天音花香の小説をUPするブログです。個人サイトの小説はこちらに移しました。現在二時創作と短編を中心に書いています。
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HN:
天音花香
HP:
性別:
女性
職業:
主婦
趣味:
いろいろ・・・
自己紹介:
小学生のときに、テレビの影響で、小説を書き始めました。高校の時に文芸部、新聞部で文芸活動をしました(主に、詩ですが)。一応文学部でです。ですが、大学時代、働いていた時期は小説を書く暇がなく、主婦になってから活動を再開。
好きな小説家は、小野 不由美先生、恩田陸先生、加納朋子先生、乙一先生、浅田次郎先生、雪乃 紗衣先生、冴木忍先生、深沢美潮先生、前田珠子先生、市川拓司先生他。
もう一つのブログでは香水についてレビューをしております。
http://yaplog.jp/inka_rose/
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「広大の場合」5
「前田さん」
休み時間のたびに朝希を呼ぶ男……佐藤真樹。
広大はふんと鼻を鳴らしながら談笑する朝希と佐藤を見ていた。
(王子様にも王子様ができたってことか。おめでたいことで)
背のあまり変わらない王子様。でも、朝希を笑顔にできる、姫にできる王子様。
いらいらするのは、この六月の梅雨のせいだろうと広大は思った。そうでないと、おかしい。自らが願ったことではないか。
(でも、なんだ、この空虚な感じは。何度目だろう味わうのは。そこにはいつも……)
「竹田君」
名前を呼ばれ、無愛想に顔をあげると、そこには小さな梨呼が、大きな目に強い決意を秘めて立っていた。
「ん? 何かなあ? ここは翔の席じゃないよ?」
言ってお決まりの作り笑いをすると、
「話があります。来てください」
と廊下の隅に呼び出された。
梨呼に、だ。
「朝希ちゃんが佐藤君とお付き合いをしているのは気付いていましたか?」
そんなの、気付くもなにも、五月から付き合いだしたことさえ知っている。
「それが?」
冷たい目で梨呼に問う。でも、今日の梨呼は引き下がらなかった。
「朝希ちゃんは、でも、佐藤君に恋愛感情は持っていません」
「そりゃ、佐藤は気の毒で」
梨呼はきっと広大を睨んだ。
「竹田君のせいですよ。朝希ちゃんはまだ竹田君が好きなんです。でも、『竹田君が朝希ちゃんから離れてほしいと思っている』と勘違いして、長く悩んだ末、つきあってみることにしたんです。竹田君と距離を置くために」
「勘違い? へえ、おもしろいね、藤木さん。何でそう思うの? 朝希が思っていることのほうが正しいよ?」
からかうように、広大が言うと、梨呼はなぜか微笑んだ。
「いいえ。勘違いです。第三者だから見えることもあるんだなって私は思いました」
なんだか、広大は自分の心がざわつき出すのを感じた。これ以上聞いてはならないような。
「竹田君が、今までにふったのは、朝希ちゃんだけですね。なのに、付き合った女性に対しては朝希ちゃんに対するような態度をとっている。
これはどうしてなんでしょうね」
喉が渇く。頭痛がする。
でも、広大は逃げるなんて格好悪いことはできない。
こいつは、あの朝希の姫だった奴なんだから。
「竹田君は本当の自分を受け入れてほしかったんじゃないですか?」
「なっ、俺は俺だ!」
「そう、学校で笑っているのも、格好よくバスケをするのも、冷たいのも竹田君。でも、結果は惨敗」
かっと頭に血が上るのを広大は感じた。女でなければ殴っているところだ。
「でも、そんなこと、本当は竹田君にとってはどうでもよかったんじゃないですか? だって、本心から好きで付き合ってたんじゃないんだから」
この小さい女に、なんでここまで心を見透かされているんだ、と広大は動揺した。
梨呼の言うことは当たっている。
「朝希ちゃんをふったのは……」
「うるせー、それ以上言うな!」
殺気じみた目で梨呼を睨む。
でも、梨呼は。
「いいえ! 朝希ちゃんのために、やめるわけにはいきません!」
と足をがくがくさせながら叫んだ。
「竹田君は臆病者です! だから、誰よりも自分を知っている、朝希ちゃんにだけはふられたくなかった! いずれふられるぐらいなら、友人であるほうを選んで、ふったんです!」
「!」
広大の心が悲鳴をあげた。
そう、だから、朝希の目をまともに見られずにふった。
朝希を傷つけても自分のそばにつないでおくために。
「でも、竹田君、そんなことをしてももう無駄です。朝希ちゃんが本当に佐藤君を好きになったらどうするんですか? それで、竹田君は本当にいいんですか?」
「素直にならないと後悔するぞ」
いつの間に来たのか、梨呼に、
「お疲れ様」
とねぎらってから翔が言った。
「さ、先に裏切ったのは、朝希のほうだ! 朝希の隣は俺の場所だったのに!」
気がつけば広大はがっくりとうなだれていた。
「ごめんね、竹田君。私のせいだったんだよね。朝希ちゃんをとっちゃって」
梨呼が悲しげに謝るのを広大は聞いた。
「でも、これからも、現れ続けちゃうよ? 竹田君がなんとかしないと」
「今更、どうしろっていうんだよ! もう、朝希は佐藤とつきあってんだから」
広大の血を吐くような言葉に、梨呼は意外そうな顔をした。
「へえ、竹田君て、やっぱり臆病なのね? でも今回は私、竹田君の味方だよ! ……佐藤君には悪いけど……」
「奪っちゃえってやつだよな!」
くすくす笑う翔と梨呼に、広大は唖然として二人の顔を見ていた。
(はあ、いいコンビだよこいつら)
「中学校のときさ、僕、前田さんは竹田とつきあってると思ってたんだよね」
放課後、剣道部の佐藤と待ち合わせして帰っていると、ふと佐藤が言ってきた。
「ははっ、すごい勘違い。広大とは家が隣だし、ずっとバスケで一緒だったから仲良かっただけ。女扱いされたことないもん」
言いながら自分で悲しくなる。
「じゃあ、竹田が前田さんの魅力に気付かないでよかった。そうしなきゃ今、前田さんとこうやって歩いてないもんな」
佐藤は気遣うようににこっと笑った。
本当にいい人だ。でも、なんで自分の心はこの人に向かずにあんな馬鹿に向いてるんだろう、と朝希は本気で考える。
(中学かあ)
入学したばかりのころ、梨呼が震えながら立っているのを見て声をかけた。それからいろんな女子の友達ができて、今までの環境との違いに驚きながらも、朝希の毎日は過ぎていった。
広大はどうだったっけ?
そうだ、入学式のとき、セーラー服姿の朝希に「変なの。似合わねー」と不機嫌そうに声をかけてきたきり、部活以外ではあまり話さなくなった。
部屋にはよく来ていたけれど。
最初、広大は教室で憮然とした顔で一人でいた。それが気になっていたが、そのうちお茶らけた性格で男子の友達を作っていったから、朝希も安心したのだ。 一方そのころからだった。広大が女子と付き合うようになったのは。別にそのときは広大のことを男子として意識していなかったけれど、言いようのない喪失感を覚えたのを今でも覚えている。
(あれ? 待って)
喪失感。
中学校に入ってすぐに女子の友達を作った朝希。
憮然として一人でいた広大。
(先に一人になったのは広大?)
広大は寂しくなかったんだろうか?
「前田さん、聞いてる?」
気がついたら、朝希の家の前だった。
そしてそのとき広大が偶然横を通って自分の家に入っていくのが見えた。
「あ、うん。来週の日曜の話だよね。映画、何見ようか?」
ちょっと動揺しながら答える。
「前田さんは、どんなのが好きなの?」
「うーん、アクションとかファンタジーとか、かな」
女性らしからぬ回答だったかなと思って佐藤を見ると、
「僕と同じだ! よかった! じゃ、その場で決められるね」
と佐藤は笑っていた。本当にいい人だ。
「前田さん、じゃ、駅に十一時ってことでいいかな?」
「うん。昼ごはん食べて映画見るのね」
「ご名答」
「ま、前田さん」
なぜか緊張気味の佐藤の声に朝希が、
「はい?」
と視線をあげると、すぐ近くに佐藤の顔があった。
「キスしたい」
そう熱のある声でささやいて、唇を佐藤は寄せてきた。
朝希は。
「い、いやっ!」
(けっ、門の前で見せ付けてくれちゃってまあ)
むかむかしながら、広大はその横を通り過ぎ家に入った。
通り過ぎるときに合った、朝希の揺れる黒目が甦る。
そして昼の二人の言葉。
どうしようかと思っていた矢先、
「い、いやっ!」
と言う朝希の悲鳴を聞いた。聞くが早いか、広大は家を飛び出していた。
そして、今にも朝希にキスをしようとしている佐藤を広大は迷わず殴った。
「なっ!」
佐藤が状況を把握できずに殴られた頬を押さえている。そんな佐藤へ、広大は冷ややかな視線を投げかけた。
「汚い手で朝希に触るな。悪いが朝希は俺のものでね」
「え?」
朝希もきょとんとする。
「そうだろ? 朝希? なんせ俺たちはもう、キスもしてるし、その先まで……」
「!」
あんぐりと朝希は口を開けた。
この男は!
「ま、前田さんそれは」
「ほんとほんと。何なら今しようか?」
広大は言うと、朝希の顎をくいとあげ、唖然とする朝希の唇を吸った。唇を食むように。
へたり込もうとする朝希を抱き起こして、
「ごめん、佐藤君。こいつ、お人よしだから、本当のこと言えなかったんだ。本当にごめんな。」
「……」
佐藤はがっくりと肩を落とし、
「そうだったんだ……。ごめんね、前田さん」
と謝って後ろを向いた。そして可哀想なほどよろよろとした足取りで去っていく。
(謝るのは佐藤君じゃない!)
「ごめんなさい!
私が全部悪いの! 私こそ本当にごめんなさい!」
朝希の泣きそうな声に、佐藤は振り向かずに手を上げただけだった。
(佐藤君……。最後までいい人だった……。私、何てことしちゃったんだろう。ごめんなさい、佐藤君。
…・・・それに比べて……)
「広大、今のは何なのよ?! 説明してもらうからね!」
と広大を睨むと、まじめな広大の目があった。その目からは迷いや苛立ちが消えていた。
「言った通りだよ。お前の隣は、藤木でも佐藤でもなくて俺じゃなきゃ駄目なんだよ。俺と付き合え」
命令口調のその言葉。
(はあ、もう、いったい何が何だか)
でも、
「はい」
と頷いてしまう自分を朝希は情けなく思った。
「よしっ! そうと決まったらこの前の続きを……」
そういって朝希を抱きかかえた広大を、朝希は思いっきり殴った。
「手順てもんが、あんたには解らんのかー!」
そしてふっと、二人で笑う。
「やっぱ、朝希には俺」
「広大には私ね」
「浮気したら許さないからっ」という、朝希に「それは絶対無い」とまじめに広大。
仕方ない今回は信じてやろう、と朝希は思った。それに、信じてもいいという予感があった。
翌日腕を組んできた広大と朝希(朝希は嫌がったのだが)に、梨呼と翔が笑顔になった。
「おい、二人ともサンキューな。特に藤木! お前、見直した!」
広大の言葉に、朝希が「何?」と尋ねると、
「王子様はお姫様に、お姫様も王子様になれるってこと、かな?」
と梨呼はくすくす笑った。
「広大の場合」おしまい
続き「治雪の場合」を読む方はこちら
自分では一番好きな章です。
読んでくださったら嬉しいな。
字が小さいとか、何かご意見がございましたら、
遠慮なくコメントしてください。
アルファポリス「第3回青春小説大賞」(開催期間は2010年11月1日~2010年11月末日)にエントリーしています。
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「前田さん」
休み時間のたびに朝希を呼ぶ男……佐藤真樹。
広大はふんと鼻を鳴らしながら談笑する朝希と佐藤を見ていた。
(王子様にも王子様ができたってことか。おめでたいことで)
背のあまり変わらない王子様。でも、朝希を笑顔にできる、姫にできる王子様。
いらいらするのは、この六月の梅雨のせいだろうと広大は思った。そうでないと、おかしい。自らが願ったことではないか。
(でも、なんだ、この空虚な感じは。何度目だろう味わうのは。そこにはいつも……)
「竹田君」
名前を呼ばれ、無愛想に顔をあげると、そこには小さな梨呼が、大きな目に強い決意を秘めて立っていた。
「ん? 何かなあ? ここは翔の席じゃないよ?」
言ってお決まりの作り笑いをすると、
「話があります。来てください」
と廊下の隅に呼び出された。
梨呼に、だ。
「朝希ちゃんが佐藤君とお付き合いをしているのは気付いていましたか?」
そんなの、気付くもなにも、五月から付き合いだしたことさえ知っている。
「それが?」
冷たい目で梨呼に問う。でも、今日の梨呼は引き下がらなかった。
「朝希ちゃんは、でも、佐藤君に恋愛感情は持っていません」
「そりゃ、佐藤は気の毒で」
梨呼はきっと広大を睨んだ。
「竹田君のせいですよ。朝希ちゃんはまだ竹田君が好きなんです。でも、『竹田君が朝希ちゃんから離れてほしいと思っている』と勘違いして、長く悩んだ末、つきあってみることにしたんです。竹田君と距離を置くために」
「勘違い? へえ、おもしろいね、藤木さん。何でそう思うの? 朝希が思っていることのほうが正しいよ?」
からかうように、広大が言うと、梨呼はなぜか微笑んだ。
「いいえ。勘違いです。第三者だから見えることもあるんだなって私は思いました」
なんだか、広大は自分の心がざわつき出すのを感じた。これ以上聞いてはならないような。
「竹田君が、今までにふったのは、朝希ちゃんだけですね。なのに、付き合った女性に対しては朝希ちゃんに対するような態度をとっている。
これはどうしてなんでしょうね」
喉が渇く。頭痛がする。
でも、広大は逃げるなんて格好悪いことはできない。
こいつは、あの朝希の姫だった奴なんだから。
「竹田君は本当の自分を受け入れてほしかったんじゃないですか?」
「なっ、俺は俺だ!」
「そう、学校で笑っているのも、格好よくバスケをするのも、冷たいのも竹田君。でも、結果は惨敗」
かっと頭に血が上るのを広大は感じた。女でなければ殴っているところだ。
「でも、そんなこと、本当は竹田君にとってはどうでもよかったんじゃないですか? だって、本心から好きで付き合ってたんじゃないんだから」
この小さい女に、なんでここまで心を見透かされているんだ、と広大は動揺した。
梨呼の言うことは当たっている。
「朝希ちゃんをふったのは……」
「うるせー、それ以上言うな!」
殺気じみた目で梨呼を睨む。
でも、梨呼は。
「いいえ! 朝希ちゃんのために、やめるわけにはいきません!」
と足をがくがくさせながら叫んだ。
「竹田君は臆病者です! だから、誰よりも自分を知っている、朝希ちゃんにだけはふられたくなかった! いずれふられるぐらいなら、友人であるほうを選んで、ふったんです!」
「!」
広大の心が悲鳴をあげた。
そう、だから、朝希の目をまともに見られずにふった。
朝希を傷つけても自分のそばにつないでおくために。
「でも、竹田君、そんなことをしてももう無駄です。朝希ちゃんが本当に佐藤君を好きになったらどうするんですか? それで、竹田君は本当にいいんですか?」
「素直にならないと後悔するぞ」
いつの間に来たのか、梨呼に、
「お疲れ様」
とねぎらってから翔が言った。
「さ、先に裏切ったのは、朝希のほうだ! 朝希の隣は俺の場所だったのに!」
気がつけば広大はがっくりとうなだれていた。
「ごめんね、竹田君。私のせいだったんだよね。朝希ちゃんをとっちゃって」
梨呼が悲しげに謝るのを広大は聞いた。
「でも、これからも、現れ続けちゃうよ? 竹田君がなんとかしないと」
「今更、どうしろっていうんだよ! もう、朝希は佐藤とつきあってんだから」
広大の血を吐くような言葉に、梨呼は意外そうな顔をした。
「へえ、竹田君て、やっぱり臆病なのね? でも今回は私、竹田君の味方だよ! ……佐藤君には悪いけど……」
「奪っちゃえってやつだよな!」
くすくす笑う翔と梨呼に、広大は唖然として二人の顔を見ていた。
(はあ、いいコンビだよこいつら)
「中学校のときさ、僕、前田さんは竹田とつきあってると思ってたんだよね」
放課後、剣道部の佐藤と待ち合わせして帰っていると、ふと佐藤が言ってきた。
「ははっ、すごい勘違い。広大とは家が隣だし、ずっとバスケで一緒だったから仲良かっただけ。女扱いされたことないもん」
言いながら自分で悲しくなる。
「じゃあ、竹田が前田さんの魅力に気付かないでよかった。そうしなきゃ今、前田さんとこうやって歩いてないもんな」
佐藤は気遣うようににこっと笑った。
本当にいい人だ。でも、なんで自分の心はこの人に向かずにあんな馬鹿に向いてるんだろう、と朝希は本気で考える。
(中学かあ)
入学したばかりのころ、梨呼が震えながら立っているのを見て声をかけた。それからいろんな女子の友達ができて、今までの環境との違いに驚きながらも、朝希の毎日は過ぎていった。
広大はどうだったっけ?
そうだ、入学式のとき、セーラー服姿の朝希に「変なの。似合わねー」と不機嫌そうに声をかけてきたきり、部活以外ではあまり話さなくなった。
部屋にはよく来ていたけれど。
最初、広大は教室で憮然とした顔で一人でいた。それが気になっていたが、そのうちお茶らけた性格で男子の友達を作っていったから、朝希も安心したのだ。 一方そのころからだった。広大が女子と付き合うようになったのは。別にそのときは広大のことを男子として意識していなかったけれど、言いようのない喪失感を覚えたのを今でも覚えている。
(あれ? 待って)
喪失感。
中学校に入ってすぐに女子の友達を作った朝希。
憮然として一人でいた広大。
(先に一人になったのは広大?)
広大は寂しくなかったんだろうか?
「前田さん、聞いてる?」
気がついたら、朝希の家の前だった。
そしてそのとき広大が偶然横を通って自分の家に入っていくのが見えた。
「あ、うん。来週の日曜の話だよね。映画、何見ようか?」
ちょっと動揺しながら答える。
「前田さんは、どんなのが好きなの?」
「うーん、アクションとかファンタジーとか、かな」
女性らしからぬ回答だったかなと思って佐藤を見ると、
「僕と同じだ! よかった! じゃ、その場で決められるね」
と佐藤は笑っていた。本当にいい人だ。
「前田さん、じゃ、駅に十一時ってことでいいかな?」
「うん。昼ごはん食べて映画見るのね」
「ご名答」
「ま、前田さん」
なぜか緊張気味の佐藤の声に朝希が、
「はい?」
と視線をあげると、すぐ近くに佐藤の顔があった。
「キスしたい」
そう熱のある声でささやいて、唇を佐藤は寄せてきた。
朝希は。
「い、いやっ!」
(けっ、門の前で見せ付けてくれちゃってまあ)
むかむかしながら、広大はその横を通り過ぎ家に入った。
通り過ぎるときに合った、朝希の揺れる黒目が甦る。
そして昼の二人の言葉。
どうしようかと思っていた矢先、
「い、いやっ!」
と言う朝希の悲鳴を聞いた。聞くが早いか、広大は家を飛び出していた。
そして、今にも朝希にキスをしようとしている佐藤を広大は迷わず殴った。
「なっ!」
佐藤が状況を把握できずに殴られた頬を押さえている。そんな佐藤へ、広大は冷ややかな視線を投げかけた。
「汚い手で朝希に触るな。悪いが朝希は俺のものでね」
「え?」
朝希もきょとんとする。
「そうだろ? 朝希? なんせ俺たちはもう、キスもしてるし、その先まで……」
「!」
あんぐりと朝希は口を開けた。
この男は!
「ま、前田さんそれは」
「ほんとほんと。何なら今しようか?」
広大は言うと、朝希の顎をくいとあげ、唖然とする朝希の唇を吸った。唇を食むように。
へたり込もうとする朝希を抱き起こして、
「ごめん、佐藤君。こいつ、お人よしだから、本当のこと言えなかったんだ。本当にごめんな。」
「……」
佐藤はがっくりと肩を落とし、
「そうだったんだ……。ごめんね、前田さん」
と謝って後ろを向いた。そして可哀想なほどよろよろとした足取りで去っていく。
(謝るのは佐藤君じゃない!)
「ごめんなさい!
私が全部悪いの! 私こそ本当にごめんなさい!」
朝希の泣きそうな声に、佐藤は振り向かずに手を上げただけだった。
(佐藤君……。最後までいい人だった……。私、何てことしちゃったんだろう。ごめんなさい、佐藤君。
…・・・それに比べて……)
「広大、今のは何なのよ?! 説明してもらうからね!」
と広大を睨むと、まじめな広大の目があった。その目からは迷いや苛立ちが消えていた。
「言った通りだよ。お前の隣は、藤木でも佐藤でもなくて俺じゃなきゃ駄目なんだよ。俺と付き合え」
命令口調のその言葉。
(はあ、もう、いったい何が何だか)
でも、
「はい」
と頷いてしまう自分を朝希は情けなく思った。
「よしっ! そうと決まったらこの前の続きを……」
そういって朝希を抱きかかえた広大を、朝希は思いっきり殴った。
「手順てもんが、あんたには解らんのかー!」
そしてふっと、二人で笑う。
「やっぱ、朝希には俺」
「広大には私ね」
「浮気したら許さないからっ」という、朝希に「それは絶対無い」とまじめに広大。
仕方ない今回は信じてやろう、と朝希は思った。それに、信じてもいいという予感があった。
翌日腕を組んできた広大と朝希(朝希は嫌がったのだが)に、梨呼と翔が笑顔になった。
「おい、二人ともサンキューな。特に藤木! お前、見直した!」
広大の言葉に、朝希が「何?」と尋ねると、
「王子様はお姫様に、お姫様も王子様になれるってこと、かな?」
と梨呼はくすくす笑った。
「広大の場合」おしまい
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読んでくださったら嬉しいな。
字が小さいとか、何かご意見がございましたら、
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