天音花香の小説をUPするブログです。個人サイトの小説はこちらに移しました。現在二時創作と短編を中心に書いています。
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天音花香
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女性
職業:
主婦
趣味:
いろいろ・・・
自己紹介:
小学生のときに、テレビの影響で、小説を書き始めました。高校の時に文芸部、新聞部で文芸活動をしました(主に、詩ですが)。一応文学部でです。ですが、大学時代、働いていた時期は小説を書く暇がなく、主婦になってから活動を再開。
好きな小説家は、小野 不由美先生、恩田陸先生、加納朋子先生、乙一先生、浅田次郎先生、雪乃 紗衣先生、冴木忍先生、深沢美潮先生、前田珠子先生、市川拓司先生他。
もう一つのブログでは香水についてレビューをしております。
http://yaplog.jp/inka_rose/
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別名で小説を出版しております。
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「治雪の場合」1
登場人物紹介
一
カキーン。
小気味よい音が秋の雲一つない青空に吸い込まれていく。
グラウンドで、熱心に練習をする野球部員の姿が窓から見える。
自分も熱くなれるものがあったら、少しは違うかもしれないと春日治雪はぼんやり思っていた。
「春日君?まだ残っていたの?」
よく通る落ち着いた声に、治雪は振り返った。
「うん。佐々木を待ちながら勉強でもと思って」
勉強の方はほとんど進んでいなかったが。
「そういえば佐々木君、書道部の部長だったわね。部長会終わったからもうすぐ戻ってくるんじゃないかしら」
学級委員長であり、華道部の部長でもある堀内孝子が言った。
「そっか、ありがとう」
「どうかしたの?」
どこか元気のない治雪に孝子は声をかけてきた。
治雪は。今まで特に話すような機会もなかった孝子に言うのは躊躇われた。
「……」
自分だけかもしれないし、こんなことを考えるのは。
孝子はちょっと首をかしげて、
「なんでもないならいいんだけど?」
と笑った。そんな孝子の笑顔に、治雪は一度短く息を吸うと、吐き出すように思いを口にした。
「中三のときさ、塾とかでさ、高校に入ったら楽しめるから、今は我慢して勉強しろって言われなかった?」
孝子は笑った。
「言われたわね。
高校楽しくないの?」
「そういうわけじゃないけど」
高校三年生の自分たちは中学のときと同様のことを言われ、受験勉強をしている。しかし、大学に入ればその後は就職がくるわけで。
「なんか、虚しくならない? ベルトコンベアーに乗せられてる感じでさ、俺たちみんな同じ道を歩んで、同じような人間になるんだ」
それはとても奇妙に思えた。
「うーん」
孝子は腕を組んで、また首をかしげた。
「そう思うのは、受身だからじゃない? 自分で選択したという実感があれば、そうは思わないんじゃないかしら? 嫌なら違う道を探せばいいのよ」
やんわり諭すように孝子は言った。
治雪はちょっと衝撃を受けた。
「そう、かも」
「佐々木君にでも相談してみたら?
親は自分の子供のことを変に知りすぎてるでしょ? この子はこうって決めてかかっちゃうから、全然知らないわけではないけれど、全ては知らない友人のほうが、客観的にアドバイスをくれるかもしれないわよ?」
「……!
……そう、だな。そうしてみるよ」
治雪は、自分の前にいる少女をまじまじと見た。背は自分より低いし、身体だって細い。
「何?」
「いや、堀内さんって大人だなあと思って」
「そうでもないわ。他人には言うくせに、自分のことになると、盲目になっちゃうんだから……」
孝子はさらりと落ちてきた癖のない髪を耳にかけて、少し自嘲的に微笑んだ。
「人間、誰でもそうじゃない?」
「そうね」
「少なくとも俺は堀内さんに感謝だな。話してよかった」
「そう言ってもらえると嬉しいわ。
あ、佐々木君よ、じゃあね」
孝子が教室を出て行くとき、シャンプーのいい香りが一瞬した。女子はみんなこんなにいい香りがするのだろうか。
「春日?」
入れ違いで教室に入ってきた、佐々木が治雪に声をかけたが、治雪にはその声は届いていないようだった。
「大丈夫かお前?」
「堀内さん」
一日に何度も孝子は名前を呼ばれる。
治雪は、その度に自分が呼ばれたかのようにどきりとした。知らず知らず、呼ばれた孝子の姿を探す自分に気付いて不思議に思う。
「佐々木」
「おう?」
「堀内さんって忙しい人だな」
「そりゃ、学級委員長だし、なんか頼りになる人だからなあ」
何を今更というように、佐々木は答えた。
「好きでやってんのかな?」
「さーな」
「前さ、俺、人生を虚しく感じるって言ったら、受身だからじゃないって言われた」
「ああ、部長会の日、それを話してたわけ?」
佐々木はちょっと笑って、
「当たってんじゃねー? 要するにお前、頑張ってないんだよ」
「そ、そんなことねーよ!」
親友の言葉に、かちんときて、治雪は言い返した。
そんな治雪の様子に構わず、佐々木は、
「自分で考えて、納得するまで頑張ったら、満足感とか達成感って得られるもんじゃねえ?」
と言った。
「……」
治雪はちょっと考える。今までの自分を軽く振り返る。
「……。そういうもんなのかな。
でも、そうか……。確かに、そうかもしれない。
……堀内さんは悩みとかないのかな?」
話題が孝子に変わったことに、佐々木は怪訝に思いながらも、
「ばーか、誰だって悩みの一つや二つは抱えてんだろ?」
と返事をした。
「……ま、お前より複雑な悩みを抱えていることは間違いないだろうな」
そう言った佐々木の声の調子が普段と違う気がして、治雪は佐々木をじっと見た。
「何か知ってんのか?」
佐々木はちょっと困った顔をした。
「んー」
佐々木は苦笑して、教室の入り口で先生に呼び止められている孝子のほうをちらりと見た。
「偶然さ、先生が堀内さんに『お母さんの具合はどうだ?』って尋ねているのを聞いてしまったんだな」
「そうなのか……。苦労してんだな、家でも」
「気になるなら、行動すれば?」
「え?」
「助けてやればいーじゃんよ?」
佐々木はニヤニヤ笑っている。妙なことを考えているようだ。
「な、なんだよ。そ、そんなんじゃ、ねーよ。多分……」
治雪は胸をぐっと押さえながら、ぼそぼそと言った。
自分でもよくわからないというのが現状だった。ただ、女子と会話をして、こんなに強い印象を受けたのは初めてのことだった。
「羽柴君」
一瞬教室のざわめきが遠のいた。
孝子の声は、落ち着いたよく通る声だ。
こんなに綺麗な声だったかと治雪は不思議に思う。そして。同じ学級委員長と言うだけで、多く名前を呼ばれる翔はいいな、と思った。
自分の名前も呼ばれないかと。
手短かに話しを終えた孝子が治雪の席の横を通りすぎる。
「堀内さん」
無意識に治雪は孝子を呼び止めていた。
孝子は足を止めて、治雪を見た。
「何? 春日君」
用などなかった。でも、孝子が自分の名を口にしたとき、治雪はなぜか満足感を覚えた。
「えっと、なんだったかな?」
「ふふ、面白い人ね、春日君て。
そうだ、あれから佐々木君に相談した?」
「え? ああ……」
治雪は思わず笑顔になった。孝子が自分のことを気にかけてくれていたのが嬉しかった。
「うん。俺が頑張ってないからだろうってさ」
「ふふ、なるほど。佐々木君が言うなら、そうなのかもよ?
人生一度きりだし、頑張って人生楽しくしなくちゃね。まずはできることから。
春日君は志望校は決めてあるの?」
現実的な話になり、治雪はうーん、と唸った。
「……まだ」
「じゃあ、それから始めなきゃ。これからの人生を左右することだし、よく考えて決めなきゃね。頑張ろうね」
「うん」
治雪は素直に頷いていた。孝子の声は耳に心地よく、まるで催眠術にかかってしまったかのようになるのだった。
その日の午後、治雪は進路指導室にいた。教室には赤本や大学の資料を手にする人であふれている。
工学部にもいろいろあるんだなあ、と九月になって思うことではないことを思いつつ、治雪は資料を見て、そう思った。
(俺は何がしたいんだろう)
ざっと目を通すと、どれもそれなりに面白そうである。
「先生の言ってたとおりだな」
大きな大学ほど学科が多い。当然といえば当然だが。地元で大きな大学と言えばK大学になってしまう。
治雪はため息をついた。
(学力がちょっと足らねーよな。ワンランク落とすか……)
しかし、K大学なら自転車で行ける距離であるのに対して、ワンランク落としたK工学大学は電車で一時間半かけて行くか、または寮ということになる。
(妹もいるし、家、金ねーしなあ)
治雪はまたため息をついた。
「大きなため息ね、春日君」
聞き覚えのある声に治雪は硬直した。
心臓が急に早鐘を打つ。
振り返ると予想通り孝子の姿があった。
「あ、えーっと、堀内さんも大学調べ?」
治雪がどきどきしながら問うと、孝子は悪戯っぽくくすりと笑った。
「前の時間、春日君、先生に怒られてたじゃない?」
「あ。うん」
治雪は苦笑した。孝子に言われたので、ぼんやりと大学のことを考えていて、当てられたことに気付かなかったのだ。
「先生に『授業外の時に進路指導室に行って考えろ』って言われてたから、ここに来ているんじゃないかと思って」
春日君って素直よねえ、と言って孝子は笑った。
堀内さんは優しいな。そう思って、治雪は思わず笑顔になった。
「ここに来て、今までもう少し勉強しとけばよかったと思ってるよ」
「過去を振り返ったって仕方ないことよ。まだセンターまで四ヶ月、入試まで五ヶ月あるのよ? それをどうするかでしょ?」
「え?」
治雪の返事に、孝子は意外そうな顔をした。
「もう諦めるつもり? このまま何もしないままでいいの?」
今度は治雪が驚いた。
「……よくない」
三年間、ただなんとなく楽ならいい、で過ごしてきた。このままで終わっていいわけがない。間違いなくベルトコンベアー行きだ。
何でもいいから、自分は頑張ったと言えることをしなければ。
「うん、よくない。何かしなきゃ」
もう一度自分に言い聞かせるように治雪は繰り返した。孝子はそんな治雪を見てにっこり笑った。
「堀内さんは?」
「え?」
そんなに仲がいいわけではないのに、こんなことを聞くのはどうかとも思われたが、治雪の口は勝手に続きを紡いでいた。
「大学、どこ目指してんの?」
「私はK大の理学部。物理したいの」
それこそ意外だった。
「堀内さんならもっと上を狙えるんじゃ?」
治雪の言葉に、孝子は複雑な笑顔を見せた。
「ちょっとね。家から出たくないんだ。出たら、きっと後悔することになる」
独り言のように孝子は呟いただけだったが、それでも治雪はすぐに佐々木の言葉を思い出した。
(お母さん、か)
治雪はそれ以上は聞くのをやめた。
ただ、絶対にK大に行こうと思った。
「春日君は?」
「K工大にしようと思ってたんだけど、やっぱK大目指して頑張ってみることにするよ。知能機械工学科ってのが面白そうだし」
「じゃあ、同じ大学を目指すことになるのね。お互い頑張ろうね」
「うん!」
孝子と同じ大学に行きたい。そう思うだけで、治雪は頑張れそうだった。
――とそのとき、孝子の顔から笑みが消えた。
「堀、内、さん?」
孝子の視線をたどってみると、翔と、小さくて可愛らしい女子生徒が、談笑しながら進路指導室へ入ってくるところだった。
「?」
孝子は治雪の視線に気付いて慌てて笑顔を作った。
「いーわよねえ」
「え?」
「私も彼氏が欲しかったな。あんな風に仲良く話せる……」
本当に羨ましげに孝子は言った。
まさか、孝子の口からそんな言葉を聞くとは思わなかった。
「作ればいいじゃん? まだ五ヶ月あるんだし」
治雪は、笑いながら先ほどの孝子の言葉を使った。
すると、孝子は儚い笑みを見せただけだった。
(!)
どきりとした。こんな反応をするとは思わなかった。
不安定で隙だらけの孝子は、今までになく美しく見えた。
自然と視線が、真っ直ぐで細い黒髪や、長い睫、柔らかそうな唇や白い首筋をたどる。
なんだか自分がとてもいやらしい人間のような気がしてきて、目をそらそうとするのだが、目が言うことをきいてくれない。
どうして今まで気付かなかったのだろう。孝子は綺麗だ。
「ま、とにかくお互い頑張りましょうね」
なんとか笑顔をとりもどし、誤魔化すように言って、孝子は教室を出て行った。あの日と同じシャンプーの香りが鼻をかすめていった。
(俺もしかして……)
治雪は自分の想いを自覚した。
「治雪の場合」2に続く
アルファポリス「第3回青春小説大賞」(開催期間は2010年11月1日~2010年11月末日)にエントリーしています。
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登場人物紹介
一
カキーン。
小気味よい音が秋の雲一つない青空に吸い込まれていく。
グラウンドで、熱心に練習をする野球部員の姿が窓から見える。
自分も熱くなれるものがあったら、少しは違うかもしれないと春日治雪はぼんやり思っていた。
「春日君?まだ残っていたの?」
よく通る落ち着いた声に、治雪は振り返った。
「うん。佐々木を待ちながら勉強でもと思って」
勉強の方はほとんど進んでいなかったが。
「そういえば佐々木君、書道部の部長だったわね。部長会終わったからもうすぐ戻ってくるんじゃないかしら」
学級委員長であり、華道部の部長でもある堀内孝子が言った。
「そっか、ありがとう」
「どうかしたの?」
どこか元気のない治雪に孝子は声をかけてきた。
治雪は。今まで特に話すような機会もなかった孝子に言うのは躊躇われた。
「……」
自分だけかもしれないし、こんなことを考えるのは。
孝子はちょっと首をかしげて、
「なんでもないならいいんだけど?」
と笑った。そんな孝子の笑顔に、治雪は一度短く息を吸うと、吐き出すように思いを口にした。
「中三のときさ、塾とかでさ、高校に入ったら楽しめるから、今は我慢して勉強しろって言われなかった?」
孝子は笑った。
「言われたわね。
高校楽しくないの?」
「そういうわけじゃないけど」
高校三年生の自分たちは中学のときと同様のことを言われ、受験勉強をしている。しかし、大学に入ればその後は就職がくるわけで。
「なんか、虚しくならない? ベルトコンベアーに乗せられてる感じでさ、俺たちみんな同じ道を歩んで、同じような人間になるんだ」
それはとても奇妙に思えた。
「うーん」
孝子は腕を組んで、また首をかしげた。
「そう思うのは、受身だからじゃない? 自分で選択したという実感があれば、そうは思わないんじゃないかしら? 嫌なら違う道を探せばいいのよ」
やんわり諭すように孝子は言った。
治雪はちょっと衝撃を受けた。
「そう、かも」
「佐々木君にでも相談してみたら?
親は自分の子供のことを変に知りすぎてるでしょ? この子はこうって決めてかかっちゃうから、全然知らないわけではないけれど、全ては知らない友人のほうが、客観的にアドバイスをくれるかもしれないわよ?」
「……!
……そう、だな。そうしてみるよ」
治雪は、自分の前にいる少女をまじまじと見た。背は自分より低いし、身体だって細い。
「何?」
「いや、堀内さんって大人だなあと思って」
「そうでもないわ。他人には言うくせに、自分のことになると、盲目になっちゃうんだから……」
孝子はさらりと落ちてきた癖のない髪を耳にかけて、少し自嘲的に微笑んだ。
「人間、誰でもそうじゃない?」
「そうね」
「少なくとも俺は堀内さんに感謝だな。話してよかった」
「そう言ってもらえると嬉しいわ。
あ、佐々木君よ、じゃあね」
孝子が教室を出て行くとき、シャンプーのいい香りが一瞬した。女子はみんなこんなにいい香りがするのだろうか。
「春日?」
入れ違いで教室に入ってきた、佐々木が治雪に声をかけたが、治雪にはその声は届いていないようだった。
「大丈夫かお前?」
「堀内さん」
一日に何度も孝子は名前を呼ばれる。
治雪は、その度に自分が呼ばれたかのようにどきりとした。知らず知らず、呼ばれた孝子の姿を探す自分に気付いて不思議に思う。
「佐々木」
「おう?」
「堀内さんって忙しい人だな」
「そりゃ、学級委員長だし、なんか頼りになる人だからなあ」
何を今更というように、佐々木は答えた。
「好きでやってんのかな?」
「さーな」
「前さ、俺、人生を虚しく感じるって言ったら、受身だからじゃないって言われた」
「ああ、部長会の日、それを話してたわけ?」
佐々木はちょっと笑って、
「当たってんじゃねー? 要するにお前、頑張ってないんだよ」
「そ、そんなことねーよ!」
親友の言葉に、かちんときて、治雪は言い返した。
そんな治雪の様子に構わず、佐々木は、
「自分で考えて、納得するまで頑張ったら、満足感とか達成感って得られるもんじゃねえ?」
と言った。
「……」
治雪はちょっと考える。今までの自分を軽く振り返る。
「……。そういうもんなのかな。
でも、そうか……。確かに、そうかもしれない。
……堀内さんは悩みとかないのかな?」
話題が孝子に変わったことに、佐々木は怪訝に思いながらも、
「ばーか、誰だって悩みの一つや二つは抱えてんだろ?」
と返事をした。
「……ま、お前より複雑な悩みを抱えていることは間違いないだろうな」
そう言った佐々木の声の調子が普段と違う気がして、治雪は佐々木をじっと見た。
「何か知ってんのか?」
佐々木はちょっと困った顔をした。
「んー」
佐々木は苦笑して、教室の入り口で先生に呼び止められている孝子のほうをちらりと見た。
「偶然さ、先生が堀内さんに『お母さんの具合はどうだ?』って尋ねているのを聞いてしまったんだな」
「そうなのか……。苦労してんだな、家でも」
「気になるなら、行動すれば?」
「え?」
「助けてやればいーじゃんよ?」
佐々木はニヤニヤ笑っている。妙なことを考えているようだ。
「な、なんだよ。そ、そんなんじゃ、ねーよ。多分……」
治雪は胸をぐっと押さえながら、ぼそぼそと言った。
自分でもよくわからないというのが現状だった。ただ、女子と会話をして、こんなに強い印象を受けたのは初めてのことだった。
「羽柴君」
一瞬教室のざわめきが遠のいた。
孝子の声は、落ち着いたよく通る声だ。
こんなに綺麗な声だったかと治雪は不思議に思う。そして。同じ学級委員長と言うだけで、多く名前を呼ばれる翔はいいな、と思った。
自分の名前も呼ばれないかと。
手短かに話しを終えた孝子が治雪の席の横を通りすぎる。
「堀内さん」
無意識に治雪は孝子を呼び止めていた。
孝子は足を止めて、治雪を見た。
「何? 春日君」
用などなかった。でも、孝子が自分の名を口にしたとき、治雪はなぜか満足感を覚えた。
「えっと、なんだったかな?」
「ふふ、面白い人ね、春日君て。
そうだ、あれから佐々木君に相談した?」
「え? ああ……」
治雪は思わず笑顔になった。孝子が自分のことを気にかけてくれていたのが嬉しかった。
「うん。俺が頑張ってないからだろうってさ」
「ふふ、なるほど。佐々木君が言うなら、そうなのかもよ?
人生一度きりだし、頑張って人生楽しくしなくちゃね。まずはできることから。
春日君は志望校は決めてあるの?」
現実的な話になり、治雪はうーん、と唸った。
「……まだ」
「じゃあ、それから始めなきゃ。これからの人生を左右することだし、よく考えて決めなきゃね。頑張ろうね」
「うん」
治雪は素直に頷いていた。孝子の声は耳に心地よく、まるで催眠術にかかってしまったかのようになるのだった。
その日の午後、治雪は進路指導室にいた。教室には赤本や大学の資料を手にする人であふれている。
工学部にもいろいろあるんだなあ、と九月になって思うことではないことを思いつつ、治雪は資料を見て、そう思った。
(俺は何がしたいんだろう)
ざっと目を通すと、どれもそれなりに面白そうである。
「先生の言ってたとおりだな」
大きな大学ほど学科が多い。当然といえば当然だが。地元で大きな大学と言えばK大学になってしまう。
治雪はため息をついた。
(学力がちょっと足らねーよな。ワンランク落とすか……)
しかし、K大学なら自転車で行ける距離であるのに対して、ワンランク落としたK工学大学は電車で一時間半かけて行くか、または寮ということになる。
(妹もいるし、家、金ねーしなあ)
治雪はまたため息をついた。
「大きなため息ね、春日君」
聞き覚えのある声に治雪は硬直した。
心臓が急に早鐘を打つ。
振り返ると予想通り孝子の姿があった。
「あ、えーっと、堀内さんも大学調べ?」
治雪がどきどきしながら問うと、孝子は悪戯っぽくくすりと笑った。
「前の時間、春日君、先生に怒られてたじゃない?」
「あ。うん」
治雪は苦笑した。孝子に言われたので、ぼんやりと大学のことを考えていて、当てられたことに気付かなかったのだ。
「先生に『授業外の時に進路指導室に行って考えろ』って言われてたから、ここに来ているんじゃないかと思って」
春日君って素直よねえ、と言って孝子は笑った。
堀内さんは優しいな。そう思って、治雪は思わず笑顔になった。
「ここに来て、今までもう少し勉強しとけばよかったと思ってるよ」
「過去を振り返ったって仕方ないことよ。まだセンターまで四ヶ月、入試まで五ヶ月あるのよ? それをどうするかでしょ?」
「え?」
治雪の返事に、孝子は意外そうな顔をした。
「もう諦めるつもり? このまま何もしないままでいいの?」
今度は治雪が驚いた。
「……よくない」
三年間、ただなんとなく楽ならいい、で過ごしてきた。このままで終わっていいわけがない。間違いなくベルトコンベアー行きだ。
何でもいいから、自分は頑張ったと言えることをしなければ。
「うん、よくない。何かしなきゃ」
もう一度自分に言い聞かせるように治雪は繰り返した。孝子はそんな治雪を見てにっこり笑った。
「堀内さんは?」
「え?」
そんなに仲がいいわけではないのに、こんなことを聞くのはどうかとも思われたが、治雪の口は勝手に続きを紡いでいた。
「大学、どこ目指してんの?」
「私はK大の理学部。物理したいの」
それこそ意外だった。
「堀内さんならもっと上を狙えるんじゃ?」
治雪の言葉に、孝子は複雑な笑顔を見せた。
「ちょっとね。家から出たくないんだ。出たら、きっと後悔することになる」
独り言のように孝子は呟いただけだったが、それでも治雪はすぐに佐々木の言葉を思い出した。
(お母さん、か)
治雪はそれ以上は聞くのをやめた。
ただ、絶対にK大に行こうと思った。
「春日君は?」
「K工大にしようと思ってたんだけど、やっぱK大目指して頑張ってみることにするよ。知能機械工学科ってのが面白そうだし」
「じゃあ、同じ大学を目指すことになるのね。お互い頑張ろうね」
「うん!」
孝子と同じ大学に行きたい。そう思うだけで、治雪は頑張れそうだった。
――とそのとき、孝子の顔から笑みが消えた。
「堀、内、さん?」
孝子の視線をたどってみると、翔と、小さくて可愛らしい女子生徒が、談笑しながら進路指導室へ入ってくるところだった。
「?」
孝子は治雪の視線に気付いて慌てて笑顔を作った。
「いーわよねえ」
「え?」
「私も彼氏が欲しかったな。あんな風に仲良く話せる……」
本当に羨ましげに孝子は言った。
まさか、孝子の口からそんな言葉を聞くとは思わなかった。
「作ればいいじゃん? まだ五ヶ月あるんだし」
治雪は、笑いながら先ほどの孝子の言葉を使った。
すると、孝子は儚い笑みを見せただけだった。
(!)
どきりとした。こんな反応をするとは思わなかった。
不安定で隙だらけの孝子は、今までになく美しく見えた。
自然と視線が、真っ直ぐで細い黒髪や、長い睫、柔らかそうな唇や白い首筋をたどる。
なんだか自分がとてもいやらしい人間のような気がしてきて、目をそらそうとするのだが、目が言うことをきいてくれない。
どうして今まで気付かなかったのだろう。孝子は綺麗だ。
「ま、とにかくお互い頑張りましょうね」
なんとか笑顔をとりもどし、誤魔化すように言って、孝子は教室を出て行った。あの日と同じシャンプーの香りが鼻をかすめていった。
(俺もしかして……)
治雪は自分の想いを自覚した。
「治雪の場合」2に続く
アルファポリス「第3回青春小説大賞」(開催期間は2010年11月1日~2010年11月末日)にエントリーしています。
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