……そう」
 嬉しさに胸が震えた。立野が自分を……。
 でも。
「それがどうして気持ち悪いとか思うという結論になるんだ?」
「え?」
 立野は捨てられた子犬のような瞳で俺を見上げた。
「だ、だって。青木はあたしのことを、知らないし、あたしに対して特別な感情も持っていないんだよ? それなのに、あたしは毎日青木の笑顔を思い出して、幸せに思ってたんだよ? 気持ち悪くないの?」
 立野は自分の想いは崇高だと思う一方で、その想いを否定しているのか?
「想うことは自由だろ? そんな風に考えなくていいよ。現に、俺は立野の想いがとても嬉しいよ?」
 立野は、珍しいものを見るように俺を見た。完全に予想外の言葉だったようだ。
「ただ。ひとつ聞きたい。立野の想いは、俺の笑顔だけに対する想いなのか?」
 もし、そうであるのなら、それは、好きという感情ではないような気がした。好きというより、憧れとかのほうが近いのかもしれない。立野はそれに気づいているのだろうか。それが疑問だった。
「……」
 立野は混乱していた。
「ああ!」
 立野は小さく声をあげ、俺をまっすぐに見た。そして、涙を流した。
「立野?」
「笑顔だけでよかったのに。それで満足しなければいけなかったのに。
 青木が近くにいるから。青木がいろいろ見えてきてしまったから。青木は予想以上に優しいし、予想以上に可愛いし、だから」
 息をするのも忘れたように立野は早口にそう言った。
「だから?」
「幽霊の青木はあたしだけの人のようで」
 涙でぐしゃぐしゃの立野の顔。
「それをどう思ったんだ? 立野!」
「嬉しくて、誰にもあげたくない! 独り占めしたいと、恐れ多いことを!」
 俺の誘導のままに、震えながら叫ぶように立野は言葉を放った。
 ふう、と俺は力を抜いた。俺が霊体でさえなければ、立野の頭をぐしゃぐしゃになでて、ぎゅっと抱きしめていたところだ。
「恐れ多くなんかないよ。
好きになったら誰だって思うことなんじゃないかな。俺も今まではよく分からなかったけれど。
好きというのは、さっき立野が言ってたような難しいことじゃなくて、もっと単純な感情なんだと思うよ。独り占めしたい。ずっと一緒にいたい。抱きしめたい、とかね?」
「これが、好き? なの? じゃあ、あたしもあの女子たちと一緒?」
「そんなに女子と自分を区別しなくてもいいんじゃないかな? 立野は自分で女子に属さないように思っているだけだよ。俺から見たら立野はちゃんと女性だよ。立野は男子になりたいの?」
「え? わからない。男子に属していたころが楽だったから……」
 立野は困ったように呟いた。
「うん。楽だったんだな。でも、今は男子とも分かり合えなくなった……」
「そう……。
あたしは変わらないでいたいのに、周りがどんどん変わっていく。あたしだけ置いてけぼりのような気がして。どうしていいかわからなくなる」
 俺はずっと考えていたことを言うことにした。
「本当は羨ましいんじゃないか? 変わっていく、女性らしくなっていく女子たちが」
「?!」
 同じセーラー服の少女たち。でも立野とは変わってきた。それを立野は見ていた。自分は変わっていないと思いながら。 
「そんな。分からないよ。
でも……変わっていく彼女たちを確かに羨ましく思っていたのかもしれない。ただ、あたしはあんな風には変わりたいとは思わなかった」
「うん。そうだったんだな。変化に戸惑い、さらに変化の仕方も受け入れられなかった。もともと女子と分かり合えなかったのに、さらに変化されちゃ、ますます分かんないよな」
 俺の言葉に、自分の考えていたことが、今やっと判ったかのように、立野は素直に頷いた。
「でも、西月先輩は素敵だと思う。
あの方は、かっこいいけど女性だと感じる。あんな風にならなりたいと思ったことはある。
でも、あたしはいつまでたっても男子みたいなままで……。
なのに男子にも属せなくなってあたしはどうすればいいかわからない」
 でも、この少女は自分も既に変化し出していることが判っていないんだな。
「立野。男子に属せなくなった立野は、それを悲しく思うかもしれない。でもそれは仕方ないことなんだ。
立野。立野は間違いなく女性として変化しているよ」
「え?」
「判ってないのは自分だけ。ショートカットが、なんだ。日焼けがなんだ。立野の考え事をしてるときの横顔。凄く綺麗だぞ?」
 俺の言葉に、かあっと立野は頬を染めた。
「うん。そんな顔も可愛い。それに、正直俺は、ハイジャンで一緒に跳んでるとき立野の体に目が行くのを止められなかった」
 立野はさらに赤くなり、俯いた。
「空を見上げている立野も好きだ。
そして、今日、話してますます思ったよ。立野は純粋なんだって」
 俺も言ってて恥ずかしいのだが、立野に判らせるためには仕方ない。もう、この際だから全部白状してしまおう。
「もっと立野が知りたいし、俺が生身の人間なら触りたいとか、抱きしめたいとか、思ってたよ。どうだ、気持ち悪いか?」
 立野は真っ赤な顔をふるふると左右に振った。
 俺は思わず笑顔になった。
「あー、残念。幽霊で。
でも、立野が空のように仰いでた人間は実はこんなごく普通の人間だったんだよ?」
 その俺の笑顔をやはり眩しいものを見るように、立野はただじっと見た。
「普通? でも、やっぱり青木は特別。あたしの中は青木でいっぱいだ」
 立野は両手をきゅっと胸のあたりで組みながらぼそぼそとそう言った。
 やっぱり、立野はこんなにも可愛い。
 心残りなんてなかったはずなのに。
 生きているときに立野と仲良くなりたかった。 死んでから初めて恋をするなんて。
 立野の魅力に気づいてるのは自分だけではない。
 高倉久。あいつは立野が好きだから、あんなに立野のことを知っていたのに違いない。立野のそばにこれからいる男が、自分でないことがかなり癪だが、こればかりは仕方ない。

 ……青木、青木、死んじゃったの?……

 もう俺は思い出していた。自分が立野の部屋に現れた理由。
 自分を強く呼ぶ声が聞こえたんだ。だから来てしまった。
 そして、今、自分の役割はもう終わろうとしているのにも気づいた。
 自分がどこにも属せないことに戸惑いと苛立ちを感じていた、細い少女。
 女性でありながら、そのことを受け入れられず、自分の感情さえ否定し続けてきた幼い少女。
 だから、時を留めたいと、一心に跳び続けていた少女。
 そんな彼女をもう解放してあげてもいいのではないか。
「立野、俺は立野を好きになったよ。だから、そばにいられなくなるのはとても哀しい」
「え?」
 立野の黒い瞳が戸惑うように揺れる。
「立野。もう、気づいたよな? 
変化は悪いことではない。生きているからこそ起こることなんだよ。
もう、俺には起こらないけど、立野は日々、女として、人間として変化していってるんだ。それは恐れることじゃないんだよ。
そして。好きという感情は、決して汚いものではなく、むしろ尊く美しいものなんだよ。恥ずかしいものなんかではないんだ。もう、自分を許してあげなよ」
「許す? 
青木?」
 立野は何かを予感したのか、不安な顔で俺を見つめてきた。
「俺はもともと現世にいてはならない人間なんだ。そんな顔をしないでくれよ。心が痛む」
 立野は再び泣きそうな顔になった。そしてぶんぶんと頭を振る。すがるような目で俺を見た。
「青木、まだ、そばにいてくれるよね? 
まだよく解らないけれど、自分が凄い偏見を持っていたことが分かった。この自分の感情が「好き」ってことなんだと……。
そう。あたしは青木が好き! だから一緒にいてほしい。まだまだ、たくさん話をして……。
現世にいてはならないって何? 青木はここにいるじゃない! あたしは青木なしじゃ生きていけない!」
「立野……。そんなこといわないでくれ。俺もそうしたいのは山々なんだけど、体が言うことをきかない。
もう、俺の役目は終わったんだ。こんな、損な役目なら……。
……いや、でもやっぱり立野のもとで一緒に過ごせてよかったと思えるよ。
立野。もう俺はすでに死んだ人間なんだ。幽霊という状態は自然の摂理に反している。
でも、不安定な存在だからこそ、不安定な立野を救えた。そして、生まれて初めて、恋することができた。
俺は満足だよ」
 俺は笑顔で言った。
「こんなに短い人生で満足なんて! そんなはずない! こんなに短い一生があるというのなら、なぜそんな短い時間のために人は生きるの? まるで人は死ぬために生きてるみたいじゃん! おかしいよ! なぜ人は生きなきゃいけないの!?」
「立野、人はいつかは死ぬ。でも、だからこそ人の生き様は美しいんじゃないか? 
俺はたまたま人生が短かった。でも、悔いなど微塵もないよ。
ハイジャンは短い時間に全てをかけるだろ? 俺の人生もそんなものだった。でも、いい景色が見られたと思っているよ。だから悲しまないでくれ。
立野はまだ生きていて、これから未来が広がっているのだから。時間を留めるために跳ぶのではなく、未来のために跳んでおくれよ」
「そんな……!」
 涙でぐしゃぐしゃの立野の顔。
(そんな顔するなよ。
神様。いるというなら一度だけ)
 俺は立野の体を抱き寄せた。軽い重みが確かに腕にかかった。
(神様、感謝します)
「じゃあな」


      十一


 一瞬、青木の体が光の煙のようになり、次の瞬間、その光がぱあっとはじけて温かい光が、あたしの部屋を満たした。
 そして、あたしの他には誰もいなくなった。
 軽く唇に触れた感触はなんだったのか。
 あたしは呆然として、消えてしまった青木を探した。
「青木? 青木?
青木……逝っちゃったの?」
 青木は取り残されたようなあたしの存在を救ってくれた。
「青木……。
あたし、青木のこと大好きだよ。自分が女であることも少しずつ受け入れていくよ。それから、これからも毎日空を見るよ。だって青木は天国にいるんだからね」
 ポタポタと零れ落ちる涙は、終わりを知らないようで。
 あたしは一晩中そうしてベットの上で泣いていた。泣いて、青木が死んでしまっていたことを受け入れたのだった。



 いつもと変わらぬ朝がきた。
 変わったのは青木がそばにいないということと、今までとは少し違う自分がいるということ。
 やはり黙々と朝ご飯を食べて、あたしは家を出た。
「いってきまーす」
 今日は十二月にしては珍しく、雲のない快晴だ。きっと青木の機嫌がいいのだろう。
(青木、見てる? あたしはまたいつもの毎日を繰り返すよ。でも、昨日のあたしと今日のあたしは、ちょっと違う。青木が変えてくれたから)
 校門をくぐろうとすると後ろから声をかけられた。
「立野!」
 高倉だった。
「おう、おはよう、久」
「お、おう。あの……、こないだはごめんな。あんなに怒るとは思わなくて……」
 本当にすまなそうに高倉が謝ってくる。
「いや、こっちこそ、取り乱して悪かった」
 なんだか、あのときの自分が妙に子供じみていた気がして、あたしは素直に謝罪した。
「そんな……。俺こそ、触れられたくない領域に踏み込んじまって悪かったと思ってるよ」
 高倉は優しい。
 あたしはにっと笑って、
「じゃあ、こないだのことは忘れよう」
と言った。
「そう、だな」
 高倉は戸惑いながらも頷く。まだ何か言いたげだった。
「ん? どうかしたの、久?」
 あたしが不審に思って問いかけると、高倉は明らかに動揺した様子を見せた。そして、何度か息を吸い、決心したように口を開いた。
「あ、あのさ。実はほんとはあのとき言いたいことがあって」
 高倉の様子に、不思議に思いながら、あたしは、
「うん?」
と先を促す。
 すると、高倉は困ったようにもじもじと坊主頭を掻いた。そして、もう一度大きく息を吸い込んだ。
「お、俺、立野が好きなんだわ。
でも、立野が好きだった奴、知ってるし、気長に待つつもりだから」
 叫ぶように言って、高倉は口を閉ざした。
「?!」
 あたしは、真っ赤になっている高倉をまじまじと見た。
 ――私を好き? 
 確かに高倉を見ていると、自分がいかに「好き」ということに対して偏見を抱いていたかが解る気がした。どうやら、高倉は本気らしい。
 純粋にその好意を嬉しいと思える自分が今はいた。
「久、変わった趣味だな」
「っ! なんなんだよ、立野。いーだろ個人の趣味の問題なんだからよ」
 あたしの言葉にちょっとむっとした高倉に、あたしはにやりと笑いかける。
「……、なんか企んでるだろ。立野?」
「あたしの好きな人を知っているなら話は早い。
あたしが青木を思い出にできるか、久がそれまであたしを想い続けられるか。根競べだ、久。どう?」
 むうと高倉は顔をしかめた。
「亡き人がライバルってーのは、ちと辛いな。奴はかっこいいまま立野の心に残ってるんだろ?」
「まあね。でもそんなんで、びびるぐらいなら、告白なんかしないことね」
 あたしは意地悪く笑ってみせた。すると高倉はあからさまに怒った顔をした。
「なにおう? 誰がびびってるって? こっちはガキのころからの付き合いなんだぜ? 負けてたまるかってーの!
のってやるぜ、その根競べ!」
 勢いよく高倉は言葉にした。そんな高倉に、あたしはくすりと笑う。
「青木と過ごした時間より、これからは久と過ごす時間が長くなるんだ。逆に有利かもしれないよ? ま、せいぜい頑張ることね」
 事実、いろんな面が見えれば見えるほど好きになる場合だってある。青木がそうだった。
 でも、その青木はもういない。あたしはあたしの世界を生きていかなければならない。
(そうだよね、青木)
 晴れた朝の空を仰ぎ、あたしは心でつぶやく。
 青木が悔いを残さず生きたように、自分も自分らしく精一杯生きなければならない。
 それが残された者にできることだ。
「なるほど、ようし、今日から早速実行だ。帰りは俺が送るからな!」
 高倉は納得したように笑って言ってきた。
「張り切ってるね、久。
いつ終わるかわからない部活の間、待つ根気があるなら頑張りな! っと、朝錬に遅れるよ! 走れ走れ!」
 あたしは部室に駆け出した。
 そして、今日も居眠りをしながら授業を受け、その後、部活に行くのだ。
 それがあたしの生き方だ。


「立野、フォームよくなってきたぞ、その調子! 」
 西月の言葉。
「はい!」
 嬉しくなって返事をした。
「バー上げてみようか。百四十一センチ。大丈夫二センチぐらいどうってことないよ」
 からからと笑う西月に、あたしは、
「それは先輩だからですよ」
とぼそりと呟く。
「何か言った?」
「いいえ、何でもありません!」
 新しい未来があたしにはある。
 まずはこのバーから。
「立野、跳びます」
 一言自分に告げるように言った。
 助走にも力が入る。バーが近づいてくる。大丈夫。きっと跳べる。
 トッ、地面を蹴る。背中を反らす。
(ああ、綺麗な空だ)
 最後に足がバーに引っかからないように上げて……。
 トスッ。
 かすかに揺れるバーが上に見えた。
 ひんやりしたマットの感覚。
(ああ、青木、初めて百四十一センチ跳べた! 見てる? 青木!)
 喜びが沸き起こってくる。しばらくマットに背を預けたまま、あたしは空を見た。
 どこまでも広がる青い空と白い雲。でも。
 空は止まってなどいない。雲は流れ、日々は移ろい、未来へと続いているのだ。
「跳べたじゃん! 立野お!!」
 西月の嬉しげな叫び声。
 こうやって、日々、空に段々近づいていく。やっぱり、この感覚はやめられないな。
「感覚残ってるうちに、もう一度跳びます!」
 あたしは笑顔になって西月に叫ぶ。
「おう! 頑張れ!」
 西月の声を背に、助走に入る。
 ……「空」……
 初めてのハイジャンの感想を述べた青木の言葉が蘇る。
 そして。
 あたしは跳躍した。視界には青木の全開の笑顔のような……。
 ――空!――


                          おしまい


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