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天音花香の小説をUPするブログです。個人サイトの小説はこちらに移しました。現在二時創作と短編を中心に書いています。
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天音花香
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主婦
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いろいろ・・・
自己紹介:
小学生のときに、テレビの影響で、小説を書き始めました。高校の時に文芸部、新聞部で文芸活動をしました(主に、詩ですが)。一応文学部でです。ですが、大学時代、働いていた時期は小説を書く暇がなく、主婦になってから活動を再開。

好きな小説家は、小野 不由美先生、恩田陸先生、加納朋子先生、乙一先生、浅田次郎先生、雪乃 紗衣先生、冴木忍先生、深沢美潮先生、前田珠子先生、市川拓司先生他。
もう一つのブログでは香水についてレビューをしております。
http://yaplog.jp/inka_rose/
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こんにちは、天音です。


今日はかなり前に書いたファンタジー小説をアップしようと思います。
ファンタジーは書きなれないので、正直ちゃんとファンタジーになっているかは分りません。
それに、なんだか書きたいことを無理やりつめた感もあります。
ですが、読んでいただけると嬉しいです。


ココから小説

         
        イーリスの夢









序章



それは遠い昔。誰も知らない遠い昔。
世界は、天界、地上、下界でなっていた。天界は光あふれる楽園。地上はその天界の恩寵を受けた緑豊かな場所。そして。下界はどこまでも暗く、寒く、希望の光などどこにも感じられないような寂しい場所だった。その天界で、神族と呼ばれるものたちと魔族と呼ばれるものたち、そして人間と呼ばれるものたちが住んでいた。だが、天界の人口が増加するにつれて、そのものたちは残る地上、下界に住むことを考え出した。しかし、願うことは三族みな、同じ。
 ――天界が欲しい――


「セ、セーフォウスさまっ! 神族が! 神族の長、イムハム殿が、大群を連れてこちらに向かっております!」
 部下の声は非常に緊迫しており、動揺していた。
「そのようなはずはない。先ほどまで、イーデリア、イーリス、二人ともここにおったのだから」
朗らかに笑う、若い魔族の長、セーフォウス。しかし。
先ほどまでそばにいたイーデリアとイーリスの姿が今は見えない。セーフォウスは、首をかしげる。
「どうしたのであろう。
 イーデリア! 我が愛する美しい乙女! イーリス! 我が可愛い幼子! 我をまた困らせようとしているのであろう? 早く出てきなさい。イーデリア!」
 城の中を歩き回る。
「イーデリア?」
 おかしい。あの美しい金髪の乙女が見えない。こんなことが未だかつてあったであろうか。
 セーフォウスは言いようのない不安に襲われた。
「イーデリア! イーデリア! イーデリアー!」
 狂ったように叫びながら、妻、イーデリアを探すセーフォウス。戦争になったら、神族のイーデリアは魔族に一番に狙われるに違いない。救わなければ。セーフォウスにはイーデリアしか見えていなかった。それを追う側近。
「セーフォウス様! イーデリア殿を探している場合ではありませぬ! もう、神族軍はこの城のすぐそこまで来ているのでありますぞ!」
「神族? なぜ?」
「わからぬのですか? これは裏切りにございます!」
「裏切り・・・・・・。
まさかイーデリアが。そのようなこと。考えられない。まさか」
 視点さえ定まらないセーフォウス。側近はどうしようもない、というようにセーフォウスの頬を叩いた。
「しっかりなさいませ! お父上なき後、セーフォウス様が魔王なのですぞ? 魔族の運命はあなた様にかかっているのでございます。その目でごらんなされ!」
 側近に言われ、ふらふらと窓まで近づくセーフォウス。
 そこで見たものは。
「な、な、ああ!」
 痛手を負い、苦しみながらも戦う同族の姿。しかし、目に見えてその勢いは神族にあった。遠くまで続く赤く染まった土地。黒い羽が、いたるところに散っていた。
「ああ! こんな! ああ! ああ!
 剣を! 剣を持て! 出陣する!」
 もはや、イーデリアのことを考えている暇はなかった。とにかく、同族を救わなくては! と思ったセーフォウスは、剣を持って城を出た。そして、魔族を救うためにその剣を振るった。
「離れよ! 我が同族に何をする!」
 そんな戦いが何年か続いた。
だが、もう結果は見えていた。
「降参せよ。もう、同族の血は見たくあるまい?」
 イムハムの言葉にセーフォウスは、うなだれ、頷くしかなかった。
 それでも気がかりなことはイーデリアのことだった。
「イ、 イーデリアは・・・・・・」
「安心せよ。我が城の奥に無事イーリスと一緒におる」
 その意味を理解するのにセーフォウスは時間がかかった。どうしても、あの、イーデリアが自分を裏切ったとは思えなかったのだ。お互い同族の長の反対を押し切ってまで結婚をした二人。熱烈な恋愛結婚であった。そして、一人息子イーリスが生まれて約百年ほど。ずっと一緒に暮らしてきた。こんなに簡単にその絆が切れるとは思うはずもない。

 「母上。魔族が負けました」
 イーリスが遠くを見るような目をしてポツリと言った。
「そなたには、判るのか?」
「・・・・・・ええ、母上・・・・・・。父上が泣いておりますゆえ。世界が震えておりまする。父の慟哭で。ああ、僕の胸もこんなに痛む」
 イーリスの言葉に、イーデリアははらはらと涙をこぼした。
「ああ、私の最愛のセーフォウス。そなたを悲しませることなど、考えてもいなかったというのに。なぜこんな・・・・・・!」
 イーデリアはイムハムに選択を迫られた。二択だった。どちらにしても、イーデリアには悲しい選択。しかし、選ばなければならなかった。イムハムが、やると言ったことはやるのは解っていたから・・・・・・。
「セーフォウス・・・・・・! なぜこのように運命はひどい仕打ちを! ああ、そなたは私を恨むであろうな。うう・・・・・・。許してたもれ。ああ」
 気丈な母がただただ涙を流すのを、悲しげにイーリスは見た。しかし、このとき、イーリスもまた、決意をしていたのだ。
「母上。
 ごめんなさい。僕はここにいられない。母上にはイムハム様がいらっしゃる。でも父上は一人です。父上を一人にしてはおけません。僕は、母上も大好きだけど、父上も大好きなんです。解ってください」
 イーデリアと同じ目の色をしたイーリスの目には、強い決意が宿っていた。百歳と言えばまだまだ幼子である。そんな我が子にこんな苦渋をなめさせなければならない、自分のふがいなさをイーデリアは呪った。
「・・・・・・それがよかろう。
 私もセーフォウスが心配じゃ。下界は住むに厳しいところと聞く。そなたが私の代わりにセーフォウスを支えておくれ」
「はい。母上もお元気で」
 母子は抱き合い絆を確かめ合った。それは一瞬で。
「イーリス」
 次の瞬間イーリスは消えていた。
 そして、赤く染まった大地で、「我は愚かであった! みなの者許せ」と嗚咽をもらす父のそばに立った。
「イ、 イーリス?」
イーリスは小さな手足でセーフォウスの体を支えた。
「僕は父上と共に、下界に行きます」

力のない人間は、神族の側につきはしたものの、戦いを見守るしかなかった。神族に敗れた魔族は、下界へと押しやられた。そして、神族は天界に、神族側に属していた人間は地上を神族から授かった。

遠い遠い昔のことだ。

いつの頃か人間はそれを忘れてしまった。そして、自分たちの世界は自分たちのものと勘違いをして、目覚しい発展を遂げていった。
 下界に落とされた魔族は。そこで暮らすうちに、暗く陰険で、残虐な性格に変わっていった。そう、変わっていったのだ。しかし、神族も、人間もそれに気付かなかった。自分たちのことで精一杯。最も劣悪な環境に置かれた魔族の存在など気にしてはいなかったのだ。
魔族は思うようになった。いつか復讐してやる。天界を奪ってやる、と。心まで闇に染まって行ったのである。



第一章



 「イーリス、イーリス! 全くあの子はどこへ行ったのやら。まさか地上になど行っておるまいな。イーリス!」
 父が自分を呼ぶ声を聞いて、こそこそと当のイーリスは地上へ続く扉から離れる。扉から出たとたん、目が闇に支配されたため、視界がぼやけていた。
毎回のことだ。
目が慣れてくると、漆黒のつややかな長い髪と、夜より暗い瞳をした大人の男性が見えてきた。
「イーリス!」
「父上、ここにおりまする」
 とイーリスは返事をした。その少年の髪も父と同じように黒かった。瞳は深い海のような色である。
イーリスは父の声のする方へ慌てて駆け寄った。
「イーリス、まったくお前は……。地上で見つかったら、お前のような子供など、すぐに排除されるぞ? 今はまだ時が早い。行くなと言うておるのに」
 呆れた顔の父に、イーリスは肩をすくめて、
「だって、地上はとっても綺麗なのです」
 と弁解する。
「地上が綺麗、か……。そなたは天界を忘れたのか?」
「・・・・・・いいえ。忘れようにも、忘れることなどできませぬ。すべてが平和で、穏やかで、母上もいた遠い日々」
 イーリスは遠い目をして呟いた。
セーフォウスの瞳に、イーリスと同じような静かで穏やかな、光が宿ったのは一瞬で、次の瞬間その瞳に暗い暗い炎が宿った。
「許せぬ。天界に神どもが暮らしていると思うと……! 我は愚かであった。イーデリアの愛を信じるなど!」
「父上! 母上は自分で望んで神族領に戻られたのではございません! 母上は! っ」
 イーデリアに、イムハムとの約束を言ってはならないとイーリスは言われていた。母がどんな思いで選択をしたか。それを知っているイーリスは、イーデリアを恨むばかりの父を見るたびに胸が痛む。
「ふん。理由なぞ言い訳にしかならぬ。
そなたも解っておろうに。だから地上に行くのであろう? 結局は神族に負けたせいでこのような下界に落とされたのだ。この屈辱! いや、イーデリアだけを攻めるわけにはいかぬな。イーデリアに現を抜かしおった我こそが憎い! 同族よりも、他族の姫君に現を抜かすなど!我が一生の恥じよ!」
イーリスにとってこの言葉は辛い。自分の存在を否定される気がするからだ。
イーリスが地上に行く理由は他にあったのだが、それはあえて語らなかった。
イーリスは黙っているだけである。
「見ておれ! もう我は騙されぬぞ。今度こそ、天界も、そして地上も、我々のものにしてやる! それまでお前は待つがよい。まだ、時が早い」
 我々のもの、という言葉にイーリスは少し不安を覚えた。父はまた戦争をする気なのであろうか。あの苦しみを最も味わったと言うのに!
「イーリス。そなた、なんと言う目をして我を見ている。悪いのは神族であったのは明白であろう。なぜ我を責めるような目をするのだ。そなた、もしや、神族に正義があったなど思ってはおるまいな? 勝者は正義、敗者は悪、世の常はそのようなふざけたものではあるが、神族の攻め方。あの戦いに正義など微塵もないわ!」
 セーフォウスの胸は、死んでいった同族のことでいっぱいで、その激情は渦巻くばかりに空気を支配していた。
 イーリスは思う。
 セーフォウスは気丈なイーデリアより穏やかな性格であった。だが、あの戦いから、その性格は変わった。憎しみというものはこんなにも強い。性格を変えるほどに。それが恐ろしかった。
「よく覚えておくがよい、イーリス。神族と我々のしたことは全く同じこと。殺し合いにしかならない。それなのに、どうしてこんなにも境遇が変わったのか」
 セーフォウスの目は陰湿な怒りに燃えていた。あの戦いの日以来、父の瞳にはこの暗い炎が宿っている。
「時が来れば世はまた変わる。いや、変えてみせる。このままでおくべきか。我々にした仕打ち、倍にして返してみせよう。
だが、とにかくまだ早い。イーリス、お前は何もするな。我に任せておけばよい」
セーフォウスは冷たい後姿をして去った。
イーリスは考える。
イムハムのしたことは憎むべきだと感じている。自分の子であるイーデリアさえ、悲しませ、不意打ちとしか言いようのない戦争をし、数々の大切な命を奪った。そして、穏やかなセーフォウスの性格までもここまで変えてしまった。
 しかし。それに対し、同じ戦争という手段が果たして妥当であるか。それはイーリスにはまだ解らなかった。それに。
 人間。彼らは力がなさ過ぎる。イーリスは地上に行って人間を理解しようと努力していた。神族でも魔族でもない者たち――人間。彼らはどのようなものなのか。
それで解ったことは、人間には神族や魔族のような力がないということである。無力で、寿命も短い。しかし、その文化は神族、魔族を凌ぐものである。地上に行くたびに驚かされるのはその文化の発展の早さである。見たことのないようなものが、多く存在する。イーリスが思うに、人間とは何か特別な存在なのではないだろうか。力、生命力、それらがなくとも、人間は優れている面が多いとイーリスは思いだしていた。そのような人間の地上さえ父はとろうというのか。戦うことで。
 確かに、人間は神側につき、おこぼれをもらって今がある。しかし。
イーリスは何かが違うと思った。
 イムハム。彼さえいなければ。
いや、だが、争いは起こっただろう。住む土地を求めて。
イーリスは聡いがゆえに考える・・・・・・。



第二章



 現在、四限目、倫理の授業中。
草瀬 神司(くさせ しんじ)、高校二年生は、いつものように机に突っ伏して居眠りをしていた。
春には満たない二月末。暖かくなっては寒くなる、の繰り返しの今日この頃。程なく春が来る証だ。ちなみに今日は暖かな日差しのほうで、居眠りには最適だった。
神司の黒く癖のない髪が窓から入ってくる微かな風にふわふわと揺れていた。切れ長の目は閉じられていて、長めの睫がきれいに縁取っているのが見えるだけだ。実に幸せそうに眠っている。
だが、神司の席は一番前のため、そろそろキレた教師がチョークを投げてくるころだ。
くるころなのだが。
「……?」
神司は、まどろみから覚め、あくびをした。神司が自主的に目を覚ますのは珍しい。伸びをし、肩を左右交互ににあげてコキコキならしたところで、神司は異変に気がついた。何かがおかしい。
何だ? そうだ、人。人がいない。教壇の先生も、神司以外の生徒も。
新手のいじめか、なんて冗談を思っている場合ではない。さあて。
(まあいいや。寝よう)
主人公であるはずの神司が、再び寝ようとすると、大きな声と足音が聞こえてきた。
「誰かー、誰かいないのか? おーい、誰か!」
 人間がいる。その事実に少し安堵しながら、
「ここにいる」
 と神司は返事をしてみた。
「よかったあ、自分以外にも人がいて。
俺、花田頼」
「俺は草瀬神司」
 神司はやる気なさげな声で答えた。神司は頼を見て、一瞬で、苦手な熱血タイプだと判断する。童顔で、やや背の低い、少年、頼は神司の名を知ってる、と頷いた。 
「眠りの神司、ね。
なあ、なんで人いねんだろうな? でも俺たちだけいるって変な感じ。選ばれし勇者とか?」
 頼は、人が消えたことをまだ受け入れられていないのか、あっけらかんとして言った。ゲーマーだなこいつ。と神司は思う。自分もゲームは嫌いではない。だが、ゲームと現実は違う。どうも嫌な予感がすると神司は思った。
「俺、そういうの見るのは嫌いじゃないけど、巻き込まれるのは嫌だから。頑張れよ、頼とやら」
 そう言った瞬間だった。
「それは、困る。あなたは役割を背負っているのだから」
 それは、いきなり空間に舞い降りるかのように現れた。
短い金髪と、白いローブ。そして、背中にある眩いばかりに白い翼。どう見ても人間ではなかった。
「な、誰だよ、あんた!」
 頼が、動揺を隠せずに口にすると、その少女は少しだけ目を細めて頼を見た。
「私は神族のアリサという。
神族の天界に何か起きたときに、地上に派遣される役割を持つもの」
「天界? 何だそれは。それは地球にあるのか?」
 神司は冷静に尋ねる。
「あなた方が地球と考えているのは地上のこと。全く違う概念の世界として、天界が、そして、地上の遥か深くに暗い下界が存在する」
「で、それが俺たちに何の関係があるんだ? さらに、他の人間はどこへ消えた?」
 神司は本当に冷静に言葉を口にした。面倒なことには巻き込まれたくない、というのが本音だった。
「関係? 大有りですね。人間たちが消えたのも、恐らく、魔族の仕業でしょう。私たちは遠い昔、魔族と呼ばれるものたちと、天界をかけて争った。そのときに、神族側について地上を得たのが人間だ。私が地上に強制送還されたのは、魔族によって天界が襲われ、次に人間がターゲットにされているのを知らせるためだ。しばし遅かったようだが」
 アリサのそっけない回答に、頼はぐるぐるとその場を歩き回っている。
「遅かったなら、もう無駄ということだろう。なぜ、まだここにいる?」
 そんな、頼を無視して、神司はアリサに尋ねた。頭では警報が鳴っていた。
「それは、あなたも私と同じように役割を背負っているから。神司」
 嫌な予感は的中しそうだ。
「もしものときの、駒。魔族に天界を渡すわけにはいかない。
昔の魔族なら、まだよかっただろう。でも、今の残虐な魔族たちに天界、地上は渡せない。彼らは、長年下界で暮らしてきたせいで、性格が曲がっている。それは、もちろん神族のせいだから、自業自得といえばそうだろう。
でも、あれは、ひどすぎる」
 思い出したのか、アリサは顔を背け、目を伏せた。
「とにかく、地上を救えるのはあなたたちだけ。どうにか抵抗しないと、地上はめちゃくちゃにされるぞ」
 神司は考える。では、なぜ、自分たち二人は残って、魔族はここにいないのかと。
「そう、そこが私にも判らぬこと。神司と私だけでは無理がある。予定では、勇義軍なるものを募って、魔族に対抗しようと考えていた。それなのに、だ。おつきが一人で、他に人間がいないとは! 
魔族は神族を惨いやり方で殺していった。他の人間たちは、もうすでに殺されたのか、そうでないのか……そこが判らない」
「おつき……」
 アリサの言葉に、頼は内容よりも、そちらを気にしてへこんでいる。
「とにかく、武器を探しに行かなくては」
「武器? そうだ、なぞなんだが、魔族や神族は死ぬのか?」
「当たり前だ。そうでなくては、戦争はいつまでも終わらぬ。確かに私たちは人間より寿命が長い。しかし、死なないわけではない。だが、神族と魔族は殺し合いができても、人間に簡単に魔族を殺すことはできない。だから、武器を探すのだ。払魔の剣を」
「へーえ。まあ、そこまでは解ったわ」
 神司はどこまでも他人事のようだった。
「神司?」
頼が不安そうに神司を見た。
「で、俺が嫌だといったらどうなるんだ?」
「さあ、このままか、魔族が来て殺されるかではないか?」
 アリサも無関心に答える。
「人間のことは私には分からぬし、正直関心もない。
ただ、私は役目を負ってきた。お前がどうしようが一人でも果たさなければならない。死んだ同族のためにも」
「なるほど。じゃあ、自分の身の振り方は自分で考えていいってことか」
 神司は意地悪そうに言った。頼ははらはらしながら二人を見ている。
「そういうことだな。強制は誰にもできぬことゆえ・・・・・・。
 おい、そこのおつきも自分の思うようにしていいのだぞ」
 アリサは神司の反応に、やけっぱち気味になってそう言った。頼は困ってしまった。
「そ、そんな。急にそんなこと言われても」
 と答えて、頼は考え込んでしまった。
「その武器はどこにあるんだい? 言い伝えとかはないわけ?」
いつの間にこの教室に来たのか、コンコンと教室のドアを叩いて、ドアに寄りかかっている人物がそう言った。その姿を見て、神司は絶句した。
神司のよく知っている人物だった。十歳までは大の親友だった。渡辺亮也。
 しかし、ここにいるはずはなかった。彼は十歳のとき、突然死をしたのだから。
「どうしたの、えーっと、草瀬神司? 神司でいいかな? 立ち聞きしたのは悪かったと思ってるよ。でもさ、人はいつのまにかいなくなってるし、なんだろうと思って、声のするほうに来ちゃったってわけさ。まあ、仲間は多いほうがいいんじゃない? もっとも誰か魔族退治とやらをが引きうけりゃだけど」
「……」
「神司? どうしたの? 僕のこと知らない? ま、当然か。クラスも違うし、居眠りで有名なお前じゃないからな。僕は、田辺聖也。みなさん、よろしく」
 その場に似つかわしくない顔、笑顔で、聖也は挨拶をした。
「もう一人おったか」 
 アリサは別に気にする様子もない。ただ、神司は、亮也を思い出して、言葉が出なかった。それほど、彼の容姿は亮也に酷似していた。
まだ、忘れてなどいなかった。亮也。あれほど優しい、おっとりした、いい人間はいないだろう。亮也はいい人過ぎて早く神に召されたのだろうと勝手に思っていた。そうでなければ納得がいかなかったから。


――どこかから、虫の音が聞こえてくる。
 「神司、見て。線香花火、綺麗だよ」
 愛しいものを見つめるように花火を見ながら亮也は言った。亮也の優しい顔を花火の光が柔らかく照らし出している。
「ねぇ、今度、会わせたい友達がいるんだ。寂しがりやで優しい子なんだよ。イーリスって言うんだ。イーリスは凄いんだ! もっと、面白いものを見せてもらえるんだよ。今度神司も連れてきていいか、聞いてみるよ」
満開の笑顔で亮也はそう言った。
夏の夜、二人で花火をしていたときだ。
病弱な亮也。線香花火みたいに、すぐに消えて欲しくない。花火を見ながらそう願った。
まだ暑さの残る夜。ただ、虫の声が夏の終わりを告げるように聞こえていた。 
 そして、その後亮也を見ることはなかった――


「亮也……」
 神司は呆然として聖也の顔を見つめた。
「何? 僕の顔に何かついてる? なんだか幽霊でも見たような顔だよ、神司? 大丈夫かい?」
 聖也の言葉に神司はっと我に返った。そうだ。亮也がここにいるはずはないのだ。
「あ、ああ。まさに聖也の言うとおりで……。お前の顔、俺の死んだ友達にそっくりなんだ」
 一瞬その場が静寂に包まれた。
「えーっと、悪いな、その友達じゃなくて」
 聖也が困ったように言った。
「別に。お前は亮也じゃないし、謝る必要もないだろ」
 神司はそう言って、頼と同様に考え込んでしまった。
「そう。ならいいんだけど・・・・・・。
頼、君はどうするの?」
 聖也は神司を少し気にしながらも、頼に視線を移した。
「え? 俺? 俺は・・・・・・。
 あのさ、アリサ。この場合、神司が引き受けないというなら・・・・・・お、俺が引き受けても大丈夫なのか? その役割とやらを。
俺でよければ、引き受けたいんだけど・・・・・・」
 頼はおずおずとアリサに言った。アリサは渋い顔になった。
「うむ、それができれば可能性も少しは多くなるだろうに、残念ながら無理だ。封魔の剣は人を選ぶ。選ばれたのは神司なのだ」
 アリサの言葉に、頼はなんとも言えない表情になった。泣いているようにも見えた。聖也はそんな頼を気遣うように少し見て、
「それは、どういうことか詳しく教えてもらえないかな?」
「どこから、話せばいいやら・・・・・・。
私のように、地上に派遣される役割を持つ神族は一人だ。だが、地上には、神司のような役割を持つ候補が少数散らばっている」
 まあ、それはそうだろう。地上のことを日本人一人に任せていいはずがない。
「しかし、最終的に選ばれるのは、一人なのだ。それは、先ほど言った封魔の剣に地理的に近い人間が選ばれる」
 神司は眉間にしわを寄せた。
「なんだよ、それ。神族は、人間が魔族と対抗できないのを知っていながら、その人間一人だけを選び、少ない友と、一人の神族で、魔族をどうにかしろと言うのか?」
「そ、それは……。まさか、他の人間が消えているとは考えられなかったからで……」
 これには頼も聖也も、唸った。魔族の数は知れない。しかも、その魔族と渡り合える神族の危機に選ばれるのが、無力な人間一人。どう考えても勝機はない。四人は黙った。
「……なんだってこんな中途半端な対策を神族は用意したんだろうね?」
 呆れた声で口火を切ったのは聖也だった。
「そ、それは……」
 アリサは気まずそうに下を向く。
「正直、もしも、を考えていなかったのだろう。私もその役割を授かったものの、本当に地上に派遣される日が来るとは……」
「でもさ、一番悪条件の下に置かれた魔族が、大人しくしてるとは普通思わないんじゃないの?」
 聖也は続けた。
「そうだな。私たちはうかつだった。天界を手に入れたことで、浮かれて、幸せすぎて、かつて一緒に暮らしていた魔族のことなど考えもしなかった。もう今更遅いが……」
 アリサは悲痛な声で言った。

 亮也の命は戻らない。でも、今消えてしまっているみんなの命は、まだ救える希望がある。少しでも希望があるのだから、諦めたくはない。後悔はしたくないから、立ち向かうしかない。
のだが。
「はあ、なんかドラ○エみたいだよな」
 頼が小さくため息をついた。
「俺たちはたまねぎ剣士ってとこか」
「それはF○Ⅲだろ? それじゃ、アリサは……、白魔導師? 賢者?
アリサ以外はみんなレベル一ってのが笑えないよな」
頼はそう言って、念のためとか言って、アリサに尋ねる。
「ねえ、アリサさん。弱い魔族から順に出てくるシステムとかじゃないんですよね?」
 アリサは鋭いまなざしで頼を見た。
「意味が分からぬな。私をからかっているのか?」
 そんなアリサに、頼は今度は大きなため息をつく。
「やっぱ、違うよな。ってことは、レベル一のまま、魔族の方々と戦うわけで……」
「頼。これはゲームじゃないからな」
 神司の一言に、「だからなおさら笑えないんだ」と俯く頼。
 をんな頼に聖也は、「まあまあ落ち着いて」と言い、アリサの方を向いた。
「アリサ、もっと具体的なことは解らないの?」
「そう、だな……。何から話せばいいのやら」
 と、アリサは嘆息する。
「それは人間も一緒だな。自分たちは戦いもせず、地上を得たというのに。今の人間は誰一人そんなことを知らずにのうのうと生きてきた」
 神司は言って、
「これはある意味仕方ないことなのだろう。文句を言っても仕方ないし、言えない立場なんだな。
この人数は確かに痛いが」 
 吹っ切れたように顔を上げた。
「それで? たまたま封魔の剣の近くにいた俺が選ばれたのは解ったが、肝心な封魔の剣については何か情報はないのか?」
「封魔の剣。これは人間にでも魔族を殺せる剣だ。しかし、剣の形をしてはいない」
 アリサの言葉に頼は首をかしげた。
「剣じゃないのに剣なのか?」
 アリサは頷く。
「私も実際見たことがあるわけではないゆえ、それがどのような形をしているかは正直判らないのだ。しかし、先ほど言った、選ばれし者候補の人間は、生まれるときに、羊水の中に封魔の剣が入っていると聞く」
 アリサの言葉に三人は目を見開き、
「羊水?!」
 と同時に叫んだ。アリサは頷く。
「だから、出産と同時に候補者は解るようになっている。問題は、それが封魔の剣の形をしていない上に、母体に入るほどの小さいもの故、気付かれないことが多いということだ。だから、封魔の剣は知らないうちに捨てられたり、どこかに紛れたりなどして、本人のそばに無いことが多い」
 なるほど、と三人は頷く。
「でも、生まれたときに一緒に出てくるなら、そんなに遠くにあるって訳じゃなさそうだなっ」
 頼が楽観的に言うと、
「ま、本人が生まれた場所から引っ越ししていなかったら、だよね」
 と聖也が冷静に繋いだ。
「俺は引っ越したことがあるが、市内だから、そんなに広い範囲を探す必要はないだろう」
 聖也に答えるように神司は言った。
「じゃあ、市内を探せばいいわけだ!」
 とほっとした様子の頼。
「頼、お前単純すぎだな。形も判らないものをどうやって探すっていうんだ?」
 呆れ顔の神司。確かにその通りである。
「アリサ、ヒントとかないわけ?」
 聖也が降参と言うように聞く。アリサは困った顔になった。
「そう、だな……。共鳴すると聞いたことはあるな。漠然と大切なものと言う感じがある、と……」
 神司はそれを聞いてますます渋った顔になった。ものに頓着しないほうなのである。大切なものと言われても、自分にそんなものがあったかどうか。
「それから。
魔族に反応して、剣となると聞いている。が、魔族もいないこの状態じゃ……」
 頼がアリサをじと目で見た。
「な、なんだ?」
「アリサが魔族を一人連れてきたらよかったんだよー」
 頼の言葉に残る二人が頼の頭を叩いた。
しかし、なんなのだろう。緊張感にかけるような。人間の命がかかっているというのに。そして、手がかりは絶望的なのに。もちろん悲観的になっても事態は悪化するだけだが。四人はいっせいにため息をついた。
「あのさ、もう一つ問題があるんじゃないの?」
 再度聖也が口を開いた。残る三人はあまり聞きたくない顔をして聖也を見た。聖也は困った笑みを浮かべた。
「そんな顔されても。
剣が見つかったとしても、人間を消している魔族を倒さなきゃいけないんだよね? その魔族はどこにいるのさ?」
「推測でしかないが、まだ、神族と天界で戦っているのだろう。問題は、戦っているのに、人間まで消えているということだが……」
 アリサは少し考え込む仕草をして、独り言のように言った。
「ここまでの力を持っているのは、神族の長のイーデリア様と、魔族の長のセーフォウスの間に生まれたご子息としか考えられない」
「へえ、魔族と神族の混血がいるんだ? なぜそいつは魔族の方にいるんだ?」
 頼がまた、能天気に聞いた。するとアリサは顔を曇らせ、
「それはどうでもよいことだ。とにかく、天界が滅ぼされたら、魔族は地上に現れるだろう。その前にせめて剣を探し出さねば」
 頼の問いには答えず、そう言った。確かに今できることはそれしかない。三人は頷き、方針だけは決まった。

 「まずは」
「どう考えてみても」
「俺の持ち物を調べるしかないな」
 解ったよ、と手を上げて神司は頷いた。そして、自分のポケット中の物、カバン中の物を無造作に放り出した。
「携帯」
「しかもストラップなし。筆箱にも消しゴム、シャーペン、その芯、定規のみ。財布。ノート、教科書類」
「なんてシンプルな……。教科書使ってるのか? 綺麗過ぎるぞ」
 頼と聖也が言いたい放題に言う中、アリサは初めて見るものに興味深々のようだ。
「あのなあ、お前ら。人のものにいちいちけちつけんじゃねーよ」
 神司は少々切れ気味である。
「でも、これじゃあ」
「どう考えてもなさそうだな、この中には」
 見るだけ見といて、頼と聖也は深々とため息をついていた。
「あ、もう夕日が沈む」
 頼の言葉に窓のほうを見ると、空が橙に滲んでいた。
「……こんなことになっているのに、時間は止まることなく進んでいるんだね」
 聖也が言った言葉に、神司も頼も神妙に頷いた。
「綺麗なものだな」
 アリサがポツリともらした。
「天界には夕日はないのか?」
 神司の問いに、
「ああ、常に地上で言う昼の状態だ」
「眠らないの?」
 頼の言葉に、アリサは首をかしげた。
「必要性がない。眠りたい者は眠る。それだけだ」
「なんか、天界って楽園とか言うけど、退屈で、趣き無いとこみたいだな」
 頼がストレートに言うと、アリサはなんとも言えない顔をした。
「なあ、神司。もう暗くなるし、今日はこのくらいにしない?」
 聖也が神司を振り返って言った。
 橙の空。
振り返る一人の人間。
表情はは影になって見えない。
 神司はこの光景を知っていると思った。振り返った人。そのときは誰だったのか。
「神司?」
 聖也の声に、神司ははっと我に返った。
「いや、なんでもない。正直疲れた。普段は授業中は睡眠の時間だからな」
 神司が少しおどけて言うと、頼も聖也も笑った。
「確かに。これで成績がいいからむかつくんだよな、こいつ」
「睡眠学習って言うだろ?」
「ほう」
「殴られたいようだな」
 頼と聖也が神司を羽交い絞めにしていると、アリサが冷たく言った。
「人間という生物は緊張感に欠けるようだな。いつだってそうだ。神族に任せっきり。今回は私たちは人間を守れない状況なのだぞ? それが分かっているのか?」
 三人は瞬間、動きを止めた。そして、罰が悪そうに、
「そうだ、な……」
「こんなことしてる場合じゃないよな」
 と言った。アリサと違って、実際殺されるところを見ていないためか、三人には現況の実感が欠けていた。確かに人は消えているが、その他は何も変わっていない。しかし、見えないだけで、どこかで酷たらしく殺されようとしているとしたら。
「……神司、ロッカー見たっけ?」
 頼が神司に尋ねた。
「まだ。どーぞ」
 綺麗なものである。カバン以外は何も入っていなかった。
「学校でよく行く場所は?」
「屋上。体育館裏」
 神司は飄々と言った。頼と聖也は顔を見合わせる。
「とにかく行ってみよう」
 風の強い屋上へと四人は移動した。
 太陽は地平線に沈み、淡い光を空に残すのみである。太陽が沈んだ後の風は冷たく、まだ春ではないことを痛感させられる。
「ここで、何をしているんだ?」
 聖也の問いに、
「食事、または昼寝」
 といたってシンプルに神司は答えた。そして、
「ここら辺によくいる」
 と案内する。頼と聖也はそこをよく調べたがやはり何も見つからなかった。
「次に行こう。体育館裏だっけ?」
「神司は何のために行くわけ?」
 二人の問いに、神司は、スパスパとタバコを吸う仕草をした。二人はため息をつき、アリサはまた首をかしげた。
「なるほど。タバコを持ってなかったのは、ここに置いてるからか」
 体育館裏。神司が隠していたタバコ箱を無意味に振りながら、頼が言った。中身はタバコが三本入っているだけであった。
「学校には何もなさそうだな」
 頼が疲れた顔で言うと、
「学校は好きでも嫌いでもないからな。何も愛着はないね。ま、俺の場合、愛着のあるものなんて皆無か」
 神司は答え、その言葉に、頼も聖也も顔をげんなりさせた。
「神族は、なんで神司を選んだんだろうね?」
「ほんと、手がかり皆無なんて、どうやって地上を救えってんだ?」
 恨めしげな視線が自然とアリサに向く。アリサはあさっての方向を向き、
「私の人選ではない」
 とだけ言った。

「さてと、今日の宿だが」
「誰もいないから、どこで寝てもいいような気がするが」
「それは犯罪だろう」
 相変わらず三人は、自分の使命以外関心の全く無いアリサを放って話を進めている。神司は母と二人で暮らしているアパートに、自分を含める四人が寝れるかを考え、
「俺のうちはパスだな。狭すぎる」
 といち早く言った。続いて聖也が何か口を開きかけたときだ。
「俺んちでいいと思う。俺んとこ四人家族だし」
 と頼が下を向いて言った。
「聖也は?」
 神司の問いに、聖也は、
「そっちのほうが有り難いな。僕のうちもこの人数は無理だ」
 と微笑んだ。
「決まりだな」
 アリサはどうでもいいらしかった。

 頼のうちはまだ築三年ということで、新しかった。そして、四LDKという十分な間取りをしていた。
「自由に使っていいよ。ベッドも四つあるから、それぞれ好きなので寝てくれ」
 頼は家に三人を案内してそう言った。
「まず、飯じゃねー?」
 神司の言葉に、
「そうか、そうだな。冷蔵庫のものを適当に食べよう」
 と頼が相槌を打つ。しかし、その声はどこか投げやりだった。聖也はそんな頼の様子を気にしていたが、神司は、
「じゃあ、拝見」
 と冷蔵庫を開け、
「これ使って適当に俺が料理するわ」
 と言った。
「神司、料理できるのか?」
 聖也が驚いて聞くと、
「うちはお袋と二人暮しだから、高校入ってからは晩飯は俺の当番なんだ」
 と材料を取り出しながら、神司は答えた。聖也が複雑そうな顔をする。
「ああ、気にすんなよ。親父はどっかの女とよろしくやってるさ。俺が生まれてすぐだったらしい。顔も覚えちゃいねーから、別に何の感情もない。まあ、お袋は大変だっただろうけどな」
 とさして気にする様子もなく、神司は言った。聖也と頼は思わず顔を見合わせた。アリサは相変わらずのポーカーフェイスである。神司は、材料を慣れた手つきで刻みながら、三人のほうを振り返った。
「何でもいいんだよな?」
「あ、ああ。もちろん」
「うん」
「私は食べない」
 アリサの答えに、神司は、
「神族は、ものも食わねーわけ? もしかしたら、卵から生まれてくるとか?」
 なんて、笑えない冗談を言った。頼と聖也が恐る恐るアリサを見ると、アリサはさして気分を害したようでもなく、
「食べ物を食す必要がない。ちなみに、神族も卵からではなく、母体から生まれる。だが、私の場合、役目を担ったゆえ、生まれてからすぐに神殿のほうに移された。だから、両親とはほとんど会えなかった」
 と答えただけだった。
「へー、案外俺たちは似てんのかもな。物事に無関心だし」
 神司の言葉に、
「いや、私は使命には関心がある」
 とアリサが真面目に言い返した。頼と聖也は次元の違う会話を聞いているようで、目を白黒させていた。
「やっぱり、神司はなんか違うわ」
 頼がどこか悲しげに呟くのを聖也は聞いた。

 ありあわせの、名も無い料理は案外美味しくできていた。三人は、その日、運命が大きく変わったものの、食欲は衰えていなかったとみえて、神司が作った料理をほおばった。有り難かったのは後片付けをせずに済んだことだ。アリサが人間には無い力で、片付けたからである。食事後、四人は疲れていたせいもあり、それぞれの部屋で休むこととなった。

 聖也が物音を聞いて目を覚ましたのは、夜中の一時頃であった。自分たちの他にも誰かいるのだろうか、という期待と、四人のうちの誰かだろうという現実的な思考とともに階段を下りる。すると、その階段の一番下の段に人影があった。そっと肩を叩いてみると、
その人影は心底驚いた顔で振り向いた。
頼だった。
「どうしたの? 頼。眠れないのかい?」
「聖也! お前こそどうしたんだよ?」
「いや、物音がしたから」
「そうか」
 頼の表情は暗い。
「どうしたんだよ? なんか悩みでもあるのか? 聞くよ?」
 聖也はあえて明るく微笑んだ。頼はそんな聖也に、ちょっと笑顔を見せた。
「そうだな。話せば少しすっきりするかも」
 頼は語りだした。頼の話によると、頼には二つ年上の兄がいるらしい。その兄は成績もよく、いわゆる「できる人間」だそうだ。そこで、頼の両親の期待は兄にばかり向き、頼は家で居場所をなくしていたらしい。頼は家での窮屈な毎日を発散するように、学校でふざけた盛り上げ役に徹したところ、それがはまり、学校では居場所を得ることになった。しかし、家に帰るとまた、居場所をなくす。頼は、自分が常に一番にはなれないことを悟っていた。そして、その通り、今回の件にしても、主役は神司で、頼は「そのおつき」となった。
「俺はやっぱ、みんなの前で道化をするしか能がない、二番目なんだ」
 頼は力なく言った。
「そうかな? 僕は自分も選ばれたと思ったけれど?」
 聖也は言った。
「え?」
「神司と僕らの役目は違う。でも、どちらも選ばれたには違わないと僕は思っているよ。僕らは神司の役目は果たせない。でも、神司も僕らの役目は果たせない。なぜなら、彼が死んだら地上はゲームオーバーだから。でも、僕らは彼の代わりに死ねる。それは他の消えた人間にはできないことだし、神司にもできないことじゃないか? 消えた人間にしろ、何か役目を背負って生まれてきたんだよ、きっと。ただ、僕たち人間は他人と比べたがるから、自分の役目に気付かず、他人の役目ばかりが見えるんだ。人間に番号なんてつけられないのにさ」
「だな」
 突然の後ろからの声に、頼と聖也は同時に振り返った。
「神司!」
 聖也が呆れて、
「いつからいたんだい?」
 と問うた。
「さあね」
 神司は相変わらず飄々として答えた。
「ま、二人がいないと俺はかなり困るってことには変わりない。期待してるぜ、聖也。そして、頼!
明日もアリサに早く起こされそうだ。早く寝るんだな。お休み」
 そう言って、何事もなかったように階段を上がっていく神司を見て、二人は顔を見合わせた。
「だそうだよ。とりあえず、自分の役目を頑張るとしよう?」
 聖也の笑顔に、
「そうだな。なんか、少しすっきりしたかも。俺の役目、探しながら頑張るよ」
 と頼も笑顔になった。





                        続く


 字数が多すぎたので2に続きます。
 


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