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天音花香の小説をUPするブログです。個人サイトの小説はこちらに移しました。現在二時創作と短編を中心に書いています。
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天音花香
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性別:
女性
職業:
主婦
趣味:
いろいろ・・・
自己紹介:
小学生のときに、テレビの影響で、小説を書き始めました。高校の時に文芸部、新聞部で文芸活動をしました(主に、詩ですが)。一応文学部でです。ですが、大学時代、働いていた時期は小説を書く暇がなく、主婦になってから活動を再開。

好きな小説家は、小野 不由美先生、恩田陸先生、加納朋子先生、乙一先生、浅田次郎先生、雪乃 紗衣先生、冴木忍先生、深沢美潮先生、前田珠子先生、市川拓司先生他。
もう一つのブログでは香水についてレビューをしております。
http://yaplog.jp/inka_rose/
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こんにちは、天音です。


イーリスの夢の続きです。
この後続けて最後までアップします。

ココから小説


最初から読む
         
        イーリスの夢




第六章



 (今日もか)
 神司は、音を立てないように気遣いながら階段を下りる音に、敏感に反応した。
誰かは判っている。聖也だ。
 昼、言っていたように聖也は寝つきが悪いようだ。聖也が一緒に行動するようになってから、毎晩こうやって目を覚ましては、階段を下りていくのに神司は気がついていた。
(……)
 神司はどうしようか迷ったが、自分も一階に下りることにした。
 静かに、ゆっくりゆっくり、一段ずつ下りていく。リビングにいるのだろうか、と覗いてみたが、ソファーに横たわっているアリサがいるだけだった。
(眠ってんのか? アリサのやつ)
 アリサが瞑想しているのか、眠っているのかどちらかは判らなかったが、リビングに聖也がいないことは判った。どこにいるんだ、と廊下の方に戻ると、奥の洗面所から明かりがもれていた。
(?)
 神司は極力音を立てないように洗面所へ近づいた。そして。
(!)
 聖也は、鏡に映る自分の顔を、悲痛な面持ちで見つめていた。神司は、なんだか見てはいけないものを見てしまったような気がして、声をかけられなかった。すると、聖也は後ろ――神司がいる方を振り返った。二人の視線が交差する。めずらしく、聖也は動揺していた。が、それも柄の間で、
「なんだ、神司か。声ぐらいかけてくれよ。びっくりしたじゃないか」
 と小さな声で言って笑った。
「あ、ああ。すまない」
「謝るほどのことでもないけど。それより、どうしたの? 君も眠れないのかい?」
「眠ってはいるけれど、浅いんだ」
 神司がそう言うと、聖也はすまなそうな顔をした。
「僕のせいかい? そりゃ悪いことをしたね」
「いや、いいんだ」
 そこで会話が途切れた。しばらくお互い黙っていた。
階段の二段目に二人並んで座る。
先に口を開いたのは神司だった。
「なあ、俺、本当にみんなを救えるんだろうか」
 アリサが現れてから、地球上の生命が自分の肩にかかってきたことによって、神司はプレッシャーを感じ続けてきた。
 聖也は神司を見つめた。
「神司。君は僕になんて言って欲しい?」
 聖也の言葉に、神司は聖也の方を見た。再び視線が交差する。神司は前に向き直って、ちょと力なく笑った。
「そうだよな、俺。何を聖也に求めたんだろう」
「いや、僕こそごめん。神司が僕なんかよりもきつい立場にあることをわかっているくせに。
……。変なこと聞くけど、君は頑張ってないの?」
 神司はちょっと目を細めて、不機嫌そうに聖也を見た。
「なんで、そんなこと。頑張ってるに決まってんだろ。命がかかってるんだぜ?」
「うん。ならそれでいいんじゃないか? 自分ができるところまでしか人はできない。それ以上は求める方がおかしいんだ。現に神司はこうして悩むまで頑張っているのだから。
結果はあくまでついてくるものだよ。どちらかなんて、神、アリサにだって分からないんだから」
聖也は足先を見ながらそう言った。
「そして、一度出た結果はもう戻せない」
 聖也はそう独りごちるとまた黙った。
また沈黙が訪れた。
 次に沈黙を破ったのは聖也のほうだった。
「ねえ、神司。君は僕の顔を見たとき、普段は見せないくらい、動揺していたよね? これが僕の一方的な考えだったら申し訳ないんだけど、僕と君には共通点があると思うんだ。
……僕にも、君のように死んだ友達がいる」
 神司は息を呑んだ。
「短い間だったけれど、とてもいい奴で、僕はその子といるときはとても満たされた気分になった。初めてだった。そんな気持になったのは。神司にとって、亮也君はそんな存在じゃなかったかい?」
 神司は。
「ああ。亮也はそんな存在だった。
俺は人に気を許さないタイプだった。けど亮也にだけは違った。許せたんだ。初めて」
「でも、死んでしまった。
彼は戻らない」
 神司は、亮也を思い出すように、聖也の顔を見て、
「ああ」
 と頷いた。
「だから、余計に大切な思い出として残っているんじゃないか? 僕はそうだ。片時も忘れた
ことはない」
 聖也はそんな神司にそう言った。懐かしむと言うより、悲しむと言う表現の似合う顔で。
「ああ。だから全てのことが亮也に繋がっちまううんだ」
「神司。多くのことに無頓着な君が、関心を寄せる、亮也君という少年。僕はそこに何かがあるように思えてならないんだよ。君も今、全てのことが亮也に繋がると言ったね?
もう一度考え直してみてくれ。亮也君に関することを」
 神司は、はっとして、聖也を見た。神司が最も執着したのは、三日月の形の剣より、亮也のほうだ。
「なるほど。そう言われると、そうかもしれねえ。もう一度思い出してみる」
「うん。そうしてみて」
 相変わらず、苦しそうな聖也の表情に、疑問を覚えた神司は、思わず聞いてしまった。
「なぜ、お前は、さっきからそんなに苦しそうなんだ? いいヒントを思いついてくれたのに」
「……」
 聖也は黙っていた。しばらくして、下を向いたまま、小さい声で何か言った。だが、神司には内容が聞き取れない。
「おい?」
「……君との相違点。僕はその友人を殺してしまった」
「え?」
「僕がいなければ彼は死ななかったんだ」
 神司はこれ以上聞けなくなってしまった。
「すまなかったな。触れられたくねえこと聞いちまって。
 でもよ、お前が殺すわけなんかねえよ。思い込みだよ。
 罪意識ってそれだったのか?
 ・・・・・・なんていったらいいか分からねえけど、でも、もう自分を解放してやれよ。そいつとの思い出は優しいものだったんだろ? だったらそっちのほう優先して、その先はもう忘れちまえよ」
 神司はわざと軽くそういい、俯く聖也の肩を叩いた。
「ヒントサンキューな。
 お前ももう寝ろや。さ、上行くぞ」
「……ああ」
 そう頷いた聖也の瞳からは一筋の涙が頬に線を描いていた。神司はそれに気付かぬふりをした。そして、お互いの部屋に戻った。
 


そして、神司は夢に落ちていく……。
「聖也……? いや、亮也?」
 この日、二人――神司もイーリスも同じような夢を見た。
――いつもの公園で線香花火を優しく見つめる亮也。そのとき二人が願ったことは同じだった。
――死なないで――



 「久しぶりに、見た、な。あれが最後だったもんな。
 なんだろう。何かひっかかる」
 神司はちょっと考えたが分からなかった。まだ朝までは早い。もう一度神司は寝ることにした。


 「僕の願いを僕自身が壊してしまうなんて、あの時は思わなかったよ。ほんとだよ、亮也」
 イーリスは震える自分の右手を左手で押さえ込んだ。
「きっと、神司は気付く。そんな気がする。だから、僕の役割もきっと今日で終わりだね。そしたら君と会えるかな?」
 イーリスの呟き声は、彼にとっては随分狭い部屋に響いた。



 「おはよう。あの後よく眠れたか?」
 階段を下りたところで鉢合わせした聖也に、神司は声をかけた。
「うーん。神司は?」
 聖也は困った顔をし、逆に神司に尋ねてきた。
「こっちもあんまり」
「うっす。なんだ、朝から冴えない顔して」
 神司が答えていると、頼が珍しく自分で起きてきた。
「なんだ、頼。珍しいじゃないか。眠れなかったわけでもなさそうだし」
「失礼だな。俺だって子供じゃないんだから自分で起きる日もあるさ」
 頼はなんだかよく解らない理由を答えている。
「いや、お前はまだ子供だろ」
「なら、未成年は神司もだろ?」
 発展のない会話をしながら三人でリビングに入ると、アリサが神妙な顔をしていた。三人は顔を見合す。そして、神司と頼の視線は聖也に注がれた。聖也は、仕方ないというように、
「えーと、アリサ? どうしたの?」
 とおずおずと聞いた。その声にアリサはちょっと動揺した顔をして、
「お、おはよう。えーっとだな、これは、ちょっとした好奇心で……」
 となにやらいい訳じみたことを言っている。なんだなんだとそばに近寄ると、缶詰があけてあった。
「……」
 三人は沈黙した。
「神族は、食べる必要がないんじゃなかったのか?」
「うむ。そうではあるのだが。どんな感じであろうかと」
「で、どうだった?」
「うむ。不思議な感じだ。悪くはない」
「しっかし、缶詰開けるぐらいなら、俺の作った飯を食えよ。じゃ、今日はアリサも一緒に食べる。いいな、アリサ」
「うむ。興味深い」
 神司は、いつものようにぱぱっと調理を終え、四人で食卓を囲むことになった。三人はアリサの反応に興味津々である。
「どうだ、俺の料理の味は?」
 神司の問いに、
「先ほどのものより、いい。食べるということは非常に興味深く、また幸福にさせられるものなのだな」 
 アリサはしみじみと言った。三人は爆笑した。
 何か今朝は違う。
 四人は感じ取っていた。何が違うかは判らない。でも。
「あ、そうそう。俺は俺なりに考えてみたんだけど・・・・・・」
 頼が口を開いた。
「へえ、またも珍しい」
 神司の言葉に、頼が怒ろうとするのを慌てて聖也が止めに入る。
「まあまあ。
 どんなこと考えたんだい? 興味あるな」
「あのな、小学生のときにタイムカプセルをやったっていっただろ? あれで考えたんだけど、大切なものを埋めたり、逆に埋めたものを探したりっていう犬みたいなことを人間もよくやるよなって思って」
「なるほど、じゃあ、頼は神司が三日月の形をしたものをどこかに埋めたんじゃないか、と思ったんだね?」
 聖也が確認するように頼に聞いた。
「ああ。いや、真面目な話、小学生とかだったらやりそうだと思うんだよ」
 神司は黙って聞いて、思案していた。そんなことを自分がするとは思えなかった。埋めるより、自分なら持っておくだろうと。ただ、無視はできない意見だと神司は思った。
「神司? 頼はこう言ってるけど、それも踏まえて、今日はどうする?」
 聖也が聞いてきた。神司は考えていたことを口にした。
「今日は、籠もって考えようと思うんだ。悪いが、とりあえず俺は一人になる。何をしていても、あまり気にしないでくれ。それから邪魔もしないでくれ」
 三人は神司に従うしかなかった。


 神司は自分が寝ていた部屋に戻ってとにかく考えることにした。
 小学生になったときに渡されたそれ。
 今思い出すとあの日から何かが変わった気がする。何だったか。
 母の態度だった気がする。
 どんな風に?
 神司を一人の人間として、言わば一人前として接するようになった・・・・・・。
 それは当時の神司にとって、嬉しいことではなかった。まだ甘えたい歳だった。父がいない分余計に。だが、母はそれを許さなくなった。自分でできることは全部自分でするように言われ、手伝いが増えた。そして、
「まず、自分で考えなさい」
 と言われるのが常になった。自分で選択すると言うのは、意外に難しいことだった。自由と責任は隣り合わせにある。自分が選んだことには常に責任が付きまとった。
 そう、あの女担任に言われる前から、自分は責任を負うように教育されていたのだ。だが、神司はそれが始め嫌で嫌でたまらなかった。
 父親と遊んでいる子供や、母親と手をつないでいる子供を見ると、心が痛んだ。痛みは苛立ちに変わり、常に満たされぬ苛立ちを抱えて過ごしていたあの頃。三日月のそれを見て、泣きたくなるときもあった。だが、それは母がくれた大切なもの。その矛盾に悩まされ、小学校で神司は、いわゆる尖った扱いづらい子供と見られていた。その頃から先生とうまくいっていなかったのだ。友人も作ろうとしなかった。比べて惨めになるのは嫌だったし、もし、何かあったときに責任を取らないといけないと思うと、関わりたくないと思ったのだ。だから、一人で遊んでいた。
 そんなころ、亮也に出会った。
 思えば亮也も他人とは違っていた。亮也は体が弱く、学校を休むことが多かったため、親友と言う友人がいなかったのだ。ただ、亮也は性格がよかったので、学校に来た日は、人に囲まれているときが多かった。
 そんな亮也が神司に声をかけてきたのだ。
第一印象は「変な奴」だった。突然やってきて、生命の尊さを説いた小学生。腹が立たなかったのは、亮也には邪気が全くなく、真剣にそれを訴えかけてき、それでいて、押し付けがましくなかったからだ。
そして。
そばに亮也がやってくると、満たされている自分に神司は気づいた。亮也は同い年なのに、どこか大人びていて、それなのに嫌味でなく、やさしく包まれている気がした。
(! 俺は亮也に母親を求めていたのか?)
 しかし、包まれているのに、守らなくてはという気もしていた。やはり亮也は変わっていた。
 神司の中で亮也の存在は大きくなるばかりだったが、神司は亮也と学校では遊ばないようにしていた。亮也は体が悪いだけで、いわゆる優等生である。そんな子と自分は不釣合いな気がした。自分のせいで亮也のイメージが悪くなるのは避けたかった。そんな神司に亮也は提案した。
「じゃあ、学校が終わった後、公園で遊ぼうよ」
 それは魅力的な提案だった。
 それから神司と亮也は公園で遊ぶようになった。遊ぶと言っても、ただ一緒にいるだけとか、ブランコや砂場で城作りなど、なるべく亮也の体の負担にならない遊びだ。
 神司の寂しさは亮也の存在で満たされるようになった。
(三日月は置いといて、亮也との思い出を考えると、公園が一番強いな)
 ここまで思い出して、神司はそう思ったが、何か重要なことを忘れているような気がした。
 そのときだ。
 コンコン
 ドアをノックする音が聞こえた。
「なんだ?」
「いや、お茶を持ってきたんだけれど、邪魔だったかな?」
 気遣うような聖也の声だった。
「入れよ」
「じゃあ、お言葉に甘えさせていただいて」
 丁度煮つまってきたときだ。ありがたかった。聖也はお茶を置くと戻ろうとする。
「まあ、待てよ。お前はほんと、他人のことばっかり考えてるよな。そんなところも亮也と似てる。あ、わりい。それが聖也で、亮也とは違う人間なのにな」
 神司の言葉に聖也は困った笑顔を見せた。
「でもさ、今まで、亮也とのことを思い出してたから、こうやって聖也といると、昔に戻った気がしちまうんだな」
「僕は気にしてないから大丈夫だよ。それより、どう?」
「うーん。結構思い出したんだけど。辛いもんだな」
「神司の過去は辛いものだったの?」
 神司の言葉に聖也が気遣うように聞いてくる。
「まあ、うちのお袋厳しかったし。それに幼いときは、父がいない状況を受け入れるのって難しかったからな。常に隙間風が体を通っていくような感じで、何かが欠けていることに苛立っていたんだ」
「それを埋めてくれたのが亮也君だったんだね」
「そう、だな」
 聖也の言葉に神司は頷いた。
(そう、亮也の存在は俺の人生を変えた。のに)
「なんで、お前、死んじゃったんだよ?」
 神司は思わず聖也にそう聞いた。聖也は動揺している。
「え? 僕に聞いても・・・・・・。
 どうしたの? 神司? もしかして混乱してる?」
「ああ。しているようだな」
 そうだ。聖也は亮也じゃない。亮也は死んだんだ。突然。神司を置いて。
「なんで、一人で逝っちまったんだよ……」
 神司の目からはいつの間にか涙が溢れていて、聖也はそれを見ないように目を伏せて、部屋を出ようとした。
「待てよ。また、俺を置いていくのか?」
「神司! 僕は亮也じゃないんだ。神司!」
 突然、亮也の死を聞かされたとき、嘘じゃなく目の前が暗くなるのを感じた。満たされていた小さな穴は、以前よりも大きいものとなって、そこを通り抜ける風は冷たく、心身を震わせた。
 神司は穴が開くほどに聖也を見た。最後に亮也の顔を見たのは。
 遺影。この、目前にいる聖也と本当にそっくりで。
 黒い人がたくさんい、た。
 呪文のような読経。そんなことをしても亮也は生き返らないのに。
(――)
 神司は聖也の袖を捕まえて離さない。
「神司! しっかりして! 神司!」
 聖也の声が遠い。遠い。耳鳴りが――。
 ――。
「思い、出した!」
「神司?」
「行くぞ!」
 神司はバタバタと階段を降り、リビングの二人に声をかける。
「公園…・・・!公園だ。確か亮也とよく遊んだ公園・・・・・・。
行くぞ!」
 神司は自分の言葉を反芻するように呟いて、駆け出した。
 三人も慌てて後を追う。
そう、亮也が死んだとき、お葬式に出て・・・・・・。
真っ黒の服を着た人たちがいっぱいそこにはいて。読経が不気味に聞こえて。それは亮也のいない世界そのもののようだった。神司はそこでは亮也にさよならできないと思った。
だから神司は、次の日、学松が終わったあと、亮也とよく遊んだ公園に行って、亮也に別れを告げた。 
一人で。
亮也が好きだといっていた桜の木の下に、自分の最も大事にしていたものを埋めたのだ。
亮也を埋葬するように。それが。
「確か、それが母さんからもらったものだったはず・・・・・・」
「確かこの木だ」
 神司は大きな桜の木の根元を掘り出した。頼もそれを手伝う。聖也とアリサは見ているだけだった。
 泣きながら亮也を想い、掘った日が思い出される。世の中は不平等で不条理なのだとつくづく思い知った日だった。
「あった」
 手ごたえを感じた神司はそれを取り出した。その瞬間だった。
 ジャキン!
 大きな金属音をたてて、神司が手にしたものはその姿を変えていた。逢魔ヶ時にぬらりと光る薄い三日月。それは以前の小さな三日月ではなく、冴え冴えと輝き、獲物を向いて静かに唸っている剣だった。
「せ、聖也?なんで」
 獲物・・・・・・聖也は楽しげに笑った。
「なるほど、本当に性能がいいんだね」
 神司も頼も、聖也が何を言っているのか意味が解らなかった。その中で一人、アリサだけは険しい目つきで聖也を睨んでいた。握った拳が震えている。
「まさか、まさか聖也、お主が魔族だったとは! 灯台下暗しとはよく言ったものよ」
 そんなアリサに、聖也は初めて姿を現したときのような場違いな笑顔を浮かべた。その顔はもはや亮也のものではなく、象牙のように白い肌と海のように青い瞳、つややかな漆黒の長髪ととがった耳を持った美少年のものだった。
「今まで隠すのに苦労したよ。本当にその剣に見破られるとは思ってもみなかったけどね」
 その容姿と言葉にようやく意味を理解した神司と頼は愕然とした。今まで一緒に行動をしてきた聖也が魔族だったなんて。そんな二人を無視して聖也は言葉を紡ぐ。
「魔族は下界に落とされ、本当に腐った輩になったけど、神族もなかなかだね。君を地上に送るなど。生き汚いとでもいうか」
「なっ」
「僕が気づいていなかったとでも? 君は僕たちににチャームを使っていたね。効かないのを不審に思わなかったかい?」
 アリサは怒りと恥ずかしさに顔を赤く染めた。
「まさか」
「そう、妨害していたのは僕だよ。
アリサ、君は地上に忠告をしに来ただけではないね? 人間と子をなし、神族の根を絶やさぬことも目的だったはず」
「?!」
 神司と頼は驚きアリサを見た。図星をつかれたせいか、アリサは黙っている。
「僕が地上に来た理由は、君、だよ、アリサ。地上には地上の世界がある。神族も魔族も立ち入ってはいけないんだ」
 聖也はアリサを真っすぐ見て言った。
「お主、その魔力何者だ?! まさか……」
 アリサは微かに声を震わせて問う。
「僕? 僕はそうだね。先代の魔王を眠りにつかせたから、息子の僕が魔王といってもおかしくはないかな。君たちが殺さねばならない相手になってしまうね」
 聖也は静かにそう告げた。それは何の感情もない声だった。いや、自分を蔑むような響きが宿っていたかもしれない。
「でっ、ではお主はイーデリア様のご子息イーリスか?!」
 アリサが驚愕の声をあげる。そんなアリサに聖也はふっと笑って肯定した。しかし、次の瞬間悲しい表情になった。
「アリサ。
君の役割を邪魔する結果になってしまうことを許してほしい。ただ、定かではないけれど、これが僕の役割だと思うんだ。信じてもらえないだろうけれど、僕は、神族に個人的な恨みなど、持っていなかったよ。
父上のした行為には謝罪をするしかない。あんな酷いことは許されるべきではない。でも、だからこそもう終わりにしよう。人間さえまきこむのは。
君も人間のことがこの数日間で少しは解ったんじゃないかい? 僕がそうだったように」
聖也の言葉に、アリサは無言で地面を見つめていた。
「君のことも知れてよかったよ。神族のことが少し解った気がするから。
……アリサ。ごめんね」
 怒りに燃えた目をしていたアリサは、聖也の言葉を聞くにつれて、静かな目になった。その目で聖也を見る。そして、小さく頷いたように見えた。
 聖也がそんなアリサの額に手をかけようとしたそのとき。
「待ってほしい」
 覚悟にみちた声でアリサは言った。
「そ、そうだよ!! 聖也、いきなりこんなこと! アリサを殺すのかよ!!
 ……っ聖也らしくないよ! お前は優しいやつじゃないか!」
 アリサの声に反応するように頼が叫ぶ。その頼を制したのはアリサだった。
「いいんだ。もう、いいんだ。どこかで、罪悪感をもっていた。生き残った自分に。
 だから……。ただ……」
 アリサは一度下を向いて、そして、もう一度顔を上げた。
「頼。
 私は、お前にかばってもらう資格なんかないんだ。私は、使命を抱えていたのに、いつのまにか、違う感情が……。今まで味わったことのない、不思議な感覚だった。
 頼、お前の素直さに私は惹かれた。私が今まで出会ったことのないような、無邪気なお前に。お前の表情が私の心を支配して、チャームを他の二人にかけるのが苦痛だった。
 お前に会えてよかったと思う。ありがとう」
アリサは笑顔で頼に手を差し出した。その目からは涙が溢れていた。
「アリサ……! 俺は、鈍感で、わかんなくて……! ごめん!」
 頼はそう言ってアリサの手をとった。頼も泣いていた。解らなかった自分が悔しいと思っていた。
「聖也、アリサを殺すのか?」
 神司が聖也に声をかけた。
「殺すのではないよ。眠らせるんだ。いい夢が見られる」
「永遠に覚めない夢かよ!? それじゃ、死んだと一緒じゃないか!」
 頼が叫ぶ。アリサはそんな頼の頭に手をおく。
「いいんだ。
 イーリス。お前は他の魔族、神族も……?」
 聖也は肯定するように苦笑した。アリサは一度目を瞑り、先を促すようにイーリスを見た。  
聖也はそんなアリサの額に今度こそ手をかけた。一瞬の出来事だった。
「おやすみ。天界でみんなが待っているよ。もう君も苦しまなくていい。……争いも、ないんだ」
 聖也の手に光が灯る。
「あ」
 アリサは一声あげると、ドサリと倒れ、次の瞬間消えた。あっという間の出来事だった。聖也はしばらくアリサのいた場所を見つめていた。消える瞬間、アリサは「お前はどうするのだ?」という、同情の目をしていた。
「アリサ……」
 聖也は悲し気にその名を呼んだ。そして、ゆっくりと神司たちの方を向いた。
「……」
頼は、じりじりと聖也と神司の間に入った。少し前までは考えられない行動だ。
「お前が教えてくれたのに。一人一人の役割。だから、こうして勇気が出せるのに、なんでだよ!? お前がいい奴だって事、俺も神司も解ってるのに!」
「聖也……どういうことなんだ……?」
 聖也は、目的はアリサだといった。では目的を果たした今いったいどうするというのか。
「ごめん、頼。
でもこれからのことは決まってるんだ。
……。もう一人地上にとって邪魔な存在がいるね。僕だ」
 聖也はにっこり笑って言った。神司は対応に困っていた。こいつはどうしたいのか。
「神司。君が持っている剣で僕の心臓を刺せば僕は死ぬ。僕がかけていた人間への魔術も解けるよ。そして、僕の死とともに、神族も魔族も二度と目覚めなくなる。もう、人間に干渉するものはいなくなるということだよ」
 こいつは殺せと言っているのか? 神司は汗ばんだ手を握り締めた。頼は隣で固唾を飲んでいる。
「選択権はないんだ。僕を殺さなければ、天界と地上の狭間で世界中の人間は眠りについたままだ。君たちの親も、友達も、皆」
 聖也はあくまで静かに言った。
「それに、神司、君は僕に個人的な恨みがあるんだ。 なぜ僕がこの姿をしていると思う? なぜ亮也は突然死んだんだと思う?」
 神司はぎりっと奥歯をかみしめた。
「お前が、お前が亮也を殺したのかっ?!」
 聖也は黙って悲しげに微笑むと頷いた。
「聖也……」
 頼が戸惑うような声を上げた。
 神司は昨夜の聖也との会話を思い出す。苦い思いが心を支配した。聖也の大切な友人。死なせた友人。それは亮也だったのだか。聖也のことだ、殺すつもりなどなかったに違いない。事故だったのだろう。
「いいぜ、望みどおり殺してやる。
聖也、お前は初めからこの結末を望んでやってきたんだろう? 地上を人間のものだけにするために。
正直、俺はお前を殺したいなんて露ほども思わねえよ。でも、ここで、俺が拒否できないように仕向けるほど、お前は強い決意を持って地上にアリサを追ってきたんだろ? いいさ、俺が後始末をつけてやる。それが俺の役割なんだろう」
 本当はやりたくなどなかった。なんて損な役割だと思った。でも、これが自分の役割だということを神司は理解していた。そうしないと、聖也のしてきたことは本当に無駄になる。
(聖也に比べればまだましな役だ)
「神司……」
 頼が心配そうに神司を見つめている。
「察しがよくて助かるよ。
神司、君に殺す役目なんかを与えてしまったことは謝まるよ。でも、僕は魔族だから、気に病むことはないよ。君は人殺しなんかじゃなく英雄だ。
ただ、僕は一つ気がかりなことがあってね。人間はどうして、同族同士で殺し合いをするのかな。こんなに文明を発達させて、しかも、いろんな感情を持ってる優れた生物なのに。僕はそれを悲しく思うんだよ。僕は目前で神族と魔族が戦うのを見てきた。そして、戦い自体が悪だとわかった。戦いからは憎しみしか生まれない。人間には殺し合って欲しくないと思うんだよ」
 聖也の言うことはもっともだった。こいつは争いを見てきたから、だからそれを悲しく思うのだろう。でも、人間は人間で複雑で、国際関係や宗教問題で争いが絶えないのだ。それは、同族といえども、同族ではないから、といっても聖也には解らないだろう。当然通り魔事件などが起こる事実も理解できまい。でも。
「ああ、俺もそう思うよ。殺し合いがない世界ができたらどんなにいいだろうって。俺一人が頑張ったところで無理だろうけど、世界がそうなればと願うよ」
 聖也は神司の答えに笑顔になった。そしてなんでもないことのように、
「じゃあ、お願いできるかな」
 と言った。
「待て! 他に方法はないのか? 聖也が死ななきゃ魔術は解けないのか? 解けるんだったら、今まで見たいに人間の格好をして暮らせば誰も気づきはしないよ!」
 頼は必死に言葉を紡いだ。そんな頼に聖也は優しい視線を向けた。
「ありがとう。頼。でも、他に方法はないんだ。人間でいるのにも限界があるしね。
さあ、神司、頼む」
「……解った」
 神司は汗ばむ手で柄を握ると、一度強く握りしめ、
「聖也。お前はよくやったよ。お前も俺の大切な友人だ。お疲れ。ゆっくり休め」
 そういうと、迷わずずぶりと心臓へ剣を差し入れた。
「ありが、とう、やっと、亮也のところへ、行ける」
 聖也は笑いながら涙を流していた。柄を握る指に、聖也の温かい血が伝ってきて、神司はぐっと奥歯をかみしめた。
 突然、神司の脳裏に亮也の言葉が蘇った。
「今度、会わせたい友達がいるんだ。寂しがりやで優しい子なんだよ。イーリスって言うんだ」
 亮也がよく口にしていた、外国人の名前。そして先程アリサのロから出た名前。聖也は魔族なのに、なぜ亮也を知っていたんだ? 答えは明白だ。
「……お前が、あの、イーリスだったのか?」
 ぽたりぽたりと、聖也の血が地面を朱に染めていく。
「ふふ、当た、り。僕も、神司、の名前、聞いてた、よ。だか、ら思ったんだ。これは運命、なんだってね。亮也が……引き合わせてくれた……。ごふっ」
「イーリス……!」
「聖也ー!」
「さよ、なら。君たちといれて、楽しかった……よ」
 イーリスは儚く笑うと、姿を消滅させた。あっけない最後だった。後には生暖かい血だけが残った。神司も頼もそれを呆然として見ていた。
 違う運命で会いたかったよ、神司は心でつぶやいた。
亮也も聖也も。なんでいい奴は短命なんだろう。
うなだれ、今はもう小さな三日月に戻った剣を握り締めた神司の肩を、頼がやさしく叩いた。
「お疲れ様だったな。見ろよ。家に明かりが灯っている。みんな戻ってきたんだ。明日からはまた同じ毎日がやってくる。俺たちも帰ろう。
本当に辛かっただろうけど、神司、お前がみんなを救ったんだ」」
「ああ……」
(すまない、イーリス。お前は救ってやれなかった……。
でも、お前は、命をかけて、この地上の尊さを教えてくれたんだ。何気ない、みんなのいる日常が、どんなにすばらしいか、そして仲間という存在がどれほど心強いかも……!
イーリス、アリサ。どうか俺たちを見守ってくれ。俺もお前たちに恥じない生き方をしてみるよ)



終章



 キーンコーンカーンコーン コーンカーンキーンコーン
 授業終了を告げる鐘が鳴り響く。とたんに教室が騒がしくなる。
「映画見に行こうぜ」
「あそこのケーキやさんさあ」
 人がいる。これが日常。まるであんなことがあったのなんて嘘みたいな。
(いいや、俺は覚えている。イーリスを刺したときの重みを)
 命を奪う重み。
 神司は手を見る。もう、血などついていないけれど。
「神司!」
 振り向かなくてもわかる。頼だ。
「今日部活休みなんだ。一緒帰らねえ?」
「……おお」
 しばらく無言で道を歩く。
桜の花びらが、静かに、静かに舞い落ちる。それは儚い夢のようで。
「なんか、嘘みたいだよな、あんなことがあったなんて」
 頼が淡い春の空を見上げながら言う。神族と魔族の眠る天界は空の上にあんのかな、なんて言いながら。
淡い空に淡い桜。霞とはよく言ったものだ。桜は空に溶けて靄のようで。秋の空に桜は似合わないだろう。
「……」
 神司は無言だった。
花びら、ひらり、ひらり。それは、儚くて重い命のよう。亮也、イーリス……。二人は会えたのだろうか。今ならわかる。二人が惹かれあったわけが。二人とも生命の大切さをよく知っていた。そして、これは神司にも当てはまるが、二人とも寂しい子供だったのだ。再会していて欲しい。
今でも世界は争いにみちている。必死でそれをなくそうとした少年の意志を無視して。儚く散った、少年の夢。
 神司はもう一度手を見る。その手のひらに落ちてきた花びらを神司はぐっと握りしめた。あんな重みを知ってもなぜ人は殺すことをやめないのか。
「神司。イーリスは今頃、天国で亮也と仲良くやってるさ。天国ってあるかわかんないけどな」
「それから……アリサも、いい夢を見ていてほしい」
 頼は最後に握ったアリサの手を思い出して、つぶやいた。
「そうだな」
 頼は後ろを振り返り、神司を見て、悲しげに笑った。
「ごめんな。お前にイーリスを殺す役を押し付けちまって。俺は最後までできそこないだよなあ……。お前の感じていること、全部はわからないけど、半分背負わせてくれよ。イーリスを殺したのは、お前だけじゃない」
 頼は神司の目をじっと見て言った。
 イーリスは頼をなぜ神司と一緒に残したのか。それが今ではわかる。一人では重過ぎるという配慮だったのだろう。だから、このまっすぐな少年に半分担うことを託した。
「……ああ。頼がいてくれて助かってるよ」
 神司は正直に言った。あの数日間を共有してくれる友ができたのが唯一の救いだ。亮也が死んだとき、もう二度と友人は、大切な人は作らない、と心で誓った。でも、それを亮也が望むわけはないのだ。頼。きっとこいつとはこれからも続いていくのだろう。
「争いが、世界からなくなればいいな」
 ポツリと頼が言った。
「本当に」
 でないと、イーリスは救われない。
 今はこんなことを思っているのは自分たちだけかもしれない。いや、それは奢りか。でも、いつか世界中の人がそれを望むようになったら……。それは限りなく不可能に近いこと。
だが。
 神司はもう一度空を仰いだ。そして最後の日に見たイーリスの瞳は海の色だったなと思った。それまでの彼は、亮也の容姿を真似ていたから、なんだか、亮也と再び過ごしているような気がした数日間だった。
(これまで俺は毎日適当に過ごしてきた。なんて愚かだったんだろう。
……この数日を決して無駄にしてはならない。残された自分たちはできることをしなくては。アリサ、イーリス。見ていてくれ。
一人の少年が切に願ったことがいつか叶うように。
これは始まりなんだ)
決意を新たにした、神司の肩を、頼はぽんと叩いて、
「一緒に頑張ろうな」
 と言った。
「ああ。ああ……」
 神司は力強く頷いた……。                     了




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