忍者ブログ
天音花香の小説をUPするブログです。個人サイトの小説はこちらに移しました。現在二時創作と短編を中心に書いています。
カレンダー
04 2017/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31
リンク
フリーエリア
最新コメント
[08/05 天音花香]
[08/05 藍]
[07/21 天音花香]
[07/15 藍]
[07/11 天音花香]
最新トラックバック
プロフィール
HN:
天音花香
HP:
性別:
女性
職業:
主婦
趣味:
いろいろ・・・
自己紹介:
小学生のときに、テレビの影響で、小説を書き始めました。高校の時に文芸部、新聞部で文芸活動をしました(主に、詩ですが)。一応文学部でです。ですが、大学時代、働いていた時期は小説を書く暇がなく、主婦になってから活動を再開。

好きな小説家は、小野 不由美先生、恩田陸先生、加納朋子先生、乙一先生、浅田次郎先生、雪乃 紗衣先生、冴木忍先生、深沢美潮先生、前田珠子先生、市川拓司先生他。
もう一つのブログでは香水についてレビューをしております。
http://yaplog.jp/inka_rose/
こんな私ですが、宜しくお願いします。





ランキングに参加しております。よろしければ下のバナーをクリックしてください!


にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村

ブログランキングのブログん家


ネット小説情報局


オンライン小説検索・小説の匣


文芸Webサーチ


カテゴリ別オンライン小説ランキング

オンライン小説/ネット小説検索・ランキング-HONなびtitle="オンライン小説/ネット小説検索・ランキング-HONなび"width="200"height="40"
border="0">



NEWVEL2


『小説家になろう』


『MEGURI-NET』


『NEWVEL』





別名で小説を出版しております。

クリックで救える命がある。
バーコード
ブログ内検索
P R
アクセス解析
フリーエリア
フリーエリア
[ 60 ] [ 61 ] [ 62 ] [ 63 ] [ 64 ] [ 65 ] [ 66 ] [ 67 ] [ 68 ] [ 69 ] [ 70 ]


こんにちは、天音です。


大分新しい小説を書いていなかったんですが、
可愛らしい小説を書きたくて、書いてみましたのでアップします。
かなり時期外れですが、読んでくださると嬉しいです。
(以前アップした作品ですが、カテゴリーを変えたら更新されました)


このブログ、小説ブログに載せている全ての作品の著作権は天音花香にあり、放棄しておりません。
無断転載、許可のない販売は禁止です。
某サイトにて著作権侵害、違法販売されていた私の作品の販売が停止されました。
FC2さまと応援してくださった皆様方のおかげです。本当にありがとうございました。




ココから小説



             初恋日和



「はい、でききたわよ」
 姿見には、深い赤の布地に大きな花の柄が入った着物と、紫の袴を纏った私が映っている。
「夕璃はどんな男の子と帰って来るのかしら? 楽しみだわ~」
「……お母さん、だから、私は好きな人、いないって言ってるじゃん」
「分からないわよ~? お誘いがあるかもしれないわ」
 語尾にハートマークがつきそうな勢いで、母は言う。
 今日は、私の通う、私立春之宮高校の卒業式の日だ。
 この学校には変わった風習があって、卒業式のときは皆袴を着る。そして、これは風習ではないけれど、卒業式の後に男子は意中の女子を誘って帰るというのが恒例になっていた。まあ、現在では、女子が好きな男子を誘って帰るということも増えているのだが、そういうわけで、卒業式が近づくと男子も女子もそわそわしている。
 そして、恋愛イベント大好きなうちの母もそわそわしていた。もともと春之宮高校出身で、卒業式に一緒に帰った父と結婚したという経緯があるからかもしれない。まあ、羨ましいといえば羨ましい。

 ――私はまだ恋をしたことがない。

「別に好きな人がいなくても生きていけてるもん」
「……そうね」
 私の言葉に母は寂しそうに笑っただけだった。
「お、夕璃、そうか、今日は卒業式だな」
 パジャマ姿で一階に下りてきた父が顔を覗かせた。
「お母さんもそれは綺麗だったが、夕璃も可愛いぞ」
「そうよ。ほらほら、笑顔笑顔。夕璃は可愛いんだから自信もって!」
 母の言葉ににぃと笑って魅みせると、鏡の中のちっさな私がへにゃっと笑った。



 身長149センチ。真っ黒のストレートの髪はボブのつもりだけど、おかっぱに見えなくもない。短い眉に、低い鼻。小さな口。黒い瞳だけが大きい私。電車のドアに映る自分と睨めっこして、思わず口をへの字に曲げた。
 それにしても、袴姿の女子と男子の多いこと。こんなだからお金持ちのお嬢様、お坊ちゃまが行く学校と思われるんだろうなあ。同じ車両に乗っている他校の生徒や、通勤の人たちが、物珍しそうに眺めている。
 学校の最寄の駅で降りると、袴姿の生徒で視界がいっぱいになった。学校前の坂道を一生懸命上る。小さな私の一歩は他の生徒より小さくて、どんどんおい抜かされてしまう。毎日のことだ。でも、この坂を上るのも今日で最後なんだと思うとちょっと一歩一歩が大切なものになるから不思議だ。
 淡い青空。春の風はほの甘い。この香りを私は知っている。別れと出会いの香り。
「茜!」
 校門のそばで見知った顔を見つけて、私は声をかけた。
「夕璃。おはよう」
 私の声に、背が高くて髪の長いすらっとした少女が笑顔を見せた。
「おはよう。お揃いだね、赤」
「ほんとだね」
「よく似合ってるよ」
「夕璃もね」
「ありがとう」
 その少女、一条 茜は私の一番の友達。一年のときに一緒のクラスで、最初から気があって、クラスが変わった二年のときも交流は続き、三年でまた同じクラスになったときにはお互い喜んだものだ。
「茜とは毎日いっぱいおしゃべりしたね。これから寂しくなるな」
「大丈夫だよ。電話すればいいし、これからも会えばいいでしょ?」
「うん、そうだよね」
 沈んだ気持ちを振り払うように顔を上げると、また見知った顔を見つけた。
「あ、茜。金井君だよ?」
「あ、うん」
 茜の頬がほんのり赤く染まった。息を弾ませてやってきた、その男子は、
「おはようございます、早瀬先輩」
 と私に挨拶して、その後、茜の方を向いた。
「茜先輩、おはようございます。いよいよ卒業ですね」
「うん」
 私は小さく茜に手を振ってその場を離れた。二人の邪魔になるのは嫌だし、金井君といるときの幸せそうな茜を見ると、嬉しくもあるけれど、同時にちょっぴり寂しさも感じちゃうから。



 ――「ねえ、好きになるってどんな感じなの?」
 茜から好きな人ができたと告げられたとき、私は訊ねた。
「そうだねえ、ずっと一緒にいたいと思う、かな」
 恥ずかしそうに言った茜。
「私、茜とずっと一緒にいたいよ?」
 言った私に茜は笑った。
「ありがとう。私も夕璃と一緒にいるの好きだよ。
でも、それとはまた違った感覚なの」
「ふーん?」
「漫画とか小説にあるでしょ? ドキドキするんだよ」
「ドキドキ、ねえ……」
 そもそもその表現が私には理解できなかった。
「心臓がドキンドキン言う感じかなあ」
「緊張したときそうなるよ?」
 茜は吹き出した。
「!?」
「う、うん、そうだね。うん。似ているかもしれない、緊張もするんだよ。うん」
「一緒に居て緊張するなんて、全然楽しくないじゃん」
「それだけじゃないんだよ。安心もするし、胸がきゅーってなるときもある」
「緊張するのに安心するの? きゅーって何?」
 頭の中が疑問符だらけになった私に、茜は、
「そうだねえ……。
実際に好きになってみたらきっとわかると思うよ。好きにならないとわからないものかもしれないね」
 と笑って、私の頭をなでた。 


 思い出して、自分の後頭部を触ろうとしていると、その手を優しく止める手があった。
「せっかく髪飾りつけてもらってるのに、触っちゃダメだよ」
「茜」
「もう、夕璃ったら、勝手に一人で行っちゃうんだもん。気を遣わなくていいって言ってるのに」
「だって……」
「いい? 金井君も大切だけれど、夕璃も私にとって、とっても大切なんだよ?」
「……ありがとう」
 なんだか耳がくすぐったかった。
「夕璃は誰と帰るのかなあ」
 くすりと笑った茜に、とたんに私はむうっとした。
「お母さんみたいなこと言うんだね」
「言われたの?」
「うん」
「大和君は違うんだよね?」
「って言ってるじゃん。大和はただの幼馴染! 茜まで言うの? 怒るよ?」
 実際、工藤 大和と居ても、茜の言うように、「ドキドキ」することはない。
「そうだったね」
「私は好きな人いないもん……」
「でも、夕璃を好きな人はいるかもしれないよ?」
 茜の優しい瞳に映る自分を見て、私は頭を振った。
「……いないよ。こんなちっさくて可愛くない私」
 私より何百倍も美人な茜。私はちっとも美人じゃないし、可愛くもない。
「私は夕璃可愛いと思うけどな。だからちょっと心配でもあるけど」 
 私は茜の言葉にぶんぶんと頭を振った。そして、ちょっと考えて、
「心配?」
 と訊ねた。
「うん。心配。変な男の人についていったらダメだよ?」
「何それ?! 私、そんな子供じゃないもん」
「子供じゃないって言っているうちは子供だよ? あ、予鈴。行こう」
 私たちはいつの間にか人気の疎らになった廊下を慌てて走った。



 数回した練習どおりに式は流れていった。まるで本番はまた数日後にあるような気がした。ただ、校歌を歌っているときは、もう歌うこともないのかなと思って、ちょっとうるっとした。ちょっとだけだ。茜に鼻をすする音が聞こえていたよって後で言われたけれど。
「皆さん、卒業おめでとう」
 教室に戻って、最後に担任から言われた私たちは、なんだか有頂天になって、歓声をあげた。友人たちと卒業アルバムに言葉を書きあって、写真をとって。部活の後輩から花束や寄せ書きももらった。
 後になって思うに、きっと寂しかったんだと思う。なんだかんだ言って、それなりに楽しんだ高校生活が終わることが。だから皆舞い上がったんだ。それを隠すように。慣れ親しんだ場所から、それぞれが新しい一歩を踏み出していく。変わるということには、大きな希望と共に、不安と寂しさを覚えずにはいられない。
 きっとたくさんの人が座って時を過ごしただろう机が、なんだか急に古めかしく見えて悲しくなった。私は教室を出るとき、さよならを言う代わりに深々とお辞儀をした。友人たちに笑われちゃったけど。
「夕璃! 写真焼いて渡すね! 私、行くけど、この後のこと、ちゃんとメールで教えてね!」
 茜は私の手を一度ぎゅっと握ると、その手を上げて、金井君のところに走って行った。高校に残る金井君。高校を卒業する茜。帰り道、積もる話も多いことだろう。
 ――今日はゆっくり帰ろう。
 思って廊下を歩き出した私の肩を誰かが叩いた。
「早瀬さん」
「持田君」
 三年生のとき同じクラスで、一緒に図書委員になった持田 亘だった。
「よかった、まだいたんだね」
 持田君はいつものように人のよさそうな笑顔を浮かべて言った。眼鏡の奥にいは優しい目。何度か図書委員をしたことのある持田君は、勝手の分らない私に親切に教えてくれた。
「あ、うん。どうしたの?」
「えっと、図書委員のときはお世話になりました」
「え? うううん、こちらこそ、いろいろ助けられたよ。ありがとう」
 改めて言われるとなんだか照れくさかったけど、ちゃんとお礼を言った。 
「いやいや……」
 持田君もなんだか恥ずかしそうに笑って、そしてなぜか黙ってしまった。
「……? あの……?」
 持田君の態度にどうしていいかわからず、私が困っていると、
「持田君!」
 と後ろから女子の声がした。その女子がちらりと私を一瞥する。なんとなく敵意を感じて、ますます私は居心地が悪くなった。
「持田君、私と一緒に帰って欲しいんだけど……」
 その女子の方を向いた持田君に、彼女が小さく言うのが聞こえた。
(わ、私、お邪魔虫なんだ。それで、あの視線……)
 鈍い私はやっと悟って、
「あの、持田君、私はこれで……」
 と言ってその場を去ろうとした。
「待って」
 持田君のいつになく真剣な声に、私の足が止まる。
「ごめん。気持ちはとても嬉しいんだけれど、ごめん。君とは帰れない」
 持田君の言葉に、声をかけた女子は涙を浮かべて、階段を降りていってしまった。
(涙……)
 頭を殴られたような衝撃が私を襲った。
 涙が出るほど強い気持ち。好きという気持ち。私にはない。そんな想い、分からない。茜もこんな気持ちを抱いているのだろうか? 金井君に。いつも穏やかに金井君のことを話していた茜。
(私、やっぱり分らないよ、茜)
 足がその場を離れたがるように、一歩後ろへ下がる。
「待って。早瀬さん。
……もしよかったら、俺と一緒に帰って欲しいんだ」
 持田君の真剣な声が紡ぐ言葉が、私をやんわりと絡めとった。
 いつも穏やかで、にこやかな持田君。でも、このときの持田君は私の知らない顔をしていた。
 その瞳に映る自分を、私は、見た。小さな私は、怯えたような表情をしていた。
(――失礼だ)
 こんな真剣な気持ちに対して、怯えるだけの自分。情けなかった。でも。こんな強い気持ちを私は持っていない。受け止めることもできない。そう思った。
「早瀬さん……」
 私は……。
「……っ」
 言葉が出てこない。
「え?」
 持田君の驚いたような声に、
「え?」
 と私も声を漏らす。
 持田君の視線が、上がり、その黒目が揺れるのを見て、私は後ろを振り返った。
「……」
 見えたのは男子の胸元。あまりに背が高すぎて、見上げなければ顔が見えないその男子は、しっかりと私の着物の袖を握っていた。
「!?」
 持田君以上に私は驚いた。知らない顔じゃなかった。確か、一年のとき一緒のクラスだった男子だ。でも、それだけじゃないような……。この見上げる角度を私は知っている。名前は……名前は……。ダメだ、思い出せない。
 その男子、「のっぽさん」と持田君が視線を交わす。
「……俺の方が先だった」
 のっぽさんの低い声が聞こえた。
(ええ!? いつから掴んでいたの? っていうかそういう問題なの?)
 思わずのっぽさんを凝視すると、のっぽさんは静かな目で私を見つめ返した。知っている。この目をやっぱり知っている、けど……。やっぱり名前が出てこない。
 もう一度持田君に視線を戻すと、持田君も唖然としてのっぽさんを見ていた。が、次の瞬間。
(えええええ!?)
 のっぽさんは片腕で私を抱えていた。そして。
 持田君の姿が遠のいている気がするのは気のせいではない。 
「ちょ、ちょっと」
(私、まだ返事してないのに。ちゃんと答えてないのに!)
 のっぽさんの顔を見る。優しい目が私を見返した。
「お願い、返事をさせて!」
 声をあげた私に、のっぽさんはやっと足をとめた。腕は私を掴んだままだ。
「ごめん」
 低い声が降ってきて、私はのっぽさんを見上げた。私を見つめるのっぽさんの目はどこまでも静かで、なんだか私はその瞳に促されるように口を開いた。
「も、持田君。ありがとう。でも、ごめん、ごめんね! 私、今日は一人で帰るつもりなの! ごめんね!! せっかくの気持ちに応えられなくて、ごめんね!!」
 私は持田君に精一杯今の気持ちを伝えた。持田君の悲しそうな笑みと、廊下の窓から見える青空。凄く申し訳なかった。悲しかった。でも、涙は出なかった。
(私、持田君の気持ちに向き合えたのかな。ごめんなさい)

 そして。
 私は再びのっぽさんに引きずられていた。
「あの……」
 確かにこの人がきっかけで、持田君に返事できたのは、ある。でも。
「あの! さっき言ったように、私、一人で帰るつもりなんですけど」
 抱えられながら言っても、説得力も何もないのだが、私はのっぽさんに言った。のっぽさんは、そんな私をじいっと見つめ、ちょっと考えるように足を止めて、
「うん……」
と頷いた。が。
「……!?」
 のっぽさんは結局私を離してはくれなかった。
「……」
「……」
 今日は。高校最後の日なのに。
 すれ違う生徒が私たちを見てくすくすと笑っているのが聞こえる。春の青空は雲のベールがかかったように淡い色をしている。私の頭の中は嵐のようなのに、なんてうららかなんだろう。
 ふと視線を落とすと、私の目にのっぽさんの手が映った。細くて長い指。女性のようなのに、私の手と比べると凄く大きく、力強い。
(あれ……?)
 なんだか見覚えがある気がして、私はちょっと戸惑った。のっぽさんの横顔を盗み見る。短く切られた髪。静かな目。やっぱりどこかでこの顔は見たことがある。一年生のときだけでは、ない。
(……)
「……あのさ。もういいよ。わかった。一緒に帰る。それでいいでしょ? 自分で歩くから、離してくれない?」
 もうすぐ駅に着くという頃。流石に恥ずかしい私は、かなりの妥協策を提案した。
「……わかった」
 のっぽさんは頷くとやっと私を離してくれた。
 だが、背の高いのっぽさんと一緒の歩調で歩くのはかなり大変だった。のっぽさんは時折止まって、私を待ってくれていた。
「……」
 やっぱり悪い人じゃないんだ。でも、なんだか腑に落ちない。一緒に帰ろうと言われたわけではないし、なんで私はのっぽさんと一緒に帰っているのかな。
 なんだか悶々として、下を向いて歩いていると。
「!?」
 人にぶつかり、私は慌てて体制を立て直そうとした。が。
「ちょ」
 こんなときほど自分の小さな背を呪うことはないだろう。小さな私は、そのまま人の波に飲まれ。
 のっぽさんの背中が離れていく。
「ま、待って!」
 必死で声をかけるけど、のっぽさんは気づかない。人が多すぎる。皆が話しているわけではないのに、なんで駅の中はこんなに煩いんだろう。ざわざわ。嫌な音。私の声を消してしまう。せめて名前が分かれば、呼べるのに!
「ま、待っ……!」
 焦って小走りになった私は、今度は思いっきり前につんのめり、倒れこむことになった。慣れない草履の鼻緒が切れていた。なんだか自分が凄く惨めな気がした。
「……っ」
 やっと私のいないことに気づいたのっぽさんが、辺りを見回している。背の高いのっぽさんは私からは見えるけど、小さな私はのっぽさんには見えないようだった。例え私が小さくなくても、こんなに袴姿の生徒が溢れていたら、分からなくなるかもしれない。
「早瀬さん!」
 のっぽさんの低い声が私の名を呼んでいる。私は草履で歩くのを諦めて、手で持つと、痛めた足をひきずって、必死にのっぽさんを目指した。私にはのっぽさんの背中がしっかりと見えていた。
(気付いて、気付いてよ! 私はここだよ!)
 心で何度も叫んだけれどのっぽさんには届かない。それでも。
「っねえ!」
 私の声が聞こえたのか、一瞬のっぽさんは止まった。こちらの方を見ているのだが、目が合わない……!
 しばらくきょろきょろしていたのっぽさんは。
 辺りを探すのをを止めて。頭を振って。
「!?」 
 次の瞬間のっぽさんの見せた悲しい顔に、私は胸が痛んだ。彼は悲しそうに一度額に手をあてて。そして。自分の。その手を。見た。
 ヤッパリ、ツカンデオケバ、ヨカッタ。
 のっぽさんの心の声が聞こえた気がした。 
 私は歩いても歩いてものっぽさんの背中が遠ざかっていくのをどうすることもできなかった。やがて、のっぽさんを見失った私は、力が抜けて、座り込んでしまった。人の行きかう駅の中、私は一人ぼっちで、呆然と佇んでいた。ちっぽけな私。誰も気づいてくれない。でも。そんなことより。悲しそうなのっぽさんの瞳が。
「ふえ」
 私は情けないけれど、涙が溢れるのを止めることができなかった。
(のっぽさんの、馬鹿! 馬鹿! 自分が探せなかったのに、なんであんな悲しい目するの) 
 泣いている私に気づいた人たちが、ちらちらと私を振り返りだした。
 何で私は記念すべき卒業式の日にこんなに情けないことになっているんだろう。持田君と帰ればよかったのかもしれない、と一瞬思って、頭を振った。ダメだ。あんなに真剣な想いに嘘で応えるのは駄目だ。そう思って、私は涙をぬぐった。いい加減、帰らないと。
「おい」
 今日はよく肩を叩かれる。ぼんやりそう思って、私は良く知った声の主を振り返った。
「お前、こんなところで何してんだよ?」
「……ちょっといろいろあってね。大和こそ一人?」
「痛いとこついてくるな、お前。誘ったよ、好きな人。帰り道告白したけど、玉砕した」
「それで一人……」
「一人一人煩いな」
「ごめん」
「お前こそ一人なわけ? って、何それ、持ってんの草履?」
「うん……。鼻緒が切れてね」
 ずぴっと鼻をすすりながら答える。
「なんで、泣いてたの?
……失恋したの?」
「違う」
 私は大和に肩を貸してもらい、電車に乗った。電車の中で、大和に一連の出来事を話した。話していると、またのっぽさんの目を思い出して、私はまた鼻をすすった。
「……まあ、なんというか……大変だったな……」
「うん……」
「まあ、夕璃は今まで経験したことがないことを一気に経験しちゃったって感じだな」
「何それ」
「一つ大人になったってことだよ」
「大和に言われたくないよ」
「だよな~」
 自然と笑顔になっている自分がいた。
 でも、やっぱり大和は違う。私は確信した。



 結局大和は私の家まで肩を貸してくれた。
「ただいま」
「こんちは~」
 私と大和の声に、母が慌てて出迎える。
「あらあら、大和君じゃない。こんにちは」
 笑顔で大和に挨拶をした母は私を見て、目を見張った。
「夕璃、どうしたの、その格好! 目も腫らして……。いったい何があったの?!」
「ちょっと、いろいろね……」
「……いろいろ……。来ているお客さまと関係あるのかしら」
「え?」
 母の言葉の意味を図りかねたまま、リビングのドアを開けると、
「!?」
 のっぽさんがお茶を飲んでいた。
「?!」
 私と大和を見て、のっぽさんが椅子を引いて立つ。
「何があった……?」
 私と大和を交互に見て、のっぽさんが言った。
「な、何か誤解してない!? 夕璃が泣いていて……鼻緒が切れていて……。と、とにかく、俺は送ってきただけだから! それじゃ失礼します!」
 上手く説明できないまま、慌てて帰ろうとする大和。その大和腕を私は掴んだ。
「ちょっと、こんな状況で帰るの?」
「俺は馬に蹴られて死んじまうのはやだからな、それじゃ、グットラック。
それじゃあ、おばさん、お邪魔しました~」
「あらあら……なんだか今日は忙しい日ね」
 呟いた母を横目に、私はがっくりと肩を落とす。
 のっぽさんははぐれた私を心配して、住所を卒業アルバムで調べてうちに来たらしい。
 二階の自室で、私は母の運んできたお菓子を黙々と食べていた。小さな台をはさんで、向かい側にはのっぽさんが座っていて、同じく黙々とお茶を飲んでいる。
「……大和は怪我した私を送ってくれただけだから」
 言い訳のようだと感じながら、でも事実なので私は言ってみる。
「……うん」
 二階の部屋に上がるのにものっぽさんの手を借りなければいけなかったぐらいだ。流石にのっぽさんも理解したようだった。
「……でも、あいつは早瀬さんに気付いたんだ」
 悔しそうで、悲しいのっぽさんの顔。
「それは、大和は幼稚園のときからの幼馴染だから……。ずっと一緒に育ったからたぶん気づいたんだよ。それだけだよ」
「それでも、ごめん……。俺は早瀬さんを見失った」
 のっぽさんはうな垂れて言った。私はそんなのっぽさんからふいと視線をそらした。
「……正直言うと、悲しかったよ。追いかけても追いかけても追いつかないし、気付いてくれないし。私、小さいから仕方ないと思うけどさ」
 でも。本当はのっぽさんのあの悲しそうな顔をみたときがいちばん悲しかったんだ。今だってそんな顔されたら……。
「本当に、ごめん……」
 のっぽさんはそう言って、ハンカチを私に差し出した。
「そんな悲しそうな顔、しなくていいよ」
 私はハンカチを掴んで、ぐしぐし涙を拭う。
「……ごめん」
 のっぽさんはそう言って私の頭をそっとなでた。その手が震えていた。
「俺……帰るね」
 そう言って立ち上がったのっぽさんの手を私は掴んでいた。
「え……」
「どうして今帰っちゃうの?」
「え……」
「私、訳がわからないよ」
 そう言った私の目をのっぽさんは真っ直ぐ見つめ返して、そして再び座った。
 のっぽさんは黙っている。お茶だけが減っていった。
 なんだか苦しいと私は思った。 
「なんで何も言わないの?」
「……何から言えばいいかわからない、から」
 のっぽさんは困ったような笑顔をしていた。
(あれ?) 
 一瞬脳裏い浮かんだのは、橙色の図書室。
 赤い光に照らされて、塵がきらきらと光っていた。
 本の独特の香り。長い影が伸びていて。なんとも言えない安心感。
(なんだろう)
「……えっとじゃあ、訊いてもいい?」
 のっぽさんは静かに頷く。
「あのね、袖、いつから握ってたの?」
「いつ?」
「うん、『俺が先』って、言ってたから」
 私の言葉に、のっぽさんはちょっと考え込んで、
「ああ、それは」
 思い出したように口を開く。
「先に好きになったって、いう意味」
「そうなの?」
 なんだか私はちょっと笑ってしまった。あまりにも言葉足らずで分らなかった。持田君も誤解したんじゃないかな。
(……)
 今度は持田君を思い出して、少し胸が痛んだ。両思いって奇跡みたいなものだ。誰かが誰かを好きな気持ちが世界には溢れている。でも、それが叶うとは限らないんだ。
(ごめんね、持田君……。
あれ、でも、あの持田君の顔……)
 のっぽさんを知っているみたいだった。
 なんだかさっきから、何かがひっかかっている。
「百面相」
 のっぽさんの笑いを含んだ声がして、私ははっと我に帰った。
「えっと……」
 そういえばなんだか大切なことを言われたような。
(そうだ!)
 私はかっと頬が熱くなるのを感じた。
 好き……。そうだよね。私と一緒に帰ろうとしたんだ。そうじゃないと変だ。頭では分っていたけれど、でも。
 のっぽさんの顔をまともに見られなくなって、私は台の上ののっぽさんの手を見た。
 どくんと心臓がはねた。
 やっぱりこの手を知っている。なんだかいろいろあって思い出せなかったけれど、この手は、本当は今日のように強引ではなくて。
「……っ」
 私は反射的にのっぽさんの顔を見た。のっぽさんは、目を大きくして私を見返した。
「どう、したの?」
 なんで思い出さなかったんだろう!
「く、楠、君……」
「う、ん?」
 図書室によく来ていた背の高い男子。本の貸し出しカードに、この長い指で「楠 圭吾」と書いていた。
 それだけじゃない。
「そうだ……。よく手伝ってくれてたよね? 本を片付けるのを」
 楠君は微笑んだ。
「うん」 
 そうだ、この笑顔だった。
 本を棚に戻しているとき、届かなくて困っていると、助けてくれる手があった。それは一緒に図書委員をしていた持田ではなかった。振り返ると、無言で微笑む背の高い男子がいたんだ。あまりにもさりげなくて、いつもお礼を言えなかった。彼は何も言わなかったし、すぐに去ってしまうから。
 橙色の図書室。長い影は楠君のもの。
 穏やかな彼の大胆な行動。あまりにも普段とかけ離れた行動に、私は驚いてしまったのだろう。やっとなんだかしっくりいって、私は息をついた。
「そっかあ……」
「気付かなかった?」
 楠君の言葉に、
「うん……。ごめん」
 私は素直に詫びた。
「そっか」
 楠君は少し寂しそうに笑った。
「あ、あのね、ありがとう」
「え?」
「あのね、いつもお礼が言いたかったんだ。でも伝えられなくて……。ありがとう」
「ああ」
 楠君は私の言葉に優しく微笑んだ。
「いいんだ。俺がやりたくてしたこと、だから」
 そうだ、私の知っている顔はこの顔だった。楠君の穏やかな笑顔を見ていると、なんだか胸が。
 ――安心もするし、胸がきゅーってなるときもある――
 突然茜の言葉を思い出して、また心臓が早鐘を打ち出した。
「好きだから、力になりたかった」
 楠君の続けた言葉にますます私の心臓は落ち着かなくなった。
「あ、あの」
「今日は、ごめん」
「え?」
「あの男子が早瀬さんに声をかけようとしたとき、いてもたってもいられなかった」
 楠君は困ったような顔をした。
「それに、早瀬さんが困っているように、見えて」
「あ」
 図星だった。私は楠君がいなければどうしていいか分らなかったはずだ。
「助けて、くれたの……?」
「というのは言い訳」
 楠君は恥ずかしそうにそう言った。
「え?」
「嫌だった。他の男子と早瀬さんが帰るのは、嫌だったんだ」
 今度は楠君はしっかりと私に言った。楠君の黒い目は真っ直ぐで強い光を宿していた。
「あ……」
 どうしてだろう。私は強引に一緒に帰ろうとした、この男子を責められなくなっていた。持田君も同じような、大人びた目で私を見ていた。でも。なんだか違う。同じように普段は穏やかな二人だけど。楠君のこういう目は、私を落ち着かせなくさせる。
「!」
 楠君の手が私の手に触れた。私の小さな手は楠君の大きな手に包まれて、震えるのをやめた。そう、私の手は震えていたのだ。私は顔が上げられなかった。楠君の瞳に映る自分を見る自信がなかった。  
「あ……」
「困らせ、た?」
 優しい低い声に、私が楠君を見上げると、楠君は悲しい目をしていた。
「そんなことない!」
 思わず出た自分の声の大きさに、私は驚いた。楠君も目を大きくしている。楠君に悲しい顔をさせるのは嫌だと思った。私の知っているこの男子は笑顔が似合うんだ。
「ごめん、急に大きな声出して……。
……えっと、どうして私を?」
 おずおずと訊いた私に、楠君はまた笑顔を取り戻す。
「入学してすぐに、球技大会があった」
 楠の声に、私は記憶を手繰り寄せる。
「うん。あったね。なんだっけ、仲良くなるようにみたいな、レクレーション的なものだよね?」
「そう」
 頷いて、楠君は懐かしそうに目を細めた。
「俺は、人見知りで。大勢の中にいるのも苦手で。ボールをとりにいったんだ」
 ボール……。
「あ……」
 そうだ、背の高い男子が一人でボールを運んでいた。大変そうだったから。私は。
「背が高いね」 
「何センチあるの?」
 楠君の言葉の続きを私が言う。楠君が嬉しそうに笑った。
 あのとき、私はいくつかのボールを楠の手からとって一緒に並ぶと、そう声をかけたのだ。
「181センチ……」
 私は知らず知らず、楠君が答えた数字を呟いていた。楠君はそんな私にまた静かに笑って頷く。
「俺はそのとき、その小さな女子の笑顔に、一目ぼれしたんだ」
「一目ぼれ……」
(私に、一目ぼれ……。この大きな男子が……)
 背の高い楠君が部屋にいると、部屋がなんだか狭く感じられる。そして、なんだか息苦しいような、それでいて心地悪くはないような、変な感じがした。楠君はどうなんだろう。そう思って楠君を見て、私は自分のことのように恥ずかしくなってしまった。楠君の耳が赤くなっていたから。
 なんだかさっきから心臓が煩い。今日のことが頭をぐるぐる回っている。
――夕璃は今まで経験したことがないことを一気に経験しちゃったって感じだな。
 大和の言葉が蘇った。本当にそうだよ。いろいろあった。持田君に誘われて。断って。一人で帰るつもりだったのに。楠君と帰って。はぐれて。
(でも、どうして私、楠君にはしっかり断らなかったのかな)
 一つの大きな疑問。持田君の気持ちに対して、恐れを抱いたのに、のっぽさんには怖さは感じなかった。
「……あのね、私、好きって気持ち、まだ知らなくて……」
 ぽつんと呟いた私に、楠君はちょっと目を見開いた。
「……そう、なんだ……」
 そして肩を落とす。楠君の大きな身体が小さくなったように見えて、私は慌てて次の言葉を紡ぐ。
「でもね、今日いろいろあって」
「うん?」
「そう、いろいろあって……」
 自分でも分らない気持ちを伝えるのはとても難しい。私は困り果てて、楠君を見た。
「うん、いろいろあった」
 優しい目に元気付けられて、
「そうなの。
あのね、持田君の悲しい顔を見て、私も悲しくなった」
 と言葉を続ける。
「……うん」
 今度は複雑な光を宿して、楠君は私を見ていた。
「大和は私を笑わせることができるの」
「……。
……うん」
 楠君がつらそうに俯いて返事をする。
「でも! でもね、私を泣かせることができるのはね、楠君だよ」
「え?」
 楠君が訝しげに顔を上げた。
「俺は……早瀬さんを泣かせるの? ……笑顔にしたいのに……」
「そうじゃなくて」
 ああ、また楠君が悲しそうな顔をしている。私は自分の胸がきゅーっとなるのを感じた。そんな顔はさせたくない……!
「楠君の悲しい顔は、私の涙腺を破壊するの」
 言った私の瞳から、涙がぽとりと落ちた。
「!?」
「私、楠君の笑顔が好きみたい。だから、駅でされたような顔をされると、とても悲しい」
「駅?」
「私を見失ったとき」
 楠君の瞳に私の小さな泣き顔だけが映っていた。
「俺も早瀬さんが悲しいと悲しい」
「え?」
 楠君は一度自分のハンカチを見て、それが私のせいでぐしゃぐしゃになってしまったことに気が付いたのか、ちょっと困った顔をした。そして、私の涙を大きな手で優しくぬぐった。
「早瀬さんが泣くと、どうしていいか、わからなくなる」
「ふえ」
 私はその大きな手に安心して、ますます涙が止まらなくなった。楠君は困ったような顔をして、もう一つの手で私の頭をぽんぽんと撫でた。
 私たちは、ぽつぽつと話をした。
 楠君の身長は今は184センチであること。私の身長は一年のときから変わっていないこと。楠君が図書室に着ていたのは、私が図書委員だったからだということ。私は楠君が助けてくれることが自然すぎて、甘えちゃっていたこと。楠君はどうしても私と一緒に帰りたくて、強硬手段をとってしまったこと。驚いた私は名前がでてこなくて、心でのっぽさんと呼んでいたこと。
「のっぽさん……」
 複雑そうな顔をした楠君に私は吹き出した。
「うん、だって、ぴったりだよ」
「……のっぽさん……」
「ごめん!」
「おちびさん……」
 楠君の言葉に、むーっと私は顔をしかめる。
「それは嫌だな、確かに。なんか馬鹿にされている気がする。あ、でもね、私は楠君を馬鹿にしてなんかいないよ?」
「うん」
 楠君が笑ったから、私も笑った。
「やっぱり、笑顔がいい」
 楠君がそう言って赤くなったから、私もなんだか恥ずかしくなってしまった。
「ありがとう」
 大学は同じところを受けているのが分った。私立も地元を受けたから、たぶん同じ県になるんだろう。そう思うと少し嬉しかった。もう少し楠君のことを知りたいと思っていたから。
「同じ学校だといいね」
 言った私に、楠君は少し眩しそうな目をして、
「……うん」
と頷いた。
 

 楠君の手をかりて階段を降りてきた私に、 
「あらあら、もう帰るの?」
と母がエプロンで手を拭きながら出てきた。
「あ、はい」
「そうよね、昼食もまだだったんでしょ? 何か食べていかない?」
 母の言葉に私は時計を見て、ちょっと罪悪感を覚えた。時計は15時にさしかかろうとしているところだった。私は大和と近くの駅のマックで食べてきたんだった。
「お腹すいたよね、ごめんね」
 小さな声で言った私に、
「まあ、少し……。家で食べるよ」
 と楠君は笑ってみせた。 
「また来るよね?」
「え?」 
 と楠君。
「来ないの?」
「来て、いいの?」
「また来……」
「もちろん大歓迎よ!!」
 私の言葉をさえぎり、ちゃっかり楠君の手をとった母。なんだか面白くなくて、私はその手を軽く叩いた。
「また来てよ」
 楠君が笑って頷いたのを見て、私は電話の横のメモ帳とりに行く。
「お茶とお菓子、ご馳走様でした」
「いいのよ、本当にまたいつでもいらしてね」
 二人が挨拶を交わしているうちにさらさらと私はペンを走らせる。
「じゃあ……」
 ドアに手をかけた楠君に私はメモ帳の一番上を渡した。
「携帯とメルアド」
 なんだか母の手前、恥ずかしくて素っ気無く言った私に、楠君は嬉しそうに笑うと、それを大事そうに鞄にしまい、筆箱を出そうとした。
「いいよ、メールくれれば登録する」
「わかった」
 小さくお辞儀をして、歩き出した楠君を母と一緒に見送った。なんだか寂しい気もしたけど、また会えるから大丈夫だよね。
「お付き合いするの?」
 ドアを閉めてすぐに訊ねてきた母に、私は恥ずかしくてぷいと背を向ける。
「まだ分からない」
 まだ分からないけど。
(どきどきして、安心して、きゅーって)
 変な感じだけれど、悪くない。
「そう」
 満面の笑みを浮かべる母。
「そういえば大和君とは本当になんでもないの?」
「ないない」
「そう……」
 少し残念そうにしている母。きっと頭の中で楠君と大和が私をとりあう想像でもしているのだろう。母は分り易すぎるほど乙女チックだ。
「でも今日はいろいろあったんでしょ?
そうよね、そうじゃないとこんなぼろぼろな格好で帰ってこないわよね」
 母の言葉に自分をまじまじと見て、恥ずかしくなった。せっかく綺麗にしてもらった頭もぐちゃぐちゃで、着物も袴も汚れてしまっていた。こんな格好で私は楠君と一緒にいたのだ。かあっと頬が熱くなる。
「……」
「怪我もしてるみたいだし……手当てをしながら、いろいろとやらをきかせてもらおうかしらね」
 母の着物を台無しにした私は返す言葉もない。
「はい……」
 しゅんとしょげた私に、絶妙のタイミングでメール着信音が鳴った。 
「彼から?」
「わかんない」
 携帯を開く。覗き込もうとする母から逃げるようにして、メールを見ると、案の定、楠君からだった。
「楠。今電車。これ、電話番号090-×××ー××××。これからよろしく」
 しっかり登録する。
「よかったわ、夕璃が嬉しそうで」
 母の言葉で自分が笑っているのに気付いた。
「……」
 変な感じ。でも、やっぱり悪くない。私は楠君が好きなんだろうか。
「さあ、足を出して。まあ、凄い痣……」
 転んだときにうった右の膝小僧には大きな痣ができていて、そのときついた手の平もすりむいた痕がたくさんついていた。でも、痛いとは思わなかった。身体がなんだか熱いだけで。
「着物も酷いことになっているけど……まあ、夕璃が成長したのだからよしとしましょう。随分遅い春だけど」
 くすりと笑った母に私はますます自分の体温が上がるのを感じた。
「まだ……」
「わからなくてもいいじゃない? 人を好きになるってことはそんなに難しいものじゃないのよ。線引きなんてしなくていいの。好きってわからないうちに好きになっていることだってあるんだから」
 ……そんなものなのかもしれない、と楠君を思い浮かべて私は納得した。
(茜に報告しよう! 
それから……。せっかくのメルアドだもん。早速楠君にもメールしてみよう。でも、なんて書こうかな)
 携帯を片手にくるくると表情を変える私に母がまたくすりと笑った。
 

 登場人物たち

下手な絵ですみません(汗
                      おしまい 



 私の書く登場人物は、どこか幼い子ばかりですね~。
 でも、可愛い話を書きたくなるときがあるんです。
 楽しんでいただけたなら幸いです。

 

 ここまで読んでくださりありがとうございました。
 拍手、ときどきいただいております。嬉しいです。一言あるともっと喜びます。





 また、ランキングに参加しております。
 プロフィール下のバナー、たくさんありますが、クリックしていただければ幸いです。

・「初恋日和」が気に入ったらクリックして投票してください

ネット小説ランキング>【一般・現代文学 シリアス】>初恋日和


アルファポリス「第4回恋愛小説大賞」(開催期間は2011年2月1日~末日開催)にエントリーしています。


のバナーをクリックしてくださると嬉しいです。(このバナーは「初恋日和」ようです)


 ほんなびの「初恋日和」のランキングはこちらから。
 
オンライン小説/ネット小説検索・ランキング-HONなびtitle="オンライン小説/ネット小説検索・ランキング-HONなび"width="88"height="31"
border="0">

拍手[1回]

PR
Comment
Name
Title
Font Color
Mail
URL
Comment
Password
Trackback
Trackback URL:

Copyright © 天音花香の小説ブログ All Rights Reserved.
Powered by Ninjya Blog 
忍者ブログ [PR]