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天音花香の小説をUPするブログです。個人サイトの小説はこちらに移しました。現在二時創作と短編を中心に書いています。
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天音花香
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主婦
趣味:
いろいろ・・・
自己紹介:
小学生のときに、テレビの影響で、小説を書き始めました。高校の時に文芸部、新聞部で文芸活動をしました(主に、詩ですが)。一応文学部でです。ですが、大学時代、働いていた時期は小説を書く暇がなく、主婦になってから活動を再開。

好きな小説家は、小野 不由美先生、恩田陸先生、加納朋子先生、乙一先生、浅田次郎先生、雪乃 紗衣先生、冴木忍先生、深沢美潮先生、前田珠子先生、市川拓司先生他。
もう一つのブログでは香水についてレビューをしております。
http://yaplog.jp/inka_rose/
こんな私ですが、宜しくお願いします。





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「広大の場合」1





登場人物紹介はこちら









「春ですなあ」

広大が朝希の席の前で、呟く。

その視線の先には、翔と梨呼が談笑する姿があった。

「あんたは年中春でしょ。先週の彼女とはまだ続いてるの?」

朝希の言葉に広大は冷めた視線になった。

「お前には関係ないだろ」

「……そうね」

朝希は今悲しげな顔をしているだろう。

だから広大は敢えて見ない。

「姫を失った気分はどうよ? 王子様」

「はあ? そんなことを言いにわざわざ私の席まで来たわけ? 本当に嫌なやつね、広大」

「また新しい姫でも探すか?」

言って、広大は朝希の顔を見た。

「……」

朝希は複雑な顔をしていた。

「寂しくないといったら嘘よ。

でも、梨呼には幸せになってほしかったから、本当によかったと思う。新しい姫なんかいらないわ」

「王子様にも今度は王子様が必要ってか?難しいな。王子様の王子様」

朝希の目が細まった。

「いい加減にしてくれない? 私の気持ちを知っててからかうのはやめて。王子様は広大という王子様しか要らないのよ!」

朝希の切れ長の瞳は少し潤んでいた。

広大の胸がざわつく。

「だから、いいかげん諦めろって言ってるのに」

「そう簡単にできるなら、もう諦めてるわよ! 無神経!」

朝希はガタンと席を立ちスタスタと廊下に出て行った。

朝希にはわざと冷たいことばかりを言ってきた。なのになんで諦めないのだろう。



広大は自分でも何がしたいのかわからない。

ただ、朝希から梨呼を離すために、梨呼の恋に協力をしたのは事実だ。

朝希は外見は王子でも女なのだ。朝希だって姫になっていいはずなのだ。

(ただその王子は俺じゃない)

広大にとって朝希はバスケのライバルだったし、女とは思えない。

(そう、俺にとって朝希は女であってはならない)





「朝希ちゃん?」

翔という彼ができたのに、梨呼は昼食の時間だけは相変わらず朝希と過ごしてくれている。

(気遣わなくていいって言ってるのに。本当に優しい梨呼)

「ん?」

「さっき竹田君と話してたでしょ? 何か言われたの? 元気ないよ?」

「うん。まあ、いつものことだから」

そういう朝希の顔は憂いを帯びていた。

広大は朝希にだけに故意に冷たい。それを朝希は知っている。もしかしたら、普段のおちゃらけた広大のほうが偽者なのかもしれない。

「でも、本当によかった。梨呼の恋がうまくいって。私みたいな思いはさせたくないもの」

そういって悲しげに笑った朝希に、梨呼は抱きついた。

「もうっ、竹田君許すまじ! 元気出して朝希ちゃん」

梨呼は翔と付き合いだしてから、少しずつ男子に対して恐怖心を解いていっている。それを心からよかったと朝希は思っている。

運命というのは本当にあるのかもしれない。ただ、自分の赤い糸は広大とは繋がっていないらしい。

「大丈夫。梨呼が幸せだと私も幸せだから。だから、羽柴とずっと仲良くね」

「朝希ちゃん……。私も朝希ちゃんが大好きだから、朝希ちゃんには幸せになってほしいんだよ?」

「梨呼お! なんて可愛い奴う」

思わず朝希は梨呼をぎゅっと抱きしめ返した。

(いつから広大のこと好きになったんだっけ。

……小学生のときとか楽しかったのにな。広大のほうがまだ背もちっちゃくて)

三月になり、風も春めいてきていた。だが、その暖かい日差しが朝希にはなんだか痛かった。





「広大の場合」2に続く



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      「広大の場合」2  


 広大は「先週の彼女」と夜道を歩いていた。映画に行きたいというから学校の帰りに見て帰っているところだった。
「ねえ、広大! もう一週間も経つんだから手ぐらいつなごうよ?」
「……俺べたべたするの嫌いなんだわ」
 広大は目をそらして言った。
(触られたくもないね。一週間で何が解るって言うんだ?)
「どうして? 
……キスもしてくれないし、広大、私とどうして付き合ってるの? 
私のこと好き?」
(べたべたするの嫌いって言ってる俺を無視しているのはどっちだ? 
……どいつもこいつも俺に虚像を描いて寄ってくる)
「ねえ、広大!」
 黄色い声が耳に障る。
 広大は冷めた目で「先週の彼女」を見た。
「こ、広大?」
「お前こそ何? 俺をなんで好きなわけ? 付き合いたいって言うから付き合ってやったんだよ。
もううざい。ばいばい」
「え? 広大!」
 泣くような悲鳴を無視して広大はすたすたと一人歩き出した。「彼女」が走りながら追いかけてくる。
 広大は一瞥もせずに冷たく言った。
「わからない? 俺、お前のこと好きじゃないし、今日で別れようってこと」
 その場で「彼女」が泣き崩れるのが気配で判ったが、広大はそれを無視して家路を急いだ。
(こんなんだったら、バスケの自主練でもしといたほうがましだったな。時間を無駄にした)
 本当に自分は何をやっているのかと思う。
 付き合ってといわれれば誰かれ構わず付き合ってきた。でも、すぐふるか、ふられるかのどちらかだった。広大も相手を好きになれないし、相手も広大に愛想をつかす。それでも告白されたときにふらないのはなぜなのか広大は自分でもわからない。

 朝希のときはふったのに。

「ちっ、いらいらする」
 ごちゃごちゃ考えているうちに家に着いた。
 門を開けるときに朝希の部屋を見る。まだ明かりがついていなかった。
(自主練ですか。本当に真面目なことで)
「ただいま」
 不機嫌な声ではあるが、一応そう言ってから広大は二階の自室へ上っていった。
 鞄を部屋の隅に放ると、広大は電気もつけずに胡坐をかいた。幼いときから、考え事をするときの癖だ。
(なんでだ? 最近特にいらいらする)
 翔と梨呼が付き合いだしてからだ。
 一人でいることが増えた朝希。
 そんな朝希は王子様にはもう見えない。
(姫がいたからってわけか)
 自分で手伝ったくせに、女に見える朝希を見るとなぜか広大はいらいらした。
 ーーいつかとられるぞーー
 翔の言葉が甦る。
(あんな背でかくて、胸なくて、細いだけの男女。誰が相手にするかってーの。それでもそういう趣味のやつがいるなら、それでいいんじゃん? 朝希も姫に昇格だ)
 そのとき、隣の朝希の部屋に電気がついた。
(帰ってきたか)
 朝希はというとカーテンも引かずにそのまま着替えだした。
「っ馬鹿か、あいつ!」
 広大は隣のバルコニーへ飛び移ると、朝希の部屋の窓を開けて中に入り、カーテンを乱暴に閉めた。
 広大が後ろを振り返ると、下着姿の朝希が驚いた顔で広大を振り返っていた。
「広大? どうしたの?」
 広大は動揺していた。
 バスケをやってるときはTシャツだからわからなかっただけなのか?
 朝希には意外に胸があったし、腰も綺麗にくびれていて、女そのものの身体をしていた。
「お前馬鹿かよ! 鍵も開いてるし、カーテンぐらい閉めて着替えろよ! 誰が見てるかわかんねーだろ!」
「あ、忘れてた。そっか、今度から気をつける」
「し、しかも、俺は男なんだぞ? 身体隠すぐらいしろよ!」
 朝希は、
「ああ」
 とさして、気にとめた様子でもなく、
「広大、見慣れてるでしょ? こんなの。それに、広大、私のこと女と思ってないし……」
 といいながら、着替える服を探し始めた。
「っ見慣れてなんかいねーよ!」
 そういう男として、見られているというのが広大は傷ついたし、いらいらに拍車をかけられた。
 気がついたら、朝希の腕を掴み、ベッドに押し倒していた。
 朝希の切れ長の目が少し大きく見開かれていた。
 そんな朝希の耳元に広大は唇をよせると、
「男は好きな女じゃなくても抱けるって知ってた?」
 そして、強引に胸のふくらみに触れる。
 広大は殴られることを予想していた。
 が、その衝撃は来なかった。
 朝希の顔を見る。
 朝希は瞳に悲しげな光を宿して、きゅっと薄い唇を結んでいた。
「っ抵抗ぐらいしろよ!」
「広大だったらいいよ」
 か細い声が朝希の唇から漏れた。

(!
なんだ、こいつ! 女じゃないか! 女だ!)

 急に自分のした行動が恥ずかしくなって、広大は朝希から離れた。
「服着ろ」
「うん……」
 広大が後ろを向いている間、もぞもぞと朝希が服を着る音がしていた。
(俺は何をやってるんだ? 何がしたいんだ? もう、訳わかんねえ!)
「広大? 服着たよ」
「おう」
 朝希の部屋の丸い小さなテーブルをはさんで、二人は向かい合って座った。
「広大、最近荒れてるでしょ?」
「そう、かもな」
 別に、と答えるつもりだった。
 でも口から出た言葉は本心のほうだった。
「何かあった?」
「いつものことだよ。さっき、『先週の彼女』
とやらをふってきた」
「そう……。
……彼女は悲しかっただろうね。
広大は? 悲しくなかったの?」
 なぜか、ぎくりとした。
 悲しかった? 何に対して? 
 頭の中でぐるぐると思考が回る。

 そんな広大の手を朝希は優しくとった。
 両手を重ねてきゅっと握る。
 幼いときから、繰り返されてきた行為。これをされると広大はなぜか安心するのだ。
「あ、朝希。は、離せよ」
「もうちょっと」
 祈るように朝希は目を閉じて、
「はい。もう大丈夫」
 とにこっと笑った。
 もやもやしていた気持ちがすっと解けていくのを広大は感じた。
「今日、自主練、してたのか?」
「うん」
「俺も明日からすっかな。お前に遅れをとりたくないし」
「あーあ、広大を抜かそうと思ってたのに」
「百年早いな。
朝希、さっきごめん。また明日な。お休み」
「ん、おやすみ」
 なんだかすっきりして広大は自分の部屋に戻った。ただ。
 思い出して頭に血が上るのを広大は感じた。朝希の身体。胸の柔らかさ。
「寝よ」
 広大は無理矢理頭からそれを消し去ると、着替えてベッドにもぐりこんだ。


 ――「朝希、見ろ!スリーポイントシュート、かなり入るようになったぞ!」
 「そんなの、とっくに入るようになってるよーだ」
 自分より背の高い朝希がえへんと胸を張る。小学生のころだ。
 「ちっくしょー、負けねーからな!」


 似合わないセーラー服を着た朝希は、梨呼をはじめとして他の女子に混ざって行動している。
(なんだよ。がらじゃねーの)
 そして。
「やった!朝希を抜けるようになった!」
 背も朝希を抜いてまもなくのころ、広大はワンオンワンでやっと朝希を抜けるようになった。
 そのときの朝希の悔しそうな顔。


 「広大、私、あんたが好きみたい。付き合ってくれないかな?」
 顔を真っ赤にして、広大より十センチほど背の低い朝希が言った言葉だった。
 中三のときだ。
「お前のこと、そんな風に見れない」
 目をそらして断った広大。


 「朝希ちゃん!」
 高校に入っても、いつも梨呼と一緒にいる朝希。男子から梨呼を守るように。それはさながらスカートをはいた王子様。
 梨呼を見つめる優しい目。
 広大を見つめる切ない目。
 広大は敢えて見ないようになっていった。


 ――そして。下着姿の――
 


 ガチャン。カチャリ。キー、カッチャン。
 いつもの聞きなれた音にガバっと広大は身体を起こした。窓からのぞくと、朝希が歩いていくのが見えた。
(朝……)
 なんだか、朝希の夢ばかりを見ていた気がする。
 懐かしい、戻らない日々。
 思い出しながら制服に着替える。
「おはよー」
 台所の母親に挨拶をして、用意された朝食を食べる。
(小学生のときはよかったなあ)
 夏休みには虫取り。二学期の前日大慌てで宿題を一緒にやった。
 冬には雪だるま。
 広大と朝希はいい相棒だった。朝希を女と思ったことなど、一度もなかった。
 中学の始業式。
 セーラー服姿の朝希を見て衝撃を受けたのを広大は覚えている。
 いつからか埋まらない距離ができていた。
「あんた、早くしないと遅刻するよ?」
 母親の声に、広大ははっとして、鞄を持つと、
「ってきまーす」
 と家を出て、走り出した。
 過去を振り払うように。

             「広大の場合」3へ続く



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   「広大の場合」3


 新学期が始まり、広大たちは高校三年生になった。染井吉野は葉桜になり、八重桜が満開である。
「八重桜は遅咲き、でもその花は豪華ですなあ」
「広大。あんた他に行くとこないの?」
 朝希の机にへばりついてる広大に、はあ、と呆れ顔の朝希。
「だってえ、翔は相手してくれなくなっちゃったしい、告って来る女も減っちゃったんだもん」
「広大、その言葉使い、気持ち悪いから。梨呼なら、その口調でもオッケーだけど」
 そう、最近広大には悪い噂が流れている。

 平気で女心を弄び、冷たくふる男。

「ようやく、化けの皮が剥がれてきたってわけね」
 冗談っぽく朝希が言うと、広大が冷めた目になった。
「虚像を好きになって、告って来るほうが悪いんだよ」
「また、手握ってあげようか?」
 わざと明るく言った朝希に、
「いやん、朝希のえっちー」
 と広大。ぽかりとその頭を朝希が叩いた。
 そして、まじめな顔で広大を見た。
「どうして、虚像っていえるの? 今の広大は偽者?」
「いいや、これも本物ですよ。ただ、バスケやったり、教室でおちゃらけたりしてる俺だけが俺じゃねーってこと」
「そりゃそうだ。でも、学校じゃ無理じゃない? 全ての広大を知るなんて。
大体、その人の全てを把握することなんてできないよ。自分のことだって全部は解らないし。
広大は解るの?」
 うぬぬと考える広大。そこへ、
「なんだか難しい話、してんなあ」
 と翔がやってきた。梨呼も後ろにいる。
「ふむ、では二人に尋ねよう。お主らはお互いのどこを好きになったんじゃ?」
 広大の問いに顔を見合わせ赤くなる二人。
「どこってなあ」
「気がついたら心を占めていたって、朝希ちゃんが前言ってた通りだったと思う」
 そこで、自分の名前は出すなと手でばってんを作る朝希。
「じゃあ、お互い、ギャップを感じたことは?」
 いやに絡む広大。朝希が目で「相手にしないでいいから」と言っている。
 が、二人はまたも顔を見合わせて、
「ギャップも何も、そんなに相手のこと把握できていないし」
「うん。新しいとこも好きになれるよ」
 と恥ずかしそうに梨呼。そんな梨呼にかあっと顔を赤く染める翔。
「駄目だこりゃ。らぶらぶの二人にはかないません~」
 自分が尋ねたくせに、その場から立ち去る広大。
「あいつ、最近おかしくない?」
 広大を見送りながら、翔が朝希に聞いてきた。
「ん。おかしいのはいつもだけど。ま、いろいろ思うところがあるみたいで。私も中学に入ってからの広大は本当に解んない」
「前田、苦労するよな。もう乗り換えたら? 他の奴に」
「それは、言っちゃ駄目なんだよ、翔君。朝希ちゃんは竹田君じゃないと駄目なんだから。気持ちは止められないの」
 翔の袖を少しだけ掴み、揺さぶりながら、本気で言う梨呼。
 そんな梨呼を翔と朝希は「可愛いなあ」と思って思わず微笑む。
「だから、朝希ちゃんを応援しようね!」
「じゃ、俺も応援しよう。たぶん、広大を一番理解できるのは前田だから。がんばれよ!」
 言って、
「じゃ、俺は教室戻るわ。またね、梨呼ちゃん」
 と教室を出て行く翔に、
「うん。また後でね」
 と梨呼が笑顔で返す。
「らぶらぶじゃん」
 このお、と梨呼を小突く朝希。でも、梨呼は真顔だった。
「私は本当に幸せだと思う。でも、朝希ちゃんが。
最近思う。竹田君はなんか、他の人と違う。朝希ちゃんは幼稚園の時から竹田君とずっと一緒だったんだっけ?」
「え? う、うん」
「私も翔君が言うとおり、朝希ちゃんが一番竹田君のこと識ってると思う。朝希ちゃんだからできることは多いと思うの。
朝希ちゃんは苦労すると思うけど、でも、なんだか、竹田君もきつそうに見える。なんでだろう?」
 朝希はちょっとびっくりした。梨呼の観察力に。以前は男子のことなど見ようともしなかったのに。
 まさに、梨呼がいう通りのことを朝希は感じていた。
 広大は苦しんでいる。でも、それが何か判らず、何もできない自分がもどかしいと朝希は思う。自分ができることは、広大のそばでその悩みを理解して、解決に協力することだ。
「梨呼が広大のことをそこまで考えてくれて嬉しいよ。そうだね。私だからできることは必ずあるよね。頑張ってみるよ」
 微笑んで梨呼の頭をなでると、梨呼もやっと笑った。
「私はいつでも朝希ちゃんの味方だからね。私にもできることがあったら遠慮なく言ってね」
「頼りにしてます」
 少し元気が出て、
(広大覚悟!)
と思っていた朝希のテンションを裏切るかのように、その日、広大は教室に戻ってこなかった。


「春なのーに~」
 小さく口ずさんで、広大は学校近くの公園の桜並木を歩いていた。こんな時間に公園にいるのは、老人か、子供連れの母親たちだけである。自分は間違いなく浮いている。辺りは平和すぎる。なのに広大の心は嵐が吹いていた。

 ――気がついたら心を占めていた――

という梨呼の言葉が甦る。
 しかも、その言葉には「朝希ちゃんが前言っていた」
と言う言葉がくっついてきた。中三のときから、朝希の心を広大が占めていたことになる。
「俺が、ねえ……」
 八重桜の木の下へ寝そべると、舞い落ちる花びらに手を伸ばしながら、広大は呟いた。
 自分の心を占めるものは何だろうと広大は考える。少なくとも、今まで付き合ってきた女子で心がいっぱいになったことはなかった。
 常に心を占めていたのは、バスケット。
「俺の恋の相手はバスケですかあ。そうかもー」
 他は? と考える。
 翔。あいつはライバルで親友だ。
 藤木。朝希にいつもくっついていたから覚えた。
 ……そして、朝希。
 幼いときから目標であり、ライバルだった。幼稚園に通っていたときから小学校を卒業するまで常に隣に朝希がいた。いろんな感情を共有したし、広大の激しい気性にも怖気づくどころか向かってきた朝希。朝希以上に広大を理解している人物はいないだろう。
「でも、翔みたいなもんだもんな」
 そう、親友。
 じゃないと困る。
 困る? 
 ちらりと下着姿の朝希が頭をよぎる。
「駄目だ。あいつはやっぱり女だった」
 自分は朝希に男であってほしかったのだろうか。
 それはなぜ?
「本当は解っていたことだ、朝希が女だってこと」
 そう、だから衝撃を受けた。セーラー服を着た朝希に。自分との違いを思い知らされて。
「似合わないセーラー服~」
 中学校の入学式のときに舞っていた染井吉野のより、ちょっと濃い色をした八重桜の花びらが、ひらり、ひらりと落ちてくる。
「裏切られた気持ちはどうよ? 朝希?」
 中学からべったりだった梨呼。あっけなく離れていったじゃないか。
 その痛みを広大は知っている。
 それはなぜだったか。
「考えすぎると頭痛いわ」
 先ほどからぶつぶつ独り言をいう広大は、奇怪に見えているだろう。でも、自分で茶化さないと心がおかしくなりそうだった。
 最近の自分はどうかしている。まるで、中学に入ったばかりの時のようだ。あの時はなんで荒れてたんだっけ?
 喪失感。
 そう。ただ、強い喪失感があったのを覚えている。
 女子の友達と行動する朝希。
(違うだろ? お前の隣にいるのは俺だったのに)
 裏切られたと思った。
 性別が違うから当たり前のことではあったのだけど。
 喪失感を埋める必要があった。騒いで男子の友達をつくって、告って来る女と片っ端付き合った。
「……」
 花びらが落ちてくる。やや濃いピンクの花びら。綺麗に見えるそれ。
「花びら、ひらり、ひらり、とめどなく」
 でも、長続きはしなかった。所詮花びらでは心の隙間は埋まらなかったのだ。かさかさにひからびて…・・・。
 朝希とは違う。広大の激しい気性に他の女子はついて来られなかった。
 当然と言う気がした。こいつらは俺の全てを知ってて付き合ってるわけじゃないんだから。
「じゃあ、なぜあのとき、朝希をふったのかな」
 広大の人生で、ふった女は朝希だけだ。
 何かそこにこの苛立ちの理由がある気がした。

 気がつくといつの間にかあたりは暗くなっていた。
(何時だろ?)
 とりあえず教室に戻って鞄をとってくることにした。その後行くところは決まっていた。



「広大! 今まで何やってたんだよ? 授業サボったんだって? んで、来たのは体育館か」
 翔が怒鳴った。時計を見ると七時を回っていた。
「俺はもう帰るぞ。一緒帰るか?」
 翔の誘いに、
「いや、シュート練していくわ」
 と広大は答えた。
「そっか。ほどほどにしとけよ? じゃあな。明日は授業さぼるなよ?」
「さあ、それは気分しだい。ま、三年になりましたしね。大学落ちない程度には頑張りますよ」
 広大は帰る翔にひらひらと手をふった。


 そのころ、自主練を終えて、家に帰ってきた朝希は、広大の部屋の電気がついてないのを見て不安になった。とりあえず自室に上がってバルコニーを飛び越える。そして、広大の部屋の窓をノックした。
「広大、広大?」
 気配がしない。
 もう、何してるんだか。朝希は一度自室に戻るとトレーナーとジャージに着替えて家を出た。
 思い当たる場所と言えば、学校の近くの公園。あそこは広大が気に入ってる場所だったはずだ。走って公園に向かった。
 が、一通り公園を探したが広大はいなかった。
(なんでこんなに心配させるのよ、馬鹿)
 そう思いながら、次はどこにいこうかと考える。
(あ、体育館)
 思い出したように朝希は体育館へ足を速めた。


 「ち、俺も修行がたんねえなあ」
 さっきから外してばかりのシュートにいらいらしつつも、うち続ける。俺にはこれしかないんだから。
 一人の体育館は広い。そして静かだ。広大の放ったボールが床に弾かれる音だけがこだまする。
(今はゴールに集中)
 ふうと深呼吸をし、ゴールを見据える。手首のスナップを効かせてボールを放つ。ようやく網をくぐった。
「よし」
 ボールがゴールに吸い込まれる瞬間が好きだ。
 すとんとくぐるのも、網を揺らしながらくぐるのも。
 でも最も気持ちいいのはダンクシュートだ。そのままリングにぶら下がっていたくなる。
「よし、もう一回」
 呼吸を整えると、ボールを放つ。今度も綺麗に網をくぐった。
「ナイッシュー!」
 後ろから聞こえてきた声に振り向くと、朝希がいた。
「なんで、今頃てめーがいるんだよ?」
 一番見られたくない相手だった。
「それはこっちの台詞でしょ? 授業サボってまでシュート練? ある意味熱心ね。私も参加させてもらおうかな」
 広大は冷たく朝希を見た。
「帰れよ」
「あら、体育館はみんなのものよ?」
 広大の冷たい一言に怯みもせず、転がっていったボールを朝希は拾いにいった。その瞬間。
「帰れ!」
 広大は朝希を壁に押し付けていた。
「いったいなあ。でも、私に脅しは効かないわよ?」
 朝希の薄い唇が言葉を紡ぐ。
 警戒心は微塵も感じられなかった。
(こいつは俺を男と思っていないのか?)
 部屋であんなことされたというのに。
「ちょっと、邪魔だからどいてよ」
 朝希の睫に縁取られた切れ長の瞳と、芯の強そうな眉、高い鼻が数センチ離れたところにある。
 その中でも今は唇が最も魅力的に見えた。
 広大は無理矢理自分の唇を押し付けた。
「! 
ん~~~」
 唇を離すと、はあはあと苦しげに朝希は息をしていた。
「誰か来たらどうすんのよっ!」
 そう怒鳴る朝希。
(まだだ、まだ足りない)
 そう思った広大は、もう一度、今度は優しく、朝希の唇を味わうようにキスをした。ずっとこうしていたいとさえ思った。
 そのとき、広大のほおに冷たい何かが触れた。あわてて朝希を引き離す。
 朝希の瞳からは一筋の涙がこぼれて頬をつたっていた。
「!」

 朝希を泣かせた。

 今までで朝希が広大の前で涙を見せたのは、広大に初めてワンオンワンで抜かれたときと、広大にふられたときだけだ。

(俺が泣かせた。俺が、また朝希を泣かせた)

 広大は無我夢中で体育館を出た。そして走って走って……。
(俺はさいてーだ。さすがに今度は朝希も愛想を尽かすだろう)
 そう思うと胸が苦しかった。
 駄目だ、俺はどうしてしまったんだ? 
 朝希はどうしてあんなに色っぽくなっていたんだ?

 一人体育館に残された朝希は。

「初めてのキスが好きな人だなんて幸せなはずじゃない。なのになんでこんなに涙が出てくるんだろう」
 体育館でうなだれていた。
(しかも、このまま帰るなんて。これじゃ広大と私の仲が修復できるかどうか……。嫌だよ。まだそばにいたいのに)
 しばらく体育館で泣いた後、朝希はボールを広い、ゴールに向けて放った。ボールはみごとに網に吸い込まれた。
 こんなときでも、バスケは朝希の味方だ。
 もう一発だけシュートをすると、朝希はボールを片付け、電気を消して、鍵をかけた。
 ぼんやりと家路につく。
 空には春の朧月。まるで見えない広大の心のよう。
 そう思うとまた涙が頬をぬらした。

    「広大の場合」4へ続く

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   「広大の場合」4


 広大は今日、朝希の机の前に来ない。当然かもしれない。朝希も来られても困る。
 そんな二人の様子を梨呼はなんとなく違和感を覚えながら見ていた。
 朝希、梨呼共々授業の内容が今日は全く頭に入ってこななかった。
 もちろん広大も今日は出席はしているものの、心では昨日のことばかりを考えていた。
 なぜあんなことをしたのか? 
 だいたい、他の女には触れられるのも嫌なのに、なぜ朝希は大丈夫なのか?

 朝希は昨日のことは忘れようと思っていた。
 また広大の気紛れ。いつものことと。
 でも、唇が熱い。

 四限目の終わりを告げる鐘が鳴った。
「朝希ちゃーん、お弁当食べにいこっ!」
 いつもよりすごい勢いでやってきた梨呼に引きずられるように、朝希は屋上へ向かった。
「もう、すっかり春だね」
 暖かい風が二人の髪をなでていく。
「早いものね。もう、私たち受験生なんだよ?」
 信じられない! と二人で笑う。勉強しなきゃねーと、当たり障りのない会話が進んでいく。
 ただ、梨呼はじっと朝希が話し出すのを待っているかのように目を見つめてきていた。
 そうよね、梨呼が気付かないはずない、と朝希は一つため息をついた。
 朝希は覚悟を決めたように、梨呼を見つめた。どうぞ、と梨呼が見つめ返してくる。
「梨呼、羽柴ともうキスした?」
「!」
 さすがにこんな問いは予想をしていなかったので、梨呼は箸を落とした。その箸が地面に着く前に、器用に朝希は箸を掴むと「はい」と渡してくる。
「え、えーっと。まだ、です。
こないだ、初めて手をつないだばかりです」
 真っ赤になりながら梨呼は答えた。
 翔は梨呼を大切にしているんだな、と朝希は嬉しく思った。だからこそ自分の境遇が理解できる。
「梨呼」
 まるで恋人の名前を呼ぶように朝希は、梨呼の名を口にした。どきりとして梨呼は朝希を見つめる。
 朝希の目は艶っぽく光っていた。
「キス、しよっか?」
 どくん。梨呼の心臓が波打った。朝希から目が話せなくなっている梨呼がいた。一方、朝希は、梨呼は断らないという予感があった。中学生の頃、梨呼が朝希に憧れにも似た感情を抱いていたのを朝希は知っている。
 残酷すぎる言葉。
 梨呼はしばらく考えていた。
「い、いいよ。朝希ちゃんなら」
 ほら、やっぱり。
 梨呼は断れない。梨呼は、広大に対する私と似たようなもの。
 そして、それが分っていながら広大はあんなことをしてくるのだ。
「う、そ。
だめよ、梨呼、そんなに簡単にオッケーしちゃ。羽柴が泣くよ?」
「そ、それは朝希ちゃんだからで」
 言って梨呼が朝希を見ると、朝希の切れ長の瞳からは一筋の涙が流れていた。
「朝希ちゃん!」
 涙は一筋から二筋と増え、しまいには嗚咽になった。
「広大が、解らないの。もうどうしていいか分からない! 広大は私を突き放したいのかな?!」
 梨呼は悟った。
 朝希は広大にキスされたのだと。
 でも、それはおかしいと思った。
 梨呼の聞く広大の噂は
「手もつながせてくれない冷たい奴」
というものだった。
 そして。
「付き合ったらかなりそっけない」
 これは普段朝希に対する態度と同じようになるのだろうと予想ができた。だから、よけいにおかしい。
 梨呼は何かが見えてくるのを感じた。第三者だからこそ見えるものもあるのかもしれない。
 朝希の背中をさすりながら、二度と朝希にこんな顔をさせるものかと梨呼は心で誓った。
 朝希はこんなにも、傷着きやすい、か弱い姫なのだ。それなのに、梨呼の王子役をかってでてくれていた。だから、今度は自分が朝希を守る番なのだと。
 広大が朝希をどうしたいのか。突き放したいのか。それとも他に何か意図があるのか。
 梨呼が考えていると、
「私、広大と少し距離をとってみようかな。だって、広大はそれを望んでいるからあんな態度をとるのかもしれない」
 朝希が弱々しくそう言った。
 梨呼はそれも試す価値はあるのではないかと今回は思った。そのとき広大の本心が見えるのではないかと。
「私も、今回はそれに賛成するよ、朝希ちゃん。竹田君がそれを望んでいるかどうかは別として」
「うん。そうする。私、もう疲れちゃったよ」
 自分よりかなり小さな梨呼の肩に頭を預けて、朝希は涙を流し続けた。


 昼食の後、「顔を洗ってくる」とトイレに行こうとした朝希を、一人の男子が呼び止めた。
「前田さん、ちょっといいかな?」
 こんなときに、と思いながらも了承して体育館裏に朝希はついていった。
「なんでしょう。ちょっと目が腫れてますが気にしないでください」
 朝希の言葉に、男子の顔が曇った。
「泣いてたの?」
「ま、まあ、それはいいとして。ご用件は何でしょうか?」
「あ、そうだね」
 その男子は自分の指を伸ばしたり握ったりしながら、言葉を紡いだ。
「中学のときから一緒だったの気付いてたかな? 前田さん」
「えーっと、ごめんなさい」
「そっか、でも僕はずっと見てたんだ、前田さんのこと。
好きです。つきあってください」
 さすがに、この言葉には朝希も動揺した。
 女子からの告白は何度もあったけど、男子からは初めてだった。
「聞いてもいいですか? 私をなぜ好きになったんですか?」
「え? 
ぐ、具体的に言われると困るけど、前田さんは本当は繊細だと思うんだ。だから、守ってあげたいなと思って」
 意外な言葉ばかりに、朝希は唖然とする。
(守ってあげたい? そんなこと言われるなんて)
「えっと、とりあえず、名前を教えてください」
「あっ。緊張のあまり言い忘れてた! 佐藤真樹といいます」
 可愛い人だなと、朝希は笑顔になった。


      「広大の場合」5に続く(いつも長くてすみません)

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    「広大の場合」5

「前田さん」

 休み時間のたびに朝希を呼ぶ男……佐藤真樹。

 広大はふんと鼻を鳴らしながら談笑する朝希と佐藤を見ていた。
(王子様にも王子様ができたってことか。おめでたいことで)
 背のあまり変わらない王子様。でも、朝希を笑顔にできる、姫にできる王子様。
 いらいらするのは、この六月の梅雨のせいだろうと広大は思った。そうでないと、おかしい。自らが願ったことではないか。
(でも、なんだ、この空虚な感じは。何度目だろう味わうのは。そこにはいつも……)
「竹田君」
 名前を呼ばれ、無愛想に顔をあげると、そこには小さな梨呼が、大きな目に強い決意を秘めて立っていた。
「ん? 何かなあ? ここは翔の席じゃないよ?」
 言ってお決まりの作り笑いをすると、
「話があります。来てください」
 と廊下の隅に呼び出された。
 梨呼に、だ。
「朝希ちゃんが佐藤君とお付き合いをしているのは気付いていましたか?」
 そんなの、気付くもなにも、五月から付き合いだしたことさえ知っている。
「それが?」
 冷たい目で梨呼に問う。でも、今日の梨呼は引き下がらなかった。
「朝希ちゃんは、でも、佐藤君に恋愛感情は持っていません」
「そりゃ、佐藤は気の毒で」
 梨呼はきっと広大を睨んだ。
「竹田君のせいですよ。朝希ちゃんはまだ竹田君が好きなんです。でも、『竹田君が朝希ちゃんから離れてほしいと思っている』と勘違いして、長く悩んだ末、つきあってみることにしたんです。竹田君と距離を置くために」
「勘違い? へえ、おもしろいね、藤木さん。何でそう思うの? 朝希が思っていることのほうが正しいよ?」
 からかうように、広大が言うと、梨呼はなぜか微笑んだ。
「いいえ。勘違いです。第三者だから見えることもあるんだなって私は思いました」
 なんだか、広大は自分の心がざわつき出すのを感じた。これ以上聞いてはならないような。
「竹田君が、今までにふったのは、朝希ちゃんだけですね。なのに、付き合った女性に対しては朝希ちゃんに対するような態度をとっている。
これはどうしてなんでしょうね」
 喉が渇く。頭痛がする。
 でも、広大は逃げるなんて格好悪いことはできない。
 こいつは、あの朝希の姫だった奴なんだから。
「竹田君は本当の自分を受け入れてほしかったんじゃないですか?」
「なっ、俺は俺だ!」
「そう、学校で笑っているのも、格好よくバスケをするのも、冷たいのも竹田君。でも、結果は惨敗」
 かっと頭に血が上るのを広大は感じた。女でなければ殴っているところだ。
「でも、そんなこと、本当は竹田君にとってはどうでもよかったんじゃないですか? だって、本心から好きで付き合ってたんじゃないんだから」
 この小さい女に、なんでここまで心を見透かされているんだ、と広大は動揺した。
 梨呼の言うことは当たっている。
「朝希ちゃんをふったのは……」
「うるせー、それ以上言うな!」
 殺気じみた目で梨呼を睨む。
 でも、梨呼は。
「いいえ! 朝希ちゃんのために、やめるわけにはいきません!」
 と足をがくがくさせながら叫んだ。
「竹田君は臆病者です! だから、誰よりも自分を知っている、朝希ちゃんにだけはふられたくなかった! いずれふられるぐらいなら、友人であるほうを選んで、ふったんです!」
「!」
 広大の心が悲鳴をあげた。
 そう、だから、朝希の目をまともに見られずにふった。
 朝希を傷つけても自分のそばにつないでおくために。
「でも、竹田君、そんなことをしてももう無駄です。朝希ちゃんが本当に佐藤君を好きになったらどうするんですか? それで、竹田君は本当にいいんですか?」
「素直にならないと後悔するぞ」
 いつの間に来たのか、梨呼に、
「お疲れ様」
とねぎらってから翔が言った。
「さ、先に裏切ったのは、朝希のほうだ! 朝希の隣は俺の場所だったのに!」
 気がつけば広大はがっくりとうなだれていた。
「ごめんね、竹田君。私のせいだったんだよね。朝希ちゃんをとっちゃって」
 梨呼が悲しげに謝るのを広大は聞いた。
「でも、これからも、現れ続けちゃうよ? 竹田君がなんとかしないと」
「今更、どうしろっていうんだよ! もう、朝希は佐藤とつきあってんだから」
 広大の血を吐くような言葉に、梨呼は意外そうな顔をした。
「へえ、竹田君て、やっぱり臆病なのね? でも今回は私、竹田君の味方だよ! ……佐藤君には悪いけど……」
「奪っちゃえってやつだよな!」
 くすくす笑う翔と梨呼に、広大は唖然として二人の顔を見ていた。
(はあ、いいコンビだよこいつら)



 「中学校のときさ、僕、前田さんは竹田とつきあってると思ってたんだよね」
 放課後、剣道部の佐藤と待ち合わせして帰っていると、ふと佐藤が言ってきた。
「ははっ、すごい勘違い。広大とは家が隣だし、ずっとバスケで一緒だったから仲良かっただけ。女扱いされたことないもん」
 言いながら自分で悲しくなる。
「じゃあ、竹田が前田さんの魅力に気付かないでよかった。そうしなきゃ今、前田さんとこうやって歩いてないもんな」
 佐藤は気遣うようににこっと笑った。
 本当にいい人だ。でも、なんで自分の心はこの人に向かずにあんな馬鹿に向いてるんだろう、と朝希は本気で考える。
(中学かあ)
 入学したばかりのころ、梨呼が震えながら立っているのを見て声をかけた。それからいろんな女子の友達ができて、今までの環境との違いに驚きながらも、朝希の毎日は過ぎていった。
 広大はどうだったっけ? 
 そうだ、入学式のとき、セーラー服姿の朝希に「変なの。似合わねー」と不機嫌そうに声をかけてきたきり、部活以外ではあまり話さなくなった。
 部屋にはよく来ていたけれど。
 最初、広大は教室で憮然とした顔で一人でいた。それが気になっていたが、そのうちお茶らけた性格で男子の友達を作っていったから、朝希も安心したのだ。 一方そのころからだった。広大が女子と付き合うようになったのは。別にそのときは広大のことを男子として意識していなかったけれど、言いようのない喪失感を覚えたのを今でも覚えている。
(あれ? 待って)
 喪失感。
 中学校に入ってすぐに女子の友達を作った朝希。
 憮然として一人でいた広大。
(先に一人になったのは広大?)
 広大は寂しくなかったんだろうか?
「前田さん、聞いてる?」
 気がついたら、朝希の家の前だった。
 そしてそのとき広大が偶然横を通って自分の家に入っていくのが見えた。
「あ、うん。来週の日曜の話だよね。映画、何見ようか?」
 ちょっと動揺しながら答える。
「前田さんは、どんなのが好きなの?」
「うーん、アクションとかファンタジーとか、かな」
 女性らしからぬ回答だったかなと思って佐藤を見ると、
「僕と同じだ! よかった! じゃ、その場で決められるね」
 と佐藤は笑っていた。本当にいい人だ。
「前田さん、じゃ、駅に十一時ってことでいいかな?」
「うん。昼ごはん食べて映画見るのね」
「ご名答」
「ま、前田さん」
 なぜか緊張気味の佐藤の声に朝希が、
「はい?」
 と視線をあげると、すぐ近くに佐藤の顔があった。
「キスしたい」
 そう熱のある声でささやいて、唇を佐藤は寄せてきた。
 朝希は。

「い、いやっ!」




(けっ、門の前で見せ付けてくれちゃってまあ)
 むかむかしながら、広大はその横を通り過ぎ家に入った。
 通り過ぎるときに合った、朝希の揺れる黒目が甦る。
 そして昼の二人の言葉。
 どうしようかと思っていた矢先、
「い、いやっ!」
 と言う朝希の悲鳴を聞いた。聞くが早いか、広大は家を飛び出していた。
 そして、今にも朝希にキスをしようとしている佐藤を広大は迷わず殴った。
「なっ!」
 佐藤が状況を把握できずに殴られた頬を押さえている。そんな佐藤へ、広大は冷ややかな視線を投げかけた。
「汚い手で朝希に触るな。悪いが朝希は俺のものでね」
「え?」
 朝希もきょとんとする。
「そうだろ? 朝希? なんせ俺たちはもう、キスもしてるし、その先まで……」
「!」
 あんぐりと朝希は口を開けた。
 この男は!
「ま、前田さんそれは」
「ほんとほんと。何なら今しようか?」
 広大は言うと、朝希の顎をくいとあげ、唖然とする朝希の唇を吸った。唇を食むように。
 へたり込もうとする朝希を抱き起こして、
「ごめん、佐藤君。こいつ、お人よしだから、本当のこと言えなかったんだ。本当にごめんな。」
「……」
 佐藤はがっくりと肩を落とし、
「そうだったんだ……。ごめんね、前田さん」
 と謝って後ろを向いた。そして可哀想なほどよろよろとした足取りで去っていく。
(謝るのは佐藤君じゃない!)
「ごめんなさい! 
私が全部悪いの! 私こそ本当にごめんなさい!」
 朝希の泣きそうな声に、佐藤は振り向かずに手を上げただけだった。
(佐藤君……。最後までいい人だった……。私、何てことしちゃったんだろう。ごめんなさい、佐藤君。
…・・・それに比べて……)
「広大、今のは何なのよ?! 説明してもらうからね!」
 と広大を睨むと、まじめな広大の目があった。その目からは迷いや苛立ちが消えていた。
「言った通りだよ。お前の隣は、藤木でも佐藤でもなくて俺じゃなきゃ駄目なんだよ。俺と付き合え」
 命令口調のその言葉。
(はあ、もう、いったい何が何だか)
 でも、
「はい」
と頷いてしまう自分を朝希は情けなく思った。
「よしっ! そうと決まったらこの前の続きを……」
 そういって朝希を抱きかかえた広大を、朝希は思いっきり殴った。
「手順てもんが、あんたには解らんのかー!」
 そしてふっと、二人で笑う。
「やっぱ、朝希には俺」
「広大には私ね」
「浮気したら許さないからっ」という、朝希に「それは絶対無い」とまじめに広大。
 仕方ない今回は信じてやろう、と朝希は思った。それに、信じてもいいという予感があった。



 翌日腕を組んできた広大と朝希(朝希は嫌がったのだが)に、梨呼と翔が笑顔になった。
「おい、二人ともサンキューな。特に藤木! お前、見直した!」
 広大の言葉に、朝希が「何?」と尋ねると、
「王子様はお姫様に、お姫様も王子様になれるってこと、かな?」
 と梨呼はくすくす笑った。             


           「広大の場合」おしまい


           続き「治雪の場合」を読む方はこちら

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