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天音花香の小説をUPするブログです。個人サイトの小説はこちらに移しました。現在二時創作と短編を中心に書いています。
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HN:
天音花香
HP:
性別:
女性
職業:
主婦
趣味:
いろいろ・・・
自己紹介:
小学生のときに、テレビの影響で、小説を書き始めました。高校の時に文芸部、新聞部で文芸活動をしました(主に、詩ですが)。一応文学部でです。ですが、大学時代、働いていた時期は小説を書く暇がなく、主婦になってから活動を再開。

好きな小説家は、小野 不由美先生、恩田陸先生、加納朋子先生、乙一先生、浅田次郎先生、雪乃 紗衣先生、冴木忍先生、深沢美潮先生、前田珠子先生、市川拓司先生他。
もう一つのブログでは香水についてレビューをしております。
http://yaplog.jp/inka_rose/
こんな私ですが、宜しくお願いします。





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こんにちは、天音です。

今年は雪がよく降りますね。
こちらは大丈夫なのですが、
ニュースで見ていて、大変だなあと思っています。


昨日アップしたかったのですが、PCを開けなかったので、
今日アップです。
一日遅れのバレンタイン小説。
よろしければお読み下さい。


ココから小説


「バレンタイン」




(あ……)
 前髪をかきあげる如月先輩の癖。これは変わっていないのに。
 男性にしては綺麗な前髪が、さらさらと落ちる。
 その後に見えるのは、少しむっとしたような端正な横顔。
(口角が上がっているか、下がっているかでこんなに印象が違うなんて)
 私、前田恭子は小さくため息をついて、地面を凝視した。なんとなく歩調が遅くなる。すると、今まで横にいた如月先輩の、後姿しか見えなくなった。
(私、何かしちゃったのかな……)
 思わず涙が浮かんだ目をぐいとこすり、小走りで如月先輩の横に並ぶ。そして、ちらりと、その横顔を盗み見た。
 ちっとも私を見てくれない横顔。長い睫に縁取られた目が凛と前を向いている。
(どうしてだろう)
 数日前は歩調も合わせてくれたし、よく、私を見て微笑んでくれた。
 先輩の横顔が好きで、ついつい見ちゃう私に。
「何?」
 と。
 同じ言葉。同じ声。
 なのに、私の方を向いた如月先輩は、今は怪訝そうな顔をしている。
「何でも、ないです……」
 私はうつむいてしまった。
(私、やっぱりつりあわないのかな。先輩、私に飽きちゃったんじゃ)
「……。どうしたんだ? 言いたいことがあるなら、言えばいいじゃん」
 如月先輩は、少しいらだったような口調で私に言った。
(駄目だ)
「ほら。せめて、顔ぐらいあげろよ?」
 言われるままに顔を上げると、一筋の涙が頬をつたった。
「……」
 困ったように、袖で額の汗をぬぐう如月先輩。
「す、すみません! なんでもないんです! ごめんなさい」
 慌てて謝る。
 如月先輩が小さくため息をついたのを聞いた。
「えっと。恭子は謝らなきゃいけないようなことをしたのか?
俺がわりぃんだろ、きっと」
 どうしていいかわからない、と言うような口調の如月先輩。
(怒っているわけじゃない?)
 私はちょっと驚いた顔で如月先輩を見た。ばつが悪そうに、視線を泳がせる先輩がいた。
「いえ、なんでもないんです。ただ……」
「なんだよ? 言わなきゃ、俺、わかんねーよ、悪いが」
「私、何か怒らせることしたかな、と思いまして……」
 言ってから、ますますうざいと思われたらどうしようと気づく。
 だが、如月先輩は気にしていないようだった。
「あ、俺の顔、もしかして怖かったのか? べ、別に怒っているわけじゃないから。
 あんまり気にすんなよ。わ、わりぃ」
 如月先輩が嘘を言っているようには見えなかった。
 でも、どうして、こんなに変わっちゃったんだろう。





 私が高校に入学したとき、如月先輩は高校二年。接点はほとんどあるはずなく、ただ職員室に向かう廊下で、如月先輩とすれ違うことが何度かあった。
 私の先輩に対する第一印象は、「クールな先輩」、だった。さらさらとしたまっすぐな髪、涼やかな切れ長の目、高い背。あまり群れることはなく、一人で颯爽と歩く姿。文武両道の先輩と言うことで、女子の人気も高かった。だが、先輩が女子生徒と歩いている姿を見た生徒がいないということから、フリーなんだろうという噂が立っていた。
(日本刀が似合いそうな先輩だよなあ)
 私は勝手にそう思っていた。
 だが、ある日、私は見てしまった。男子生徒と無邪気に笑う如月先輩を……。
 その笑顔はとても綺麗だった。優しかった。
 私は先輩だけが誰よりも綺麗に見えるようになった。
 でも、自分なんかがつりあわないことがわかっていたので、見つめることしかできなかった。
(どんな声をしているのだろう。どんなことが好きなんだろう)
 私の先輩に対する好奇心は尽きることなく、毎日先輩のことを思うようになった。
 
 そんなある日。
(この後は英語かあ)
 部室で昼ごはんを食べた後、教科書を手に部室を出たときだった。
 隣の部室のドアが開き、二人の男子生徒が出てきた。
 その片方は間違いなく如月先輩その人だった。
 笑いながらしゃべっている先輩の声を私は初めて聞いた。
「どうした、前田?」
 友人の聡子の言葉も耳に入らないほど、私は先輩の声にうっとりしていた。
 落ち着いた優しいテナーの声。聞く者を安心させるような、想像通り綺麗な声だった。
 それからは、部室にいる時間が増えた。隣の部屋から聞こえてくる如月先輩の声を聞くだけで、その一日が素敵になった。だが、声が聞けるようになると、それ以上を望むようになった。もっと見たい。お話したい。
 私は授業後、同じ部活の友人を待つのを口実に、部室の戸の前で、座り込むことが多くなった。
 如月先輩は帰る前に部室によるようだった。それは多分、部室の前に自転車を止めているからだろう。それは私にとっては運がよかったといえる。ほぼ毎日先輩を見ることができたのだから。校舎のほうを見ながら、先輩がやってくるのを待つ。先輩が見えると、嬉しくなって口元がほころぶ。それを隠すように下を向いた。
 たまに目が合うことが増えた。だが、私は恥ずかしくて目をそらしてしまうのだった。





「いつも座っているね。誰かを待っているの?」
 先輩がやってくるのが見えて、いつものように、下を向いて笑みを殺していたときだった。
 突然先輩の声がふってきた。
(嘘?!)
「あれ、無視されちゃった?」
 私は慌てて頭を横に振り、声のしたほうに顔を上げた。先輩の綺麗な目が見え、どきどきした。
「ち、違います。無視してない、です」
「そ? よかった」
「友達を、待っているんです」
(本当は先輩を……とは言えない)
「そうなんだ。いつも見かけるからさ。
でも暑くない?」
「えっと、太陽が好きなので」
 確かに8月、蒸すような暑さにくらくらすることはある。でも、先輩を見られるならそれも我慢できるのが、乙女心というものだ。
 如月先輩はくすりと笑った。
「お友達、早く来るといいね」
「はいっ!」

 それからは、部室にやってくる先輩と時々話すことができるようになった。
 だが、それだけで十分のはずなのに、欲は尽きることなく、話すだけでは満足できなくなっていった。
 もっと話して、先輩自身のことを知りたい。どうやったらもっと親密になれるのだろう。
「告っちゃいなよ」
 聡子からはそういわれるが、それは勇気がなくてできなかった。そのまま秋が来て、冬になった。相変わらず、私と先輩は、後輩と先輩だ。


 そんなある日。
「いつも人待ちお疲れ様。最近は寒くなったけど、大丈夫?」
「え、えっと……。この冷たい澄んだ空気が好きなんです」
 いつも変なことしか言えない自分に私は情けなくなる。
 そんな私に先輩はまた綺麗に笑った。   
「風邪ひかないようにね。これ、あったかいよ? あげる」
 如月先輩はそういって、缶コーヒーとココアを出した。
「どっちがいい?」
「あ、私、コーヒー苦手で……」
「じゃあ、ココアのほうね。はい」
「ありがとうございますっ!」
 先輩がくれたココア。勿体ない、と思ったが、せっかく温かいものを持ってきてくれたのだ。
「いただきます」
 そういって私はココアを一口飲んだ。隣で先輩も缶のふたをあけた。
「温かい……。美味しいです。本当にありがとうございます」
「それはよかった。
それにしてもこんな寒空の下、毎日待ってもらえる友達は幸せだね」
「あ」
 私はちょっと困ってしまった。もちろん、聡子とは一緒に帰っているのだが、何も外で待つ必要はない。
「ん?」
「あの……!
私、私、先輩に会いたいから……。だから外で待っているんです!」
 勝手に零れた言葉に自分でもはっとして、口元を押さえた。
「え? えっと、俺を待っていたの?」
(ああ、もう仕方ない!)
「はい。先輩が部室に寄るのを知っているから……。私、純粋じゃないんです!」
「……」
 如月先輩は驚いた顔で私を見ていた。
「夏ぐらいからだっけ? もっと前からだったかな? それも俺を待って?」
 私は顔が熱くなるのを感じて、逃げ出したくなったが、
「はい」
 と頷いた。
「そっか……」
手にしている、ココアの缶が冷めていくのが分かった。
「あのっ! 私の片思いなので、気にされないでください!
 気まずくなるのはいやなので、今まで通りに接してください! では!」
 沈黙に耐え切れずになって、私はそう言うと、部室の中へ入ろうとした。そのときだった。
「あ、待った!」
 先輩の声が響いた。
「えーっと……」
 如月先輩は少し言いよどんだ。
「じゃあ、さ。時々隣の部室から聞こえてきた『先輩』というのも、俺、なのかな?」
 私は勢いよく顔を上げた。そして、またそろそろと視線を下げる。
(そうだよね。先輩の声が聞こえるってことは、こっちの声も聞こえていたってことだよね。
私、なんて恥ずかしいことをしてたんだろう……!)
 耳が熱い。泣きそうになる。
「あの……。すみません!!
こちらの声が聞こえているなんて思わなくて……!」
 とにかく、逃げたい。私は、
「すみませんでした!!」
 とお辞儀をすると、今度こそ部室のドアに手をかけた。
「謝ることじゃないと思う。それだけ俺のことを気にかけてくれてた証拠だよね?
む、むしろ嬉しいよ」
 聞こえてきた先輩の声に、私は振り返った。
 少し顔を赤くした先輩がそこにいた。
「えっと、こういうとき、どうすればいいか俺、解らなくてごめんね」
 私は自然と笑顔になった。これで十分な気がした。
「いえ、そう言って頂けるだけで私は幸せです。やっぱり、先輩は思ったとおり優しい方です。それじゃ」
「や、まだ話は終わっていないんだ」
 私は首をかしげた。
「俺、付き合ったこと、実は一度もなくて、よくわからないんだけど、君のことはもっと知りたいと思うんだ。俺も、毎日君がいるか確認していたんだよ。友人を待っていると聞いて安心した自分がいたんだ。
ーーだから、よければ付き合わない?」
 私はしばらく放心していた。そして、
「あの、先輩が付き合ったことないなんて、信じられないです」
 と、見当違いな言葉を発して、また自分の口元に手を当てた。
「え? ふ、あはははははは」
 先輩はいつもの綺麗な顔で爆笑していた。
「そうかな? 俺、もてないよ。好きな人にも勇気がなくて告げれずに終わるし。君は勇気があるな、と思うよ」
「それは、先輩があまりにも素敵だから、告白できないだけで、もてないとは違うと思います」
 なんだか、妙な会話になっているとは思っても、現実感のない私は、夢だからよくわからないことになっているんだろうと思っていた。
「なんだか照れるね。
それで、俺は付き合ってもらえるのかな」
 私は自分の体が浮いているのではないかという錯覚さえした。もちろん答えは決まっている。
「私でいいのでしょうか? もしいいのでしたら、よろしくお願いします。如月先輩」
 深々と頭を下げた。片手で、ほほをつねりながら。痛いか痛くないかもよくわからなかった。
 こんな夢のようなことがあっていいのだろうか?
「よかった。
じゃあ、君って言うのもなんだから、名前教えてくれるかな?」
「前田恭子です。よろしくおねがいします」
「俺は如月裕也。よろしくね」


 私は、いつまでたっても現実感のない日々を送っていた。
「寒いから、部室の中で待ってていいよ?」
 という先輩の言葉はありがたかったけれど、待つのが日課になっていたので、私はそれまでどおり先輩を待った。
 如月先輩が、私の顔をみつけて、笑顔になり、手を振ってくれるのがとても嬉しい。
 私と先輩は下校を一緒にするようになった。先輩は毎日私の電車の駅まで送ってくれた。
 何を話したらいいかわからず困ってしまうときが多い私に、先輩はさりげなく話を振ってくれる。私がしどろもどろ話すのを、優しい笑顔で相槌をうってきいてくれる。
歩幅を私の歩幅に合わせてくれる。車や歩行者からかばうように歩いてくれる。

そんな先輩の優しさがとても嬉しかった。
 でも。
(なんだろう。こんなに一緒にいる時間が増えたのに、先輩のことがまだ良くわからないでいる)
 私にとって先輩は美術館の絵のように思えた。表の綺麗な絵は見える。でも裏側が見えない。そして。描いた過程が見えない。
 先輩は私の話はよく聞いても、自分についてはよく語らなかった。それはわざとなのか、そうでないのか私には解らなかった。
 私は知りたい、と思うのだが、自分からなかなか訊き出せない日々が続くだけだった。
(もう一月も下旬。もう少しで先輩と付き合いだして三週間かあ。
二月はバレンタインがあるけど、先輩は何かほしいものはないのかな?)
 如月先輩は書道部だ。これだけは知っている。
(筆とか硯とかがいいのかな……。手編みのマフラーとかだったら、重いと思われるかもしれないし)
 なんとなく味気ない気もするが、書道がすきな先輩は喜んでくれるかもしれない。
(他に何かあるかな)
「どうかした?」
 知らず知らず先輩の顔を見つめていたようだ。如月先輩が笑顔で私を見た。
「えっと、先輩は今何かほしいものとかあるんですか?」
 直球になってしまった、私の言葉に、如月先輩は少し首をかしげた。
「ほしいもの?」
 そして、
「自分で言うのもなんだけど、俺って物欲少ないんだよね。
それに今はもう手に入ったからいいんだ」
 と言った。今度は私が首をかしげた。
「手に入った?」
 すると先輩は、形の良い鼻をかいた。
「うん、まあ」
「そうですか……」
 私は困ってしまった。まあ、まだ先のことだ。もう少し先輩を知ったら、何がほしいか見えてくるかもしれない。そう勝手に自分を納得させた。


 下校の他に如月先輩とは土日に会っていた。
「どこに行きたい?」
 会うと必ず先輩は私に聞いてくる。私はというと、先輩といられるだけで十分幸せなので、返答に困ってしまう。
 だから最終的には先輩が提案したものになる。よく行くのは映画だが、先輩は何のジャンルも楽しげに見る。動物園、遊園地、先輩は楽しみ上手なのだろう。優しい笑顔を浮かべて、隣にいてくれる。
 それから文武両道という噂は本当で、スポーツもできることがわかった。ボーリング、テニス、卓球、なんでも、涼しい顔でこなしてしまう。武術も剣道、空手ができるそうだ。
(先輩って欠点はないのかな)
 私は段々自分では不釣合いな気がして怖くなっていった。
 ある日、私は思いつきで質問をしてみた。
「先輩は、なんの動物が好きですか?」
「動物? みんなそれぞれ可愛くて好きだよ」
 いつもの綺麗な笑顔で答えた先輩。私は、不安にかられた。私もその一つなんじゃ……。
 それに、私、先輩の笑顔しか見たことない気がする。怒ったり、悲しんだりしている顔を見たことがあるだろうか?
 先輩は綺麗過ぎる。
(先輩は私が好きでつきあってるのかな?)
 付き合う前より少しだけ情報が増えて、そして、少しだけ寂しくなったのはなぜだろう。
「恭子? どうかした?」
「いえ、大丈夫です」
 私も不安を隠してる。隠し事ばかりの付き合い?
(初めて名前で呼び捨てしてくれたとき、本当に嬉しかったのに)
 私は、自分の名前が嫌いだった。でも、好きな人には名前を呼び捨てしてほしい。そう思っていて、付き合いだして最初にそれを告げた。すると思ったとおり、先輩は快諾をしてくれた。
(もっと先輩の本当の姿が見たい)
「くすくす」
 隣から笑い声が降ってきた。先輩だった。
「さっきから百面相をしているよ? 大丈夫?」
「あ……、すみません」
「悩み事? 聞くよ?」
「えっと」
 まさか先輩のことで悩んでいるなんて言えない。
「あ、あの、先輩。私、一度先輩が書道やっているところ見てみたいです」
「? いいけど、そんなに面白いものではないよ?」
「いえ、先輩が好きなことですもの。見てみたいんです」
「わかった。じゃ、明日は俺の部室の方に見学に来て」
「はい、ありがとうございます」
 
 先輩は思ったとおり、美しく優しい字を書いた。書くときのその姿も凛としていてとても美しい。
 先輩の顔は真剣そのもので、今までで最も綺麗だった。周りの空気まで澄んだような気さえした。
(本当に書道が好きなんだな……。やっぱり筆をプレゼントしよう)
 私はやっと少しだけ先輩の素顔を見た気がした。だが、それは、今までの柔らな雰囲気の先輩ではなく、やや近寄りがたさを覚えるようなものだった。
(先輩の本当の顔……)




  
 「きゃ!」
 いきなり手をひかれて、私は悲鳴を上げた。
「ぼーっとしてると危ないだろ?」
 如月先輩が私の手をひいていた。
「はぐれでもしたら困るしな」
 先輩は歩調を緩めることなく、私を引っ張っていく。
「映画、見たいんだろ? 急ぐぞ」
 先輩から手をつながれたのは初めてだった。
 いつもは私がもの言いたげに先輩を見つめていると、先輩が「どうしたの?」と聞いてくれて、「手をつないでもいいですか?」と私からお願いをして、つないでもらったのだ。
 やっぱり変だ。一昨日ぐらいからだと思う。乱暴になったというか、いつも笑顔だけの先輩ではなくなっている気がする。
「どうした? また俺怖い顔してるか?」
「い、いえ、あの……。なんとなく先輩、態度が変わったような気がして……」
 先輩は歩みを止めた。
「そう、かな? そんなことないよ? 何。心配してるのか?」
「は、はい……」
「べ、別に心配することなんかないから。
ま、例えば俺がどんな顔をしていようが、恭子を好きなのは変わらないから、心配しなくていい。な?」
「は、はい!!」
 なんだか凄いことをさらりと言われて、私は逆にどきどきしてしまった。
 いつもの先輩だったら言うだろうか?
(なんか、先輩、どうしちゃったんだろう)
 映画館でますます私は困惑した。
 先輩は無防備に寝ていたのだ。どうやらラブストーリーは退屈だったようだ。
(でも、寝るなんてこと今までなかった。疲れてるのかな、先輩)
「先輩、疲れてますか?」
 映画館を出るときに声をかけると、先輩は豪快なあくびをしながら答えた。
「え? んん、まあ、疲れているかな」
「映画、退屈でした?」
「い、いや、そんなことはないぞ。疲れていただけだ」
「そうですか」
 私は思わず笑ってしまった。
「何?」
「いえ、先輩って欠点がないような方だと思っていたので、映画館で寝ている先輩を見て、えっと、なんだか可愛いな、と思って……」
 如月先輩には、可愛いという形容詞は似合わない表現だと私は思っていた。今日までは。
「か、可愛い?! そんなこと言われて喜ぶ男はいないぞ?」
 先輩は困惑気味にそう言った。それがますます可愛らしいと思った。
(あ、まただ)
 それに、この数日で気づいた先輩の癖。額の汗を袖で拭う癖。
(どうしてこんなに数日で変わったのかな? 今まで緊張されてたのかな。それで疲れちゃったとか)
 それはまさに自分のことだが、そんな風に考えてみる。
(解らない)


 それからも、先輩の様子は以前と違う、と感じる数日が過ぎた。
 ボーリングで以前はストライクをとっても涼しげな笑顔を見せていた先輩が、今は子供のような笑顔になって喜んでいる。
 そう、何が一番変わったかというと笑顔だ。
 綺麗、という形容詞が最も似合う笑顔だった先輩。今は本当に楽しそうに笑っている。
 不機嫌な日は表情にそれが出ているし、なんだか以前よりも、身近に感じられるようになった。そして、態度はそっけないけれど、優しいことには変わりなかった。
 ある日、私は聞いてみた。
「先輩。どうして先輩は書道が好きなんですか? スポーツもできるのに、書道部にどうして所属しているのかなと思って」
「書道? あ、ああ、精神統一ができるからかな。落ち着くというか……」
 先輩は、ちょっと困ったように答えた。
「そう、ですか」
(何だろう。違和感……)
「それより、恭子、行きたいところないのか?」
 いつも先輩ばかりに任せていた私。
 私はそのとき思い出した。
 もし、男性と付き合うようになったら、水族館に行きたいと思っていたことを。
「水族館に行きたいです」
「よし。じゃあ、水族館に行こう」
 閉館ぎりぎりの水族館。先輩は魚に意外と詳しいようで、説明をしてくれた。それに、どの魚を見るときも楽しそうだった。私はある衝動にかられた。
「先輩。先輩の一番好きな魚は何ですか?」
「そうだな……。サメかな。綺麗な形しているよな。恭子は?」
 筒状の水槽で悠々と泳ぐサメを見つめながら先輩は言った。
「私は……イルカ」
「イルカは哺乳類だぞ?」
「し、知ってます!」
 指摘をされ、私は顔を赤らめて、言い返してしまった。そんな私に先輩は楽しそうに笑っている。
「もう! 本当に知っているのに」
 ふてくされる私の頭を先輩はぽんぽんと叩いた。
「はいはい」
(う、嬉しいかも……)
 私はされるがままになっていた。
 だが。
 ふと思いついて、私は先輩に聞いた。
「じゃあ、動物はどうですか?」
「動物? チーターかな。足が速いし、あの引き締まった体つき、模様、獲物を狩るときの姿、どれもが美しいと思うね」
 先輩は迷わず答えた。
「……。そうですか……」


 いつも駅前で先輩と私は分かれる。私は、遠ざかる先輩の背中を見る。毎日のこと。先輩は振り返ることはない。でも見てしまう。
 その日もそうだった。
 だが。
 ふと先輩が振り返った。
 そして、私の方に戻ってくる。
「何してるんだよ? もしかして、いつもこうやって見ていたのか? 寒いだろ、早く行けよ」
「でも、電車の時間まだですから」
「それを早く言えよ。お、ちょうど自動販売機がある。恭子は何飲む?」
 私は少し傷ついた。初めて先輩におごってもらったココア。先輩は覚えていなかったのだ。
「えっと、ココアで」
「ん、待ってて」
 先輩は自分の分の紅茶と私のココアを買って持ってきた。
「……先輩、紅茶好きなんですか?」
「ああ、ストレートのね。ただ、売ってるのは甘いから、本当は家で飲みたいけどな」
「あの、コーヒーは?」
「まあ、飲めるけど。紅茶のほうが好きかな」
 先輩は、その日以来、ずっとそうして、駅前で電車がくるまでいてくれるようになった。 
 バレンタインは明後日だ。
 私は迷い始めていた。筆を買うか、リストバンドを買うか。





 バレンタインの日。
 「恭子お待たせ」
 部室の前で待っていると如月先輩が駆け寄ってきた。「綺麗な」笑顔で。
「あのさ、今日、夕食食べる所予約してるんだ。行こう」
「あ、じゃあ母に電話します」
 私は母の承諾をとって先輩の横に並んだ。先輩は私の歩幅に合わせるようにゆっくり隣を歩いた。
 先輩が予約していた店は、夜景が綺麗に見えるビルの18階に入っている、フランス料理屋さんだった。
「今日はバレンタインだからね。
 でも、俺は思うんだ。女の子からプレゼントするだけじゃなくて、男からでも愛を告白する日でもいいんじゃないかと思って」
 そうして先輩は私にネックレスを差し出した。
 私は。
 私は、判ってしまっていた。
 好きだと思ったのは、如月先輩。でも、今好きなのは。
「せ、先輩、私、ごめんなさい! 受け取れません」
 俯いてそう言った。
「え? そんなに高価なものじゃないよ? 心配しないで?」
 先輩は笑顔のままそう言った。優しい先輩。優しいのに。
「違うんです」
「じゃあ、どうして?」
「私、先輩に憧れてました。
……憧れだったんです。先輩は凄く優しくて、綺麗で……。
でも私に本当の自分を見せてくれましたか? 私は先輩のことが良くわからなかった」
 私は作ったチョコレートと、もう一つ、プレゼントをカバンから取り出した。
「先輩。先輩はもしかして、違う高校に双子の兄弟がいませんか?
私がこの数日で、解った先輩は先輩じゃないのではないですか?」
 如月先輩から笑顔が消えた。
「そ、それは……」
「優しい先輩ですもの、きっとこの日のために、バイトか何かをされて、その間変わっていたのではないですか?」
「……」
「先輩、私は、豪華な食事も、アクセサリーもいらないです。ただ、一緒にいて、素の先輩をたくさんみせてもらいたかった」
「素?」
「ええ。私の前で、先輩は笑顔しか見せなかった。でも先輩も感情があるでしょう?
私には心を開いてくださらなかったのですね」
 私の声は涙声になっていた。こういうときに泣くのはずるい。そう解っていても、どうしようもなかった。
 先輩を責める資格なんてないのに。
「それは……」
「私はもっと本当の先輩を知りたかった。でも、知ったのは、先輩ではない、先輩の方でした。
……すみません……。私も先輩と同じでした。嫌われたくないから、なかなか自分を見せられなかった」
「……」
 私はもう自分を騙すことができなくなっていた。
「どう思われていてもいい。私は、もう一人の先輩のことを好きになってしまいました。
本当に、本当に如月先輩には悪いと思っています。ごめんなさい!! でも、もう嘘はつけません」
 私は深々と頭を下げた。
「そうか……。理由はなんにせよ、兄弟入れ替わって君を騙していた罰だね。
俺は大事なことがわかっていなかったんだ」
 先輩は肩を落とし、寂しく笑った。それは先輩の素の顔だろう。笑顔以外の先輩の顔。私は心が痛んだ。でも。
「ごめんなさい。
これ、すみませんが、もう一人の先輩に渡してください」
 私は先ほど取り出したプレゼント、リストバンドを先輩に渡した。
「ふられてもいいんです。ただ、私が好きになってしまっただけなのだから」
 私の言葉に、如月先輩は首を横に振った。
「竜也も多分、恭子が好きだと思う。最初はしぶしぶ引き受けていたけど、最後のほうは楽しそうだったから。俺らが今会っているから、多分、今頃落ち込んでると思う。直接渡しなよ。携帯番号教えるから」
「先輩、本当にごめんなさい!!」
 私はプレゼントを手に先輩に背を向けた。
(本当にごめんなさい!)


「あの、もしもし、恭子です」
「は? なんで俺の携帯……。って兄貴と会ってるんじゃないのかよ? っとやばい」
「私、私! 先輩じゃなくて、貴方を好きになってしまったんです。お願いです。会ってください!」
 少しの沈黙。
「今どこにいるんだよ?」
 複雑そうな竜也先輩の声が返ってきた。
「いつもの駅前です!」
「わかった。今からすぐ行く!」
 15分ほどして、竜也先輩は駅にやってきた。息をきらして。
「わかっちゃったか」
「はい。だって、竜也先輩のほうが態度がそっけなかったから」
 笑って私は言った。
「なんで、そっけないほうを好きになるんだよ? 兄貴のほうが数倍いい男だぜ?」
「それは解っています」
「ならなんで?」
「解りません。一緒にいて、楽しかったんです。竜也先輩は感情がわかり易くて」
「馬鹿だな、お前」
「自分でもそう思います」
 竜也先輩は額の汗を拭った。
「あ~あ、兄貴に恨まれるだろうなあ。
でも、俺もお前のこと好きになってたんだな、これが。ほっとけないっていうか」
 私は目を丸くした。
「なんだか、本当に付き合っているような気がして、楽しかった。
だから今日は凄く悲しかった。恭子は兄貴の彼女で、俺はその代役でしかなかったと思うと」
「じゃあ、今は悲しくないですよね?
楽しかった、じゃなくて、これからも楽しい時間になりますよね?」
 私の言葉に、竜也先輩は私を抱きしめた。
「きゃあ!」
「すげー俺、嬉しい! これからもよろしく!」
 

 如月先輩は相変わらず優しくて、竜也先輩とのことの相談にまでのってくれる。
 凄く申し訳ないことをしてしまったのに。やっぱり優しい先輩だ。
 いつか先輩にも本当の先輩を見せられる彼女ができればいいな、と思う。
 竜也先輩はというと、私があげた、白のリストバンドをして、私の隣にいる。
 竜也先輩は相変わらず喜怒哀楽がはっきりしていて、一緒にいてとても楽しい。
 乱暴な言葉遣いも、なれればそれだけ気をつかっていない証拠のような気がしてくるから不思議だ。
「おい、恭子。ほしいものとかあるのか?」
 もうすぐホワイトデーだからだろう。ストレートに竜也先輩が聞いてくる。
 私の答えは決まっている。
「竜也先輩との時間! それだけで十分です」

                     了



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ありがちな小説(汗
もっと個性的なものが書けるようになりたいです。


アルファポリス「第4回恋愛小説大賞」(開催期間は2011年2月1日~末日開催)にエントリーしています。

彼女

Fate

初恋日和

よろしければ、お読みくださって、気に入ってくださればそれぞれのバナーをクリックしていただけると嬉しいです。


 ここまで読んでくださりありがとうございました。
 拍手、ときどきいただいております。嬉しいです。一言あるともっと喜びます。

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 それではまた!               天音花香

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